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異世界の闇軍師  作者: まさな
第六章 錬金術師になりたいな

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第九話 ヌービア国

ユーイチ君が正当防衛を意図的に範囲拡大しています。過剰防衛またはそれ以上かもしれませんが、あくまでこの作品はフィクションです。


2016/11/22 若干修正。

 一抹の不安を感じつつも、行程は順調に進み、いくつかの街を経由し、野宿を挟みつつ、目的地へ向かう。


 再び関所を越えて今度はヌービアの国に入った。

 通行料金を倍近く取られたが、領主も儲かりそうだなぁ。


 関所から二時間ほど進んだとき、先頭を歩いていたリサが、立ち止まると右手を挙げて合図した。


 何か見つけたようだ。

 こちらに気づいていないモンスターの群れだろうか。一同に緊張が走る。

 

「ティーナ、誰かが追われているわ。どうするか今すぐ決めて」


「ええ?」


「早く! 街道をこちらに向かってきてる」


「そう言われても…」


 崖に挟まれた場所なので、道をそれてやり過ごすという手は使えそうに無い。

 なら。


「カモフラージュの呪文を使う。そこの岩陰に隠れていよう」


「ええ、じゃ、お願い、ユーイチ」


 ティーナのゴーサインが出たので、皆で岩陰に移動し、カモフラージュの呪文を唱えた。

 動いたらすぐ見つかるショボい隠蔽魔術だが、一度これで尾行を撒いたこともあるし、使いようによっては有効だろう。おそらく、向こうからやってくる連中は俺たちには気づいていないはず。


