第七話 呪い
2016/11/22 若干修正。
ミオから上級呪文を教わっている、と言うことにして俺はのんびり安全な宿屋ライフを今日も満喫している…はずだったのだが、鬼軍曹レーネという天敵がいるために、落ち着いてごろごろ出来ない。
くそっ。
なにしろレベル40超えの相手だ。カモフラージュの呪文でやり過ごそうにもあっという間に気配を気づかれるし、スリープで眠らそうにもきっちりレジストしてくるし、全敗中だ。
ヤツから逃れるためには、もっと強力な呪文、透明人間になるとか、分身の術とか使えないとダメだろう。
「と言うわけで、ミオ、なんか使えそうな魔法、ないか?」
「ん。相手の方がレベルが高いから、難しい」
「くっ。じゃあ、手っ取り早くレベルを上げる方法、ないかな…」
「ダンジョン」
「却下」
「…装備?」
「惜しいが、ローブを更新したばっかりだしな。ミスリルより上となると、何があるんだ?」
「オリハルコン、アダマンタイト、ウーツ、あとは失われた遺物くらいしか、知らない」
「オリハルコンやアダマンタイトは何となくは分かるんだが、ウーツって、どんな金属なんだ?」
ウーツなんて金属、俺は聞いたことが無い。
「ん。私も実物を見たことは無いけど、お師匠様の話と文献によれば、不思議な紋様が浮き出る金属らしい。硬さはさほどでも無いけど、追加効果が発生しやすいとか」
「あー、魔法寄りのタイプなんかな。オリハルコンが最高で、アダマンタイトは硬さだけなら天下一品って感じで良かったか?」
この世界のそれがどう言う物かは確認しておいた方が良いだろう。ミミもそうしていたのだから、見習わないとな。
「ん、最高とは限らないけど、ミスリルより希少金属で、価値が高いのは間違いない。アダマンタイトも私の知識と合致してると思う」
「良し。ああ、分析の呪文って、アイテムにも行けるんだよな?」
「ん、使える」
さっそく、着込んでいる俺のローブを分析する。
【名称】 ユーイチのローブ
【種別】 防具
【材質】 木綿、ミスリル、丈夫の薬
【物理防御力】 15
【魔法抵抗力】 80
【耐久】 98 / 100
【重量】 1
【総合評価】 B
【解説】
錬金術師ユーイチによって考案され、
鍛冶師ダルクとその娘ミミにより打たれた一品。
元がローブのため、防御力は低いが、
ミスリルワイヤーを通すことにより
防刃性能を画期的に向上させている。
魔法防御も高い。誰でも着られる軽さ。
「んん?」
俺の名前が付いちゃってるが、まあ、俺のローブだしな?
でもさ、何か変だよね。
普通、こういうアイテム情報って、ローブだけだと思うが。
総合評価と解説も気になる。
「す、凄い…固有名詞付きの名工側なんて。お師匠様と呼ばせて」
ミオが真剣な眼差しで俺を見てくるし。
「待て。俺は今、お前に付いて学んでる方だろうが。それに、エイフォード先生はどうするんだよ」
「問題ない。そっちは最初の師匠だし、もう死んでる」
「なにっ!?」
「む。おほん、ユーイチの方が優れてるから、お師匠様は、私の心の中では、もうどうでも良いと言う意味」
「いや、お前、言ってる側からエイフォード先生のことをお師匠様って呼んでるし、留守にしてるんじゃなかったのか?」
なんだか急にコイツが胡散臭くなりやがりましたよ?
