第十話 砂漠越え
2016/11/22 若干修正。
行商ルキーノのアドバイス通りに、砂漠を越える装備を調える。
砂嵐を防ぐためのローブ。太陽光を反射する意味では白色が良いのだが、普通の布には太陽光を遮断するほどの厚みや密度が無いため、厚手の黒いローブも砂漠の装備になるそうだ。これで俺は装備を変えずに済む。やったね。リム、ティーナ、リサ、ミネア、レーネの戦士系のチームがローブを買い込んだ。
次に、予備の水筒。
水が無くなったらアウトなので、これが一番の大荷物となる。ロドルは砂漠でも行けるそうなので、荷台を換装し、横幅のある車輪と、荷物を覆うフック付きの丈夫な布にして、乗せられるだけ水袋を乗せた。
次に、地図。
コンパスは持っているので、正確な地図さえ有れば、多分迷わないだろう。ティーナが金に物を言わせて、最上級の地図を手に入れたので、そこは完璧だ。ただ、二十万ゴールドというのはぼったくられた感もある。リサとミネアが腕組みして渋い顔をしていたが反対はしなかった。安物で命を棒に振ったら節約しても意味が無い。
次に、毒消し。
砂漠には毒持ちのモンスターが多いそうなので、しっかり揃えようと思ったのだが、道具屋で種類を確認したリサから、買う必要は無いと言われてしまった。まあ、ヘビと虫の猛毒用の毒消しは持ってるけど、数が心配なのよ…。
「あんまり荷物を増やすと、アンタが困るわよ」
「でも、ポーションの一つくらい…」
「そう言って五個も十個も持てば重くなるし、多すぎてもぱっと出せないでしょ? 聖水も持って行かなきゃいけないんだし、毒消し持つくらいなら聖水を持ちなさい」
「ぬう」
聖水はピラミッドの敵によく効くそうだ。
「改めて、ピラミッドに立ち寄るの反対。聖水を毒消しにすれば―――」
「「却下」」
ティーナとリサが俺が言い終わる前より早く遮ってくるし。
観光でチラッと立ち寄る程度なら別に反対もしやしないが、ここのピラミッドはダンジョンである。
モンスターがひしめいているのだ。
ミイラ男もいると言うし、アレは結構強いと思うんだよなあ。
「じゃあ、留守番…」
「ダメよ。飼い主なんだから、きちんと責任持ちなさい」
こう言われてしまうと、苦しい。だが、お前ら、クロを助けるより、お宝やモンスターが目当てなんだろ?
「ニー…」
「気にするな、クロ。仕方ないなあ。行くぞ」
色々不安だが、出発する。
「砂漠だなあ…」
街の南側を抜けて一時間もすると、大砂漠が広がっていた。
地平線まで白い砂。
「じゃ、ロドルが歩けるかどうか、確認するわよ」
荷物持ちの大トカゲは、身長二メートルで後ろ足だけで歩くのだが、コイツはかなりの力がある。ただ、草食で大人しい。顔は厳ついけどね。荷台を引っ張ってなかったら、出会った瞬間、モンスターだと思うくらい。
荷台を砂の上まで引かせて、少し様子を見る。さすがに、平地と比べると進む速度が半分になり、車輪が砂のへこんだところにはまると、動きが止まってしまう。
「これじゃ、ダメじゃないのか?」
「いえ、行けるわ。止まったら、押して手伝えば良いし、水はだんだん減ってくるから、動ければ充分よ」
リサが言う。
「戦闘中は逃げられないな」
「逃げないに決まってるでしょ」
「ええ?」
「まあ、全然敵わないモンスターが出てきたら、水はいったん諦めましょう。ほとぼりが冷めてから回収できるかもしれないし」
ティーナが言う。哀れ、ロドル。お前は見捨てられるようだ。ま、仕方ないよね。
「じゃ、行くわよ」
ティーナが言い、砂漠に挑戦だ。
「ぬう、これは…」
むっとする熱気、これはきつそうだ。
「暑いんだけど」
早くもエリカが文句を言い出す。
「当たり前でしょ。砂漠なんだから。気分が悪くなったら別だけど、暑いとかだるいとか、禁句よ。それだけで士気が下がるから」
リサがそんなことを言うが、絶対、途中で誰か言うだろうな。暑いって。
