第五話 ゴーレムを作ろう!
2016/11/22 若干修正。
「えっ! エンシェント・クレイ・ゴーレムのHPって25000もあるのかよ!」
炭鉱町ラジールに戻って来てから三日目、モンスターをどうやってあの塔に配置したかミオに聞いたのだが、エイフォード先生がダンジョンでモンスターを捕獲し、そのまま連れ帰っていたのだという。ビッグアイはともかく人食い鳥とか、相当暴れたと思うんだが、よくやるなあ。ファイアエレメントは予想通り、ミオの呼び出した精霊だった。
問題はクレイゴーレムだ。塔の最後にいた、しぶとすぎる粘土人形。あんなのはさすがにエイフォード先生がいくらムキムキであろうとも運べないし、捕まえられないだろう。
事実、あれはダンジョンで見つけたという失われし遺物に高品質の魔石を封入し、ミオの魔法陣で完成させたそうで、やたら凄いのを作ってくれたもんだね。さすがにアーティファクトが無ければ、ミオは普通のゴーレムしか作れないという。
で、さっそく、そのフツーのゴーレムを作ってもらうことにした。
さすがに街中では色々ヤバいので、街の外の平原に移動してきた俺たち。
メンバーは、俺、ミオ、エリカ、クロの魔法チームに、護衛としてティーナとミネアに頼んで同行して頂いた。
「ん、この辺で」
ミオが立ち止まる。
「分かったわ。じゃ、私とミネアでモンスターを警戒してるから」
「悪いね」
「別に良いわよ。私だって、ゴーレムの作るところ、見てみたいし」
「うちもや」
野外だけに油断は出来ないが、この二人が見張っていれば大丈夫だろう。
いざとなれば魔法チームも普通に戦えば良いんだし。
通常、街のすぐ近くにはモンスターは出てこない。
「まず、草が邪魔なので焼く。二カ所」
ミオが説明しつつ、無詠唱で円形にファイアウォールを出して地肌を露出させる。
両方とも直径二メートルくらいか。
「次に、素材となる土塊を用意する」
右の地肌にアースウォールの呪文を掛けて、塊を作り、心持ち柔らかめにしたようだ。
「石灰に黒ヤモリの粉末を混ぜたもので、魔法陣を書いていく」
白い粉末を入れた革袋の口を少し開けて、器用に粉で線を引いていくミオ。
まず一番外側の円を描き、次に内側の円、そして三角形を二つ重ねて、六芒星とする。
さらに、星の一片に魔法文字を一つ一つ描く。
「面倒臭いわね」
エリカが渋い顔で言う。確かに、面倒だ。それに時間も掛かる。これを戦闘中にやれと言われても無理だろう。
二十分ほど経過し、ミオはようやく全部魔法陣を書き終えたようだ。
「動力となる魔石を魔法陣の中央に置く。この魔石が強ければ強いほど、召喚されるゴーレムのレベルも上がるけど、上限は私のレベルだから」
「え? でも、クレイゴーレムって、かなりレベルが高いのよね?」
ティーナが口を挟んだ。
「あれは例外。アーティファクトの人形が元から有ったから、半分完成してた。あれが無いと、いくら強い魔石を置いても、33レベルにしかならない。損」
「なるほど」
「次。処女の血を一滴」
そう言って、ミオが自分の指を針で刺して、血を垂らす。
「む」
うお、反応したら、ティーナとエリカにじろっと睨まれた。
オ、オーケー、俺は今、何も聞かなかったことにするぜ。
「あとは魔法陣の上に用意した土を盛って」
「手伝おう」
「ん」
二人で土を手で掬い、魔法陣の線を崩さないよう、注意しながら、上にのせていく。
「もういい」
ミオが言う。
「だが、これじゃ、ゴーレムの量として足らなくないか?」
「問題ない。下が土だから、足りない分は魔法が勝手に補充する。それに、このメンツで、あんまり大きくて強いゴーレムを作っても、処分に困る」
「ああ。でも、クロの解除なら…いや、無理か」
「相当、レベルが高いディスペルなら、可能かも知れないけど、まず無理」
「あんまり強いのは作らないでね」
