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異世界の闇軍師  作者: まさな
序章 奴隷から始まるホラーライフ
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第五話 スライムと薬草

2016/10/2 誤字修正。

 目が覚める。


 全身、筋肉痛だ。


 畑仕事や水汲みや薪割りなんて現代っ子の俺には土台、無理がある。

 目が覚めたら夢でした、という落ちも無く、こうして昨日と同じ小屋の藁の上にいる。

 ベッドが藁(笑)


 筋肉痛だから、今日は厳しい事になるだろう。

 何だって異世界なんかに飛ばされてるのか…。


 普通、異世界と言ったら、王様がいて

 「おお勇者よ、よくぞ参った」

 と言って、最初に支度金をもらえるでしょ?


 可愛いお姫様もいたりしてさぁ。

 ここまで美少女成分ゼロ。

 エルフもネコミミ少女も出てきてない。

 俺の心は折れてます。



【 名前 】 ユーイチ

【 クラス 】 奴隷

【 Lv  】  1  

【 装備 】 布の服  布のステテコ 

【 魔法 】 無し

【 スキル 】 二度寝

【アイテム】 革の靴

【 所持金 】 0ゴールド

 


 ステータスで言えばこんな感じか。

 これで何をどうしろと。


 異世界や日本というキーワードについては、昨日夕食の時にロブやレダに話している。

 可哀想に、という顔をされたので、それ以降は口にしていない。

 どうやら俺がお城にお呼ばれされることは無さそうだ。


「クルックゴゲッゴッゴー!」


 何でオマエは朝からそんなにハイテンションなんだ?

 と言うくらいの大きな鳴き声を上げる鶏さんは、目覚ましとしては優秀だろう。

 俺が二度寝の強者だと言っても、このうるささでは眠ることは不可能だ。

 しかし、不可能に挑戦することに意義があろう。


「ユーイチ、早く水を持って行かないと」


 ロブが起き上がって言う。


「フッ。大丈夫ですよ、ロブさん。僕は出来る男ですからね、実は昨日のうちに桶を台所に持って行ってあります」

「そうか」


 俺が忘れてると思ってた? 残念でちたねー。


「ユーイチ! ユーイチはどこだ!」


 …ワダニが母屋で怒鳴っている。

 とにかく、ここではご主人様が絶対だ。

 俺は二度寝への挑戦を諦め、革の靴を履いて、母屋へ駆け足で向かった。


「遅い! 何をしている。ワシが顔を洗ったら、その布を渡すのがお前の仕事だろうが!」


 待ち構えていたワダニはそう言うとすぐさま鞭を振るった。

 おおっと魔物はいきなり襲いかかってきた!

 ワダニの先制攻撃!

 ヒュッ!

 ベチン!


「あうっ! も、申し訳ございません、ご主人様」


 聞いてねえよ。

 最初からそう言えっての。

 しかし、この場で待っていなかった俺も迂闊(うかつ)だった。

 誰だよ、出来る男なんて言ってたの。

 使えねえ。


「フン。明日、忘れたら、鞭打ちは二回だぞ。覚悟しておけ」

「ははっ!」


 ワダニはそう言うと奥へ引っ込んだ。

 バーカ、バーカ、ベロベロべー


「ああ、そうだ」


 ワダニが戻って来た。


「うひょっ!」


 お尻ペンペンの体勢に入ろうとしていた俺は飛び上がって直立不動の体勢を取る。


「…何をしているんだ、お前は」


「朝の準備体操でありますっ!」


 きおつけー! まずは両手を上に上げて、さん、はいっ!


「そんなモノは外でやれ。それと、今日は魚が食いたい。ロブに夕食までに魚を獲ってくるように言っておけ」

「ははぁーっ!」


 今度こそワダニは立ち去った。

 ふう。

 今のはちょっと、焦ったぜ。

 次から挑発行為は止めておこう。


 しかし、犬のくせにアイツ、魚も食べるのか。

 骨とか見せたら、どういう反応をするんだろう?

 …いやいや、「ほれ、取ってこい」って投げて、素直にあのワダニが取ってくるわけが無いだろう。素直に取ってきたら取ってきたで、後が怖い。


「魚か」


 ロブに伝えると、彼は(うなず)いて、小屋の奥から釣り竿を二本と、ざる、それに空の桶を持って戻って来た。


「それで釣れるんですか?」


「ああ、釣れるぞ」


 ホントかなあ?

 ともあれ、俺が何も釣り上げられなくても、ロブがなんとかしてくれるだろう。

 聞いてよ、ロブえもん、今日もワダニに鞭で打たれたんだよ!


 トカゲ(ロドル)に干し草のエサをやり、小屋を掃除し、薪を割って、朝食を取ってから、俺とロブは出かけた。

 昨日、水汲みした川で魚も釣れるらしい。


 ちょっと遠いんだよね、あそこ。


 歩いて一時間くらいかな?

