第十六話 わだかまり
2016/4/19 数行ほど修正。
あ…ありのまま今起こったことを話すぜ!
アサシン共に追われている美少女を助けたら、
その美少女にスパルタで剣の稽古をやらされた!
何を言ってるかは分かると思うが、
なぜこうなったかは俺も分からない。
剣士とか脳筋とか、そんなのどうでもいい、
俺は早くこの世界から脱出したいです…。
「ごめんな、レーネは悪い子やないんやけど、剣のこととなると、ちょっと見境がなくなるんよ」
ミネアがなだめてくれるが、俺にとってはレーネはどう見ても悪い子だから。
「うちも、最初に出会ったとき、いきなり手合わせや言うて斬りかかられてびっくりしたけど、アサシンからは助けてくれたから」
ううん、それ、ただの辻斬りとちゃう? 自分、なんか騙されてへん?
「ちょっと、ユーイチも疲れてるんだから、早く寝かしてあげなさいよ」
もう少し話をしていても良かったのだが、リサがそう言って打ち切らせようとする。
「ああ、ごめんな。ちょっと謝っておきたかっただけやから。じゃ、お休みなさい」
そう言ってミネアが向こうに行く。
結局あれから、レーネとミネアが付いてきてしまい、こうして野宿を共にしている。
モンスターから身を守るという意味では、高レベルの彼女達が一緒にいてくれる方が良いのだが、アサシンに狙われてるってのがね…。
あれだけの数を倒せば、アサシンギルドもすぐには動けないという話だったが、追われる者の言い分だけに、どこまで信用できるか。
ともかく、疲れた。今夜はもう寝てしまおう。
翌日、割と早く目が覚めた。
筋肉痛は割と治まっている。さすがサロン草。
周囲を見回すと、ティーナが見張りだったようで、彼女だけ起きていた。他は、あの白髪の危険人物や普段あまり寝顔を見せないリサも寝ている。
「おはよ」
ティーナが俺に気づいて、声を掛けてくる。
「おはよう」
俺の胸の上で寝ているクロを起こさないように、ローブでハンモックのように吊ってやりながら、ティーナの隣に座る。
「ふふっ、クロちゃん、可愛い」
撫でようとして、起こすのも可哀想と思い直したティーナが、手を引っ込める。優しい子なのだ。
だから気になる。
「大丈夫か?」
「えっ。えっと、何が?」
「いや、平気なら良いんだ」
「ううん。実を言うと、昨日、眠れませんでした」
「そうか…」
ティーナは思った以上に、気に病んでしまったようだった。アサシンと言えども人間。その命を奪ってしまったことに。冒険者カードのカルマの数値が低いこともだが、ここしばらく彼女に付いてきたから分かる。人命について、ティーナの感覚は現代日本人に近い、と思う。一方の俺は、心の端っこに納得がいかないわだかまりは残っているものの、しっかり眠ってしまったし。
ティーナが続けて口を開いた。
「相手が命をやりとりする生業だから、それは覚悟の上だとか、やらなきゃ誰かが殺されるかもっていう理屈もあるんだけどね、でも、何というか…こういうことはしなくて済むならその方が良かったなって。ごめん、私、冒険者になったくせして、甘ったるいこと、言ってるね」
「いいや。冒険者だから何だからって事じゃ無しに、君が殺したく無いなら、それでいいだろ。俺はティーナのそういうところ、好きだけどな」
「!」
む、ティーナがぴくっと身を縮めて顔を赤くした。
い、いや、俺が言ったのはラブじゃなくてライクの方なんだけど。
なんかミスった。
「甘い、甘いな」
いつの間にか目が覚めたのか、レーネが、これだから…と言う顔で首を横に振る。
「この世界は殺るか殺られるかだぞ。こちらが殺したく無いなんて言ったって、相手が殺そうと思えばそれまでだ。死にたくなければ躊躇はするな」
それも道理ではあるだろうけれど。
「ええ、わかってはいるわ」
ティーナもそう答える。
「よし、じゃ、飯の前に、三人で死なないための特訓だ」
剣を拾ってすっくと立ち上がるレーネ。
「そうね」
ティーナまで立つし…。
「ぼ、僕は遠慮しておきます」