ティーナもそこを心配したか、言う。
「ん。魔石も小さいのにしたし、レベル1で設定した。私でも余裕で勝てる」
「じゃ、大丈夫ね」
「ん。じゃ、最後、発動の呪文。ミオの名において命ず、出でよ、ゴーレム!」
魔力の発動が感じられ、魔法陣が黄色く光り始める。土が生き物のようにモゾモゾ動いたかと思うと、足が作られ、胴体が作られ、腕が作られ、頭が作られた。顔形はあのクレイゴーレムとそっくりなので、デザインはミオのセンスなのか、それともゴーレムは全てこのデザインなのか、そこがちょっと気になったが、些細なことだ。
「おお…」
身長一メートル程度のミニサイズのゴーレムができあがった。
「これで完成。歩け」
ミオが命令すると、ゆーっくり、足を上げて、動くゴーレム。
「遅いわね」
エリカが意地悪くゴーレムを手で押してみるが、早くもよろけるゴーレム。さすがレベル一だけあって、弱い。
ついでに分析の呪文も掛けてみた。
ゴーレム Lv 1 HP 50
【弱点】 特になし
【解説】
魔力で生成された純粋なる魔法生物。
魂は持たず、
召喚者の命令をひたすら忠実に実行する。
知能は低く、ごく単純な命令しか実行できない。
同レベルのモンスターと比較して、
力と体力に非常に優れるが、スピードは極めて遅い。
痛覚などは存在せず、体が半壊しようとも動き続ける。
ふむ、ま、こんな物だろう。
熟練度がまだ低いので、最大HPが表示されないのはがっかりだ。
「む、ホントに弱い。しかも、すぐボロボロになるんだけど?」
エリカが杖でつつくと、あっという間にボロボロと崩れるゴーレム。HPは二割も減った。
「レベル1だから。レベル10くらいになると、杖くらいじゃ壊せない」
ミオの話だと、俺はレベル10以上のゴーレムとはやり合わない方がいいかもな。まあ、ロックフォールとか呪文を使えば、もっと上も行けるんだろうけど。
「ふうん」
「どの程度の命令まで行けるんだ?」
「可能なシングルアクション、後は、侵入者を迎撃せよ、とか、それが限界。宝を取って来いは無理」
「んじゃ、警備ロボットが限界か…」
後は敵から身を守るための壁だな。あまりに動きがノロいので、即座に回り込まれるだろうけど。
「ロボット?」
おっと、エリカが耳聡く反応してしまった。
「間違えた。警備員だ」
「ああ」
「じゃ、そろそろいいかしら?」
「ああ、悪かったな、ティーナ。付き合わせて」
「もう、それは良いって言ってるでしょ。それより、ふふ、私に倒させて」
反対する者もいない。
俺たちはゴーレムから離れ、ティーナが正面に立つ。
「戦え」
ミオも、気分を出すために命令は出したが、次の瞬間にはティーナが細剣でゴーレムを突き刺し、さらに一度抜いて斬り下ろすと、煙となってゴーレムが消えた。
「ああ、本当に脆いわね」
「ん」
「まあ、レベル1だしな」
「ねえ、ミオ、一番、強いの作ってくれない?」
「ん、魔石が無い」
「ああ。そっか、じゃあ、止めておいた方が良いね。あんまり高いの使うと、リサに怒られそう」
それに、ゴーレムでは訓練にもならないだろう。
「じゃ、帰るか」
作り方も教わったことだし、何かの時には役に立つかもしれない。
魔法陣の知識も手に入れたし、こちらもちょっと研究してみようかな。
ゴーレムを作ってから、さらに三日後、俺は新しい呪文を開発した。
毒味の呪文だ。
これさえ有れば、道中に見つけた美味しそうな果実を気兼ねなく食える。まあ、パーティーの全員に食えるかどうか、聞いてその上での話だけども。
他に、拘束と逃走とブレス防御を覚えたいので、いつもの魔法チームのメンバーに加えてミオにも協力してもらい、キーワードを試行錯誤で探す。
「息よ止まれ! ブレス・ストップ!」
「ふーっ。はい、失敗ね」
エリカが俺に息を吹きかけ、髪の毛が動いたので、それは分かっているのだが。
く、苦しい!