「ふう。ミスった。エイフォード先生の死は隠蔽するよう、遺言された」
「とにかく、どういうことか、洗いざらい話せ」
「ん」
ミオの話によると、エイフォード先生は、己の肉体を強化することに最大の目的を置いて調合や魔法の研究を行っていたという。
そして、キノコに着目したという。
ああ、そこに手を出しちゃったか…。
先が読めたよ。
「私は、危険だから止めた方がいいと言ったけど、先生は肉体はいじめ抜いて強化すべしと言って、毒キノコの調合に凝りだして。耐性を得たと思っていたら、体調を崩して、キノコの摂取を止めても改善しなかったから、体の中に毒が溜まってしまったみたい。最後は老人のようになって死んでしまった」
「そうか…」
「真っ白のキノコと、赤い炎のようなキノコは要注意」
「あれか。両方とも知ってる。ホワイトキノコと炎茸だな。ノルド爺さんに教わっておいて良かった。でも、くそ、鋼の賢者はもういないのか…」
弟子のミオは上級呪文も余裕で使いこなしているし、その師匠で、国内トップクラスと思われる大魔導師に教えを請えないのは残念だ。
「ん、申し訳ない。もっと強く止めるべきだった」
「まあ、弟子が師匠に指図は出来ないだろうし、そこは仕方ないだろう」
「ん、まさか死ぬとも思わなかったし」
毒キノコを食って死なないと思われるような肉体を持つ魔導師も凄いけど。
「それで師匠、このローブ、なぜミスリルワイヤーを通そうと思ったのか、その説明を」
ミオも同じタイプのローブを着ており、念のためそちらも分析してみたが、やはり俺の名が冠されていた。
「なぜと言われても、防御力を上げようと思っただけだ」
「む、それでローブにワイヤーを通す発想が出てくるところが凄い」
「そうか? まあ、鎧は魔術が上手く行かないって制限が有ったからな。たまたまだ。そんなに凄いことでも無い」
「他にあるなら、出す」
「いや、出せと言われても、もうねえよ。だが、同じ発想で行くなら、この樫の杖もミスリルを中に打ち込むなりして、強化できそうだな」
「ん。普通ならミスリルロッドを購入する方法を考えるところ、さすがお師匠」
「いや、お師匠は止めてくれ」
早死にしそうで縁起が悪い。
「ん。じゃあ、先生?」
「普通にユーイチでいいよ。じゃ、さっそくだ、ダルクさんの工房に行ってみよう」
工房に行き、上機嫌のダルクにアイディアを伝えておいた。なんでもミスリルワイヤーローブが飛ぶように売れるそうで、まあ、魔術士のみんなももうちょっと防御力の高い防具が欲しいと切実に思っていたのだろう。魔術士で無くてもローブなら誰でも身につけられるしな。しかも、加工が容易で、使用するミスリルの量も少ないから、値段もお手頃だ。
少し待っていろと言われ、あっという間に樫の杖をパワーアップしてもらえた。見た目はさっぱり変わっていないが、手に持っただけで魔力を感じる。ライトの呪文で具合を試したが、多分、問題無い。それどころか、呪文の乗りが良い感じがする。
【名称】 ユーイチの樫杖
【種別】 武器
【材質】 樫の木、ミスリル
【物理攻撃力】 10
【魔法攻撃力】 10
【魔法抵抗力】 20
【耐久】 199 / 200
【重量】 2
【総合評価】 D
【解説】
錬金術師ユーイチによって考案され、
鍛冶師ダルクにより打たれた一品。
ミスリル釘を内部に打ち込むことにより
強度と魔法攻撃力を向上させている。
少量の魔法防御を持つ。誰でも扱える軽さ。
さっそく分析してみたが、こっちは総合評価が低めだ。金属と木材の組み合わせは武器なら普通にあるし、画期的でも無いからだろう。
「もっと出す」
「いや、もう思いつかん。また今度な」
「仕方ない。あ、クロにどうやって魔法を教え込んだのか、それも聞きたい」
「いや、コイツは俺が教え込んだと言うより、自分で覚えちゃったからな。なあ、クロ」
「ニー」
「返事もするし、賢い。む、ステータスが呪いになってるけど」
ミオが分析の呪文を無詠唱で使ったのか、そんな事を言う。
「えっ?」
こちらも使う。
クロ Lv 32 HP 42
【弱点】 特になし
【解説】
黒い子猫。
ユーイチの仲間。
ティーナ=フォン=ラインシュバルト侯爵令嬢の
パーティーに所属。
魔法も使える。
むう、俺の分析の呪文では状態まで出ないんだった。熟練度ぇ…。今度はステータスの呪文を唱える。
[1ページ目]
【 名前 】 クロ
【 Lv 】 32
【クラス】 猫
【ランク】 使い魔
HP 42/ 42
MP 119/119
SP 26/ 26
【 状態 】 呪い
【所持金】 0ゴールド
【 Exp 】 139271
【Next】 12031
「あ、ホントだ。えっ? いつからだ?」
普段、一覧の方のHP表示しか気にしていなかったので、思い出せない。というか、クロの詳細ステータスは一度も見てなかったような気がする。防具とか装備してないし、HPの低さから考えて、パーティーメンバーではなくゲスト扱いだと思ってたし…。ページを切り替えるが、呪いについて、これ以上の情報は無い。
