第十一話 ピラミッド
2016/11/22 若干修正。
砂漠の夜は涼しくなったとほっとしていたのも束の間、明け方は凍えるんじゃないかと思うほど寒かった。厚手のローブは防寒具としての役割も有ったようだ。
「じゃ、暑くなる前に、出発しましょうか」
ティーナの判断で朝食を早めに済ませて、すぐに出発する。
「おいおい、もう暑くなってきたぞ?」
レーネが太陽に手をかざしながら言う。
「ううん、諦めて。ピラミッドの中は過ごしやすいって聞いてるし」
「じゃ、早いところ、そこに行こうぜ」
「ええ」
俺もレーネに賛成したいが、ピラミッドにはモンスターがいるんだよなあ。
時折、モンスターと戦いつつ進んだが、出会った敵ばかりで、強い奴は出てこない。
ぬう、猛毒消し、一個も使ってない…。
「止まって」
リサが言い、その場で地図を確認し始める。これで、三回目か。
「迷ったの?」
「いいえ。ただ、この辺りのはずだけど、ピラミッドが見つからない」
「どれ、貸してみろ」
レーネがリサから地図を取り上げる。
「んん? 目印が何も無いじゃないか」
「だから、歩いた距離を時間で換算して、おおよその目星を付けなきゃいけないのよ。思ったより、距離が稼げて無いのかも」
「うーん、うちの計算でも、この辺りなんやけどなあ」
ミネアも首を傾げる。
「そう。なかなか見つからないって聞いてたけど、もう少し、探しましょう」
ティーナが言う。
「待った。探すのは良いが、残りの水と食料も考えて、期限は区切っておいてくれよ」
言う。大事なことなので。
「水はまだ一袋しか使ってないし、帰りの分も充分有るから、心配しないの」
リサが反論してくるが、残り80%か。まあ、一日半でこれなら、もう一日は探し回っても持つか。
俺も納得してそこは引き下がった。
「じゃ、次は、向こうの方向へ」
リサが指差した。
「了解」
周りを見回しながら、歩く。ピラミッドも色は黄色だろうから、砂漠の色に埋もれてしまっているのかも。
「我が呼びかけに応じよ、探し物はいずこや、ディテクト!」
探知の呪文を使ってみる。
「お?」
「何か分かったの? ユーイチ」
ティーナが聞いてくる。
「ああ、反応はここの真下なんだが…」
「ええ?」
全員が、足下を見る。
「どういうことかしら?」
リサが腕組みして眉間にしわを寄せる。
「埋もれてるって事じゃないのか?」
普通に考えれば。
「ああ…」
「うん、じゃあ、仕方ないな。埋もれてるんじゃ、入れないし」
はい、撤収、撤収。
「そういう見え透いた手が…むむ、ホントにここに反応があるわね」
エリカが俺が嘘をついていると思って探知の呪文を使ったようだが。
「ま、急ぐことは無い。じっくり話し合って決めてくれ給えよ、諸君」
そう言って荷台に座る。にやつきが抑えられん。
「ムカつくわね」
「死ねば良いのに」
リサとエリカがぶつくさ言ってるが、何とでも言え。さて、暑いし、氷でも出しておくか。
「必殺の、アイスウォール!」
さらに優越感を出すために、無詠唱だけど要らん言葉を付けて氷を出す。
「あー、ひゃっこい」
「ニャ、ユーイチ、ちょっとそれ、くれニャ」
「いいぞ」
リムが手斧で砕いて、俺もかけらをローブに突っ込む。クロも俺のローブにいれてやり、ヒンヤリ休憩だ。
氷の呪文が無かったら、今頃俺はヒイヒイ言ってたね、確実に。
エリカとミオもアイスウォールを唱えて、氷を出し始めた。
「ちょっと! 無駄にMP使うんじゃ無い、そこの魔術士共」
リサがカリカリしているが、地図担当だからな。
「じゃ、とにかく、少し探すわよ」
諦めきれないようで、この辺りをもう少し探して回ることになった。
「ん、あれは何やろ?」
ミネアが後ろを振り返ったままで問う。
見ると、向こうに黄色いもやが掛かっている。だんだん、大きくなってくるが…。
「砂嵐よ! みんな、荷台に集まって、伏せる!」
リサが早口で指示を飛ばし、全員、言われたとおり荷台の後ろに集まり、伏せる。
