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異世界の闇軍師  作者: まさな
序章 奴隷から始まるホラーライフ
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第九話 初めてのお客様

2016/10/2 若干修正。

 俺がこの異世界で奴隷になってから三週間が過ぎた。 


 猫の実を安定して採れるようになって食い物は少し良くなった。

 余った分は縄にくくって()し、干し猫の実を作っている。

 果物は干すことによって糖分が増し、保存性も上がる。

 脱出時の携行食糧として役立ってくれることだろう。

 サロン草も大量に集めており、これからいくら筋肉痛になろうと大丈夫だ。

 

 ただ、ブラック・カンパニー・ワダニからの脱出計画はあまり進んでいない。


 いいんだ、急いては事をし損じると言うだろう?

 それに、風邪で寝込んだときにワダニは嫌な顔をしていたものの、鞭は使ってこなかった。

 酷い奴とばかり思っていたが、意外に優しい人情家なのかもしれない。


「ユーイチ! ユーイチはどこだ!」


 ワダニが呼んでいる。

 チッ!

 とにかく行かなければ。


 俺は母屋にダッシュで向かい、台所に入った。だが、ワダニはそこにはいないので、居間の方か。

 向かう。

 いた。


「ハッ! お側に」


 しゅたっと、忍者風に凄い速さでやってきましたよと思わせる。


「フン。お客様だ。レダは買い物に行かせてあるから、お前が茶を用意しろ」


 居間の椅子には、上質の服を着た男が一人座っていた。


「ははっ! 直ちに」


「急げよ」


 レダがお茶を出しているのは見た事があるので大丈夫だ。


 台所に戻り、桶の水を使って手を洗い、ヤカンに少量の水を入れ、(かまど)に火を付ける。

 お茶二杯分で充分だろう。スピード重視だ。お代わりの分は、一杯目を出した後で用意しておく。 

 棚からお茶の葉を出す。飲んだことは無いが、これは緑茶ではなく、紅茶だろう。匂いがそんな感じ。

 分量はよく分からないので適当につまんで急須に入れる。

 ファイアスターターの枝を惜しみなく使ったので、お湯はすぐに沸騰した。

 後で枝も補充しておくか。


 ヤカンの取っ手は金属なのでそのままでは触れない。

 手袋(ミトン)をはめて急須にお湯を移す。

 上等な陶器のカップを二つ出してお盆の上に置き、急須のお茶を入れる。

 さらに木の(さじ)で桶の水を少量つぎ足して冷ます。


 拙者、出来る男ゆえ、最初の一杯目はぬるめでござるよ。

 もしも二杯目を要求されたら熱めにしてやる。

 三杯目は焼き石でも入れて沸騰したままで…

 さすがにワダニの履き物を暖める気にはなれんが。


 猫の実を皿にのせて添え、こぼさないよう慎重にお盆を運ぶ。


「失礼致します。お茶をお持ちしました」


「入れ」


 居間に入り、どう見ても身分が上の、客の男から先にカップを差し出す。


「ほう、猫の実か」


 表情が緩み、喜ばれたようだ。上々。


「それではごゆっくり。失礼致します」


 頭を下げて、完璧な礼儀。この世界の礼儀作法は知らないので、間違っているかも知れないが、ワダニは注意しなかった。


「待て」


 客の男が言う。

 うっ。

 な、なな、なんだろう。ミスった?


「何か失礼でもありましたでしょうか」


 ワダニが聞く。

 いつも横柄な喋りだったが、目上の相手には態度も違うようだ。

 余計に怖いんですけど…。


「いや、そうではない。良く躾けられているが、前は貴族の屋敷にいたのか?」


 客の男が聞いてくる。

 ふう、なんだよ、脅かしやがって。

 完璧にやり過ぎたか。

 田舎の奴隷だもんなあ。ちょっと失敗。


「ああ、いえ、この者は農夫の子で、年貢が払えない代わりにと、譲り受けました」


 おっと、俺って身売りされてたのか。

 衝撃だなあ。

 おっとうの甲斐性無し!