「来たわ」


 リサが(ささや)く。


 先頭を走ってきたのは、ターバンを頭に巻いた若い商人で、大きなリュックを担いでいる。必死の形相だ。


「ヒャッハー、逃がしゃしねえぞ、コラァ!」


「早く仕留めろ! お宝だ」


 追いかけているのは革鎧の男、五人ほど。どう見ても盗賊だろう。


「む」


「待ちなさい、ティーナ。このままやり過ごせそうよ」


「ええ? 悪いけどリサ、それはやらないわ。全員、戦闘用意!」


「もう、そう来ると思ったけど、どうせなら背後を取らせなさいよ」


「あっ、ごめん」


 ティーナが謝ったが、まあ、今更だ。

 それに五人が相手なら、こっちの方が多い。


 前衛組が剣を抜いて街道の前に立つ。

 HP表示は出発前に唱えているので、ここは、一枚バリアとコンセントレーターだけで充分だろう。

 凄腕の盗賊がいたら困るが、そんな感じには見えないし。相当、頭弱そうな連中。


「こっちへ!」


「助かった!」


 商人が前衛組の間を駆け抜ける。


「ああん? なんだてめえら?」


「構わねえ、やっちまえ! 上玉の女ばっかりだ、今日はついてるぜ」


 盗賊がにやつきながらそう言うが、多分、あんたらの厄日だと思うよ。


 アナライズの呪文を唱えたが、やはりレベルが低い。最高でも12とか。


「呪文は使うな。楽勝の相手だ」


 節約のために言っておく。


「フン、こんなチャンス、逃すはずないじゃない」


 などと意気込んで電撃の呪文をさっそく唱えるエリカは、将来が心配だ。




「いや、本当にありがとうございました。助かりました」


 商人が感激してぺこぺこと頭を下げてくる。


 盗賊? そんなの、前衛組が瞬殺したから。レーネに至っては、一撃。他の者も二撃くらいで終わった。

 縛り上げるロープが足りていれば、生かしたままで関所の兵士に預けたかもしれないが、結構遠くなってたし、色々面倒だしね。サクッと終わらせた。

 ま、盗賊で、こちらを攻撃する意思があったんだから、完全な正当防衛だ。

 こちとら貴族ご一行だし、下に~下に! だよ。


「いえ、当たり前のことですから、気にしないで下さい」


「いいえ、命を助けられたからには、このルキーノ、このご恩は一生忘れません。ところで、名のある貴族の御方とお見受けしますが、お名前をお教え下さい」


「ティーナ、さっさと行くわよ」


 リサがあからさまに急かすが、あまり名乗るなと言うことだろう。こういうところで地位をひけらかしても、良さそうなことは何も無さそうだし。


「ああ、うん、私はティーナ、平民の冒険者と言うことにして下さい」


 ティーナもリサの意を汲んで、そう答える。


「そうですか。分かりました、ティーナさん。ああ、私は冒険者向けのポーションも扱っております。ちょうど良かった」


 と、ルキーノが人柄の良さそうな笑顔を見せるが。


「どうせ要らないと思うわよ。そこのバカが大量に持ち歩いてるし」


 リサが横目で俺を見る。


「おい、バカとは何だ。冒険者の心得にはだな―――」


「まあ、ちょっと大量に持ちすぎよね。普段、全然使わないし、クレイゴーレムの時だって、余ってたし」


 おのれティーナ、リーダーのくせに、そんな軟弱な思考ではパーティーを全滅させかねんぞ。


「と言うわけだ。食い物なら、いや、食い物もコイツがすぐ見つけてくるしな」


 レーネが言う。


「ほう? ちなみに、どのくらいお持ちで? 商人の私の方が多いと思いますが」


 ルキーノがそんな事を言い出すし。


「ふっ、じゃあ、そっちの方が一つでも多かったら、何か分けてもらおうじゃない。ユーイチ、申告」


 変な張り合いだな、リサ。まあいいや。


「むう、ハイポーションが十個でしょ、アロエ草とヨモギ草とサロン草と毒消し草が各百枚ずつでしょ、それから」


「百枚!?」


 うーん、まあ、普通の冒険者にしてはちょっと多いかもね。サロン草以外、十枚使うのは滅多に無いし。


「防御力アップが十個、回避率アップが十個、聖水が十個、猛毒消しポーションが十個、あと、麻痺やら眠りやら気付けの薬草が少々ってところ」


「お見それしました…私の倍以上有りますね」


 なんと、ポーションの行商人より多かったでござるか?


「ホラ見なさい。バカなのよ」


「いや、ぐう…」


 確かに、最近、リュックが重いし、ポーションが割れないように収納するの、結構面倒だなと。


「ですが、私は銀細工なども扱っておりますしね。ポーションの専門の行商なら、それくらいは持ち歩いているかもしれません」


「ほらぁ、ほらぁ」


「アンタはいつからポーションの行商になったのよ」


「今から。じゃ、ルキーノさん、お互いに持ってない珍しいのがあれば、交換しませんか」


「おお、では、防御力アップと回避率アップ、それに猛毒消しポーションを見せて頂けませんか」


 こちらも冒険に使うので各一個だけ渡してやり、腕力アップのポーションを五個受け取った。

 お互い、ホクホク顔である。

 聞いてみると、卵とニンニクとレッドペッパー、それにスピナ草を混ぜれば腕力アップのポーションになるそうだ。

 あくまで一時的な増強剤で、一時間もしないうちに効果が落ちて二時間もすれば消えるそうだけど。

 味は多分、強烈になると思うので俺は飲みたくない。前衛でも無いしね、ヒヒ。材料は全部街で普通に売っているから、今度大量に作ってティーナ達に渡してやろうっと、ヒヒヒ。


「赤いわねえ…」


 ティーナも腕力ポーションを受け取って渋い顔で眺めている。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「いやあ、これほどの冒険者が一緒にいて下されば心強い。次からはきちんと、私も護衛を雇うことにしますよ。命あっての物種ですからねえ……」


