第十七話 晩餐会
2016/10/2 誤字修正。
錬金術入門の書を手に入れたが、薬草関係については、すでに実験して知識を得ていた部分が多く、もうちょっと早く手に入っていればなあと思ってしまう。
それでも、俺の知らないやり方がいくつも書かれていたので、買ってくれたティーナに感謝だ。いずれ金は返すつもりだ。
そして、晩餐会。
ティーナ、リム、リサ、エリカ、クロ、それに俺で、パーティーメンバーは全員参加。
クロは普通にお留守番だろうと思っていたのだが、しきりについて来たがるので、諦めた。つまみ出されたら我慢してもらおう。
一応、飼い猫と分かるようにと、ティーナが自分の持っていた赤いリボンを首に巻き付けてやっている。
「うう、緊張するニャ…」
「俺もだ」
「私も…」
リムと俺とエリカは、城の中、見上げるような高い天井とその精緻な装飾に、完璧に飲まれていた。
だって、お城だよ?
中世ヨーロッパ風の巨大な城は門やら庭やら、とにかく広い。
さらに、燭台は金色、廊下にはレッドカーペットと、内装も豪華絢爛。
シャンデリアも現代で通用しそうなデザインの形で、どこかの観光地に来たのかと勘違いしそうになった。
これでも、王城に比べると狭いと言うのだから、俺は王城は遠慮しておきます。迷っちゃうし。
宝箱や重要人物を探して歩くなんて、とても無理。
雰囲気が違う。
招待客も思った以上に大勢で、色とりどりのドレスを着込んだご婦人方と、ガウンやチョッキを着たファッショナブルな紳士達が、あちらこちらでワイングラスやシャンパングラスを片手に談笑に興じている。
「大丈夫よ。私たちは正式に招待されているし、こういう場の冒険者って一目置かれるのが普通だもの」
ティーナが言うが、奴隷はどうなんでしょう。
しかし、左腕を隠すのは多分、余計にまずいと思われるので俺はそのままにしている。まあ、黒いローブでほとんど隠れちゃうんだけどね。
「それに、せっかく来たんだから、美味しい物、食べ放題よ?」
リサがそう言うが、何て言うか、落ち着いて食えそうに無い。
「じゃ、ほら、ここに突っ立ってても仕方ないし、奥へ行きましょう。あそこに、魚料理があるし」
ティーナが促す。
他の招待客の行動を観察したが、ここはビュッフェ形式のようだ。
縦長のテーブルに並んでいる料理を好き勝手に自分の皿に取って、立ってそのまま食えというヤツ。
「わ、わかったニャ」
猫まっしぐらとは行かないリムがきょろきょろ周りを見回しながらそちらに向かう。
俺とエリカもその後ろにぴったりと。
「ほう、冒険者か。そちらの白マントの剣士よ、お名前を伺ってもよろしいか?」
中年紳士が寄ってきた。
「ええ。私はティーナと申します、貴族様」
「そうか。是非、次は我が家のパーティーに来てもらいたい。息子の嫁を探しておってな」
「申し訳ございません、武者修行中の身体、明日はドラゴンと戦っているかもしれず、予定がなかなか立たないもので。機会があればお伺いさせて頂きます」
「うむ、ドラゴンか。貴殿の勝利を祈っておこう」
それで納得したか、中年紳士が別のレディに話を持って行く。
「凄いハッタリだな」
いくら何でもドラゴンは盛りすぎなんじゃないか。
「仕方ないでしょ。しつこくつきまとわれそうだったし。でも、なんで私ばっかり、話しかけられるんだろう?」
「さあ? 貴族らしさが出てるからじゃない?」
リサが言うが、それだけでも無いだろう。残りはエルフと獣人とロリで、一般受けはしない気が。
「むぅ。ほら、リム。こうやって、自分で取って食べるのよ」
「分かったニャ」
俺も小皿とフォークを取り、食べ始める。
旨っ!