「そうか。良く躾けたものだな、ワダニ」


「ははっ、これもエイト様の為でございますから」


 揉み手の笑顔で言うワダニ。悪代官がとっても似合いそう。


「む、そうだな、知っての通りお館様は人手を集めている。この者なら使えよう。

どうだ、ワダニ、金は払うから、売ってくれぬか」


 おっ? エヘ、参ったなあ。やっぱ、分かっちゃう?

 出来る男は才能を隠せないよねぇ。


「いえ、売るのは構いませんが、使い物になるかどうか。コイツは体が弱く、良く風邪を引いて、この間も寝込んだばかりですぞ」


 余計な事、言うなよ。

 そんな事言って、猫の実を取ってくるから、俺を手放したくないんだろ。


「構わん、少しの間だ。では、大銅貨五枚でどうか」


「ご冗談を。ロドルでもその倍はしますぞ」


「だが、体が弱いのだろう?」


「それはそうですが、こうして茶も出せますし、猫の実を取ってくるのも上手い。

ですが、男爵様のお家の御方なら、そうですな、大銅貨九枚のところを負けて八枚と言うことで」


「がめつい男め、それで一枚しか負けぬとは。七枚だ、それで手を打て」


「ははっ、それでよろしいでしょう」


 客の男は懐から袋を出すと、くすんだ緑のコインを七枚取り出した。

 五百円玉くらいの大きさか。ちょっと分厚い。それに歪んでる。現代の造幣技術とは比べものにならないか。

 それでも問題は無いようで、ワダニは「確かに」と言って (うやうや)しくそれを受け取った。


 どうでもいいんだけど、俺の値段、やっす!

 銅貨七枚って。

 七百円とかじゃないよね? 

 いやいやいや…人間だよ?

 コンビニで一時間バイトしたくらいのお金で売り買いされては堪らない。

 大銅貨と言うからには小銅貨か普通の銅貨もあるだろうし、それよりは上の価値のはずだが、

 何しろお金なんてこちらでは初めて見たし、価値が分からない。

 馬代わりの家畜、大トカゲ(ロドル)が大銅貨十枚だそうだから、

 家畜以下です…。

 あれ、目から汗が…



 俺はすぐに支度をするようワダニに言われ、替えの下着一枚と、縄にくくって干していた猫の実を一束、あと、サロン草を持てるだけ持って風呂敷に入れて準備を整えた。

 袋か風呂敷を貸してくれるようにワダニに頼み、客の手前もあってワダニは文句も言わずに風呂敷を出してくれた。リュックが欲しいところだが、この家では見た事が無いので、仕方ない。


「ニー」


「クロ、俺は売られて男爵様の家に行くことになった。んー、付いてきても良いが、距離を取ってな」


 と言っても、猫には通じないか。猫は家に付くとも言うし、まあ、ロブなら面倒を見てくれるだろう。

 レダとロブに別れの挨拶もしておきたいところだが、すぐに出立するという。

 客の男は名を聞くと、ギルバートと名乗った。

 少しやせ気味の茶髪の中年だ。美形でも不細工でもないが鼻が少し尖って見える。

 騎士ではなく、平民だそうだが、名主のワダニがへこへこしていたし、男爵の家の使用人なら地位も高めなのだろう。


「では、行くぞ。ワダニ、例の件、任せたぞ」

「ははっ。お任せ下さい」


 二人とも徒歩で移動。


「ご主人様、ワダニ様に何か頼まれたのですか?」


 男爵が村の名主に何の用か、情報収集は怠らない方が良いだろう。


「お前は知らなくて良いことだ」


 おぅ。あっさりと。ま、奴隷だものね。

 隠すことないじゃないですかー、ギルバートさぁん。


「それから、屋敷に着いたら、俺のことはギルバートと呼べ。ご主人様は男爵様もいるからな」


「はい。ちなみに、男爵様はどのような御方でしょう?」


 ワダニに輪を掛けたサディストだったら、やだなあ。

 不安です。


「そうだな、立派でお優しい方だ」


「おお。鞭を振るったりしない?」


「しないしない。もちろん、罰を受けるようなことをすればそれもあるかもしれないが、ワダニとは違うぞ。あんな奴、村のとりまとめ役でなければ、会いたくもない」


 おお。やっぱりあいつがブラックだったか。

 どうもおかしいと思ったんだよね。

 抵抗しない相手に鞭打ちってさ。

 すぐ怒るし。

 何でも無いようなことでも鞭使うし。

 まあいい、売買は済ませたんだから、俺はもう男爵様のモノだ。

 もう会うことも無いだろう。…無いと良いな。


 さようならワダニさん、こんにちはエイト男爵。

 

