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異世界の闇軍師  作者: まさな
第四章 侯爵令嬢

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第九話 クエスト発注

2016/11/1 若干修正。 

 翌朝、俺たちは日が昇るか昇らないかという内に、慌ただしく朝食を済ませると、ヌールリッツの街へ向かった。


「ティーナ、ちょっと、確認しておきたいんだが」


「何かしら」


 歩きながらの話し合い。ティーナが早足なので、俺としては結構辛い。なにせ、ほとんど休憩も挟まず、歩き詰めだ。

 サロン草を装備しているが、体力は普通に消耗するし、疲労も溜まる。アロエ草を食べて(H)(P)ゲージは回復させているが、疲労感は溜まったままだ。


 SPも減り続けている。この数値がゼロになったら怖いのでティーナにも相談したが、彼女が三連撃の技を使ってみるとSPが減ったので、やはりこれは技ポイント、疲労に関係する物のようだ。

 スキルポイントでは(まぎ)らわしいので、スペシャルポイントとしておこうか。


「俺たちの目的は、エルフの救出だけでいいんだよな?」


「他に(さら)われている人間がいれば、それも助けるわよ?」


 当たり前だけどね、文句有るかしら? と言う顔でさらりと言ってくれるティーナ。


「人数が増えると、時間も掛かるし、成功率も下がるぞ」


「時間は掛けても良いわ。全員、救出よ」


「むう」


 それだと、屋敷内に監禁されているだろうから、まず全員の居場所を捜索し、脱出経路を決めて、鍵を壊すなりして実行しなくてはいけない。

 当然、見つかったらアウトだ。子爵の警備兵ともなれば、余裕で十人は超えると思われる。


 無理ゲーだっての。

 レベル20以下はひよっこと言われるこの世界で、俺はまだレベル14だもの。

 このパーティーで一番レベルが高いティーナでさえ、レベル17だ。そりゃ、装備はミスリルで剣の熟練度も高そうなんだけど、子爵お抱えの警備兵だって弱っちくは無いだろう。無い無い。

 俺が子爵なら、ボディーガードには鉄壁のビクトールクラスを(はべ)らせておくね。ハイデーモンがやってきてもなんとかなるだろう。

 

 やべえよ。

 

 そんなハイデーモンすら倒す奴が出てきたら、俺は瞬殺じゃんね?


 あー、変な汗が出てきたわ。


「見えたわ。ヌールリッツの街よ」


「えっ? もう?」


「ええ、急いだからね。じゃ、早めに宿で休んで、夜中に行動しましょう」


 そのまま突っ走らないところが、ティーナの良いところだ。

 どうせなら作戦中止にしてくれると、さらにいいんだが。

 

「じゃ、提案だが、君はお金持ちだろ。腕の立つ冒険者を雇ったらどうかな」


 百人くらいどーんと。でもって、俺は後方待機で。足手まといだものね。


「ああ。良い考えね。でも、大人数だと、見つかりやすくならない?」


「じゃあ、減らして98人くらいでひとつ」


「はあ? 何言ってるの? そんな数の冒険者なんてこの街にもいないと思うし、そんな大人数なら正面突破の方が速いっての。一人か二人いれば良いわ。鍵開けができるシーフを雇いましょう」


 人数については全く納得行かないので、宿にチェックインした後、俺もティーナと一緒に冒険者ギルドに向かう。

 ヌールリッツの街並みはヒューズやルドラに比べると大きいようだが、あまり代わり映えしない。

 木造建築が多く、ほとんどが一階建てだ。宿屋は例外的に大きく二階建てや三階建て。

 簡易水洗トイレや製本があるのに、建築技術は遅れ気味なのだろうか?