「これって、どの程度なのかしら…」
エリカが少し不安がる。
「聞いた話では伏せていればやり過ごせるって事だけど。目と口は閉じてなさいよ」
リサがそう言って注意を促す。
「「「 分かった 」」」
クロを俺のローブに入れ、フードの口を絞り、目を閉じて備える。
「来たわ。息を吸って」
吸って、止める。
ゴオオッっと音がしたかと思うと、体が飛ばされそうなくらい激しい風が一気に当たりを吹き荒れた。
砂が顔に当たって、痛い。
「ユーイチ、もう平気よ。過ぎ去ったわ」
じっとしているとリサが教えてくれた。
「おおう。うえ、本当にスゲえな」
目を開けると、荷台が少し、砂に埋もれてしまっている。
「ん、風魔法でどかせた方が早い」
ミオが風の魔法を唱えて、荷台に積もった砂を払った。
「じゃ、水を飲んだら出発しましょう」
ティーナが言う。
「ふふ、ユーイチ、残念だったわね」
リサが笑みを浮かべて言うが。
「何が?」
「後ろ、見てみなさいよ」
「んん? げげっ…」
俺が後ろを振り向くと、そこには巨大なピラミッドが姿を現していた。
「ええ? 今の砂嵐で?」
「多分そうね。まあ、誰かさんがフラグとやらを立ててくれたみたいだし」
「くっ」
俺の傲慢な行いが、神の怒りに触れたとでも言うのか!
「ホント、ユーイチは運が悪いニャー」
くそう。ステータスではそんなに悪くないはずなのに。
なぜだ…。
せめて入り口が埋もれていて、入れないね、残念だったね、となれば良いと思ったのだが、きっちり入り口はちょうど良い高さに開いていた。
俺たちはロドルをそこの石にくくりつけ、前衛はローブを脱いで、ピラミッドの中に入った。
「クエッ!」
「ふおっ!」
ピラミッドの中に入った途端、大きな鳥がいたので、ビビった。俺よりデカいし。
「待って、落ち着きなさい。これは別パーティーの荷車よ」
リサがそう言って、剣を抜きかけた前衛を止めた。
「ああ、クーボか。よしよし、いててて、こら」
レーネが近づいて撫でようとしたが、くちばしでつつかれてるし、なんか凶暴そうだなあ。見た目は可愛くないひよこなんだが。
「止しなさい、レーネ。他人の馬車だし、クーボはそれなりに賢いから、私達が荷を取ろうとしている泥棒だと思ってるのよ」
リサが言うが、ふうむ、番犬としても優秀そうだな。こいつ。近づかないでおこう…。
「ふん、まったく、頭の悪い鳥だ」
「クエッ!」
「ほら、構わず行きましょう。ごめんね」
ティーナが謝り、ピラミッドの奥へ向かう。
「待って、私が先頭を歩くわ。ここ、罠が多いって話だし」
「ああ、うん、お願い」
シーフのリサを先頭に、直線の石造りの廊下を歩く。天井は高めで、五メートルはあるだろうか。中はヒンヤリしていて、気持ちが良い。
「ここに落とし穴があるわ。左側を通って」
「分かった」
見ると、ここだけ石のブロックが二つに割れており、石の色も少し違う。
「これ、落ちたらどうなるんだ?」
興味本位で聞いてみる。
「試してみれば?」
リサが何でも無いことのように言うが。
「ええ? 嫌だよ」
「多分、二メートルくらい落ちて、下に槍がある程度のはずよ。まだ即死の罠はこの入り口近くには無いから」
「待て。じゃあ、奥には即死の罠があるのか?」
聞き捨てならない情報に俺は立ち止まる。
「さあ、どうかしらね」
「おいぃ。じゃ、入り口近くだけ観光して、さっさと帰ろうよ」
「ユーイチ、お前は本当に臆病だな。心配しなくても、リサなら罠を上手く見つけると思うが」
レーネが言うが、見つけられなかったら即死だろと。
「さあ、敵がお出ましになったわよ。ミイラが数体!」
先頭のリサがダガーを構えて告げた。
「ひい」
さっそくかよ。しかもアンデッドとか。両手を前に突き出したおきまりのポーズでゆっくりと寄ってくるミイラ男達。
弱点は炎と聖属性だろうけど、一応アナライズする。
ミイラ男A Lv 30 HP 352/352
