第十四話 体験、ミスリル装備が出来るまで
2016/9/28 若干修正。
俺たちのパーティーがオーガを退治したおかげで、ミスリル鉱山のモンスターはすべて消え去り、発掘が再開された。
鉱山に立ち入るのは特に制限は無いそうだ。
他国が間者を送り込んで掘り尽くしたらどうなるのかね?
そんなに戦略的価値は無いものなんだろうか?
が、その答えはすぐに分かった。
ミミがミスリル鉱山発掘体験ツアーを俺たちのために企画してくれて、それに付いて行ったのだが。
「硬い…」
掘るにはこれがちょうど良いと、鋼のツルハシを借りているのだが、全然、岩を掘れません。
ハンマーは俺には持ち上げることも出来ないし。
あのオーガ、ここの岩を素手で砕いてたけど、よっぽど凄い力だったみたいだ。
レベルも三つも上がったし。
「フン、こんな野蛮な仕事」
エリカは早々に諦めてツルハシを放り出している。
「ううん、ちょっとくらいは…せいっ!」
頑張るティーナは、ひとかけらほど、砕いているが、掘ったという感じでも無い。
「ニャー、手が痺れるニャ」
うちのパーティーでは一番掘っているリムだが、それでも小石ほど。
「ハッハッハッ、腰が入ってねえよ、腰が。こうやるんだ、こう」
隣でプロの鉱山夫であるドワーフがツルハシを振るうが、一振りでボコッとサッカーボール程度の岩が掘り出される。
力も必要なんだろうが、多分、熟練度が関係するのだろう。
素人には無理っス。
「おじさん、凄ーい」
感心しているミミだが、ミミも拳大の鉱石は掘り出している。ちびっ子だがやはりドワーフ、力持ちだ。
「どれ、この塊がいいだろう。持ってけ」
鉱山夫が大きめの塊をくれた。見た目よりは軽い岩。
「いいんですか?」
「そりゃ、精錬やるんなら、中身がちゃんと入ってないとな。そこのかけらにはミスリルは入ってないぞ」
「がーん」
頑張って掘っていたリムとティーナが心を折られたようで、ツルハシを置いて地面に突っ伏す。
「うーん、何が違うんだろう?」
かけらと塊を見比べる。
どっちも黒い。
「そいつぁ、勘だな。たまに元から光ってる鉱石もあるが、精錬してみるまでははっきりせんわい」
とほほ。スキルシステムがあっても、鍛えようが無いじゃん。
いや待て。
ミスリルは魔法と相性が良い。ならば、探知の呪文で探せるじゃないか。
「我が呼びかけに応じよ、探し物はいずこや、ディテクト!」
だが、濃淡のある青い点がずらずらっと。もっとポイントを絞って表示してくれないと、どこも同じに見える。
「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
エリカが電撃の呪文を壁に向かって唱えたが、すぐに雲散した。首を横に振って渋い顔。
「ダメね」
「地道に掘るのが一番だぞ。ほれ、こいつも持ってけ」
別の通りかかったドワーフがまた塊をくれた。
「ありがとうございます」
「なあに、モンスターを退治してくれた礼だからな。おい、お前ら、例の人族の冒険者がミスリルを欲しがってるぞ!」
「よし、そう言うことなら、これも持って行け」
「どれ、手押し車も貸してやろう」
親切なドワーフ達が、色々やってくれ、あっという間に手押し車三台分の鉱石が集まってしまった。
今までの俺たちの苦労はいったい…。
「じゃ、これだけあれば、おっとうがすぐに剣でも鎧でも作ってくれるよ!」
「そうね。斧と盾と胸当てくらいでいいんだけど、持って行きましょうか」
手押し車を押して、鉱山を出る。
「おっとうの工房はこっちだよ」
ミミに案内され、そちらに向かう。
「おお、たくさん持ってきたな! じゃ、さっそくやるか」
鍛冶屋のダルクが工房の中に鉱石を運び込む。
「見学しても良いですか?」
俺は精錬や武器作りの工程に興味を覚えて、そう聞いてみる。
「おう、好きにしな。暑いし、見てて楽しいもんじゃないと思うがよ」
「私達は、これ、返してくるわね」
ティーナとリムとミミが空になった手押し車を持って行く。
「ああ」
「まずは、このまんまじゃ溶けにくいから、砕いて小さくするんだ」
ダルクと弟子が、打ち出の小槌のようなハンマーでガツガツと岩を砕いていく。そのうちのいくつかのかけらは脇の手押し車に入れて別にしているが、要らないクズ岩だろう。
「よし、このくらいで良いだろう。次に、溶鉱炉にぶちこむんだ。石炭と石灰を混ぜる」
黒い石炭と、白い灰を一緒に入れるダルク。