「ニャー、砂が面白いニャー」
駆けまくるリムはいつも元気だなあ。
「リム、あんまり遊んでると、疲れるからその辺にしておきなさい。モンスターもいるんだし、蟻地獄に引っかかっても危ないでしょ」
ティーナが注意する。
「ニャ、分かったニャ」
この街で聞き出した情報では、蟻地獄は砂漠越えの冒険者や行商にとって、かなりの難敵だそうだ。俺が知ってる蟻地獄は数センチの穴しか作らないのだが、こちらでは十メートルを超えるすり鉢状の罠を仕掛けてくると言う。本体も一メートルを超えるそうで、へこんだ砂地は気を付けないとな。
何だろう、俺が足を滑らせて引っかかる予感がしてならない…。
フック付きのロープを購入したが、役に立つと良いな。使う場面が無いのが一番良いけど。
「どこを見ても砂だらけ、これは本当に地図とコンパスが無いと危険だな」
レーネが見回して言う。
「そうね。コンパスは私とユーイチとリサが持ってるし、地図はリサだけだけど、北に向かえばなんとかなるんじゃないかしら?」
ティーナが言う。
「バラバラになると面倒やけど、北に向かえば、出られるはずやね。うちもコンパスは持ってるから、最悪、この四人の誰かと一緒にエスターンの街を目指すっちゅうことで」
「ええ」
全員のHPを確認する。まだ誰も減ってない。一歩進む毎に一ポイント減ってたら、よほどの冒険者でもない限り砂漠越えが出来ないだろうし、そこは良心的か。
「ふう、ちょっと一杯」
空気が乾燥しているせいか、口の渇きを覚えた。水筒の栓を抜く。
「ユーイチ、ガブガブ飲んでたら、すぐ無くなるわよ?」
リサがいちいち注意してくるが、うるさいなあ。
「分かってるよ。ちょっとだけだから」
「そのちょっとが命取りにならないと良いわね」
「むう」
口を潤すだけに留め、栓をはめる。
………。
一時間半程度、歩いた。タイムの呪文で、経過時間も分かるが、やはりキツイ。足が砂に取られ、涼しい風が来ないので疲労が早い。
「モンスター! ビッグコブラ、二匹!」
首の辺りが横に膨らんだ茶色い大型のヘビが左右から近づいている。
「右は任せろ!」
レーネがそう言って背中の大剣を抜きながら向かっていく。
「じゃ、私とリムは左ね」
ティーナとリムが左のヘビを受け持つ。
俺はアナライズの呪文を唱え、成功。
ビッグコブラA Lv 25 HP 142/142
ビッグコブラB Lv 26 HP 146/146
【弱点】 特になし
【解説】
全長3mの太い毒ヘビ。
体当たり、噛みつき、締め付けで攻撃してくる。
性格は極めて凶暴。
モンスター以外の動く物に対してアクティブ。
致死性の猛毒を持つ。
弱点無しか。こういうの、地味に面倒だな。ま、HPとレベルはそんなに高くないし、うちのパーティーはレベル30超だから、大丈夫だろう。
「体当たり、噛みつき、締め付けに注意!」
攻撃パターンを告げてから、中級の電撃呪文を使う。
「ニャッ!」
毒ヘビがリムに飛びかかってきたが、リムは上手く盾で攻撃を弾いた。反射神経、良いわぁ。
「せいっ!」
着地点を見切ってティーナが突きを放つ。命中。毒蛇のHPが30近く減った。
そこにミオのアイスニードルが決まり、倒した。レーネが相手していた方も片付いている。
「余裕ね」
リサが言うが、確かに。前衛は三人いるし、魔法使いに至ってはクロを入れて四人。
俺がプレイしていたゲームはパーティーは六人までという制限があったが、野外なら二十人くらいいてもいいかも。
「ニャ、魔石が出ないニャー…」
「お、ちょっと待ってくれ」
モンスターは倒すと大抵は煙が出てドロップアイテムに変化するが、時々、すぐに変化しないモンスターもいる。
俺は乳鉢と薬草を取りだし、ヘビの死骸から血を採って、猛毒消しを五つ作った。
「よし!」
爽やかな達成感。ヘビ用の猛毒消しはもうあるんだけど、やっぱり同じ種類の毒ヘビでないと、安心できないよね!
