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異世界の闇軍師  作者: まさな
第四章 侯爵令嬢

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第八話 人攫いの情報

2016/6/25 数行ほど修正、2回目。

 引き続き、調合の実験を同意の下で行っている。

 被験者はリム、十五歳女性、猫耳族だ。

 身長160センチくらい、体重52キロ(推定)、赤毛のショート。

 報酬は魚。


「じゃ、第二十三問、これなーんだ?」


 クイズ形式である必要性はもう無いのだが、リムがその方が面白いと言うので、目隠しして続行中。


「ム、硬いニャ。コレ、食える物?」


 すぐには咀嚼せず、先っぽをちょっと舐めただけで警戒しているリム。


「ああ。安心しろ。これは美味しいぞ。お前の大好きな物だ」


「ンー、ペロペロ。硬くて少し細長いニャ」


「い、いや、そんなに舐めなくて良いから、さっさと口の中に入れてくれ」


 座っている美少女が目隠しして俺の手に持っている物を舐めているこの状況、なんか色々、失敗した。

 これじゃまるで…。


「大変よ! 二人とも。えっ!?」


 ドアが勢いよく開いてティーナが戻って来た。聞き込みで何かあったらしいが、うえ、まずい、なんか誤解されそう。


「そ、そうか。待て! これは誤解だぞ?」


 落ち着いて順を追って説明しようと思ったのだが、動揺して挙動不審になっちゃう俺。


「な、なな、なななな、何してるのよ、あなた達はぁーっ!」


 ティーナが耳まで真っ赤になって、顔を引きつらせながら叫んだ。

 おうふ、予想以上の反応でございます。



 で、俺はこうして床に正座。

 もう三度目である。

 どうしてこうなった…。


「話は分かったわ。いえ、納得したわけじゃ無くて、そうなった経緯(いきさつ)は分かったってだけだけど。でも、ユーイチ、あなた下心があったわよね?」


「い、いやいや、そこは本当に、何も無かったから。調合をやりたかったから上手くリムをはめようと思っただけだよ」


「じゃ、なんで私が踏み込んだときにそんなに焦ったのよ?」


「いや、それは、気づいたら誤解されそうだなぁって。一応、止めさせようとしたんだぞ?」


「ふん。やっぱりそういうやましい気持ちがあったんじゃない。最低」


「う」


 ティーナに冷たい視線で最低などと言われてしまうと、グサッとくる。

 これはパーティー、追い出されるかなあ。

 

「まあ、ユーイチもこうして反省してるんだから、大目に見てやれニャ。ちょっとした出来心ってヤツだニャ。男の(さが)ニャ」


 リム~。男の性って、お前、意味分かってんのかよ! 

 実はお前、天真爛漫を装って、高等戦術で俺を陥れようとしてるだろ。


「む。リム、あなた、男の性って、意味分かってるの?」


「ニャ? ニャ~。うんニャ」


 分からないのに使ってる奴。


「ふう、でも、ピッタリの時に使ってくるわねえ」


「こういう、男が女に怒られてる時に良く出てくるニャ。パパがよく開き直って言って、ママに余計に怒られてたニャ」


「やっぱりお前、俺をはめようとしてんじゃねえか!」


「ニャ!?」


「おほん、もう良いわ。仲間割れしてる場合じゃ無いから。街の人に聞き込みしてたら、ちょっとまずい話を聞いちゃって」


 そう言って、ティーナが聞き込んできた話を俺たちに説明した。


「えっ? 人攫(ひとさら)いか…」


 そう言う犯罪もあるだろうとは思うのだが、すぐ近くで起こったと聞くとドキッとする。


「攫われたのはエルフの女の子だそうよ。私たちと同じくらいの歳に見えたって言うし、早く助け出さないと、色々まずいと思う」 


 人攫いの目的ははっきりしていないが、転売したり、性的目的なのだろう。

 だとすると、どちらにしてもあまり時間的な猶予は無いと思われる。 


「でも、牢屋の中でそれが起きたって言うなら、兵士もグルだろ?」


 気になるので俺はその点も確認しておく。


「そうね。全員かどうかは知らないけど、看守は間違いないと思う」


 ティーナが同意。

 はっきり言って、凄く厄介そうである。

 警察がヤクザと癒着して、人身売買やってました、みたいな。

 

 現場の暴走なら、上に報告するだけで済むかも知れないが、組織ぐるみだともうお手上げだ。

 ここの兵士の上は、確か、ヌール子爵だったか。

 もう、名前からしてヌメッとしてそうでヤな感じだ。

 

 どうやってティーナを説得したものか。

 いや、そりゃ俺だって、そんな犯罪は起きて欲しくないし、少女も助けてやりたいと思うよ?

 でもね、そのために俺の生存が危うくなるなら、うん、優先順位はもう決めてある。


「ティーナ、兵士の背後に子爵が絡んでるとしたら、今回の件は相当にヤバい。匿名で王宮あたりに投書する程度にしてさ…」


「はあ? それじゃどうやっても(たす)けが間に合わないじゃない。それに、匿名の手紙なんかで王宮が動くはずも無いわ」

 

 いちいちもっともだ。

 非の打ち所の無い論破である。

 これは勝ち目が無い。


「仕方ない。だが君は、この件で、パーティーが危険に晒されるのは分かってるんだな?」


「ええ。でも、それでも、お願い。私はここで手をこまねいてるなんて出来ないわ。それに、エルフとの関係悪化はミッドランドにとっても重大な痛手よ」


 お願いと来たか…。

 奴隷だから言うことを聞けとか、宿代を出してあげたでしょとか、それでもパーティーなの!? と言われたなら、反感を覚えていただろうが、こんな目をして頼まれたら、なんとかしてやりたいと思ってしまう。

