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異世界の闇軍師  作者: まさな
第四章 侯爵令嬢

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第六話 ヌール子爵領

2016/6/25 「むう」修正(;´Д`)

 ようやく街に着いたはいいが、この街では入場料が要るという。


「ええ? ちょっと待って下さい。先月は10ゴールドだったじゃないですか」


 頭にターバンを巻いた商人風の男が、門番の兵士達に抗議しているのが見えた。


「うるさい。先月は先月、今月は今月だ。嫌なら入らなくて良いぞ」


「む、むう。ふう、分かりましたよ」


 商人は諦めたように懐から財布袋を取りだした。


「よし、入って良いぞ」


 何枚の銅貨を渡したかまでは見えなかったが、そんなにたくさんの数では無いだろう。 


「20ゴールドね。じゃ、私がまとめて払うわ」


 ティーナがそう言って、財布袋を取りだして兵士のところに行く。


「三人分、60ゴールドでいいですね?」


「ええ、ですが念のため、身分を明かしてもらえますか? お嬢様」


 さっきとは打って変わり、兵士が丁寧な口を利く。だが、まずいなあ、これって明らかにティーナを貴族か何かと勘違いした様子。


「あ、ううん、私、平民の冒険者なんですけど…」


 ティーナも少し困ったように申し出る。


「なに? じゃ、冒険者カードを見せてみろ」


「はい」


「むっ、ふん! 家の名も無いくせに、成金どもめ。お前らは一人30ゴールドだ」


 うわ、簡単に値上がりしたよ。しかも勝手に勘違いしたのはそっちだろうに。


「ええ? それ、冒険者だからなんですか?」


「そうだ。平民のくせに良い装備の冒険者は、今から30ゴールドだ」


 これだと、好き勝手に入場料をつり上げて懐に入れられるよね?

 いくら楽して儲かるとは言え、こういう兵士にはなりたくないな。


「ちょっと! 徴税決定権は領主の専権事項、アンタ達が勝手に決めて良い訳ないでしょ」


 ティーナが怒る。


「むむ」


「うるさいぞ! 冒険者風情がヌール子爵様の兵に口答えして良いと思っているのか!」

 

 別の兵士が怒鳴る。

 わあ、なんかヤバいよ、ヤバいよ。


「口答えくらい、構わないと思うけど? それより、あなたたちがそんないい加減なやり方で税を取ってる方が大問題よ」


「この女!」


 ついに一人の兵士が剣を抜く。

 ティーナはいつでも剣を抜けるように少し腰を低くして身構えたが、恐れた風では無い。


「お、お待ちを。一人30ゴールドでよろしいのですね?」


 このままだと斬り合いになると判断して、仲裁を試みる。


「ダメだ。奴隷は引っ込んでろ。兵士に口答えする奴は一人50ゴールドだ」


「いいや、襲いかかってきたことにして、牢にぶち込んでやったらどうだ?」


「それもいいな」


「む、罪をでっち上げるなど、それが誇り高きミッドランドの兵のすることか!」


 ティーナが腰に手をやろうとする。まずい。


「抜くなよ! ティーナ。それを抜いたら、本当にしゃれにならなくなる。平民が騎士を斬ったら重罪だろ」


「ええ? でも、あなたたち、騎士じゃないわよね?」


「むむ」


「答えなさい。私は今、地位を問うた。平民が騎士のフリをすれば、身分偽称罪、打ち首もあるわよ?」


「チッ。俺たちは平民だ」


「ほら、やっぱり」


 ええ? こいつら、平民のくせに、同じ平民のティーナにあんなに居丈高に出てたの? 

 いくらバックが付いてる役人だからって、やり過ぎじゃないのか。

 とは言え、そこは俺もよく分からない分野なので、今は無視して収拾に入る。


「では、一人50ゴールドでよろしいのですね? あまりころころ変えられても困るのですが」


「ダメよ。30、いえ、きちんと決まり通り、20ゴールドでしょう。子爵様のフリをしないのならね」


 しかし、なおも強気に出るティーナ。

 それが吉と出るか、凶と出るか。


「ふん、変な言いがかりをするな。20ゴールドだ。さっさと出せ」


 うわ、そっちが正解か…完全に俺の予想は外れた。


「じゃ、はい」


「ふん」


 通って良さそうなので、さっさと通る。思い切りこっちを睨んでるけど、後で何かされそうで怖い。


「最っ低の兵士ね」


 少し遠ざかったところで、ティーナが振り向いて言った。


「ティーナ、後で話がある。パーティー会議だ」


「む。分かったわよ。じゃ、宿を取りましょう」


「ふう、どうなるかと焦ったニャー…」

 

 宿に入り、部屋でさっきの出来事についての反省会議。

 何か困ったり言いたいことがあればいつでも良いとティーナは俺たちに言っている。それならばと、重要なことはきちんと時間を取ってみんなで話し合うよう、会議方式を俺が提案した。全員に了承してもらっている。

 

 間違いなく、さっきのはパーティーにとっても、俺の命にとっても重大な案件だ。


「じゃ、第四回パーティー会議を始めたいと思います」


 ティーナが真面目に宣言。

 すでに四回目となったパーティー会議だが、第一回はパーティーの方針について、第二回は部屋割りについて、第三回はリムの要求により魚のメニューをどうするか、そんな事を話し合っている。割とどうでも良いことや、すでに決まっていることの確認のためだったりするが、こういう大事なときにすぐ会議が出来るのは大きい。

