第十八話 豹変
2016/10/14 若干修正。
それにしてもセザンヌのドレスがスゲえ。
胸元から目が離せません。
アンジェリーナの胸元も迫力があった。
ティーナもあんなドレス、着たりするんだろうか。
うお、想像してしまった…。
「ユーイチ、ユーイチってば」
「な、何?」
ティーナが呼びかけているのに気づき、俺はぎくりとする。
「もう、上の空で、失礼しました」
何か、セザンヌが俺に質問していたようだ。まずったね。
「いいえ。きっとお疲れなのでしょう。ユーイチは少し部屋でお休みになって下さいな」
「いえ、もう私たちはお暇させて頂こうかと」
「まだいいじゃありませんか。もっと聞かせて下さい、ね?」
「はあ」
「こちらへ」
タキシード姿の執事が案内してくるので、ここは従っておく。
俺はティーナ達をそのままにして、広間を出た。
一応、迷わないようにマッパーも唱えておくか。
広間の近くの小部屋に通され、お茶も入れてもらった。立ちっぱなしだったので、ソファーはありがたい。
「では、ごゆっくり」
「どうも」
さて…むむ、ちょっとトイレに行きたくなってきた。
この辺がリアルなんだよな。無駄にリアル。
勇者が魔王のお城でまずトイレ探すって、無いわー。
「すみませーん…」
ドアを開けて呼んでみたが、執事は戻ってこない。弱ったね。
「仕方ない、自分で探すか…」
小部屋を出て、適当に歩く。警備兵がいたら、聞いてみよう。
…と思ったのだが、警備兵がいないんだよね。
んん? なんか、おかしくない?
こういうお城って、警備も厳重じゃない?
正門だけ、固めているんだろうか。
まあいい、とにかくトイレだ。やたら広いから、早めに見つけないとまずい気がしてきた。
「むう、広間に戻った方が良かったか?」
かなり歩いてから、そう気づいてしまった。
迂闊。
しかも、逆方向へ来ちゃったんだよね。まあ、外へ出ちゃえば、どうとでもなるんだけど。
そう思って、外へ向かったつもりだが、玄関へ出ていない。
なんか変だな。マッパーも、俺の歩いた場所は記憶されてるはずなんだけど、唱えたところからリセットされてる感じ。
「伯爵なんか、怖くないぞー」
と、向こうから声が聞こえたので、助かったと思い、そちらに行くと、廊下に座り込んだ赤ら顔の酔っ払い貴族がいた。むう。まあいい。
「あの、すみません、出口かトイレの場所、ご存じないですか?」
「あん? 向こうだ、向こう。ガーゴイルの像の隣だ」
「どうも!」
情報ゲット!
ダッシュ!
キイ、バタン!
「暗いなあ」
ライトの呪文を唱えた。
「って、おい。違うじゃねえか」
ガーゴイルの像がある近くのドアに入ったのだが、そこは物置らしく、棚に壺やら箱やら、いろんな物が雑に置いてある。
「い、いかん…限界だ…」
こうなったら、もうね、致してしまおう。
手頃な壺を棚から取り出し、床に置いて、いけないことをする。
「ふう」
やっちまったぜ。
だが、後悔は無い。
後は、この危険物を隠蔽すれば完璧だ。
「排水溝は、なさそうだなあ…」
持って行く?
ダメダメ、奴隷がお城の物を持ち歩いてたら、泥棒と間違えられてお終いだ。
ゆえに、奥の方へ、隠して、逃げよう。
うん、それしかない。
指紋は残るけど、この世界にそんな近代的な科学的な捜査なんてできっこないし。
できるだけ、被害が出ないよう、一番下の棚の一番奥へ押し込む。
一生、見つからないと良いな。
「んん? 何だ鏡?」
なぜか丸い鏡が隠すように奥へ置いてあった。手を伸ばしてそれを取る。
「んー、俺だな」
直径二十センチ程度の小さな鏡に映った顔は、俺のよく知る黒髪黒目の男子だ。
そこそこ美形じゃね? とは思うのだが、今まで女の子にモテたことは一度もありません…。
性格が悪いのかな?