一方で弟子がせっせと炉の下に薪を放り込んでいる。別の弟子がふいごを踏んで、空気を送り込んでいるが、凄い火力だ。近くにいるだけで熱い。炎の色も普通の赤では無く、白に近い。
「ミスリルは鉄よりも溶けにくいからな。薪も石炭も特別製じゃないとダメだ」
「ああ。大変ですね」
「おうよ。じゃ、溶けるまで時間が掛かる。おい、茶を用意しろ」
ダルクが、弟子らしいドワーフに向かって言う。
「ああ、いえ、結構です。それより石炭と石灰、見せてもらえませんか」
「そりゃ構わねえが、なんだ、鍛冶職人にでもなりたいのか?」
「んー、いえ、錬金術師になりたいので、勉強をと思いまして」
「ほほう、錬金術師か。いいだろう。じゃ、色々、見せてやろう」
エリカも暇なのか、俺と一緒に、素材や道具を色々と見せてもらった。
「おっとう、溶鉱炉が良い感じになってるよ」
ミミがやってきた。
「おう、今行く。じゃ、戻るぞ」
「はい」
ティーナとリムの姿は見えないので、別のところへ行ったのだろう。リサは鉱山には興味ないと言って最初から来ていない。
「よし、型に流すぞ」
溶鉱炉の右端のバルブを鉄棒でひねって開け、くぼみのある粘土の型に流し込んでいく。
「こいつがミスリルだ」
どろどろのピンク色の液体。冷えると三十センチくらいの延べ棒になるのだろう。
「あの溶鉱炉は何で出来てるのかしら?」
エリカが疑問に思ったが、確かに、ミスリルや鉄も溶ける温度で溶けない炉の金属は気になる。
「この炉は何の金属ですか?」
「それか。それは鉄の炉に耐熱の魔法が掛けてあるんだ」
「おお。ダルクさんの魔法ではないんですよね?」
「そりゃそうだ。俺は魔法なんて使えねえからな。俺の親方が引退するときにこの工房ごと譲り受けたんだが、普通に買えば金貨十枚はするだろうよ」
貴重品だ。どうやって持ち運ぼうかと思ったが、凄く重そうだし、しっかり固定してあるので、ちょっと難しそうだ。
「よし、九つも取れたぞ」
延べ棒が九本。手押し車三台分の鉱石だったのだが、こんなものか。
「じゃ、まずは大物から、あの嬢ちゃんの胸当てから作るぞ」
まだ赤く光っているインゴットを台の上にひっくり返し、粘土の型を金槌で砕いて取り除くダルク。
次に弟子が自分の背丈くらいある大きな金槌を持ってきて、ダルクと交互に叩き始める。
ここから先は時間が掛かりそうだ。
「じゃ、帰ろう」
「そうね」
ダルクに手を挙げて挨拶し、宿屋に戻った。
「ああ、二人とも、お帰り。どうだった?」
ティーナが聞いてくる。
「この上なく退屈だったわ」
とエリカ。
「大変そうだから、鍛冶屋は諦めた」
俺も言う。
「そう。まあ、鍛冶屋は弟子入りして何年も修行積まないといけないはずだし」
「そっちは熟練度でなんとかなりそうなんだけど、作業自体がね」
「じゃ、仕方ないわね」
「ああ」
「装備を作ってもらったら、次はどうしようか?」
夕食の時、その話題が出たので俺の希望を言ってみる。
「南のフルーレの森に、鋼の賢者と呼ばれる魔導師がいるらしい。ちょっと会っておきたいんだが」
「うん、いいよ」
反対意見も出ず、予定が立った。
一週間後、ミスリルの装備を受け取った俺たちは、ラジールの街を後にした。
「じゃーねー。また来てねー」
ミミが最後まで手をブンブン振っていたが、俺たちと別れるのが名残惜しかったのだろう。
「ミミちゃん、可愛かったなあ。腕輪まで作ってくれたし」
ティーナが言う。きちんと装飾の入った立派な物を自分で作ったというので驚いたが。
「そうね」
リサも同意。盗賊は装備品の光り物は避けると言うことで、最初は要らないと言っていたのだが、俺がメモランダムの呪文で漆黒の刃と腕輪に変更できた。意外なところで役に立つ呪文だ。
他に、リムの手斧と小盾、ティーナの小手とすね当て、胸当てを作ってもらった。
魔法使いは鎧を装備すると呪文が使えなかったり呪文が弱ると言うので断念。実際、ミスリルの鎧を着て実験してみたが、魔力の流れが上手く行かず、呪文が撃てなかった。
そこはファンタジーRPGのお約束だと思って諦める。
この左の腕輪だけあれば、いいもん。
これで相手の剣や牙をどこまで防げるかは疑問だが。
ダルクはロッドも作ってやると言って、すでに作っていたが、魔法を使ってみるとやはりこれも勝手が違って使いにくかったので、遠慮しておいた。やはり魔法使いは樫の杖に限る。
ミミは俺があんまりミスリルの装備を使わないので不満そうだったが、付けられない物は仕方ないしね。
腕輪で勘弁してもらった。




