第八話 メタリックなスライム
2016/9/28 若干修正。
炭鉱町ラジールの鉱山に現れ始めたモンスターを退治すべく、俺たちは順調に事を進めていた。
「丸まった! 来るよ!」
剣を構えたティーナが俺たちに注意を促す。
オオハリネズミが体を丸め、トゲトゲボールとなって体当たりしてくる。
これが結構、素早い。体も小さめなため、前衛二人だけではブロックしきれない。
あっ、いやっ、こっちに来ないでっ!
「いった!」
チクチクと言うより、ザクザクという感じで、刺さってくる。
「よし、止まった!」
動きを止めてしまえば、剣でも魔法でも、あっさり倒せるのだが。
「くそう…」
薬草を食べてHPを回復させる。
「大丈夫?」
ティーナが心配そうに聞いてくれる。
「平気でしょ。HPは満タンになってるし、HPも20くらいしか減らないんだから」
リサが言うが、いくら死なないしすぐ回復できると言っても、痛いのは嫌だ。
「数で囲まれたら死ぬ恐れがあるんだ。もっと命を大事に」
「あーはいはい、囲まれればね。囲まれてもユーイチなら薬草食いまくって耐えられそうだけど」
リサが言うが、そんな状況にはしたくない。
だが、ティーナも頷いてこちらを見て言う。
「ええ。あと、言おう言おうと思ってたんだけど…攻撃される前に攻撃して敵を倒す方がダメージ少ないと思う。ユーイチってすぐ様子見するじゃない?」
「そうね。アレは止めた方が良いわ」
「むう。お前らは危機感が足りない」
「ユーイチって、いっつもそれニャ」
「そうねえ」
リムが肩をすくめ、ティーナも呆れたように相づちを打つし。
「割とうざい」
エリカが前を見たまま言うし。
くっそ、くっそ。
「ニー」
「うん、お前だけが俺の味方だな。クロ。よしよし良い子良い子」
「ええと、じゃ、この分かれ道は左ね」
すると、キラッと。
「ん? 光った。何だろう?」
「モンスターよ!」
身構えて周囲を確認するが、敵は正面の一体だけのようだ。
銀色に光る、スライム。
「なっ!」
あ、あれは…!
「ん? 見ないヤツね」
「ここは慎重に行こっか」
「なんか凄く気持ち悪いニャ。全然美味しそうに見えないニャ」
「ミスリルでも食べたのかしら? 私の電撃が効きそうに無い…」
「何をしてるんだ、お前ら、囲むぞ!」
俺は猛然とダッシュしてスライムの横を駆け抜け、背後を取る。よしっ!
「「「 え? 」」」
ああもう。何をポカンとしてるんだ!
んもー、とにかく、俺だけでも攻撃せねば。
「岩よ落ちよ、大地の精霊の怒りと知れ、ロックフォール!」
コイツには一切の呪文が効かないはずだが、ロックフォールの呪文は、岩を出現させてその重みで攻撃する物理攻撃に近い呪文だ。ちょうど鉱山と言うこともあって、本物の岩もそこかしこに転がっているのでそれを利用。
ギャンッと、金属とぶつかる音がして岩は弾かれたが、プルプルと震えたスライムの動きからして、ダメージは入ったと見た。
よし!
「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
エリカが電撃の呪文を使った。青白い光がスライムを包み込もうとしたが、弾かれた。
「くっ、やっぱり!」
「こいつはファイアや電撃は効かないぞ。いいからさっさと攻撃するんだ!」
「ええ? ユーイチ、あなたコイツと戦ったことがあるの?」
ティーナが聞いてくる。
「無い! 無いが、俺の知ってるヤツなら、大ボーナスだ。絶対に逃がすんじゃないぞ!」
「ううん、スライムの素材なんて聞いたこと無いけど、良いわ。そこまで言うなら、せいっ! くっ、硬い…」
キンッと音を立てて、ティーナのレイピアが弾かれた。ミスリルの武器を物ともしないとは、こいつぁ、当たりの気がするぜ!
「ちょっと、剣も魔法もろくに効かないなんて、なんなの、コイツ」
見た目は水銀のような、流体。だが、武器でつつくと硬く弾く。不思議な物体だ。
そいつはプルプルと震えながら、逃げ場を探すように流れ始める。
動きは普通のスライムより明らかに速い。
「とにかく、逃がしたら終わりだ。囲め!」
「分かったわ」
「面白そうニャ」
ようやくみんながスライムを中心に円陣を組み、囲んだ。だが、これで安心では無い。
素早く攻撃。
俺は氷系の呪文も試してみた。凍らせることが出来れば、足を封じたも同じだからだ。
だが、中級のアイスアローをもってしても、凍り付く感じは全くない。
「せーの! ニ゛ャッ! 鉄みたいに硬いニャー。手が痺れた…」
「頑張ってくれ、リム。お前の武器がこの中では一番有利なんだ。会心の一撃、クリティカルを出してくれ」
「そう言われても、そんなの簡単に出ないニャー。やってはみるけど! あ」
出た。体重を乗せて振りかぶっての一撃は、スライムの体に深々と食い込んだ。ブルルッと震えたスライムが銀色の煙を出して消えていく。
「よっしゃぁあああ!」
全力のガッツポーズ。
「リム~愛してるぅ~」
今まで馬鹿にしていたが、頼りになるネコミミだった。抱きしめて、全力で頭をナデナデ。耳もナデナデ。
「ニャニャ! ニャハッ、照れるニャ。くすぐったいニャ、やーめーるーニャー、ニャハハ」
ついでに愛の熱いヴェーゼを、んー――スコッ!
