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異世界の闇軍師  作者: まさな
第五章 騎士

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第十二話 鬼

2017/8/1 若干修正。

炭鉱町ラジールの鉱山に現れたオーガは、すでに三つのパーティーを返り討ちにして敗走せしめていた。


 今日はオーガを倒すと約束してしまった日である。

 

「ユーイチ、そろそろ出かけるわよ」


「お腹痛い」


 助っ人も結局、一人も集まらなかったし。オーガに恐れを成したか、他のパーティーに加わるより自分たちで倒した方がお得と思ったか。


「ええ?」


「仮病でしょ。来ないなら、パーティーから追い出すわよ」

 

 リサが言う。


「いいよ?」


 即答。凄く居心地の良いパーティーではあるが、命には代えられない。


「もう…。じゃ、成功したら…そうね、私の胸…、見せてあげるから」


 ティーナが少し恥ずかしそうなそぶりをしつつ言う。


「なにっ!?」


 がばっとシーツをめくって飛び起きる。


「ええ? いいの?」


 リサがティーナに確認。


「ええ、まあ、それくらいのニンジンは有ってもいいんじゃないかしら」


「いいけど、あんまり甘やかすと、ま、見せたいならご自由に」


「い、いや、リサ、誤解はしないでね? 私、別に見せたいってわけじゃないんだから」


「はいはい」


「むぅ。じゃ、行きましょう」


「おう!」


 素早く準備を整え、キリッとした顔で先頭を歩く俺。


「ホント、男ってろくでもないわね」


 後ろでリサが言う。


「ニャ、胸なんて見てもお腹はふくれニャいニャ」


 リムが言う。


「不潔…フン!」


 エリカも言う。  


「ニー…」


 クロもなんだか残念そうだ。


「あはは…」


 ティーナが苦笑するが、むう、いや、パーティーの好感度が下がりまくろうとも、ティーナの胸である。

 おっぱいだ。

 俺は貧乳好きなのだが、かなりグラマーなティーナのおっぱいは例外だ。

 非常に興味がある。


 も、もちろん、学術的好奇心であって…いや、認めよう。ただのスケベです。くっ!


 だって、ティーナのだよ? 普通に美少女だし。良いところのお嬢様だし。


 しかし、取り繕っておかないと、ティーナにも見捨てられそうだ。


「勘違いしないでくれ給え、諸君。僕はこの街の人々が困っているのを見過ごせないだけだよ。本当にそれだけなんだ」


 爽やかイケメン風に。胸を痛めてるんだよと。


「じゃ、ティーナの約束は要らないわけね?」

 

