第十二話 先客
2016/11/22 若干修正。
ピラミッドをさらに奥へと進む。
巨大な石のブロックで囲まれた廊下は、もう雰囲気が出てて、嫌なのよね。
薄暗いし、ライトの呪文でも、どこかに死角が出来て全部見渡せない。
次はどこからミイラ男が出てくるのやら。
「そこ、矢か槍が出てくる罠だから、全員、屈んで通って」
リサがそう言うので廊下の先を注意して見ると、なるほど、横の壁に五センチくらいの穴が開いて並んでいる。
「よく気がつくなぁ…」
「そりゃ、注意して見てるし、斥候と罠外しが私の仕事よ」
シーフの得意分野か。確かに呪文も使えないリサは戦闘では目立たないが、役割はきっちりこなしてくれている。
「あと、ユーイチ、そんなに這いつくばらなくても平気だから」
うるさい。怖いんだよ…。
「あっ! そうそう、うちのパーティー、回復系を入れないと」
俺は言う。すっかり忘れてた。回復役と盾役が揃えば、バランスが取れると思うんだ。ちょっと魔術士が多すぎるけどね。
やべえ、なんかリストラ対象になりそうで怖いお。
「だからそれはユーイチでしょ」
ティーナが言う。
「ぬう、だから俺の薬草を当てにするなと言うに…」
薬草で少しは回復できるが、戦闘中に重傷を負うと、ハイポーションに頼るしか無い。ハイポーションも薬草や猫の実を売って儲けられる今となってはそれほど高い買い物でも無い。アロエ草とヨモギ草を混ぜて煮詰めると、それに近い物も自作できそうな予感はしている。
だが、クレリックがいないパーティーってどうよ? ムキムキのプリーストは要らんけどさ。
「それに、ここのアンデッドに対しても、聖水無しで有効な攻撃が出来るぞ?」
メリットを上げて皆を説得する。
「聖水があれば要らないって事ね」
リサが言う。
「なんと罰当たりな」
優しく清らかでお淑やかな癒やし系美少女は、聖水とは引き替えにならんぞ。
「うるさい。とにかく、今はいないんだから、余計な事を四の五の言わないで、ダンジョンに集中しなさい。でないと、誰か死ぬわよ」
「いや、ぬう…」
一応、薬草もポーションも全員に持たせているが、みんな俺を当てにしているようなので、回復が遅れると怪しくなる。
この先、大丈夫なのか…?
「そんなに脅さなくても良いでしょ、リサ。あんまり言うと、ユーイチが帰っちゃうわよ」
「ふん、扱いづらい男ね」
「ふっ、安心しろ。帰りたくても俺一人じゃ無理だから」
「情けな」
そう言うがリサよ、お前は一人で…ううん、ポーション使って逃げまくれば、コイツなら行けそうだな。
チッ。
「リサ、ちょっと待った」
「何かしら、ミネア」
「こっち、隠し扉があるで?」
「む。…よく気づいたわね……」
「まあ、罠はリサに任せて、後方のバックアタックだけ警戒してればええから、余裕があったんよ。たまたまや」
そう言って謙遜するミネアだが、リサが見逃した物を発見するとは大した物だ。リサも渋い顔だし。
ま、ここはリサをあげつらうより、ミネアを褒めるべきだろう。
いや、藪蛇になるから、何も言わないでおこう。うん、それが良い。
「何か言いたいことがあるなら、言って良いわよ、ユーイチ」
「い、いや…」
「ふん。そうやって気遣われるのが、一番ムカつく」
「ええー?」
どうやら選択肢を間違えたようです…。
別にリサを攻略するつもりなんてさらさら無いんだけど、パーティー仲間だしね、好感度は上げておきたいよね。
とほほ。
隠し扉の向こうも調べてみようということになり、そちらに向かうと、通路がなだらかに下っている。道は一本道で、先は遠すぎて見えない。
「なんだか変な通路ね」
ティーナが言う。うん、俺もそう思った。
「迷わないし、楽ちんで良いニャ。敵も出てこないし」
リムがそんな事を言うが、むしろ俺は嫌な予感がするんだよね。
「なあ、引き返さないか?」
言う。
「この先にお宝があったらどうするのよ。調べてからよ」
リサが、にべもない。だいたいさ、こういう一本道の先ってボス部屋だろ…。
……。
…………結構歩いた。モンスターは出てこない。
ただ、あれだね、こうも先が長いと、だれるよね。
「ニッ! ニー、ニー、ニー!」
急にクロが後ろを見て騒ぎ出す。
「なんや?」
「どうした、クロ。む、何かいるのか?」
俺は通路の先に意識を向けて警戒する。見通しは良いが、何も出てきてはいない。
「敵の気配は無いんやけど、ん? 何か聞こえるような…」
ミネアが自分の耳の後ろに手をかざして音を探る。
敵が俺たちを追ってくるとしたら、下り坂だからちょっと早くなりそうだが……これだけ遠くまで見通せる長い直線の通路だ。モンスターがやってくればすぐに見つけられるはず。
長い直線の通路? 下り坂?
