第九話 クエスト発注
2016/11/1 若干修正。
翌朝、俺たちは日が昇るか昇らないかという内に、慌ただしく朝食を済ませると、ヌールリッツの街へ向かった。
「ティーナ、ちょっと、確認しておきたいんだが」
「何かしら」
歩きながらの話し合い。ティーナが早足なので、俺としては結構辛い。なにせ、ほとんど休憩も挟まず、歩き詰めだ。
サロン草を装備しているが、体力は普通に消耗するし、疲労も溜まる。アロエ草を食べて体力ゲージは回復させているが、疲労感は溜まったままだ。
SPも減り続けている。この数値がゼロになったら怖いのでティーナにも相談したが、彼女が三連撃の技を使ってみるとSPが減ったので、やはりこれは技ポイント、疲労に関係する物のようだ。
スキルポイントでは紛らわしいので、スペシャルポイントとしておこうか。
「俺たちの目的は、エルフの救出だけでいいんだよな?」
「他に攫われている人間がいれば、それも助けるわよ?」
当たり前だけどね、文句有るかしら? と言う顔でさらりと言ってくれるティーナ。
「人数が増えると、時間も掛かるし、成功率も下がるぞ」
「時間は掛けても良いわ。全員、救出よ」
「むう」
それだと、屋敷内に監禁されているだろうから、まず全員の居場所を捜索し、脱出経路を決めて、鍵を壊すなりして実行しなくてはいけない。
当然、見つかったらアウトだ。子爵の警備兵ともなれば、余裕で十人は超えると思われる。
無理ゲーだっての。
レベル20以下はひよっこと言われるこの世界で、俺はまだレベル14だもの。
このパーティーで一番レベルが高いティーナでさえ、レベル17だ。そりゃ、装備はミスリルで剣の熟練度も高そうなんだけど、子爵お抱えの警備兵だって弱っちくは無いだろう。無い無い。
俺が子爵なら、ボディーガードには鉄壁のビクトールクラスを侍らせておくね。ハイデーモンがやってきてもなんとかなるだろう。
やべえよ。
そんなハイデーモンすら倒す奴が出てきたら、俺は瞬殺じゃんね?
あー、変な汗が出てきたわ。
「見えたわ。ヌールリッツの街よ」
「えっ? もう?」
「ええ、急いだからね。じゃ、早めに宿で休んで、夜中に行動しましょう」
そのまま突っ走らないところが、ティーナの良いところだ。
どうせなら作戦中止にしてくれると、さらにいいんだが。
「じゃ、提案だが、君はお金持ちだろ。腕の立つ冒険者を雇ったらどうかな」
百人くらいどーんと。でもって、俺は後方待機で。足手まといだものね。
「ああ。良い考えね。でも、大人数だと、見つかりやすくならない?」
「じゃあ、減らして98人くらいでひとつ」
「はあ? 何言ってるの? そんな数の冒険者なんてこの街にもいないと思うし、そんな大人数なら正面突破の方が速いっての。一人か二人いれば良いわ。鍵開けができるシーフを雇いましょう」
人数については全く納得行かないので、宿にチェックインした後、俺もティーナと一緒に冒険者ギルドに向かう。
ヌールリッツの街並みはヒューズやルドラに比べると大きいようだが、あまり代わり映えしない。
木造建築が多く、ほとんどが一階建てだ。宿屋は例外的に大きく二階建てや三階建て。
簡易水洗トイレや製本があるのに、建築技術は遅れ気味なのだろうか?