「おうっ!」
「どさくさに紛れて、何しようとしてるのかしら? ユーイチ」
いや、ティーナさん、鼻に、鼻に本当に刺さってますから!
「ずびばぜん…」
手を離す。
スッと抜いてくれたが、手早くヨモギ草を鼻に塗り、アロエ草を食べる。
マジでHPが7ポイント減ってたし。
傷が残らなきゃ良いけど。
「それで、なんなの、さっきの変なスライムは? 何も素材は落ちてないけど。魔石も普通ね」
リサがドロップを確認して俺に聞く。
「いや、お前ら、冒険者カードのレベルを確認してみてくれ」
そう言って、俺も、ステータスの呪文を改めて唱える。
「えっ? レベルが二つも上がってる?」
リサはレベル25だったはずだから、今27か。
「私も三つ上がってるわ。どういうこと?」
ティーナは22から25へ。
俺もレベルが四つも上がり、相当な経験値だ。普通のモンスターの千倍くらいありそう。
「奴は呪文は効かないし、体もやたら硬い。あと、今は逃げなかったが、普通は出会った瞬間に逃げ出すような、討伐困難なモンスターだ。だから経験値もべらぼうに高い」
「へえ。そんなのがいるなんて、私、知らなかった」
ティーナが狐につままれたような感じで言う。
「倒すと美味しいモンスターがいるとは聞いてたけど…ボス並みに上がるのね」
胡散臭いと言う顔でリサ。
「ニャ、美味しいモンスターがいるニャ?」
「味じゃなくて、良い素材を出したり、大きな魔石を落としたりするって意味だから」
リサがきちんと説明する。リムは本当に食べかねないし。マッシュマンなら食えるだろうけど、あれも倒した後で素材として残った物なのだろう。
「そんなに強い奴だったかしら…むー」
エリカも納得行かないという顔だ。
だが、実際にレベルは上がった。
ならば、やることは一つだ。
「と言うわけで、諸君。さっきのメタリックスライムを倒しまくるぞッ!」
メタ○スライムとは少し違っていたので、名前も別名にしておく。
「ええ、ミスリルスライムね」
ぬぬ、ティーナが訂正してくるが、いや、確かにミスリルなんだろうけど、いやしかし…。
「いいわ。ちょっとズルい気もするけど、レベルは高い方が良いし、上げておきましょう。ミスリルスライムね」
「ニャ、ミスリルスライム、倒すニャー!」
「フン、ミスリルスライムねえ?」
…メタリックスライムはお気に召さなかったみたいね。
まあいい、俺の中ではあれはメタリックスライムだ。
誰がなんと言おうとメタリックスライムだ。
さっきの上がり方だと、レベル40くらいまでは上げられるんじゃないだろうか。
んー、戦闘のレベル上げが楽しいと思ったのはこっちに来て初めてだ。
上げまくってやるぜー。
その日俺たちは、時刻呪文で日没午後六時まで、鉱山を歩きまくった。
ティーナとリサは下の階も行くべきだと主張したが、俺はこの階を探すべきだと主張して、俺のプランが採用された。
が、結局、あの一匹だけしか、見つからなかった…
探知も何度か唱えたが、無反応。
リムの鼻も期待したのだが、あのスライムは無臭だったという。
「うーん、いなかったわね」
「そうね。まあ、レベルは上がったんだし」
「そうニャ。そう落ち込むこと無いニャ、ユーイチ」
「くっ、なぜだ…絶対、他にもいるはずなのに」
それとも、突然変異の一種だったのだろうか。
スライムにミスリルを食わせてみたら、出来るのだろうか?
ちょっと、錬金術でやってみたくなるな。
まあいい、まだ初日だ。すぐにどこかに行かねばならない予定も無いのだから、ここで一ヶ月くらい粘っても良いんだし。
冒険者ギルドで素材を換金し、銀貨二枚と大銅貨四枚ちょいの儲けが出た。ま、はっきり言ってそんなお金はどうでも良かったり。はああ…。
失意の中、宿屋へ向かっていると、黒い革鎧を着た変な男達が石造りの家の前でたむろしているのが見えた。
「何かしら? あれ」
ティーナも気になった様子。
「関わらない方が良いと思うわ。金貸しよ」
リサが言うが、道理で柄が悪いと思った。鋲まで打った派手な革鎧だし。あれでモヒカンにさえすれば世紀末ファッションだ。
「ああ。あれが」
「おうおうおうおう! 借りた金を返せねえたあ、どういうことだ。それ、泥棒ってことだよな? あーん?」
チンピラ風の男が、ドワーフの母子二人にキスでもしかねない距離で顔を近づけながら言う。
「ですから、今は返せなくとも、もう少し待ってもらえれば、返しますから」
小柄な丸っこい母親ドワーフが、娘をかばうように抱きしめながら言う。
ふう、良かった。ドワーフの女性は、ヒゲが生えてなかった!
繰り返す! この世界の女ドワーフはヒゲが生えてない!
でも、娘さんはちょっとふくよかすぎるので、俺の守備範囲の外です。
「そーだよ、おっとうは泥棒なんかじゃないよ!」
娘も健気に言い返す。男達を恐れてはいないようだ。
「チッ、痛い目を見ねえと、分かんねえようだな?」
そう言って男がドワーフの娘の腕を取る。
「な、何をするんですか」
「ふん、金も返せない奴はな、こーしてやるんだよ!」
「まずいわ!」
ティーナが駆け出す。
んー、まあ、なんなら借金をティーナが肩代わりすれば、丸く収まるか?
多少の不安を覚えつつも、俺たちはティーナの後を追った。