 時計が無いので時間も不明だ。

 不便である。


 今日もロドルに荷台をセットし、空の桶を四つほど、積んでいる。

 ロブがそれで全部だと言ったので、この家にある桶は、全部で十五個くらいなのだろう。

 一日で桶を四つくらい消費するようだ。

 となると、三日に一度は水汲みに出かけなければならない。

 

 水道って偉大だなあ…。


 荷台に揺られつつ、そう思う。

 今日も俺は荷台に乗っているが、ロブは歩きだ。

 先輩を差し置いて荷車に乗っていると、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。


「ロブさんは、筋肉痛にはならないんですか?」


 あれだけ畑仕事をしていたが、ロブは痛そうなそぶりは見せていない。


「時々、なる。痛いなら、サロン草を貼れば良い」


 おっ?

 何やら便利アイテムの予感が致しますですよ?

 それにしても、どこかで聞いたような名前だな。


「そ、そのサロン草はどこに?」


「この先」


「おお。じゃ、寄ってもらっても…?」


「いいぞ」


 ロブは優しいなあ。ワダニは滅茶苦茶だが、他の人はまともな人が多い気がする。


 ここに生えていると言うので、ロドルの手綱をいったん道の脇の木にくくりつけ、森の中に入る。


「どんな感じの草なんですか? サロン草って」


「これくらいの高さで、葉っぱがデカい」


 ロブが自分の腰の辺りを手で示す。一メートルくらいか。

 筋肉痛を早くどうにかしたいので、自分でも探す。


 ん?


 アレは何だ?


 草むらに、ぷよんとした透明な液体が、半固形という感じで、落ちている。

 直径は一メートルくらいだろうか。

 なんだありゃ?

 液体にしては、真ん中が盛り上がり過ぎてるんだけど…


「うお!」


 動いた!

 今、プルッて勝手に動いたよ!

 何それ怖い。


「どうした? ああ、スライムか」


 ロブは何でも無いように言うと、近くの木の枝をバキッと折り、その半透明の液体の塊に近づく。

 そして、そのまま枝でスライムを突き刺した。


「これでいい」


 スライムはグチャッと潰れて、動かなくなった。

 どうやら死んだようだ。

 

「倒したんですか?」


 枝を捨てたロブに聞く。


「ああ。弱いからな」


「そうですか…ハッ! こ、この近くにはモンスターが大量に?」


 慌てて周囲を見回す。

 たとえスライムと言えども、囲まれたら危ないのではなかろうか。


「いや、そんなにいない。たまにだ」


「本当ですね?」


「本当だ」


 なら、大丈夫だろう。

 凄く弱そうだったし、一撃だ。

 俺でも多分、一撃か二撃。

 動きも遅かったし。


「あの液体に触ったら、皮膚が溶けるとか、そういう危険なことは?」


「無い。触っても臭くなるだけだ」


「なるほど」


 スライムの死骸を観察する。

 ぶよぶよした透明のゼリーのような塊。

 その真ん中に緑色のコアのようなモノがあるのだが、それは半透明で、しかもさっきロブが潰したので、どういう形だったのかはよく分からない。


「うえ、くっさ」


 鼻を近づけて嗅ぐと、ドブのような臭いがした。


「ユーイチ、あったぞ。サロン草だ」


「おお」


 ロブの所へ急いで行く。足の筋肉が痛いが、これさえ有れば。

 どの程度、効くのかね。


「これを、こうちぎって、痛いところに貼れば、痛みが取れる」


 ロブが自分の左腕に葉っぱをくっつける。葉っぱはかなり水分を含んでいる様子で、べたっと上手くくっついてくれるようだ。


「ああ、この匂いは」


 鼻にツンとくる刺激臭は、アレだ、湿布の匂いだ。


「じゃ、さっそく、むっ!」


 ブチッと葉っぱを取ったはいいが、その拍子に汁が飛んできた。

 それが目に入った。


「うえ、散った。ぐお、目がぁ! 目がぁ!」


 滲みるぅ。


「目に入ると、滲みるから気を付けろ」


 はう、それを早く言って欲しかった!

 いや、水分の多い葉っぱと、刺激臭と、筋肉痛に効く効能、それにこの草の名前で予想出来て当たり前だった。

 迂闊。


「川で目を洗え」


「そうですね。次から、危ないことがあったら、早めに言っておいて下さい」


「ああ、わかった」


 頼むよ? ロブ君。


 サロン草の葉を、太股、ふくらはぎ、両腕、背中、腰と、貼れるだけ貼って、川に向かう。

 ロブが俺を見て変な顔をしていたが、気にしない。


「ああ…極楽、極楽。気持ちいい…」


 すーっと冷えて癒やされる感じだ。

 これで筋肉痛がどの程度回復するかはまだ様子を見ないと分からないが、予備のサロン草も採って集めておいたので、明日から楽になるだろう。意外に長く日持ちするそうだ。


 鬼に金棒、奴隷(オレ)にサロン草


 いえ、別に強くはならないですけどね。

 元から強くないし。

 だが、この手のアイテムは他にも必ずあるはずだ。


 俺は、ほんの少しだけだが、希望が湧いていた。


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