 よーし、男爵家ではしっかり働いて、男爵の目に留めてもらおう。

 で、男爵の娘か孫娘とボーイミーツガールなんてしちゃったりして結婚して俺が男爵に!

 うひょひょ。


「ギルバートさん、男爵様には娘さんが?」


「いや、お館様は独身だからな。子供はいない」


 なんてこったい。んもー、作っておいてよ、年頃の美少女の娘さんをさ!

 まー、本当にいたとしても奴隷の俺なんて見向きもされないだろうけど。

 はあ…。

 美少女成分が欲しいです。

 お姫様やエルフやネコミミやロリっ娘はいずこや。


 おっと、情報収集だった。


「お若いんですか?」


「ああ。まだ若いな。七年前に家督をお継ぎになったばかりで、それでもよく切り盛りされておられる。先代様がダンジョンで亡くなられたときはどうなることかと思ったが、心配要らなかったな」


「ダンジョン?」


「ああ、魔物が()んでいる洞窟や迷宮だ。中には凄いお宝もあるそうだが、名うての冒険者や聖騎士様でもやられるくらいだ、近づかないのが一番だろうにな」


「そうですか」


 ふむ、スライムや薬草があるんだから、当然、迷宮(ダンジョン)もあるか。

 よし、危険だそうだから、俺は絶対に行かないぞ。

 そんなところに行かなくたって、スキルは強く出来るし。


「ギルバートさん、魔王って知ってますか?」


 ロブやレダは知らなかったが、念のため、聞いておくことにする。

 あの二人、あんまり物知りじゃないし。

 もしも魔王がいたらヤバいもんね。

 とは言え、いくら異世界からやってきた俺でも、勇者のお鉢は回ってこないと思うが…。

 気にはなる。

 こういう世界だし。


「魔王? なんだそれは」


「魔界を()べる王のことですが、ほら、伝説の勇者が倒す、みたいな」


「聞いたことは無いな。だが、恐ろしい魔物を勇者や聖騎士が倒したという話は知ってるぞ」


「聖騎士ってどういうモノなんですか?」


「聖騎士は、神殿から特別に称号を与えられた御方のことを言う。なんだ、聖騎士も知らないのか?」


「はあ、すみません」


「いや、田舎の奴隷ならそんなものだろう。おとぎ話にはよく出てくるが、村を襲う西の火竜を倒す話とかな」


「ドラゴンですか」


「ああ。俺も見た事は無いが、相当デカいらしいぞ。何年か前にも勇者が倒したそうだが」


「えっ! 勇者ってこの世界にもいるんですか?」


「いや、お前がさっき言っただろう。伝説の勇者って」


「ああ、まあ、それはそれとして、その勇者様はいまどこに?」


「知らん。まだ冒険を続けているか、故郷に戻って遊んで暮らしているか。火竜を倒す程なら、国王陛下のお目に留まって家臣になっていそうだな。元から騎士かもしれんが」


「勇者の見分け方はありますか?」


「うん? そりゃあ、命知らずでめっぽう強いってことだろう」


「なるほど」


 どうやら、この世界の勇者とは、特定の一人の人物を指すモノでは無さそうだ。

 なら、いきなり魔王が復活して「うわー、俺が魔法と剣を鍛えておかなかったから世界が破滅しちゃったよう!」

 という悲惨なことにはならない。

 スキルはしっかり、自分の生活のために鍛えるとしよう。


 スキルについても確認しておくか。


「ギルバートさんは猫の実を見つけるのは得意ですか?」


「いや、苦手だな」

 

