第十五話 デス
2016/11/22 若干修正。
「お、おのれええええ!」
エコーが掛かった咆哮のような声を上げる黄金仮面。
不法侵入と窃盗未遂は確かに俺たちが悪いと思うけど、所有者が生きてるとは思ってなかったし、問答無用で攻撃してきたの、そっちだしね。
逃げられないなら、戦うしか無いじゃない。
もう一発、炎の上位呪文。む、エリカはもうMP切れか…。無駄に魔法使ってたしなあ。
「マジックポーション」
と言って手を出してくるが、冗談じゃ無い。あれは俺のもらいものだよ。
「柔らかきは硬く、硬きは柔らかなり。石よ、我に従え、ストーンウォール!」
黄金仮面が呪文を唱える。あれは、土壁の上級か!
「むっ!」
「しまった!」
自分で作った石の柱を頼りに、黄金仮面が抜け出てくる。
コイツ、色々呪文、知ってそうだなあ。長期戦は危険だ。
「エリカ、これを」
マジックポーションを渡す。
「フフ」
笑ったエリカはそれを飲み干す。
「ユーイチ! そっちに行った!」
げえ。何してるの前衛! きちんとブロックしなさいよ、と思ったが、一番強いレーネが倒れている。くそっ。
スリップ!
「同じ呪文を我が食らうと思うてか!」
うえ、床にロッドを突き刺してスリップを外しやがった。賢い…。
アイスウォール!
これもダメ。簡単に飛び越えられた。
「くっ!」
振り下ろされたロッドを、必死に避ける。
「ユーイチ!」
「今、助けるニャ!」
早くしろぉおお!
避ける。ブウンッという風圧が、耳元を通り過ぎた。あうあう、当たったら一撃で死ねそうです…。
また、ブウンッ!
ひい。
今のは運が良かった。今度は上から、ブウンッ! お、読めた。
「ニャ! こいつめ!」
「邪魔をするなっ!」
「ニ゛ャッ!」
黄金仮面の左肘打ちが入って後方に吹っ飛ぶリム。腕力高え!
「リム! くっ!」
連続で俺を攻撃してくる黄金仮面。かろうじて避けたが、何なのよ。俺になんか恨みでもあるのか、と思ったが、スリップの呪文を使ったの、俺だしね。相当怒らせたのは間違いないな、こりゃ。
だが、黄金仮面の振るうロッド、多少、大振りなせいもあって、避けられる。
ティーナのレイピアに比べたら全然余裕っすよ。レーネにもブンブン大剣を振られて訓練させられたしな。
そのおかげで生き残れているようだが、だからといって、俺は剣の訓練はしたくない。
魔術士はスマートじゃないと。
「くっ、当たらぬ!」
いいんですのよ。そのまま、カモン。いくらでも付き合うよ。
だが、黄金仮面はロッドを振るうのを止め、呪文を唱え始めた。
「我を恐れよ、命脈を絶ち、闇に沈め、血よ凍れ…」
おいおい、血が凍ったら死ぬじゃん。え? え?
「なっ! そ、その呪文はまさか!」
エリカも呪文の正体に思い至ったか驚愕の声を挙げる。
「いけない!」
ミオも叫ぶ。
「息を止めよ、デス!」
ヤバいと思ったが、何も出来ず、あっと言う間に呪文が完成してしまった。
「ぐあああああ!」
パキンと音がして、くそ、レジストしてなかった!
ドサッと俺の体が倒れる。いてて、受け身も取ってなかった。
「「「ユーイチ!!!」」」
「ふふふ、ははははは。見たか! 我の力を。王に逆らう愚か者共めが」
「お前、よくも!」
レーネが斬りかかる。
「ユーイチの仇ニャ!」
リムも斬りかかる。
おや?
まだ意識があるね? それにHPも確認するが減ってない…。
なんでだろ?
あ、即死の身代わりアイテムだわ。
た、助かった…。
しかしどうしよう。デスをまた唱えられたら、今度はヤバい。
お、オーケー、死んだふり、死んだふり…。
「ユーイチ、死んだふりしてないでさっさと起きなさい」
リサはもう気づいているらしく、俺の名を呼ぶ。
ちょっ!
「回復役が遊ばない!」
黄金仮面もチラッとこっちを見た。チッと舌打ちしたし、気づかれたね。これは。
「くそ、鬼! 悪魔!」
「黙りなさい。死の呪文なんて全然怖くないでしょ、私達は」
はあ? 何言ってんだ、リサ、そんなわけ…おお、なるほど、ハッタリか! ここは乗っておこう。
「まあな。でも、コイツの物理攻撃が俺に当たったら、マジで死ぬから」
「良かろう! 今度こそ、殴り殺してくれるわ!」
本当は死の呪文を使いまくられるのが一番危ないのだが、まんまとリサの嘘にハマってくれた黄金仮面は魔法も使わなくなり、ひたすら俺を殴りに掛かる。
「よっと、ほっ、くっ」
今のところ、当たる感じはしないが、結構ギリギリだ。集中力をちょっとでも欠いたらヤバい。
俺以外の魔法チームは、上位呪文は俺を巻き込むので諦め、電撃やファイアーボールで単体攻撃。
前衛チームも、黄金仮面の背後を取って斬りまくる。
「ぬうう」
「も、もう諦めた方が良いですよ。ほら、当たらないんだし」
「黙れぇええ!」
「いいぞ、ユーイチ」
「やるじゃない」
ああん、そうじゃないのよ、そうじゃないのよ。
挑発とかじゃないの。
こう連続して攻撃されるのは心臓に悪いから。
しかし、あれだけ攻撃を食らってるのに、この黄金仮面、不死身か?