 男爵の門はレンガだったし、レンガ造りの家もどこかにはあるんだろうけど。


 靴に翼の看板を見つけ、ティーナと中に入る。受付カウンターがあるだけの狭いギルドだ。

 誰か絡んでくれないかなあ。

 残念ながら、ここには暇そうな冒険者は一人もいないようだ。


「クエストの発注、お願いしたいのだけれど」


 カウンターの向こうの中年男は書類整理をしていたが、ティーナの声にこちらにやってくる。


「内容は?」


「人攫いのアジトへの潜入協力。目的は人質の解放よ。条件は鍵外しが出来ること」


「アンタのレベルはいくつだ?」


「17だけど」


「アジトの人数は分かっているのか?」


「いいえ。少し多いと思う」


「ふん…」


 ギルドの職員は俺とティーナを上から下まで眺めて少し考えた様子。


「急いでるんですけど」


「悪いことは言わない。そのレベルなら、救出依頼か、アジトの情報提供にしておいた方が身のためだ」


「む」


「残念だけど、仕方ないよ、ティーナ」


 ここは全力でギルド職員の方針に乗っかる。


「ダメよ。お金なら有るから、それで発注を」


「成功報酬はいくらだ?」


「金貨十枚でどうかしら?」


「なにっ!」


 冒険者ギルドの職員が驚きの声を上げる。多分、多すぎだ。十万ゴールド、日本円にすると二千万とかね。


「それは総予算で、百人くらい集めたいんですが」


 横から口を挟む。


「ちょっと! それじゃ腕の立つ冒険者が集まらないでしょ。一人よ」


「ううん、だが、本当に手持ちはあるのか? 依頼をする時点で報酬額を確認させてもらう決まりだ。ギルドの手数料もあるぞ」


「ええ」


 ティーナは懐から財布袋を取りだし、中身を無造作に掴んでカウンターのテーブルに金貨を並べ始めた。

 ちらっと見えたけど、金貨と銀貨がズッシリで、百枚以上、持ってそうな感じ。


 一生付いて行きます! ティーナ様!


「これで、十枚ね」


「じゃ、一枚だけ、鑑定させてもらう。十枚はいくら何でも多すぎだ。人攫いのアジトへの潜入が依頼なんだな?」


「ええ。ただ、相手はちょっと厄介よ」


 子爵だもんな。


「それはこの金額を見れば請負人も気づくだろうよ」


 後ろの机に置いてある天秤に金貨を乗せる職員。一方は分銅だ。

 釣り合った。


「よし、本物だ。この金は返すが、きちんと保管しておいてくれ。手数料は二厘、大銅貨二枚になるぞ。こちらは今払ってくれ」


「ええ。はい、これで」


 手数料は2%か。少額の報酬なら小さい銅貨一枚を一律で取るんだろうな。ギルドの維持費も考えると、良心的だろう。


「依頼は、調査。人質の救出を目的とし、人攫いのアジトへの潜入。レベル17の依頼者パーティーが同行する。条件は鍵外し、高レベル一名のみ。成功報酬は一万ゴールド。期日は至急。これでいいな?」


 職員が依頼内容を確認する。


「はい」


「それじゃ、こっちに必要事項を記入してくれ」


 職員が依頼内容を書き込んだ羊皮紙をこちらに差し出す。ティーナがそれを受け取り、依頼者の氏名と報酬額を記入した。


「これで」


「よし。じゃ、酒場の掲示板にも写しを貼っておいてやろう。大口だからな」


「ありがとう。いつぐらいまでに集まるかしら?」


「金貨一枚の高報酬だ。一日で十人は食いつくだろう」


「今夜なら?」


「さあな。一人か二人は集まると思うが、腕の立つ奴が欲しいなら、二日三日待ってみた方が良いぞ」


「ううん。いえ、今夜中で行くわ」


「そうか。あまりこういう無茶な依頼はやって欲しくないんだが…」


「別に、無茶じゃ無いわ」


「若い冒険者はみんなそう言うんだ。そして帰っちゃ来ない」


「む…」


「ま、腕の立つ奴に任せて、調査は丸投げしておくんだな。それからどうするか決めても遅くは無い」


 ホント、それが一番良いですよ、ティーナさん。

 楽だし、安全だし。


「それを決めるのは私だから。早く貼ってきてよ」


「分かった分かった」


 ギルド職員は呼び鈴を鳴らし、やってきた犬耳の少年に羊皮紙の写しを渡す。少年は報酬額を見て驚いていたが、一万ゴールドの依頼はなかなか出てこないようだ。


「じゃ、私たちは一休みしましょうか」


「ああ」


 少しでも移動の疲労を回復させ、夜に備えなければならない。

 ティーナが寝過ごしてくれればありがたいが、それは無いだろうな。


 宿で早めの夕食を取る。その後俺は宿の部屋で、防御力上昇のポーションを五人分作り、クロと一緒にベッドに入った。


「上手く行くと思うか?」


「ニー…」


 クロも自信なさそう。


「シーフが集まらなかったら、延期を申し立てるか。よし、それで」


 レベルが低い奴だったら、ティーナを説得するとしよう。

 低くなくてもいちゃもん付けよう。


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