 組織の一人一人が問題認識を共有する上でも非常に重要だ。


「案件については、さっきの出来事でいいのよね?」


「ああ。門番の兵士と揉める必要があったのかどうか、そこからまず聞きたい」


「むぅ。ミッドランドの騎士として、ああ言う不正は見逃せないわ」


「君は今は平民だろ。それで、不正とは具体的になんだ?」


「徴税権の侵害よ。徴税の額を決めるのはその領地を治める領主のみ。国王から任命も受けていない者が、しかも平民が勝手に決めちゃダメなのよ」


「ふむ。だが、その不正が実際に行われていたとしてもだ、君がそれを正すために警察官と裁判官をやろうとするのは間違いだろう」


「待ってよ。不正はあなたも目にした通りよ。勝手に値上げしてたし」


「そうだが、現場の裁量権ってのもあるんじゃないのか? 領主様にこの件を伝えて、それはまかり成らんと言う話なら、君が全面的に正しいことになるが、それくらいなら構わんぞと言う可能性もあるんだろ?」


「む、それは…」


 有るようだ。やだねー、こういう法整備が整ってない封建制度って。いい加減だろうと不正であろうと権力者の思うがままだ。


「あの場で俺が止めなかったら、斬り合いになって、僕らは全員、斬り殺されてたかもしれない。生き残っても牢屋行きや賞金首だ。この認識に間違いは無いな?」


「待って、そこは間違いとは言わないけど、牢屋に入れられたとしても、まだ手はあるわ。それより、警察官って何?」


「ああ、治安を担当する、犯人を捕まえる兵士という意味だ」


「そう。確かに、平民の私が、裁判までやるのは間違いでしょうね」


「捕まえるのは有りなのか?」


「それは有りでしょう。平民であっても、悪人を見逃さねばならないって決まりは無いわよ。それに、相手は平民だった」


「ふむ」


 ティーナも、まるきり無鉄砲で行動したわけでは無かったようだ。

 しかしねえ…。


「で、でも、ティーナ、いくらなんでも、兵と揉めるのはまずいニャ」


 普段はこういう話には興味を示さないリムだが、さすがに危機感を持ったようだ。


「揉めようと思ったわけじゃ無いんだけど、ええ、その点については、私個人としても、リーダーとしても、手際が悪かったと認めましょう。謝るわ」


「じゃ、次から、平民らしく、長いものには巻かれて、愛想笑いして適当にやり過ごしてくれるね?」

 

 どう見てもコイツ、平民では無いので、ここは優しく言っておくことにする。


「ううん、不正でなければね」


「ダメじゃん! それだと、さっきみたいな事があったら、また君は剣を抜いてバッサリ、俺たちは何も無くても兵殺しの罪で牢屋行きだ」


「いや、殺しはしないわよ。腕も私の方が上だったし」


「だが、鉄の鎧が四人だぞ? それに、勝ったとしてもだ、悪人にされるのは俺たちの方だ」


「むぅ。でも、いえ、仮に目撃者も買収されるなり脅されるなりして私たちが牢屋行きになったとしましょう。それでも、まだ私には挽回する手が有ったから、そこまで気にすることでは無いわ」


「いやいやいや、牢屋に入れられた後で看守でも人質に取って無双して脱獄しようっての? 君の腕が確かなのは認めてやるけど、そこまで過信するのは愚か者だぞ?」


「もう。誰がそんな無双するとか言ってるのよ。私は、牢屋に入れられた後でもひっくり返す方法を知ってるだけよ。剣を使わずにね」


「具体的に、どうやるんだ?」


「それは、…内緒」


 ティーナが軽く肩をすくめる。


「内緒でも良いが、その方法、絶対確実なのか?」


「ええ。少なくとも私が名乗った時点で、処刑なりなんなりは全て延期ね」


 家の名を出して地位を明かすか。


「分かった。そこは君を信用しよう。でもな、君は何らかの理由で自分の地位は出したくないんだろ?」


「む。そうだけど、処刑されそうになったら話は別よ」


「あの場でも斬られかけてたんだし、地位を出しても良かったんじゃないのか?」


「まだ全然、斬られかけても無かったわ。臆病すぎ」


「むう。分かった。君があの場をパーティー全員守り切れるとしてもだ、もう少し平民らしくやってくれないか。こういうヒヤヒヤする場面になること自体、俺は不快だ。勘弁して欲しい」


「あたしもニャ。勘弁して欲しいニャ」


「ニー」


 ここは三対一だ。


「む…」


「あの兵士達の不正が問題なら、あとで領主様に訴えるなり、手はあるだろう」


 ティーナの目的も正義感から来ていることだろうから、そちらも別の方法を示してやる。


「むむ…」


 待つ。

 ティーナも冷静なときは賢い人間だから、ここで非を認めなくとも、何か改善はしてくれるだろう。


「ごめんなさい。私が、少し間違えてたわ」


「そうか。具体的に、どこを?」


「不正の正し方よ。なるほどね、証拠を集めて、武に頼らず、か…」


「うん?」


 ティーナは何か別のことに納得した様子だったが、まあ、いい。

 次からはもっとまともな行動を取ってくれるはずだ。


「じゃ、それでいいや。これからどうする?」


「そうね。私は、色々、聞き込みをやってみるわ。あの様子だと、他にもぼったくられた人がいるだろうし」


 俺が聞いたのは、今後のスケジュールだったのだが、ティーナはきっちり、あの兵士達の不正は片付けるつもりらしい。ま、好きにさせておこう。


「そうか。滞在は二日三日の予定か?」


「ああ、いえ、もう少しかかるかも。みんなは、この街を急いで出ないといけないような予定があるの?」


「無い」

「無いニャー」

「ニー」


「そ。じゃあ、ひとまず、三日はここにいましょう。まだ南東に行く必要があるけど、こっちの用件が終わってからよ」


「分かった」


「じゃ、会議はお終いで良いわね?」


「ああ」


 ティーナが自分の本当の目的を俺に話してくれない以上、こちらも動きようが無い。

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