魔法チームもMP切れで、あとは前衛チームが疲れて動けなくなれば、終わりだ。
黄金仮面は息すらしていないようで、疲れた様子は無い。
まずい…。
が、良い手は思いつかない。
俺のMPは残っているが、呪文を使うのには一定の集中力が必要だし、それで避けるのに失敗したら、死ぬ。
くそう…。
いや、信じよう。
俺が避けている間は、前衛チームが攻撃してくれる。
ティーナ、リム、レーネ、それにミネアも。みんな真剣な顔だ。
「取った!」
レーネが鋭い突きを放ち、黄金仮面の心臓を貫いた。黄金仮面の動きが止まる。
「ぐふっ! こ、ここまでか。だが、貴様らを生かして返すわけには行かん。王の呪い、とくと味わえ……!」
仮面が外れたかと思うと、男の肉体は砂と化して、崩れ落ちた。そしてすぐに紫の煙に包まれる。
消えた。
仮面も、鎧も、砂も。
クルミ大の輝く魔石を残して。
入り口を閉めていた石もずり上がっていく。
「やった…」
生き残った……。
「ユーイチ!」
「うおっ」
ティーナに抱きつかれた。
「無事で良かった。死んじゃったと思ったわよ、このバカ」
泣いちゃってるし。よしよし。
「ああ、悪かった。いや、俺も死んだと思ったんだがな。後で即死のお守り、全員に買ってくれ」
「ええ」
「ニャー、とにかく良かったニャ」
「ニー」
「ほんまや。強敵やったなあ…」
「フン、そんなに大したことなかったわよ」
エリカ、お前、またコイツが復活してきたら、同じ事言えんの?
「それにしても、あれだけ回避できるとはね。レーネ達の特訓も役に立ったみたいで良かったじゃない。ユーイチ」
リサが言うが。
「冗談じゃ無い。後衛はそう言うことはしないの! だいたい、前衛はブロックがなってない。反省しろ」
「む、返す言葉も無いが、なら、お前も前衛に入れてやろう」
いやいやいや、レーネ、そこ笑って言うところじゃないから。
「お断りだ」
「でも、やれそうな感じはするわね」
ティーナまで。ったく。
「ユーイチ、どこもおかしく、ない?」
ミオが聞いてくる。
「ん? いや、HPも満タン、状態も正常だ」
ミオも俺のステータスは確認済みのはずだが。
「あの黄金仮面、最後に呪いって」
「ああ。むむ…」
嫌な予感がする。
「何もなってないなら、タダの恨み節でしょ。じゃ、前衛、さっさと薬草食べて回復。それが終わったら、宝を運ぶわよ」
リサは気にも留めず、てきぱきと指示を出す。
「「ええ」」
「分かったニャ」
「おし!」
前衛チームに薬草を食べさせ、HPを回復させる。
続いて、宝を手分けしてリュックに入れる。
「レーネ、その鎧は諦めなさい」
リサが、鎧を分解してリュックに入れようと頑張っているレーネに言う。
「だが、売ればそれなりになりそうだぞ」
「そんなかさばるのは後回しよ。それより、魔道具のこれ。こっちの方が価値があるから」
そう言って、小さな杯を見せるリサ。
「とてもそうは見えんが…」
「いいから。シーフの鑑定眼を舐めない」
「分かった分かった。それで、この杯はどんな魔道具だ?」
「水を飲みたいと思ってみなさい」
「ううん? おお」
どうやら、好きなときに水が出せる杯らしい。便利だなあ。これでひょっとしたら、水筒や水袋、いらなくなるんじゃね?
さっそく、分析する。
【名称】 不渇の杯
【種別】 道具
【材質】 黄金
【耐久】 1998 / 2000
【重量】 1
【総合評価】 AAA
【解説】
使用者の少量の魔力と引き替えにして、
何度でも水が湧き出る杯。
逆さにしては使えず、一杯ずつしか出せない。
水はいかなる場所でも新鮮で美味しい。
MPと引き替えだったり、一杯ずつというのがケチくさいが、それでも砂漠においてはこれ一つで済み、重宝しそうだ。
水、持ち運ぶとなると重いもんね。
しかも総合評価がトリプルA、最高価値かな? Sランクも有りそうだけど。
……ウォーターウォールを使うと、水を持ち運ばなくてもいいなーと気づいてしまったが、じゅ、呪文の節約大事だしね…。
売りに出すかな。
他にも魔道具がいくつかある。黄金の燭台、黄金の大きな竪琴、黄金の天秤…。
アナライズしてやろうと思ったが、クロが騒ぎ始める。
「ニー! ニー! ニー!」
「ん? どないしたん、クロ」
「…敵は、いないわね」
リサもその場で素早く視線を走らせ、周囲を警戒するが。
俺は探知の呪文を使おうと思ったが、その前に地鳴りが聞こえてきた。
「むっ!」
パラパラと天井から石のかけらが落ちてくるし。
「あかん! 崩れるで!」
「ああもう! 逃げるわよ!」
魔道具や金貨、まだ全部入れてないんだが、ここで欲を掻いて潰されては敵わない。
慌てて俺たちはリュックを背負うと、出口へ向かって駆けだした!