あ。
「うああああ!」
分かったぁ!
「ど、どうしたん?」
「何?」
「いいから全員、全速力で下に向かって走れ! 途中、横にそれる道があったら、そこに隠れるんだ! 上からデカい岩玉が転がってくるぞ!」
俺はそう言うなり、走る。
「「 ええっ! 」」
くそ、どうして気づかなかったんだろ。こう言うのばっかりだなあ。
罠の多いダンジョンで、一直線の通路で下り坂。
お約束じゃないか!
「あかん! ホントに転がってきた!」
げえ。
後ろなんて振り返る余裕など無い。
間に合うか?
必死で走る。
と、ティーナとレーネに抜かれた。
続いてミネアとリムとリサにも。
くっ、俺って、足遅えええ!
あっ、クロちゃん、待って、置いてかないで。
「ぬおっ! バカな、エリカに抜かれるだと?」
いくら俺が足が遅いと言っても、肉体が貧弱なエルフなどに、負けるはずが。
「ふっ、鍛えてもらった甲斐があったわ。あと、ティーナにこっそり買ってもらった歩きやすさ抜群の最高級ブーツ!」
「なあっ! 卑怯だぞ! なぜ一人だけ」
「だって高かったんだもん。在庫も一個だけだったし、全員分は揃えられないからって。じゃあね、ユーイチ。あなたのこと嫌いじゃ無かったけど、助けられそうに無いし」
「くそおおおお」
うあああ、後ろからゴロゴロ、重そうな岩の音が聞こえる。
「あっ!」
ミオが俺の後ろで躓いたか、転んでしまった。
「ミオ!」
「行って!」
「バカを言うな。くそ」
「ダメよ! ユーイチ」
リサが咎めるが、見捨てられないだろ。
一応、秘策もある。
アイスウォールを唱え、氷の壁を通路に三つ据える。ドミノ倒しにならないように、氷壁の横側を岩に向け、三つとも通路に向かって平行に、岩側に対しては垂直にした。
これで止まってくれれば万々歳。結果は確かめずにミオの手を引っ張り上げる。小さな手。
「ごめん」
「いいから、走るぞ!」
「ん」
バコンッ! と派手な音がして、くそ、止められなかったか。
「隙間があるわ! 一人ずつしか入れないけど、みんなそこに入って」
ティーナが言う。
あれか。ティーナが通路の右にへばりつくように隠れるのが見えた。
続いてレーネも。他のみんなも次々に。
「あっ」
やっべ、最初の隙間、ティーナが残してくれてたのに、見逃しちゃった。
ああん…。
「ちょっと、早く入りなさい」
そう言ってリサが隙間に入って通り過ぎる。
「ミオ、先に行け」
「でも」
「正直、タイミングが掴めない」
失敗したら、潰されるんだぞ?
「分かった」
ミオは一度躊躇した後、今度は綺麗に隙間に飛び込んだ。
よし。
あのタイミングだ。
行くぞ、行くぞぉ。
ああ、怖い。ダメだ、こう言うの、俺、向いてない。
くそ。
こうなったら…。
風魔法で無理矢理減速させ、隙間に自分の体を押し込む。
「ぶべっ!」
思いっきり壁で顔を打って、痛かった。だが、岩玉は俺の背後をゴウッと通り過ぎた。
「た、助かった…」
「ああもう、死んだかと思ったじゃない、このバカ!」
ティーナが駆け寄ってきて罵るが、いや、俺も死んだと思ったさ。
薬草を食べ、全員の無事を確認し、先を進む。リサとティーナにはさんざん怒られたが、不可抗力だ。次、反射神経も鍛えるという条件で許してもらった。
通路は途中で脇道があり、このまま直線を降りる気にはとてもならなかったので、そちらに入る。
と、リサが立ち止まり、右手を掲げて拳を握り、合図してくる。
黙って待つ。
「この先で戦闘やってるわね。どうする?」
「ううん、それって多分、あのクーボの持ち主じゃないかしら?」
ティーナが言うが、ピラミッドの入り口に、荷車を引いたチョ○ボがいたな。俺達とは別の冒険者パーティーだ。
ピンチであれば彼らを助けるのもいいだろうが、そうで無ければ、経験値の横取りになってしまう。
さらにそれでレアアイテムなんぞ出た日には名前が掲示板に晒されちゃうレベルだよね。まあ、こっちの世界の掲示板はせいぜい一つの街に貼り紙する程度だが。
「悩むことなど無いだろう。挨拶して通れば良い」
レーネが言うが、戦闘中にそんな事は出来ない気がするけどね。
「ええ? まあいいわ、ちょっと様子が分からないし、行ってみましょう」
リサがそう言って、先を急ぐ。
俺たちも付いていく。
岩玉◯⇒ | ←こうではなく
岩玉◯⇒ ―― ←この向きでウォールを出す
アイディアを頂いて、なるほど、と思ったので横向きウォールを採用しましたが、私の文章力だと分かりにくいですね。
文中に図を入れるのもしっくりこないのでここに書いておきます。ありがとうございます。