男爵の門はレンガだったし、レンガ造りの家もどこかにはあるんだろうけど。
靴に翼の看板を見つけ、ティーナと中に入る。受付カウンターがあるだけの狭いギルドだ。
誰か絡んでくれないかなあ。
残念ながら、ここには暇そうな冒険者は一人もいないようだ。
「クエストの発注、お願いしたいのだけれど」
カウンターの向こうの中年男は書類整理をしていたが、ティーナの声にこちらにやってくる。
「内容は?」
「人攫いのアジトへの潜入協力。目的は人質の解放よ。条件は鍵外しが出来ること」
「アンタのレベルはいくつだ?」
「17だけど」
「アジトの人数は分かっているのか?」
「いいえ。少し多いと思う」
「ふん…」
ギルドの職員は俺とティーナを上から下まで眺めて少し考えた様子。
「急いでるんですけど」
「悪いことは言わない。そのレベルなら、救出依頼か、アジトの情報提供にしておいた方が身のためだ」
「む」
「残念だけど、仕方ないよ、ティーナ」
ここは全力でギルド職員の方針に乗っかる。
「ダメよ。お金なら有るから、それで発注を」
「成功報酬はいくらだ?」
「金貨十枚でどうかしら?」
「なにっ!」
冒険者ギルドの職員が驚きの声を上げる。多分、多すぎだ。十万ゴールド、日本円にすると二千万とかね。
「それは総予算で、百人くらい集めたいんですが」
横から口を挟む。
「ちょっと! それじゃ腕の立つ冒険者が集まらないでしょ。一人よ」
「ううん、だが、本当に手持ちはあるのか? 依頼をする時点で報酬額を確認させてもらう決まりだ。ギルドの手数料もあるぞ」
「ええ」
ティーナは懐から財布袋を取りだし、中身を無造作に掴んでカウンターのテーブルに金貨を並べ始めた。
ちらっと見えたけど、金貨と銀貨がズッシリで、百枚以上、持ってそうな感じ。
一生付いて行きます! ティーナ様!
「これで、十枚ね」
「じゃ、一枚だけ、鑑定させてもらう。十枚はいくら何でも多すぎだ。人攫いのアジトへの潜入が依頼なんだな?」
「ええ。ただ、相手はちょっと厄介よ」
子爵だもんな。
「それはこの金額を見れば請負人も気づくだろうよ」
後ろの机に置いてある天秤に金貨を乗せる職員。一方は分銅だ。
釣り合った。
「よし、本物だ。この金は返すが、きちんと保管しておいてくれ。手数料は二厘、大銅貨二枚になるぞ。こちらは今払ってくれ」
「ええ。はい、これで」
手数料は2%か。少額の報酬なら小さい銅貨一枚を一律で取るんだろうな。ギルドの維持費も考えると、良心的だろう。
「依頼は、調査。人質の救出を目的とし、人攫いのアジトへの潜入。レベル17の依頼者パーティーが同行する。条件は鍵外し、高レベル一名のみ。成功報酬は一万ゴールド。期日は至急。これでいいな?」
職員が依頼内容を確認する。
「はい」
「それじゃ、こっちに必要事項を記入してくれ」
職員が依頼内容を書き込んだ羊皮紙をこちらに差し出す。ティーナがそれを受け取り、依頼者の氏名と報酬額を記入した。
「これで」
「よし。じゃ、酒場の掲示板にも写しを貼っておいてやろう。大口だからな」
「ありがとう。いつぐらいまでに集まるかしら?」
「金貨一枚の高報酬だ。一日で十人は食いつくだろう」
「今夜なら?」
「さあな。一人か二人は集まると思うが、腕の立つ奴が欲しいなら、二日三日待ってみた方が良いぞ」
「ううん。いえ、今夜中で行くわ」
「そうか。あまりこういう無茶な依頼はやって欲しくないんだが…」
「別に、無茶じゃ無いわ」
「若い冒険者はみんなそう言うんだ。そして帰っちゃ来ない」
「む…」
「ま、腕の立つ奴に任せて、調査は丸投げしておくんだな。それからどうするか決めても遅くは無い」
ホント、それが一番良いですよ、ティーナさん。
楽だし、安全だし。
「それを決めるのは私だから。早く貼ってきてよ」
「分かった分かった」
ギルド職員は呼び鈴を鳴らし、やってきた犬耳の少年に羊皮紙の写しを渡す。少年は報酬額を見て驚いていたが、一万ゴールドの依頼はなかなか出てこないようだ。
「じゃ、私たちは一休みしましょうか」
「ああ」
少しでも移動の疲労を回復させ、夜に備えなければならない。
ティーナが寝過ごしてくれればありがたいが、それは無いだろうな。
宿で早めの夕食を取る。その後俺は宿の部屋で、防御力上昇のポーションを五人分作り、クロと一緒にベッドに入った。
「上手く行くと思うか?」
「ニー…」
クロも自信なさそう。
「シーフが集まらなかったら、延期を申し立てるか。よし、それで」
レベルが低い奴だったら、ティーナを説得するとしよう。
低くなくてもいちゃもん付けよう。