「得意な人もいるんですよね?」


「そりゃいるだろう。ノルド爺さんなら、得意かもな」


「猫の実探しでも、剣の腕でもいいんですが、練習すれば、上手くなりますよね?」


「ん? まあ、そりゃそうだろうが、そう簡単にはなあ。俺も習っちゃいるが、未だに型を全部覚えられん」


 腰に長剣をぶら下げたギルバートが、ぽんぽんとその鞘を叩いて言う。

 剣の難易度が高いのかもしれないが、スキルシステムは俺だけに適用されるのではないかと思う。

 もし、二日や三日練習しただけでスキルがレベルアップするなら、誰もが剣の天才になれる。


 やっべ、奴隷なのにオラ、なんだかワクワクしてきたぞ!


「そうですか。ギルバートさん、よろしければ、僕にも剣を教えてもらえませんか」


 ドラゴンがいるからには、強い魔物もいるだろうし、最低限の護身術は身につけておいた方が良いかも。


「んん? ワダニから何か聞いたのか?」


「え? いいえ」


「そうか」


 むむ、この反応。

 おっと、奴隷の俺が剣を持とうなんて、あるまじき事だったか?

 別に反逆するつもりは無いですよ?


「済みません、ギルバートさんの剣が格好良く見えてしまったもので。ダンジョンやドラゴンや聖騎士なんて話も聞いてたらその気になっちゃって」


「はは、そんなことか。だが、屋敷では剣を教えてくれなどと、決して口にするな。お前のためだ」


 ギルバートが真顔になって言う。


「はい、肝に銘じます」


 後は奴隷の事や、貨幣価値について聞いた。


 奴隷は通常、奴隷商人から買って、転売も自由だそうだ。値段はピンからキリまでで、中には金貨何百枚というお高い人もいるそうだが、使えない奴隷や病気の奴隷は当然、安い。

 俺より安い奴隷がいるのかどうかは、怖くて聞けなかった。


 ギルバートの話では、この国の貨幣は、ほとんど全て硬貨(コイン)だ。

 大商人が宝石や装飾品で取引する事もあるようだが、一般的では無い。

 紙のお札は存在しない。

 紙自体が貴重品だものね。この世界の技術では、すぐ破れてぼろぼろになってしまう気がするし。



 スレイダーン国の通貨

 

黄銅貨   1ゴールド

小青銅貨  10ゴールド

大青銅貨 100ゴールド

銀貨   1000ゴールド

金貨  10000ゴールド


 実際に見せてもらったが、黄銅貨は一円玉くらいの大きさで、それよりちょっと分厚い。色は五円玉をちょっと黒くした感じ。銅に亜鉛を混ぜた合金だろう。

 両側に葉っぱが刻印されている。刻印があるのは、削って数を増やしたりさせない為だ。


 小青銅貨はくすんだ青色だ。これは黄銅貨よりやや大きい。十円玉くらいか。「小さい銅貨」、単なる「銅貨」と言えばこれを指すそうだ。

 両側にチューリップのような花が刻印されている。


 大青銅貨は同じくくすんだ青色で、五百円玉くらいの大きさ。普段は「大銅貨」「大きい銅貨」と呼ばれる。

 両側に剣が刻印されている。


 後は銀貨と金貨だが、お前は知らなくても困らないだろうと、見せてもらえなかった。

 いいもん、いいもん、

 猫の実が一個2ゴールドで取引されると言うから、一日十個集めて売りさばけば、一年半もあれば金貨に化けるぜ!

 一年半後を見てろよ、ギルバート。



 1ゴールドの価値だが、これでパンが一つ買えると言う。

 安い宿屋に一泊すると、10ゴールド。

 平民の使用人の初任給がだいたい1000ゴールド。

 日本円で考えると1ゴールドは200円くらいの価値だろうか。


 俺の値段は700ゴールド。14万円。

 うーん、まあ、時給よりは高かったが。

 なんかへこむね。悲しくなるね。


 先生、人間の価値をお金で測ってはいけないと思います!

 かけがえのない命!

 オンリーワン!


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