  

「ユーイチ、ティーナが困ってるニャ。世話になってるんだし、ここはアタシらが力になってやるニャ」


 こいつも、普段はバカな癖に、要所要所でまともなことを言うから、大物に見えちゃうんだよなあ。


「分かったよ。ただし、事前に作戦はきっちり立てておこう」


「それはいいけど、すぐに出発するわよ。時間の猶予は無いんだから」


「ええ?」


「作戦なら歩きながらでも出来るでしょ」


「それはそうかもしれないが…いや、待ってくれ。犯行は昨日の夜に行われたんだよな?」


「ええ、今日、釈放になった囚人から聞いたから、それで間違いないわよ」


「だとしたら、もう間に合わなくないか? 袋詰めの人間を運ぶとしたら馬か何か、馬車くらい用意するだろ?」


 まさか、徒歩で担いでいくとも思えない。兵士の仲間なら、馬車くらいは融通できるだろうし。


「ああ、その点は大丈夫。行き先は分かってるから。犯人グループが話してるのをその囚人が聞いてるわ」


「よく口封じされずに釈放されたな」


「眠ったフリをしてたそうよ。じゃ、支度して」


「分かった。それで、行き先は?」


「子爵の館だそうよ」


「ええ?」


 モロじゃん。

 と言うか、コレは実行したら間違いなく返り討ちや牢獄入りの状況だろう。

 絶対に反対しないと。

 だが、ティーナも強情だから、俺が反対したくらいじゃ折れないだろうし、一人でも突っ走りかねない。

 ここは一つ、従うフリをして止める機会を窺うとするか。


 俺たちは慌ただしく出発の準備を整え、宿もチェックアウトした。


「じゃ、急ぐわよ。運良く途中で馬車を見つけられれば、敵も少ないだろうし」


 この女、本気である。

 いや、しかしね。

 子爵を相手に事を構えたら、兵士が数人じゃ済まないだろと。

 

 何か、考えがあるんだろうか。


「ティーナ、援軍は期待できないのか?」


「一応、冒険者ギルドに、人攫いの調査の依頼を出しておいたから」


 ふむ、だとすると、別に俺たちのパーティーが成功しなくても、他のパーティーがなんとかしてくれるかも。


「でも、それは私たちが失敗したときの手当くらいに考えておいた方が良いわ。だから時間稼ぎなんて考えないでね、ユーイチ」


 しっかり釘を刺されてしまった。俺の考えはもうお見通しのようだ。

 とは言え、馬車を見つければ、それだけ危険度は減る。

 

「じゃ、一丁、やってみるか」


 立ち止まり、目を閉じて集中。


「我らが地図となりて道を示せ、マッパー!」


 まず、地図の呪文。マップウインドウが空中に展開したが、さすがに熟練度もあまり鍛えておらず、範囲は相変わらず十メートルちょい。

 だが、これは補助みたいなものだ。


「我が呼びかけに応じよ、探し物はいずこや、ディテクト!」


 こちらが本命。

 捜索可能範囲は不明だが、こう開けた平原ならば、対象も大きいし、普通より範囲が広がるんじゃないかと思う。


「どう? ユーイチ」

 

 ティーナが立ち止まって聞いてくる。


「ダメだ。見える範囲にはいないと思う」


「そ。ええ、なら急ぎましょう」


 子爵はヌールリッツの街に居を構えている。

 ここから北東に二日の距離だそうだが。

 ティーナは馬とか使おうとは思わなかったのかな?



「ああ! ああーっ! くう」


 一日目の夕暮れ、野宿の準備をしていると、ティーナが突然、頭を抱えて座り込んだ。

 どうやら、気づいていなかったらしい。


「ど、どうしたニャ? 頭でもぶつけたニャ?」


「それが、馬を使えば、半日で行けたのよ! ああもう!」


「あー。そうだニャ」


「なんで気づかなかったんだろ。バカだ私…」


「ま、今更だ。悔やんでも仕方が無い。戻って調達したところで、余計に時間、食っちゃうだろうし」


「…ユーイチ、あなたやけに冷静だけど、気づいてたわね?」


「い、いや、途中で、なんでお馬さんを使わないのかなーとは思ったけど、君に考えがあるのかもしれない、うげ、ギブギブ」


 首を絞められた。


「あなたね! 人の命が掛かってるかもしれないのよ?」


「ふう、そうだが、単に殺すだけなら、その場で斬って捨てるだろう。すぐには殺されないと思うぞ」


 どーせエロ目的だろうしね。


「いいえ、それはどうかしら。エルフは錬金術の材料って話を信じてたりしてたら、殺されるわ」


「ううむ。だが、それはデマだったんだろう?」


「ええ。魔術ギルドを初めとして各機関も正式に間違った情報だと断定しているわ。でも、ヌール子爵がどうかは分からない」


「彼はそう言う錬金術にのめり込んでいた?」


「いいえ。でも、最近、魔術士を何人か雇ったそうよ。そのためじゃないかしら」


「うーむ。その魔術士は錬金術が専門なのか?」


「さあ、そこまでは」


 そうなると、彼らがエルフを攫った目的を断定するのは難しい。

 たまたま、美人な女がエルフだったって場合もあるでしょ?


「それより、早く飯ニャ!」


「そうだな。腹が減ってはなんとやらだ」


 徹夜で歩くなんてティーナが言い出さないうちに、さっさとリムと夕食の準備を進める。

 幸い、ティーナは作戦を考えているのか、黙ってじっとしていてくれた。


 どうか、俺たちが到着する前に、他のパーティーが救出してくれますように!

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