「……申し訳ございませんでしたっ! 私、弱い人間でありますっ!」


「うわあ…」

「ニャー…」

「ニー…」


「だったら、余計な事を言わずに普通にしてなさいよ。見苦しい」


「はい…」


 最後尾に回り、小さくなっておく。


「ああ、お前らか、通って良いぞ」


 門番をしているドワーフが通してくれ、鉱山に入る。


「じゃ、目的はボスだから、最短距離で、戦闘も避けていきましょう。ユーイチ、ライトとステータス以外の呪文は唱えなくて良いわ」


 リサが言うが。


「ええ? マッパーくらい、唱えさせてくれよ」


「要らないでしょ」


「熟練度、鍛えたいんだがなあ」


「あれって2ポイントよね? それくらいなら良いんじゃないかしら?」


 さすが、ティーナ、優しい。


「その2ポイントが生死を分けるかも知れないわよ?」


 仕方ない。ここは我慢しておこう。リサの言い分が正しい。


「分かったよ」


 探知の呪文も使用せず、斥候役のリサとリムの鼻に頼り、敵を回避して行く。

 回避不能なルートにいるレッドリザードはフラッシュの呪文で目潰しして、脇を全員で駆け抜けた。

 俺がしっぽで転ばされて、ダメージを受けたが、薬草で回復して問題ない。


「やっぱり、ノイズの呪文も使うべきだったなぁ」


「使わなくて正解よ。薬草は死ぬほど持ってるでしょ」


「まあね」


 回復アイテムは使わないのが俺のゲーマー時代のスタイルなんだが、まあ、今は魔力の方が大事だし、ここもちょっとスタイルは変えていくべきだろう。

 美学なんぞにこだわって、命を落としたら、元も子もない。


「この先、広くなってる大部屋、そこにいるはずよ」


 リサが言い、全員が気を引き締めて頷く。


「じゃ、バリア、使うからな?」


「ええ」


 全員に防御力アップと回避率アップのポーションを配り、バリア、命中UPのコンセントレーターも使って、能力値を強化しておく。

 攻撃力アップの支援魔法や薬も欲しいところだが、まだ開発中だ。


「行きましょう」


 準備を終えたことを確認し、リーダーのティーナが声を掛けて、全員で奥へ向かう。


「いた」


 オーガだ。

 大きい。身長は二メートルを超えている。身長だけで無く、隆起した筋肉や骨の太さで横幅もかなりある。

 灰色の肌は、明らかに魔物であることを示していた。瞳も白目の無い黄色で、知性は全く感じられない。


 コイツ、相当強いんじゃないのか。


 心配しつつ、まずは作戦通り、ステータスをオーガに向かって無詠唱で掛ける。


 失敗。レジストされてしまった。体力バカに見えるのに、魔法は効きにくいのだろうか? ま、レベルは明らかに俺たちより上だから仕方ない。


 次だ。

 

「閃光よ来たれ! フラッシュ!」


 成功率を上げるため、魔法文字(ルーン)を詠唱する。ステータスもそうしたかったところだが、スピードも大事だ。


「グオッ!?」


 やった! 

 オーガは目をギュッとつむり、嫌がるように右手を前に出した。武器は持っていないが、尖った白い爪はそれだけで脅威だ。


「よしっ! 行けるわね」


 リサが戦闘続行の判断を出し、ティーナとリムがオーガの左右に回る。


 俺の方は続けざまに騒音(ノイズ)臭気(スメル)の呪文を無詠唱で使い、こちらも難なく成功した。

 やはり、レベルが高いのでステータス鑑定は失敗したが、それ以外の呪文の成功率は高めのようだ。


 行けるかも。


「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」


 エリカが電撃の呪文を浴びせ、うん、ちょっと震えたオーガは、ダメージが普通に入ったようだ。

 クロも作戦通り、ファイアボールの呪文を唱え、これも効果有り。

 属性の違う攻撃呪文をいくつか使い、弱点があればそれを重点的に攻めようと、魔法チームで話し合っている。


「はーあああっ! せいっ!」


 ティーナがオーガの背後から、足を狙った突きを放つ。


「ガアッ!」


 普通に剣が突き刺さり、オーガが痛みの反応を見せた。


「そんなに硬くないわ」


 防御力は普通か。なら、歯が立たないってことは無さそうだ。


「ニャハハ、どっちを見てるニャ。こっちニャ!」


 今度はリムが反対側から斧を振り下ろす。これも綺麗に足に入った。

 リサもボウガンを放ち、足を攻撃。なるほど、前衛チームはまず足を動けなくさせる作戦か。良い作戦だ。


 地風火水に雷氷と、持っているすべての属性を使ったが、効きはどれも同じ感じで、オーガには特に弱点は存在しないようだ。電撃ならスタンの効果が一定確率で付随するので、これに絞るとしよう。