ひとまず、髪の毛を手櫛で直し、ローブで鏡を拭いてみる。
鏡の周りの金属部分は、埃にまみれていたが、すぐに綺麗になった。
「これ、ミスリルかな…」
ほのかに光っているし、魔力も感じる。
なんだか、高価そうな物だが…。なんだってこんながらくた置き場みたいなところへ捨てるように置いてあったのだろう?
普通、こういうのは宝箱に入れないまでも、きちんとした部屋に置くと思うんだけどね。
「そうだな。セザンヌさんに、渡してみるか」
トイレを探していたら、こういう物を見つけまして…あらそう? ありがとう。別に大事な物というのではないけれど、良かったら褒美に差し上げてよ?
なんて。そうしたら、リサかエリカにプレゼントしてやるか。ティーナは自分の手鏡、持ってるみたいだし。
広間に戻った。
客が少ない。大半の客はもう帰ったようだ。
置いて帰られてたらやだなーと思ったら、ティーナを見つけた。まだセザンヌと話していたようだ。
「ティーナ」
「ああ、ユーイチ。そろそろ帰るのよね?」
「んっ? まあそうだろうけど、その前に、セザンヌ様、これが物置部屋に落ちて転がっていたので、たまたま見つけて拾って参りました」
泥棒と間違えられなきゃいいけど。まあ、この人はまともそうな人だから、大丈夫だろう。
なんと言っても俺の運命の人だし。
あっ! これ、もしかして凄いイベントフラグなんじゃね?
「まあ! それは探していた私の大切なお母様の形見なの、どこでこれを?」
なんてさ。
そう期待したのだが。
「あらそう。そんなものわざわざ拾ってこなくたっていいのに。むおっ!」
セザンヌは俺から鏡を受け取ろうとして、だが、触った瞬間に、彼女らしからぬおかしな声を上げた。
「「「えっ!」」」
その場の一同が、呆気にとられる。
そこにいた色白の美少女の姿はどこにも無く、紫色の肌をした醜悪な悪魔がそこに立っていた。
「ちい、せっかく隠した破魔の鏡を持ってくるとは、小賢しい。美しき人の子の娘の姿を借りん!」
悪魔がそうつぶやくと、元のセザンヌに一瞬で戻った。
おい…。
え?
そういうことだったの?
「どうかなさいましたか、皆様。少し酔っていらっしゃるのでは?」
などとセザンヌが言うが。
「いやいや、無いから」
ティーナが手と首を横に振って呆れ顔で言う。
「ニー、ニー、ニー、ニッ!」
クロが呪文を唱え、パキンと音がして、また悪魔の姿に戻る。
ナイス、クロ。
ひたすら解除の魔法を鍛えた甲斐が有ったな!
俺もすぐさま鏡を拾って回収。
次に無詠唱で、セザンヌを除いたその場の全員にマジックバリア、物理バリア、ステータスの魔法を順に掛ける。
「衛兵! 悪魔が侵入しているわ!」
その間にティーナが剣を抜いて叫ぶ。
「な、何だと!」
「きゃあ! 悪魔よ!」
貴族達が騒ぎ出す。
「こしゃくな…どうやって見抜いた?」
元セザンヌの女形悪魔が俺たちを睨む。
いや、あの、ほんの偶然です…。
と言うか、俺の一目惚れを返して! 返して!
くっそ、未来のお嫁さんかと思って、凄く期待してたのに、それはねーよ。
さすがに、悪魔でもオーケーなんて言えない俺。
「ふん、まあいいわ。衛兵は呼んでも来ないわよ。全員、食ってやったし。ほほほ」
わあ。
なんか、早くもラスボスの予感。
「せいっ!」
って! ティーナ、攻撃するんじゃ有りません!