やべ、コレどうやって元に戻せば良いの?
「んん? どうしたのよ?」
「ニッ! ニー、ニー、ニー、ニッ!」
さすがクロ。すぐに気づいて解除の呪文を掛けてくれて助かった。
「ぷはっ、死ぬかと思った…」
「ええ? ああ、アンタの息が止まったわけね」
「そうだ。くそっ。でもこれ、色々ヒントになるな…エリカ、お前が唱えたがってるデスに使えるんじゃないのか?」
「あっ、そうか、心臓を止めなくても、息でもいいのか…」
「その場合、呼吸しない生物には無効判定を食らうだろうけど」
「呼吸しない生物なんて、まあ、いるわね、モンスターなら」
「ああ。モンスターならな」
「じゃ、さっそく。汝の息よ止まれ、デス!」
「はい、失敗」
「むう。なんで指向性を加えただけで不正解になるのよ」
「俺が知るかよ。その答えが分かるなら、指向性のキーワードは自由に使い放題だろうけどな」
その理屈や条件が不明だ。ま、今はいいだろう。
それよりも、ブレス防御だ。ブレス攻撃は範囲攻撃になるから、実戦での危険度は跳ね上がる。後衛の俺も攻撃に晒される可能性が高いし、全員が一度にダメージを受けると、回復も手間取ってしまい、より困難になる。薬草だと同時に二人を回復させるのは無理だし。
む、ポーションなら、一度に二人振りかければ、行けるかも?
後で試すか…。
で、ブレス防御だが、魔法で息を止められるのは判明したので、これを攻撃者、例えばドラゴンの息を直接止めてしまえば、俺が元々やりたかったブレスのバリアの代替として充分に実用が出来る。
ウインドウォールを間にかましてもいいな…ふむ。
いや? だとすると、バリアも、もっと中間の位置からかけて、ほほう?
「クロ、ちょっといいか」
「ニッ」
「俺がこの辺にバリアを掛けるから、お前はこっちにバリアを掛けてくれ」
「ニッ!」
「じゃあ、行くぞ」
同時に二つのバリアを、別々の場所に仕掛ける。
「よしっ!」
成功だ。
今度はこれを、体の動きに追尾させないと、実用的では無い。
「マナよ、我が呼びかけに応えて汝の上空に盾となれ! バリア! ぬう」
不発。
「マナよ、我が呼びかけに応えて、我らの盾となれ! バリア! おっ?」
おお…
成功しちゃった。
今の俺には最初に唱えたバリアと、今唱えたバリアが共存している。
バリアの多重化だ。
「ニー! ニー!」
「むむ。フン」
「なるほど。障壁と種類を変えることでリセットを回避…凄い」
ミオが感心するが、ふふふ、発想の勝利だよ。
というか、最初から発想はこれだったんだよなあ。
種類を変えるって点がちょっと思いつかなかっただけで。
「よし、もう良いぞ、クロ。ありがとな」
「ニッ」
もう少し、このバリアを発展させたいが。
「マナよ、我が呼びかけに応え、障壁と盾になれ! バリア! ダメか…」
重ね掛けは成功したが、一度に二枚出すのは厳しい感じがする。
「フン、それだと、魔力等価の原則に反するじゃない。バッカじゃないの?」
エリカが問題を指摘してくるが、分かってても一応試すのが研究者なのだよ!
常識を疑え!
「マナよ―――」
「ユーイチ」
レーネがノック無しで開けて入ってくるし…。
「むっ。レーネさん、ノックをお忘れですよ」
「そんなの要らないだろ」
「着替え中だったりしたら、どうするんですか」
「ガン見する」
「ええっ、いや…」
「はは、冗談だ。ほれ、これでいいか?」
今更だがノックするレーネ。
「まあいいけど。それで?」
「毎日ご苦労なことだが、呪文の勉強ばかりでは気が滅入るだろう。鍛えてやるから、来い」
「いや、剣は、そっちの方が気が滅入るから、くっ」
逃げようにももうすでに腕を掴まれているので、逃げられない。
逃走呪文、絶対必要だな。
あと、ウナギのようにするっと逃げる拘束回避の呪文か。




