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異世界の闇軍師  作者: まさな
第四章 侯爵令嬢

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第十二話 脱出

2016/11/11 若干修正。

 子爵邸に侵入し、(さら)われていた人質は救出できたものの、警備兵に見つかっちゃった。

 何とか全員無事に屋敷の外へ出たのは良いが、まだ終わりでは無い。


 だってこの街、子爵領だものね。街の門番の兵士達も手下だ。

 警察がグルってこと。ろくでもねえな。


「ここから北に少し行ったところに商隊(キャラバン)がいるわ。彼らを頼りましょう」


 リサが言う。


「わかったわ。じゃ、行きましょう」


「「 うーん 」」


 俺とリムが唸る。だって、宿屋に置いてる物、持って行けないでしょ?

 ルザリック大先生の魔術入門、俺の宝物だもの。

 結構な値段、すると思うし。


「どうしたの、二人とも。急がないと」


「いや、宿屋の荷物が…」


「ああ、魔術書と干し魚ね? それはまた私が買ってあげるから」


「マジで!?」

「ホントニャ!?」


「いや、それくらい、ええ、約束するわ」


「ティーナ~、一生付いて行きますぅ!」

「私もニャー!」


「もう…仕方ないわね。面倒見てあげるから、二人とも今は急いで」


「わかった」

「わかったニャ」


「じゃ、そこの角を右に進んで」


 リサの示した道を行くと、街の外壁にはしごが掛けてあった。準備良いなあ、この子。


「そっか、門からは出られないもんね。そこまで考えてなかったわ」


 ティーナも反省したように言う。


「呆れるわね。子爵に楯突いて顔バレ、しかも口封じ無しで出てくるんだもの。これだから脳筋パーティーは」


 リサが屈辱的な事を言ってくれるが、何も言い返せない。


「「うぐぐ」」


 俺とティーナが精神的ダメージ。


「じゃ、みんな急いで。追っ手もすぐに掛かるし、ちんたらやってると人質に逆戻りよ」


 リサの言うとおりだろう。囚われの身だった女の子八人も緊迫した顔で頷き、走る。


「つっ!」


 女の子達は裸足なので、石ころを踏んづければ、当然痛い。


「我慢して。キャラバンまで行けば、靴はもらえるし、手当もしてくれるから」


「はい」


 なんとかしてやりたいが、俺の靴は一足しかない。


「あ」


 試してみるか。


「マナよ、我が呼びかけに応えて、各々の防壁と化せ! バリア!」


 女の子達の足にバリアの呪文を張ってみる。青色に光る薄い膜が、狙った場所、かんじきのように両足にできあがる。


「あっ、足が」


「ありがとうございます。これで痛くないわ」


 成功したようだ。効果はすぐ切れちゃうけどね。また唱え直せばいい。


「うん、やるわね、ユーイチ」

「さすがニャー」

「ニー」


 みんなが褒めてくれる。

 ふっふっふっ。


 星明かりを頼りに走ること十数分、さすがに息が切れたので、全員、歩いて進んでいる。


「ザックさん、大丈夫かしら?」


 ティーナが振り返るが、正直、あの人の事まで考える余裕は俺たちには無かった。あのまま警備兵と戦闘を続けて、勝てそうな気もしたのだが、相手はモンスターじゃ無くて人間だものね。威力のある雷の呪文だと手加減も難しい。

 だが。


「平気だろ。レベル52だぞ? あの警備兵が全員かかっても、余裕のはずだ」


「そうね。でも、付いてきてないし…何かあったんじゃ無いかしら」


 今更戻るとか言い出さないよね? ティーナ。


「待って。レベル52って本当なの?」


 リサが疑うように聞いてくる。この世界でも、そんな高レベルはそうそういないはずだ。


「ええ。冒険者カードも見せてもらったし、実際、相対したときの感覚、底知れなかったわ。そうね、ひとまず、私たちの安全を確保してから、それから考えましょうか」


「それがいいな」


 賛成しておく。


 途中、周囲を警戒しつつも、お互いの状況を話して確認し合った。リサの方はキャラバンから人攫いの情報を得たという。


「そう、囚人がね…。それで、子爵の目的だけど」


「はい、詳しくは知りませんが、何かを召喚して、そのための生け贄として私たちを使うようだったようです。純潔かどうかをしきりに気にしていました」


 人質だった少女の一人が言う。


「召喚? 人間を生け贄に使うなんて、またろくでもないのを呼ぼうとしてたみたいね」


 リサが言うが、同感だ。この世界の召喚術については俺もほとんど知らないのだが、呼び出せそうなモノについては想像は容易に付く。イービルでダークなヤバい伝説級の悪魔なりモンスターだろう。


「呼んで、何をするつもりだったのかしら…」


 ティーナが言うが、それはヌール子爵本人に聞いてみないと分からない。


「どうせ黄金か不老不死、ライバル貴族の追い落とし、そんなところでしょ」


 リサが思いつくところを言うが、不老不死なんかは権力者の夢だろう。俺は健康で長生きはしたいと思うが、永遠の生命が欲しいとも思わない。

 ティーナみたいな才色兼備のお嬢様に生まれ変わって、人生を謳歌する方が楽しそうだし。

 いつか、転生できるよね?

