第十四話 王の棺
2016/9/28 若干修正。
「ユーイチ、ライトの呪文。暗くてよく見えないわ」
先に奥の部屋に入ったリサが要求する。
「分かった」
俺も隣の部屋に入り、ライトの呪文を天井に向けて放つ。
「あ、凄い。金の宝箱」
ティーナがつぶやくが、部屋には金の大きな宝箱が四つあり、他にも甲冑や剣が安置されていた。中央には一番大きな石の宝箱? いや、これ棺っぽくね?
「じゃ、一番の目玉は最後にして、先に宝箱から調べましょう。私とミネアで調べるから、アンタ達はまだ触っちゃダメよ」
リサはしっかり棺も調べるつもりらしいが、完全に墓荒らしだよなあ、これ。まあ、冒険者だからいいのか?
おっと、その前に、罠が無いか、調べておくか。
探知の呪文を唱えたが、罠は無さそうだ。
「この甲冑、悪くは無いが、ミスリルには劣るな。銀か…」
レーネが品定めしている。
「わあ。こっちの宝箱は全部金貨や。軽く一万枚はあるな」
ミネアが言うが。
「えっ!」
一億ゴールド?
日本円に直すと200億円…マジですか。
みんながミネアのところに集まり、何枚か金貨を受け取る。飛び跳ねたりしないか心配したが、どうやら本物のようだ。
「凄いな…」
「じゃ、悪いけど、リム、この袋に詰めてな」
「了解ニャ!」
「こっちは宝石よ。大粒の上物ね…」
リサが一つ、あめ玉くらいの大きさの宝石を鑑定している。青、緑、赤、黄色など色とりどりのまばゆい宝石が、宝箱の中の布の上に重ならないように間隔を置いて並べられていた。
いくらするんだろ…ゴクリ。
「ああ、こっちはポーションやけど、随分と劣化してるな…多分、どれも使い物にならんと思う」
三つ目の宝箱は残念ながら、外れのようだ。時間が経ちすぎているのだろう。もったいない…。
「この宝箱は魔道具ね。ユーイチ、呪文の巻物もあるわよ」
「なんと! 見せて見せて」
リサが布に包まれていた巻物を渡してくれた。さっそく、解いてみる。
「おお、こ、これは」
「何だったの?」
「不死化の呪文だ」
「ああ…でも、それ、ミイラみたいになるんでしょ? 使えないわね」
リサはそう言って宝箱の中の品の鑑定に注意を戻す。
「いやいや、研究をすればリッチにクラスチェンジできるかも」
「む、それって確か、不死の魔術士の事よね?」
ティーナが聞く。
「うん」
この世界のリッチと俺の知っているリッチが同じかどうかは知らないが、不死の魔術士と来ればリッチだろう。
「じゃ、それは禁止。貸して」
「あっ!」
ティーナが巻物を取り上げるとビリビリと破いてしまう。
「あああっ! ちょっ、何をする!」
「こういう研究はろくな事にならないんだから、ダメ」
「おいー…」
禁忌の秘術が…。
「失敗してミイラになるよりは良いでしょ。ほら、拾わない」
リサがそう言って破片をささっと集めて手品のように隠してしまった。
「かーえーせーよー」
む、ライトの呪文が暗くなった。さっき唱えたばかりだから、まだ持続するはずなんだが。
それに、悪寒。
「我の眠りを妨げるのは何者ぞ…」
げげー…。
「誰!?」
ズズズーっと、大きな石棺の蓋が独りでに滑って外れていく。
「まずい、敵よ!」
みんなが戦闘態勢を取るが、さっきのミイラより強かったら危ない。最優先事項はお宝より命だ。
「逃げるぞ! あっ!」
そう言って入り口へ待避しようとしたのだが、上から巨大な石がドスンと落ちてきて閉じ込められた。
いやーん…。
逃げられないボスとは。
「戦うしか無いようね」
リサがそう言ってダガーを構える。
「交渉の余地は…くっ、無いか」
棺からサッカーボールほどの大きさのファイアーボールが飛んできて、ティーナがミスリルの剣で弾いた。
中から出てきたのは獅子の仮面をかぶった鎧の男。仮面も鎧も豪華なことに黄金製のようだ。剣では無く、ロッドを持っている。
防御、堅そうだなあ…。
ひとまず、アナライズ。
「ダメか…」
予想はしていたが、完全に無効化された。抵抗された感じでは無いので、これは何度唱えても同じだろう。
「くそっ」
防御力アップの薬を飲みつつ、他の薬の瓶もリュックから取り出す。
「さて、ピラミッドの王よ、お手並み拝見と行こうか!」
レーネがそう言い放ち大剣で斬りかかる。もうちょっと待って欲しいんだが、敵も待ってはくれないだろうしなあ。
しかも、王って、俺達はこの国の逆賊かぁ……。
「ナイス、ミオ」
ミオがマジックバリアを全員に展開してくれた。俺も物理バリアを重ね掛けする。
「はああっ! くっ、硬い!」
ティーナがレイピアで突き刺そうとしたが、鎧に撥ね返された。
「これならどうニャ!」
リムが後ろから手斧を叩き込む。ギャンッ、と金属が打ち合う音がして、斧も通らない。だが、黄金仮面の男も少しよろめいて嫌がった感じなので、ダメージは通ったようだ。
行けるか?