ミイラ男B Lv 30 HP 350/350
ミイラ男C Lv 30 HP 352/352
ミイラ男D Lv 30 HP 353/353
【弱点】 炎、聖
【状態】 不死
【解説】
秘術により不死化した人間。
生前の知能などは失われているが、
腕力と体力は強化されている。
噛みつき、掴みかかり、包帯飛ばしで攻撃してくる。
誓約により侵入者を排除するまで戦う。
噛みつかれると高確率で毒や麻痺に侵される。
不死化のレベルは低いため、
肉体を破壊されると復活しない。
「弱点は炎と聖属性。噛みつき、掴みかかり、包帯飛ばしに注意。噛まれると麻痺もあるぞ」
俺はそう言って、前衛のいないところにファイアウォールを構成する。まんまと足を踏み入れたミイラ男が、炎に焼かれて苦しんでいる。知能低いなあ。
それに、解説の一番最後、破壊されると復活しないって、それ不死じゃ無いよね? まあ、寿命で死なないって事なんだろうけどさ。
「くっ、しぶとい」
ティーナが何度も突き刺しながら、後退する。
「HPは高めだからな」
言う。
「うん、見えてる」
ウインドウの共有化も出来たようだ。状態の項目も追加されているし、熟練度レベルが上がったようだ。
敵に遭う度に使ってるしね。
ミオは俺のファイアウォールの手前側にアイスウォールを設置して、上手くミイラを足止めしてくれた。
回り込んでこないミイラって…。
この二つの魔法があれば、本当に雑魚になるな。とは言え、配置と数から考えて、全員を足止めするのはちょっと無理そうだ。
「むっ! 首を落としただけでは死なぬか。面白い!」
剛胆なレーネは楽しんでるし。まあ、彼女のレベルなら、余裕だろうけどね。
「ニャッ! 捕まれたニャ! 離すニャ!」
リムはさすがにちょっと焦りが見える。
「任せて!」
ティーナが、いったん、目の前のミイラを放置して、リムに包帯を飛ばしているミイラに斬りかかる。スパッと包帯が斬れて、リムも自由に動けるようになった。
「ありがとニャー。助かったニャ」
「うん、少しくらい捕まっても多分大丈夫だから、落ち着いて」
「分かったニャ」
「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
エリカが電撃で一番左、リムの前のミイラを攻撃したが、そこは炎だろうと。
まあいい、効いてないわけじゃあないし、前線も崩れてない。
「ニーニーニー、ニーニー、ニッ!」
クロはきっちりファイアボールで、一番左のミイラを攻撃。80もダメージが出た。ファイアボールなら五発か。ちょっと回数が多いな。でも上級呪文のファイアストームは、味方を巻き込みそうなときには使えないし、単体魔法だと魔力消費が大きすぎるので、効率が悪い。ここは無難に中級呪文で行くかな。
「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその炎を借りん。ファイアボール!」
その後、2ターン目で殲滅した。
「クリア。全員、無事ね?」
ティーナが確認する。
「ああ。こっちはノーダメだ」
さすがはレーネ。まあ、ミイラ男もちょっと動きが鈍かったからねぇ。単調な攻撃だったし。
「さすがね。私とリムは、二回くらい掴まれたわ。凄い握力で赤くなったし」
ティーナが自分の腕を確認して言う。だが受けたダメージは20ちょいでHPは342もあるので問題は無い。痛いだろうけど。
リムの方はレベルの上がりも早いしHPもどんどん上がるのでもう400を超えている。俺の倍以上とか、羨ましいし、不安になるんだよね。この先、強い奴も出てくるだろうし…。
帰ろうと提案したくなったが、この程度のダメージじゃ白い目で見られるのは確実なので、諦めて二人に薬草を渡しておく。
「ありがと、ユーイチ」
「ありがとニャー」
そんな物で良ければ、あと96枚あるし、ヨモギ草も併用すれば、まだまだ使えるけどね。
「じゃ、先を行きましょう」