 できるといいなあ。


「そんな事のために?」


 ティーナが正気かと問うようにリサに言う。


「あくまでも私の想像よ。本当のところは子爵に聞いてよ」


「ああ、うん…」


 黙り込んでしまったティーナ。

 人質の少女達が話してくれたところでは、今回の実験は二度目で、一度目は完全な失敗だったという。一人では足りなかったということだったから、すでに生け贄にされた犠牲者が一人いることになる。


「早めになんとかしないと…」


 ティーナがつぶやくが、何をどうしたら良いか、俺にも思いつかない。

 何しろ、兵士を自由に使える領主だ。相手が悪い。


「その前に、彼女達を安全なところへ逃がすのが先よ」


「そうね」


 リサが言い、ティーナもすぐに考えを切り替えた。


「ム。人間の臭いがするニャ」


 そう言って、立ち止まるリム。緊張。


「ええ、もうすぐキャラバンの野営に着くわ」


 リサが言う。ほっとして先を進もうとしたとき、ヒュッと音がして俺の顔の真横を何かが通り抜けた。


「動くな! 全員止まれ!」


 立ち止まって声のした方を見ると、大弓を構えた革鎧の男が一人いた。


「待って! 私よ」


「ああ、リサか。ほう? すると、もう助け出してきたか」


「ええ。だから、弓矢は下ろして頂戴。それと、被害者の保護をお願い」


「分かった。だが、武器の有無は確認させてもらうぞ」


「もう、好きにしなさいよ。心配ないわ。キャラバンの護衛よ」


 その数は三人。左右に散らばって展開していた槍持ちと両手持ち剣の男が顔を出し、集まってきた。

 武装の確認を終え、キャラバンの野営に向かう。

 少女達には、アロエ草の葉を食べてもらった。


「これはこれは、リサさん。無事で何より」


 頭にターバンを巻いた精悍な男が笑顔で出迎えた。商人だろう。近くには幌馬車が十一台ほど止まっており、中央には大きめの焚き火が燃えている。

 結構な規模のキャラバンのようだが、他は寝ているのか、起きているのは四人ほど。うち二人は武装した護衛だ。


「ふん、厄介事が増えたって顔に出てるわよ、ロバート。費用は私が持つから、彼女達が家に戻れるよう手配してもらえないかしら?」

 

 リサが言う。この様子だとロバートは子爵の人攫いについても、もう知っているようだ。


「いやいや、あなたのような、まともで腕の立つ冒険者が成功するのは私にとっても回り回って利益になりますからね。よろしい、被害者の方が無事に家に戻れるよう、このロバート、無償で責任を持ちますとも」

 

「いいえ、あなたに変な借りは作りたくないし、取引にして頂戴。大銅貨八枚でどうかしら?」


「仕方有りません。その方がよろしければ、そのように。ただ、近場なのですか?」


 大銅貨を受け取りながら、ロバートが聞く。


「ええ、全員、近隣の街の人間よ」

 

 そこは道中、リサが確認していた。


「となると、領主に顔を覚えられているかも知れません。娘さん方のご意向次第ですが、別の領主の街に住み込みで働けるところを紹介させてもらいますよ」


「……じゃ、その辺はあの子達と話し合って頂戴」


「ええ。それから、そちらのエルフは早く手当を」


 もう一人の商人が鞄からポーションを出して持ってくるが、リサは首を横に振る。


「必要無い、アレは魔力切れで寝てるだけだから」


 すでに俺のローブをシート代わりにして、その場に寝かせてある。俺の方は下にもちゃんと木綿の服を着ているので問題は無い。


「そうですか。他に手当の必要が無ければ、皆様の靴は明日、見繕って差し上げましょう」


「ええ、手持ちは無いはずだから、私が払うわ」


「では、そのように」


「リサ、靴の分は私が払うわ」


 ティーナが言う。


「そう? それじゃお願いね」


「ラルゴ、追っ手はどうだ?」


 ロバートが後ろからやってきた両手持ちの剣士に聞いた。


「問題ない、むっ!」


 剣士が背中の剣を抜いて身構える。


「おっと、心配すんな。俺はティーナのパーティーだ。尾行は無いぜ」


 ザックが暗闇からスッと出てきたが、無事で何より。

 しかし、護衛のラルゴさんは面目丸つぶれだね。装備も良いし、腕も立つ感じだけど、レベルは52よりは下だろう。あからさまに渋い顔だ。


「ザックさん。ふう、良かった。心配してたんですよ」


 ティーナが笑顔で言う。


「そいつは要らない心配だ。そっちこそ、無事なようで何よりだが。ちょうど良い、そこの商人、これを配達して欲しいんだが、頼めないか?」


 ザックが四十センチ四方の木箱を見せる。


「中身は何でしょう?」


「書類と呪いの指輪だ」


「呪いの? どのような」


 さすがにロバートの顔が険しくなる。


「大丈夫だ、持ってる分には問題ない。装備すると寿命が縮むがな」


「鑑定させてもらっても?」


「ダメだ。この箱にはもう封印を施した」


「申し訳ありませんが、それではこちらもお引き受け致しかねます、影のザックさん」


「なんだ、俺の名を知ってるなら、引き受けてくれても良いだろうに」


「いえ、初見ですし、お名前は存じておりますが、人となりまでは」


「分かった。なら、これでいいな」


 ザックが木箱の蓋を開けてロバートに見せる。


「書類には手を付けないでくれ」


「承知しました。ふむ、これはなかなか珍しい。どこでこれを?」


 子爵の館だろう。指輪は火事場泥棒として、書類をどうするつもりなのか。気になる。

 気になるが、ここで無邪気に質問してザックを怒らせたりしたらゲームオーバーになりかねん。

 俺は口にチャックをしておくことにする。


「言わせるなよ。で、引き受けてくれるか?」


「分かりました。届け先ですが…ああ、皆さんもお疲れでしょう。その辺で休んでもらって結構ですよ。見張りはうちの護衛がやりますので」


「そうさせてもらうわ」


 今後のこともあるが、それは明日でも良いだろう。

 緊張しっぱなしだったせいか、酷く眠い。

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