「これ、美味しい!」
エルフの口にも合ったか、エリカが感激したように言う。
「ニャ! 凄く美味しいニャ!」
夢中になって食べる俺とリムとエリカ。
「じゃ、リサ、気を付けてね」
「任せて。そっちも、あまり目立たないでよ、ティーナ」
「ええ」
二人が料理も食べずにこの場から離れたので、ちょっと気になるが、いやしかし、この料理うめぇ。
「ユーイチ、この白身魚、イケるニャ。タレが堪らないニャ」
「おお。ふむ、これは、あんかけだな。できればフライで行きたいが」
甘くとろみのあるソースは、醤油ベースでは無いのだが、これはこれでイケる。
「あ、ホントだ。へえ、こんなソースがあるんだ。ジャム?」
三人で論評しつつ、食いまくる。
来て良かったわー。
「あ、ユーイチ」
移動して別のテーブルの料理もチャレンジしていると、ティーナがそこにいた。ご婦人方と今し方まで話していた様子。
「ティーナは食べないのか」
「ええ。それじゃ何しに来たか分からないもの」
「うん? ああ、情報収集か…」
「そ。まあ、そっちは私が受け持つから、あなたたちは食べてもらってて良いわよ」
「すまんのう。苦労をかけて」
「いや、別に苦労って程じゃ無いから」
それは言わない約束でしょ、おとっつぁんっと返して欲しかったが、ティーナが知るよしも無い。
「あらあら、これは誰かと思えば、ティーナではありませんの」
「げっ。アンジェ」
むむ、ティーナが変な声を出すほどの相手、しかも知り合いらしい。
宝石をちりばめた紫のゴージャスなドレスに身を包んだ巨乳の美人。
歳は俺たちより少し上か。
金髪をドリルのように巻いて、勝ち誇った笑みを浮かべているが、少女漫画などで主人公を虐める悪役お嬢様がピッタリな雰囲気だ。
なら、俺は黙っていた方が良いだろう。
「そぉんなみすぼらしい冒険者風情の格好に身をやつしていらっしゃるから、ええ、さっぱり気づきませんでしたわ。ごめん遊ばせ」
「むぅ、別に良いけど、アンジェ、いえ、アンジェリーナ様、私は一介の平民の冒険者、ティーナと申します。あなたのお知り合いとは別人ですので」
ティーナがそう言って、話を合わせてくれるよう持ちかける。
「んまあ。ええ? それで変装した気になっているとは、あなたの知能を本気で疑ってしまうのですが、せめて名前くらい変えたらいかが、ティーナさん」
「いや、うーん…今更だし」
「そ。まあ、冒険者ごっこもよろしくてよ。せいぜい怪我をしないようになさってね。おほほ」
「ごっこって…くっ」
アンジェリーナはティーナを小馬鹿にした!
痛恨の一撃!
ティーナはかなりの精神的ダメージを受けた!
「あら、ひょっとして、そちらは護衛の皆さんかしら? 少し頼りなげですけど」
アンジェリーナが俺たちの視線に気づいてこちらを見る。
「護衛じゃ無いけど、パーティーの仲間よ」
「そうですの。私だったら、金に物を言わせて腕の立つ冒険者を集めますけど、まあ、仕方有りませんわね、ごっこでは」
「ぐっ、だから、ごっこじゃ無くて、ホントに真面目にやってるのよ」
「ええ? 子爵の首も取らずに、ですの?」
ヌール子爵のことだろうか。俺たちが侵入したと知っている様子だが。
「むっ。どこまで知ってるの? アンジェ」
「さあ、ふふ、どこまでかしらね。さて、私、いい加減、結婚相手を見つけないと家の名も傷が付いてしまいますわ。良い冒険者の殿方をお見かけになったら、教えて下さいませね、ティーナさん」
「ええ…」
「では、ごめん遊ばせ。おーほっほっほっ、おーほっほっほっ…」
高笑いをしながら、殿方を漁りに行くアンジェリーナ。
なるべく、関わらないようにしようっと。
「ティーナ、あれは何ニャ? 言ってくれれば猫パンチ浴びせてくるけど」
リムも気に入らなかったようで言う。
「ダメダメダメ。口は悪いし態度はムカつくけど、敵じゃ無いし、敵に回すとまずい相手だから。アンジェリーナ=フォン=エクセルロット侯爵令嬢、一応、覚えておいて」
「ムム、侯爵ってええと、どのくらいニャ?」
「貴族で言えば、公爵の次の大物よ」
「ニャー…大物、止めとくニャ」
「それがいいわね。あっ、これはセザンヌ様、本日はお招きに与り、誠にありがとうございます」
ティーナが片膝を床に突けて挨拶。すぐさま俺たちもその格好に倣う。
「ええ、でも、無礼講と言ったはずよ。楽にして頂戴」
「は」
セザンヌは今度は黒のドレスに身を包んでいる。胸元が際どく開いていて、こぼれ落ちそうな感じで、あうあう。
いかん、じろじろ見ては、だけどね、だけどね!
「食事は気に入って頂けたかしら?」
「ええ、美味しく頂いております」
「そう。それは良かったわ。それで、ティーナ。聞けば、あなたはルドラの街で大盗賊ルゴーを召し捕ったとか。そのお話を聞かせて下さる?」
「ええ、構いませんが、あれはルドラの兵士達も協力し、私一人の手柄でも無いので。ユーイチはちょっと黙っててね?」
余計な事を言うとお仕置きよ、という怖い笑顔で、俺をちらっと見たティーナ。
もちろん頷いて、黙っておく。
ここまでルゴーの話が伝わっているとなると、あの吟遊詩人のイシーダさんはこちらの地域でお仕事してるんだろうか。
ちょーっと、話を盛り過ぎちゃったよね。
反省しております。