「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
エリカがいつもの呪文を唱え、青白い光が黄金の鎧を包む。もやっとした白い煙が上がり、これも効くようだ。というか、呪文の方がダメージの入りが良さそう。
クロも炎の呪文を唱え、ファイアーボールを命中させた。
「ユーイチ、手伝うわ」
「ああ、じゃ、向こうは任せた」
防御力アップと回避率アップの薬をリサに渡し、手分けしてみんなに使っていく。さっきラッド達につかったので全員分が残っていないのが惜しいが、有る分だけでも使っておかないと。
どう見てもコイツ、強敵だしな。
「呪文が来る!」
黄金仮面の男が、その場で立ち止まり、ぶつぶつと詠唱している。
「キャンセルしろ!」
レーネが斬りかかる。ガンッとけたたましい金属音が鳴り響いたが、鎧を切り裂くには至っていない。だが、大きな傷はついた。
それでも黄金仮面は呪文を完成させ、ロッドから電撃を飛ばした。
「くっ!」
エリカが食らったが、今の、同じ呪文だな。意趣返しと言うことか。
「レーネ、これを」
腕力アップの薬を投げて手渡す。俺のコントロールはちょっと狂ったが、レーネが上手く受け取って飲む。
「よし、これで百人力だ!」
いや、そんなにアップしないと思うけどね。
ティーナとリムもリサから薬を受け取り、これで薬によるパワーアップは完了だ。
続いて、フラッシュの呪文で目潰しを試みる。
「愚かな。我にそのような呪文、効くはずが無かろう!」
いや、一応試すのがセオリーでしょ。デスの呪文じゃないんだから、大目に見て欲しい。
黄金仮面が俺の方を向いたので隙を突いてティーナが斜め後方から斬りかかった。
「きゃっ!」
「ティーナ!」
だが、黄金仮面の視野は広いようで、逆にカウンターのロッドを叩き込まれてしまった。
「くっ、大丈夫」
受けたHPダメージは、40ちょいか。なんとかなるレベルだが、前衛はすでに防御力アップも使ってるんだよなあ。
薬草を持って、ティーナに駆け寄る。
「これ」
「ありがと」
ティーナが薬草を口に放り込み、食べる。30近く回復した。完全では無いが、ここでハイポーションを消費してしまうと、後が厳しい。薬草で行ける間は、薬草で行く。
「ミネア、近づきすぎよ」
リサが注意するが、ティーナの抜けた穴をミネアが入って剣を振るっていた。
「大丈夫、カバーだけやから、くっ!」
ロッドを叩き込まれるミネア。それを剣の腹を左手で押して、両手で受けたのだが、ミネアの剣が折られてしまった。その間に後ろに下がったので、大事は無かった。
「なんて力なの!」
ティーナが敵の腕力に戦慄する。
「ああ、もうあの剣、古かったからな。受けにも失敗したわ。でも、ほんならこれを」
ミネアが側にあった装備品から剣を取る。
「我の物に手を触れるな、薄汚いネズミ共め!」
それを見た黄金仮面が怒りの声を上げ、ミネアに突進する。
ここだ!
アイスウォールを無詠唱で出す。
黄金仮面は突然現れた氷の壁に対処しきれず、つんのめって床に倒れた。
よし!
さらにコンボするぜー、フヒヒ。
「マナよ、ぬめりとなりて敵の手足を滑らせよ! スリップ!」
黄金仮面の周りの床に滑る呪文をかける。ターゲットはあくまで床なので、相手レベルに関係なく100%成功の支援魔法。レーネの魔の手から逃れるために、知恵を絞った甲斐があったぜ。
「ぬうっ!?」
立ち上がろうとして両手を突いて、滑ってまた腹を打ち付ける黄金仮面。
こう強いボスが滑って転ぶって、なんかクスッと来るよね。
さらにさらに。
「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもって炎の壁となれ、ファイアウォール!」
そこにファイアウォールを完成させれば、コンボ呪文の完成だ!
黄金仮面が焦りながら炎から逃れようとするが、滑って動けていない。
「うわあ…凄いけど、何か卑怯臭いわね…」
ティーナが素直に褒めてくれない。
「面白くていいではないか。それそれ」
レーネが挑発するように大剣で上からつつくし。
「ん、みんな、どいて。唸れ風よ、炎の魔神イフリートの名をもって灰燼と化せ、ファイアストーム!」
ミオが炎の上位呪文を浴びせる。
「まだ! 雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」
さらにエリカが呪文を唱える。
うおっ! この呪文は!
雷の上級呪文。なんだよ、ミオから教わってたのか。
まばゆいほどの青い稲妻が天井から落ちて黄金仮面を打ち据えた。
クロも上位呪文、俺も上位呪文で、ファイアーストームを重ね掛け。
「魔法チーム、続けて!」
リサのゴーサインが出て、もう一巡。さらに一巡。MP消費が激しいが、こっちはなんと言ってもノーダメージだからな。炎の上級呪文は味方を巻き込まないようにするのが難しいので、今のうちにガンガン行っておこう。
ミイラ男の性質から考えて、コイツも炎と聖属性が弱点だろうし。