 ルキーノは元々、ヌービア方向へ向かっていたそうで、今は俺たちと行動を共にしている。途中で盗賊の待ち伏せに出くわして、慌てて取って返し逃げていたようだ。

 むう、行商はちょっと危険が大きいね。やっぱり街の道具屋の方がいいや。



「ああ、砂漠へ行かれるのでしたか。なら、エスターンの街でしっかり準備を整えられた方が良いでしょう。あそこを越えるのはなかなか大変です」


 ルキーノはピラミッドも見た事はあるそうで、その向こう、さらに南西に向かうと凄腕の鑑定士がいるホルンの街だそうだ。

 チッ、砂漠のこっち側の街じゃないのかよ…。


 砂漠の乗り物は何を使っているのか聞いてみると、ラクダや大トカゲ(ロドル)だそうで、ロドル万能過ぎる。

 今も俺の重いリュックを荷車で運んでくれているので、楽ちんだ。


「変な草が生えてるニャ」


 リムが指差したのは、形からしてサボテンだろう。砂漠が近いせいか、この辺りは乾燥した荒野になっている。暑くは無いが陽光が暖かい。


「美味しいかニャー?」


「止めとけ。トゲが刺さって大変なことになるぞ」


 言う。


「一応、食用なんですが、そうですね、素人は止めておいた方がいいでしょう」


 ルキーノが言う。そう言えば、サボテンステーキとか聞いたことがあったな。あんまり旨そうじゃ無いし、食べる気しないけど。


「ユーイチは素人じゃ無いニャ」


「いやいや、サボテンの処理なんて知らんから」


「ムー」


 リムが不満そうにしているので、干し魚を渡して食わせておく。


「ニャ! やっぱり魚が一番ニャ」


「良かったな」


「もうすぐ、ああ、見えましたよ。あれがエスターンの街です」


 ルキーノが指差した先、塀に囲まれた街が見えた。


「それでは皆さん、幸運があらんことを」


 街に入ったところで行商のルキーノと別れ、俺たちは上等な宿を取った。この街の建物は立派な物には半円のドームが屋根に付いている。人々の服もフード付きのローブが多く、あとはターバン。

 カレーが食いたいなあ。

 よし。


「ちょっと、店や屋台を見てくる」


 俺はそう言って部屋を出る。


「屋台! あたしも行くニャ」


 屋台と聞いてピクッとネコミミを反応させたリムも付いてくる。


「スられないように気を付けなさいよ」


 そんな俺達にリサが後ろから声を掛けた。


「分かってる」


 リムとクロと一緒に、街の中心に向かう。


「ニャ、真っ白のパン!」


 さっそく新しい食べ物を見つけて、リムが屋台の親父に手を出している。平べったい形のごわごわした何か。俺も一つ頼んでみたが、うん、もちっとしたパンだな、こりゃ。卵は入れてないようだが、予想に反して柔らかい。

 惜しい。

 これにトマトソースを塗って、チーズを細切れにして焼き直せば、ピザになりそうな予感。


「旨いニャー」


 リムは幸せだね。何を食べても美味しいようだ。小さくちぎって、クロにも食べさせてやりながら、店を回る。


「むっ! この匂いは」


 食欲をそそるスパイシーな香り。


「良い匂いニャ」


「行くぞ」


「ガッテンニャ!」


 食堂に入り、他の客が注文しているものを見る。飯時の時間では無いので客はまばらだが、その中に黒色のスープを食べる客がいた。


「あれを二つ」


「はいよ」


 果たして食堂の女将が持ってきてくれたスープは、思った通りスパイシーなスープだった。サラサラだが、カレーに近い。


「変わった味ニャー。でも、これも旨いニャ」


「保存の関係なんだろうな」


 土地の風土に合った料理が発展するのは自然なことだ。現代の地球は交通機関と保存技術が発達しているから、どこでも似たような物が食べられるけど。


「女将さん、このスープのスパイスは何ですか?」


「黒胡椒とテルペだよ」


「テルペ? それ、見せてもらっても?」


「いいよ」


 店の厨房へ行き、テルペなるものを見せてもらった。袋に大量に詰められた直径5ミリほどの黒色の種子で、黒スープの主な材料だという。

 普通に店頭で売っているとのことで、食事を終えた後で小袋一つを買っておいた。植えるとすぐ生えると言うが、砂漠乾燥気候の地域でないと多分、ダメだろう。値段も手頃だし、行商に頼んで仕入れて、とろみとターメリックを入れてやれば、多分、カレーが出来る。


 カレーライス、食べたいなあ。

 ああ、お米が無いや。

 むう。

 カレーパンで我慢するか。

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