逃げの一手でしょ、ここは。
レベル差を考えなさいっての。
案の定、ひらりと躱した悪魔は、うねうねとスペード型のしっぽをくねらせながら、醜く笑う。
胸は膨らんでるけど、全然そそらないわー。
「おっと、危ない危ない。鉄の剣も効かぬこの体だが、さすがにその聖銀の剣は危ないものね。くくっ」
「くっ。ユーイチ、命中率アップ、頂戴」
「むう。ダメだ、ティーナ。こんな奴、相手にしてたら命がいくつあっても足りないぞ」
「それでも、私たちが防がないと、他の人が逃げられないでしょ」
殊勝だなあ。
貴族達はパニックになって出口へ殺到しているが、HPはほとんど低い。20とか30とか。ただ、中にはHP400を超える人もいたんだが、お前は逃げるなと。一緒に戦えと。
「くくっ、そうか。逃げられないか。絶望よ、怨嗟よ、慟哭よ、悪夢を呼び起こさん! ナイトメア!」
「ちいっ!」
悪魔がそれを聞いて、出口に向かって闇属性の範囲呪文を唱えた。効果は容易に予想が付く。様々なバッドステータス、特に恐慌を巻き起こす悪夢を見せる呪文だろう。
何人かがバタバタと倒れ、他の半数は頭を抱えて絶叫、無傷で済んだ貴族も、自分たちが攻撃されて焦っている。
ティーナが舌打ちしながら、呪文を妨害すべく剣を出したが、これも躱されている。
「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
エリカが電撃の呪文を悪魔に当てた。
「貴様!」
悪魔が怒りの声を上げてエリカに飛びかかる。
「させないっ!」
ティーナがレイピアで突いて、悪魔を追い払った。
ふむ、ミスリルの剣を恐れるか。
こいつ、そこまで強くないんじゃね?
一応、ステータスを見てみるか。
無詠唱で悪魔にステータスの呪文を単独で掛けてみたが、これでもレジストされてしまった。
うん、俺よりはレベル上だね。
「人間の分際で、無詠唱とはな。だが、呪文はこう使う物だ」
悪魔が俺に右手をかざし、来る!
黒い光が来た瞬間、気合いでレジスト!
だが、それでもやはり、ダメージが入った。
「ぐっ」
体力を吸い取られるような感じ。
HPが22ほど減ったが、こりゃレジスト無しだと俺は瀕死、エリカは死ぬな。
「ユーイチ!」
「任せて!」
リサが俺に液体をふりかけ、そのまま前に立ってくれた。使ったのはポーションだろう。俺の体力が全快する。
「むむ、一撃で落ちぬか。ならば、これならどうだ!」
再び悪魔が右手をかざし、今度は拳大の火の玉を出した。
「せいっ!」
ティーナは彼女に向かってきた火の玉をレイピアで弾いた。
えっ! 何それ、凄い。
「弾くだと!」
悪魔も驚いた。
これは行けそうだな。
少なくともこの悪魔、ハイデーモンとかグレートデーモンじゃなさそう。
サキュバス、かなあ?
ともかく。
「汝ら、集中せよ! 届かぬを届くと知れ、コンセントレーター!」
命中率アップの支援魔法を味方全員に掛ける。
こんなことなら、回避率アップやら、全部、開発しておくんだった。
そう後悔しつつも、俺はリュックをいったん置き、防御力アップのポーションを取りだして、まずは自分が飲む。
「ニーニー、ニーニー、ニーニーニーニー! ニー! ニー!」
クロの電撃呪文が悪魔を捉える。
「猫ぉおおお!」
うわ、めっちゃ怒ってる。
「ニャ!」
飛びかかった悪魔に、横から思い切り斧を振り下ろしたリム。
「ぐっ!」
衝撃で弾き飛ばされた悪魔。
んー、まあ、傷は付いてないけど、今、かなりダメージが入っただろ?
顔が歪んでますよ、悪魔さん。
「いいか、回避優先、作戦は命を大事にだ!」
いつも口を酸っぱくして俺が言ってることだが、今回はさらにボス戦。これで間違いない。
「そんなの、さっさと片付けた方が良いに決まってるでしょ」
などと、言うことを聞いてくれないリサが、ボウガンを撃つ。
ガツッと、衝撃はあったようだが、全く刺さらないボウガン。
んー、これでリサはアタッカーからは外れるな。
「ちっ。普通の攻撃は効かないみたいね」
だが、呪文と、リムとティーナのダメージは入る。
あとは、敵の攻撃を凌げれば、おかしなスキルや呪文を使われない限りは安泰か。
そう、俺が計算したとき、悪魔が咆えた。
「この私を、舐めるなぁ!」
耳障りな声。だが、特殊効果などは無いようだ。
「むっ!?」
だが、素早い。
動いたと思った時にはすでに、リムの体が後方に吹っ飛んでいた。
「え?」
「リム!」
「う、うう、効いたニャ…」
マジか。