「ライトニングで足をやるぞ」


「ええ」

「ニー」


 集中して足を全員で狙う。


「グオオッ!」


 オーガは相手の位置が分からず、左右を見回してはフックを繰り出して空振り、あとは攻撃のあった方向へやり返す攻撃を繰り返している。

 今のところ、全てミスだ。

 よし、バカだ、コイツ。


 ブオンッと、フックパンチには迫力が感じられるので、当たったらタダじゃ済まないと思うが、このまま行けばノーダメで倒せるかも知れない。


 張り詰めていた緊張が少し緩み、俺は落ち着いて電撃を詠唱することにした。


「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」


「それっ! もう一丁ニャ!」


「リム、あまり同じところから攻撃してると、あっ!」


「ぎゃんっ!」


 ティーナが注意しようとしたが、リムが反撃を食らってしまった。躱しかけたのでモロには入っていないが、吹っ飛んで転がるリム。強烈な一撃だ。


「もう。ユーイチはそのままで良いわ。私が回復させる」


 リサがそう言ってリムに駆け寄り、迷うこと無くハイポーションを使う。HPは52ほど減ったが、リムの防御力と躱しかけでそれなので、まともに食らったら、俺も即死かも。怖。


「ウニャ~、油断したニャ」


「無理に攻撃しなくて良いから、回避優先でね」


「分かったニャ」


 戦線に復帰したリムは、痛かったろうに根性有るなあ。俺だったら、絶対腰が引けてるね。


「予想はしてたけど、しぶといわね…」


 何度目かの攻撃の後、リサが言う。大雑把な計算だが、俺たちのパーティーはオーガに対して、一ターンで140近いダメージを与えていると思う。それがすでに12ターン目。

 ボスだからそんなに違和感はないのだが、雑魚モンスターとは比べものにならない体力だ。


 MPもすでに半分を切っている。


 MPを回復させる薬草、まだ見つけてないんだよなあ。リサによると、マジックポーションは貴重だが存在しているそうで、それなら、どこかに原材料の薬草が生えているはずだ。


「MP切れになったら、撤退しような」


 早めに言っておく。


「はあ? 冗談じゃ無いわ。武器攻撃でもやれるんだから、最後までやるわよ。ユーイチは目潰し系の魔力は残しておきなさい」


 リサが却下してきた。


「ユーイチ、心配しなくても、やれると思うよ」


 ティーナも、撤退は考えていない様子。

 ま、今のところ、こちらが圧倒的に有利だし、このままで行くなら、それでもいいか。


 15ターン目、ティーナが後ろから横払いの一撃を浴びせると、オーガがバランスを崩して転んだ。


「よしっ!」


「今ニャ!」


 リムがジャンプして斧を振り下ろし、追撃。


「グオオオオオオッ!」


 鉱山に響き渡るほどの咆哮を上げるオーガは、怒りが頂点に達したようで、暴れるように起き上がった。むっ? 突進の構え?


「来るッ!」


 リサが声を上げて注意を全員に促す。

 間を置かず、オーガが突進をかけて、壁に派手に激突する。うお。岩が砕けた…。

 

 誰も巻き込まれなかったから良いようなものの、あれに挟まれたら、前衛でも危ない。


「みんな気を付けて。回避優先。もう少しよ」


 ティーナが方針を再確認する。

 魔法で片を付けたいところだが、MPも残り少ない。

 目潰しの呪文の効果が切れたら危ないので、俺は目潰しセットの呪文分、12ポイントは温存しておかねばならない。

 となると、うえ、あと一回しか電撃使えないや。


「リサ、俺が回復役に回る。攻撃に専念してくれ」


「いいけど、間に合わないようなら私がやるわ」


「ああ」


「突撃の後に隙が出来るわ。そこを狙って」


 ティーナが言う。


「分かったニャ!」


 再びオーガが突進を掛けて、壁に激突する。凄いな。どう見ても自分も大ダメージだと思うんだが。


「せいっ!」

「えいニャ!」


 左右からティーナとリムが攻撃を掛ける。


「グオオオオ!」


 嫌がったオーガは、牽制程度に両腕を振るうと、突進の構えを取った。


 うお、こっちだ。


「ユーイチ、逃げて!」


 ティーナに言われるまでも無い。横に逃げる。

 問題なくやり過ごした。


「あれ?」


「むむ、まずいわね…」


 オーガがそのまま突進し続け、この大部屋から廊下に出てしまった。


「追うわよ!」


 リサがそう言って追いかけるが、マジですか…。

 放って置いても、街に出ちゃうことは無いと思う。この鉱山、迷路みたいな感じになってるし。


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