「ダメだ」
「なぜ…」
「好き合っているのだろう? なら、自分の女を守れ」
「いやっ、全然好き合ってないです」
即答。
「ちょっとぉ…」
「んん? なんだ、そうなのか?」
うんうんと全力で頷く。
「知らない」
ティーナは少し怒った様子でそっぽを向いた。
「なら、余計に特訓だ」
「ホワーイ」
「なんと言うかな、お前の怯えた目が堪らないんだ。これは一目惚れというヤツじゃないか?」
「えっ?」
ティーナは驚くが、俺に一目惚れとかあり得ないし。
「違います。それは獲物を見つけて興奮してる猛獣の目です」
言う。
「ほう、なるほど。うむ、確かにそうかもしれないな。安心しろ。取って食ったりはしないぞ。ちょっと鍛えてやるだけだ」
それが要らんと言うに。
「さあ、立て立て」
「やーめーろーよー」
本気で逃げようとするが、がっちり掴まれたが最後、動けない。
くそっ、もっと回避スキルや脱出スキル、鍛えないと。
頼んでいない訓練と野宿を二回挟んで、俺たちはフルーレの森に入った。
他の森とは明らかに様相が違う。木々が一回り大きい。
「さて、ここからは気合いを入れた方が良さそうだな」
レーネが言う。
「えっ? まさか敵が強いのか?」
「さてな。だが、私の勘が正しければ、そこそこの魔物は出てきそうだぞ」
いやーん…。
「大丈夫や。一番強い魔物でノーマルのトロールやし。ブラッディスネークが猛毒持ちやけど、毒さえ気を付ければ大したことあらへん」
ミネアが言うが、トロール、強そうです。この世界のトロールがどの程度か詳しいことは知らないが、直撃で殴られたら多分俺は死にそうな予感。猛毒もアサシンとの闘いでリムが食らったが、あれも危険だ。
「ミネアはここに来たことが?」
ティーナが聞く。
「ああ、ううん、たまたま、知り合いがここを通ったことがあって、その話を聞いただけや。でも、情報に間違いは無いと思う」
「そう。猛毒って、普通の毒消しで大丈夫なの?」
「あかんな。紫の毒消し草やと、数を食べれば、毒の回りを遅くすることはできるんやけど、間に合わへん。毒消し草に毒ヘビの血をほんの少しと、サルビア草と回復ポーションを混ぜると猛毒消しになるから」
ミネアが説明してくれたが、むむ、四種もの素材の組み合わせが必要なのか…。これはもう初級の組み合わせじゃ無いな。まだ俺は基本的に二種類の掛け合わせしか調合のテストをやっていなかった。くそ、甘かった…。
それに毒ヘビの血も盲点だった。ゲームではよく毒モンスターを倒すと、毒消しアイテムが手に入るが、リアル世界で毒消しに毒を調合するなんて発想、普通は出てこないだろう。…いや、抗血清もあるし、それを見つけた北里柴三郎先生は本当に凄いな。
ゲームのお約束と抗血清、両方とも意識すらしてなかった俺って…しくしく。
「えっ、毒消しポーションを作るのに、毒ヘビを使うんだ…」
ティーナも知らなかったようで驚く。
「サルビア草ってどんなのですか?」
重要なので教えてもらおうと思い、質問する。
「うん、紫の花で…この辺にも生えてると思うけど、ああ、これこれ」
ミネアが草むらの花を一本、引き抜いて俺に見せてくれた。小さめの花だが、外側が白色に近い薄紫で、花の形は複雑。縦長の猫じゃらしのような形だ。
周囲にたくさん生えていたので、さっそく、葉っぱを集める。リムが花を食べたが、香りはいいけど、そんなに美味しくないと言っていた。俺も食べたが、うん、ちょっと苦いね。
「あ、もし調合をやるんやったら、毒ヘビの血もうちが持っとるけど」
「あ、是非」
移動を中止して、毒ヘビの血を分けてもらい、その場で乳鉢でごりごりすり潰して、紫の毒消し草も混ぜる。
「ん、この量なら、このくらいや」
ミネアに指導してもらい、紫蘇20枚に対してサルビア草の花と葉を5枚と、毒ヘビの血を一滴。当然、毒ヘビの血は入れすぎると毒になってしまうので、分量には注意が必要だ。間違えることは無いだろうけどね。