「よしじゃ無いわよ。そんなに猛毒消しを作ってどうするのよ」
リサが愚問をしてくるが。
「どうするって、万が一のために取って置くに決まってるだろ」
「うーん、ユーイチ、悪いけどリーダー権限で、猛毒消し作るの今から禁止にします。この砂漠を出るまでだけど」
「くっ、後悔するなよ」
「ええ」
「この調子だと、使うのも二つか三つじゃないかしら」
リサが言うが、まだこの砂漠の全部の敵とは戦っていない。砂漠のモンスターを舐めるな。
さらに三十分ほど歩くと、今度は真っ赤なサソリがいた。
「レッドスコーピオン、二匹!」
まずはアナライズっと。
レッドスコーピオンA Lv 20 HP 44/44
レッドスコーピオンB Lv 22 HP 46/46
【弱点】 炎、氷
【解説】
全長1mの毒サソリ。
腕のハサミと尾の針で攻撃してくる。
性格は極めて凶暴。
モンスター以外の動く物に対してアクティブ。
致死性の猛毒を持つ。
お、炎と氷が弱点か。
「炎と氷が弱点!」
告げて、氷の呪文を唱える。炎は昆虫系だと暴れそうで怖いんだよな。デカいし。
「あっ、くそ…」
俺の呪文が届く前に、エリカの電撃で倒されてしまった。もう一体はクロとミオで倒している。
「ニャ、弱いニャ」
リムが言うが、レベルも20台だしな。
「じゃ、行きましょう」
しばらく歩くと、今度はトカゲがいた。ロドルと違い、四つん這いだ。目が一つだけで、大きい。麻痺でもやってくるかな?
「不確定、一つ目トカゲ、一匹」
リサもこのモンスターは知らないようで数だけ告げる。
「あれは、バジリスク?」
ミネアが聞き捨てならない名前をつぶやくが、早めに分析しておこう。
レッサーバジリスク Lv 28 HP 225/225
【弱点】 氷
【解説】
全長2mの太った一つ目のトカゲ。
噛みつきとしっぽ、睨み付けで攻撃してくる。
性格は凶暴。近づく者を攻撃する。
至近距離で睨まれると低確率で麻痺になる。
レジスト可。
「レッサーバジリスク! 弱点は氷! 攻撃は噛みつき、しっぽ、睨み付けだ。近くで睨まれると麻痺の可能性、レジスト可能!」
告げて、氷の中級呪文を使う。
「ぬう、またしても…」
HPはそれなりだから、生き残ると思ったのに、俺以外の魔法チームがあっさり氷の呪文で片付けてしまった。エリカは電撃一本だと思ったのに、バジリスクの名でピンときたか、慎重を期したようだ。
「全員、無事ね。それにしても、へえ、バジリスクってこんななんだ。石化って聞いたことあるけど」
ティーナが言う。
「下位だからな。本物のバジリスクを甘く見るな」
「うーん、別に甘く見ては無いけど、ユーイチは遭ったこと無いんでしょ? どうせ」
「………無い」
ゲームでは何匹も倒しているが、それは自慢にもならんし。
「だっさ」
エリカがボソッと言って先を歩き始める。
くう、心なしか、みんなの視線が冷たいです……。