「ニー…」
クロは驚いた様子では無いので、むっ! かなり前から知ってたみたいだな。
「あー…いつも解除の呪文を鍛えてたのって、ひょっとして」
「ニッ!」
「それを早く言ってくれよ…いや、言えなかったんだもんな。ごめんな、ごめんな」
「ニー」
しかし、そうなると、かなり長い間、呪われたままになっていて…。ううん、どう言う効果で苦しめられているのやら。見た感じHPは減っていないし、装備品は元々無いので、変更出来なくなっても関係が無い。
「効果に思い当たる節は?」
ミオが俺に聞いてくるが、肩をすくめるしか無い。
「いや、俺から見た限りでは問題無さそうなんだが、クロ、痛かったりするのか?」
「ニー」
首を横に振るので、痛みは無いようだ。
「じゃ、他に何か問題はあるのか」
「ニッ!」
力強く頷いたので、問題はあるようだ。しかし、困ったね。症状が分からないと、対処のしようも無い。いや、専門家に見てもらえばいいんだ。
「ミオ、呪いを解くと言ったら、神殿に連れて行けばいいんだよな?」
「ん、あとは高レベルのプリースト」
「知り合いにそんなのがいるか?」
「ん、いない」
なら、やはり神殿の方が手っ取り早い。この街にも神殿はあるはずだ。
「行こう」
探し回るのは面倒なので、ダルクの工房に行き、仕事を手伝っていたミミに頼んで神殿に案内してもらった。
「じゃ、ありがとな、ミミ。もういいぞ」
「いいよ、そんなの。それより、呪いがちゃんと解けるか、確かめなきゃね!」
最後まで付き添うつもりらしい。あまり連れ回してもどうかと思うが、まあ、本物の職人として働いてるわけでもなし、見習い扱いだから、好きにさせておこう。
神殿は、高さ四メートルほどの石造りの建物で、パルテノン神殿のような柱が表に並んでいる。
老人や冒険者風の男が開け放たれた入り口から中に入って行ったので、誰でも入って良いはずだ。
ミミとクロとミオを連れて、中に入る。
「ああ、明るいな」
中はライトの呪文か魔道具なのか、十分な明るさがあった。そのまま広間になっていて、奥には大きな女神像が有り、その手前の絨毯に跪いて祈りを捧げている人達が何人もいた。壁際には白いローブを着込んだドワーフがいて、うーん、そりゃドワーフの司祭だっているだろうけど、なーんか、似合わねえなあ。
「ほら、ユーイチ、こっち」
ミミが司祭のドワーフの側で手招きする。
「ああ」
「何か、ご用ですかの」
ドワーフの司祭が聞いてくれた。
「はい、この黒猫なんですが、ステータスが呪いになってしまっていて、解いてもらえませんか」
「拝見致そう」
ドワーフの司祭は屈んで、クロに向けて手のひらをかざした。
「むー…むっ? これは?」
「どうですか?」
「確かに、強力な呪いを感じるぞ。これほどとなると、司祭を集めて儀式で解除せねばならん。そうだな、喜捨は十万ゴールドでどうか」
「ええ?」
滅茶苦茶高いやん。
「ちょっと! おっちゃん、酷いよ。こんな可愛い子猫から、そんな無茶なお金、取ろうっての?」
ミミが抗議する。
「いや、そうではないが、お主が飼い主なのだろう?」
「ええ、まあそうなんですが」
「10ゴールドに負けて!」
「五万だ。いくら同族の童の頼みでも、司祭を集める金が要るのだ。しきたりでもあるしな。公平にせねばの」
それでも半額かよ。この世界の金銭感覚はホントにわからんわー。値段が一定の日本の方がいいや。いちいち交渉するの面倒臭いし。
「ケチ」
「ぬう」
渋い顔をする司祭だが、これ以上は負けてくれなさそうだ。どちらにしても俺は今、そんな大金は持っていないし、ティーナに相談だな。
まあ、ティーナならぽんと出してくれるだろうけど、五万は高えよ。
「ニー…」
困った様子のクロ。
「心配するな。じゃ、金を用意してきます」
「うむ。汝らにファルバスの導きがあらんことを」
宿屋に戻ると、ちょうど一階でお茶を飲んでミネア達と休憩しているティーナを見つけた。
「ティーナ、ちょっといいか」
「ああ、ユーイチ。レーネが探してたわよ。ふふ」
「それはいいとして、真面目な話だ。クロのことなんだが…」
「ん?」
事情を話す。
「そう、呪われていたの。可哀想に。分かった。じゃ、五万でいいのね?」
「悪いな」
「いいのよ。クロも魔法使ってくれるし、私達の立派なパーティーの一員だしね」
ティーナとミネアを連れて、また神殿に戻る。ドワーフの司祭に金貨を払った。
「うむ、確かに受け取った。では、近隣から司祭を集めるため時間が掛かる。一週間後、またここに来るのだ」
「はい」
一応、宿でクロに俺とミオによる解除の呪文を掛けてみたが、ステータス状態は変わらなかった。
強力な呪いらしいから、仕方ないか。
だが、儀式の日を待つ間に、俺はスリップの呪文の開発に成功した!
これでレーネの魔の手から逃れられるぜー。