できあがった草のペーストを清潔な布で包んで絞り、ポーションに追加で1:1になるよう注いでいく。余るポーションは別の空瓶に移し替えた。
「うん、さすが薬師さん、手慣れてるなあ」
ミネアが褒めてくれたが、お世辞だろう。俺より詳しいんだし。
「いえいえ。見様見真似ですし、ミネアさんほどでは。ミネアさんも調合の勉強を?」
「う、うん、まあ、ほんのちょっとやけどね、教えてもろうた」
レーネと違って謙虚な人らしく、謙遜して言うミネア。
「そうですか。是非、師匠と呼ばせて下さい」
タダで教えてくれたしね。
「ええ? うちは薬師の知識なんてほとんどないし、それに、そんな畏まられても、うちは全然、貴族なんかとちゃうよ?」
他にも色々教えてくれるよう、頼んだが、レーネから横槍が入った。
「そんなの、野宿してるときでいいだろう。先を急ぐぞ」
他のメンツも退屈そうなのが何人かいたので、仕方ない。道すがら、教えてもらうことにする。
ラヴェンナ草という混乱状態を治す花を教えてもらったが、この辺りには生えておらず、ポーションの匂いだけ、嗅がせてもらった。花の良い香りがして落ち着いた気分になれた。これも紫色で、特徴は五枚の花びらという。
パープルクローバー。四つ葉だと上級品になるそうだ。アンモニア(素材は察しろ)+サロン草+毒消し草+パープルクローバーで虫刺されの猛毒に使用。
毒消し系は全部、紫なんかな?
アサシンの使う毒は他にもキノコ系、海生物系、鉱物系もあるので、見極めが非常に難しいそうだ。
下手すると毒消しを何種類も用意し、総当たりで使わされる羽目になるので、厄介だね。
ゲームなら毒消しで一発だったり、万能薬さえ有ればというところだが、この世界の万能薬は存在しているが非常に高価な貴重品で一般市場にはまず出回らないとのこと。
ただ、アサシンの使う毒物は、基本的にその近くで手に入りやすい物が多いという。
理由は、毒物も食品のように劣化するので、新鮮な物ほど強力な毒になるという。そう言えば、地球の薬品類も使用期限なんてものがあったし、日光や空気に触れていれば化学反応で分解されたりもするだろう。
「でも鉱物系だと、劣化しない毒もあるよね?」
聞いてみる。普通に喋って欲しいと師匠に頼まれたので、タメ口で行く。
「うん、あるな。でも、臭銀なんかだと即効性の猛毒にならんし、鉱物系は溶けにくいから調合が難しかったりするんよ。キノコ系も、料理に入れて使う感じやから、襲撃で気を付けるのは虫系とヘビ系や。特にヘビは強力やから、すぐに治療せんと手遅れになる」
なるほど。それなら今のところは、ヘビ系と虫系の毒物に注意すれば良いか。リムが食らったのも、ヘビ系だそうだ。ヘビ毒消しポーションはさっき十個作ったので、当分は問題ないだろう。ポーション系の賞味期限は密閉して日光に当てなければ一年は持つそうだ。買うときに色が濁っていたり、薄かったら注意。
「臭銀というのは、やっぱり臭う?」
「うん、ニンニクの臭いがするんよ。あ、臭銀の毒は、ニンニクで消えるから」
なんともまあ安直というか。でも、良いこと聞いちゃった。俺の道具屋開店計画もぐっと進んだ感じだね。
冒険者ギルドに薬草集めのクエストを出して、店員は奴隷にやらせて、オーナーの俺はのんびり寝て暮らす。たまに調合で。
もし、元世界に帰れないなら、これで。
バリバリレベルを上げて勇者になって最後に平和に暮らすのが王道かもしれないが、魔王がいないこの世界なら、最初から平和に暮らす方がいいじゃないか。
命を落としたら、それまでだし。
………何で俺今、冒険者みたいに冒険してるかなあ。くそっ。
とは言え、道具屋店舗を借りるお金くらいは稼がないとな。
「あ、そうだエリカ、毒消しや薬草で何か知ってることは無いか?」
他のメンバーにも聞いてみようと思い、声を掛けたが。
「フン」
いつにも増して不機嫌そうなエリカは、そっぽを向いて無視してきた。
ううん、レーネやミネアが話しかけても無視してるし、まあ、コイツの人見知りが激しいのは分かってたんだが…。




