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異世界の闇軍師  作者: まさな
第四章 侯爵令嬢

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第三話 報酬

2016/10/2 誤字修正。

「おい、町長様がお会いになるそうだ」


「ようやくかよ」


「待たせやがって」


 冒険者達がぶつくさ言いつつも、顔がニヤけている。

 そりゃそうだ、誰だって、報酬の事を考えるもんな。


 おいくらくらい、もらえるんでしょう?


「ティーナ、どれくらいもらえるかな?」


 聞いてみる。


「さあ? 金貨10枚くらい?」


 10万ゴールド。日本円で…、いや、そんなにくれるとは思えない。街の中に侵入されたわけでも無いし、何より、冒険者の人数が多い。今、ここにいるのは二十名ほどだが、戦っていたときには五十名くらいいたと思う。パーティーのリーダーがまず受け取り、それから分配という方式だろう。

 五十人に二千万円ずつとか、無いわー。


「おいおい、ティーナ、そいつぁ、ちょっと強欲にも程があるってもんだ」


 ラッドがおどけたように両手を広げて言う。


「むっ!」


 強欲と言われた事が気に障ったか、眉間にしわを寄せまくってラッドを睨むティーナ。

 ラッドはニヤニヤするだけ。


「ま、相手はゴブリンだからな。せいぜい、一人につき銀貨一枚と言うところか。小さな街だしな」


 ビクトールが歩きながら言う。

 一人頭、1000ゴールド。日本円で20万円。それも微妙な気がするが、ビクトールは上限で言っている。


「よしてくれ。旦那までそう言うと、皆が期待しすぎて、後で揉めても知らないぜ? 要請(クエスト)はゴブリン殲滅、街の防衛を入れたとしてもだ、大銅貨5枚が御の字ってもんよ」


 ラッドが言う。

 500ゴールド。日本円で10万円。

 日当のバイトとしては、かなりの物だと思うが、下手したら死ぬし、実際に二人死んでるし。

 もう一度10万円払うからやってくれと言われても、俺はお断りだ。


「ああ、まあ、そんな物だろうな」


「そりゃ、働きに応じて、俺らや旦那が多くもらうのは当然だろうけどな」


 などと、ラッドが自分の報酬の上乗せを狙ったか、大きな声で言う。


「おい、ラッド、最後のボスを倒した事は認めてやるが、たかがゴブリン、そう違いはねえだろうが。ビクトールさんを出しに使うのはよしな」


 大斧を持ったヒゲ親父が言う。


「ふん、ボスと雑魚を一緒にするって言うなら、今度一緒にダンジョンでも潜ろうぜ。俺らのパーティーが雑魚相手にするから、お前らのパーティーでボスを頼むぜ」


「むう…」


 渋い顔になったヒゲ親父は、それは割に合わないと思ったのだろう。


「ちょっと、よしなさいよ。誰がどれだけもらうかは、町長が決める事よ。もらう前から仲間割れなんて、みっともないったらありゃしない。鉄壁のビクトールなんてもてはやされてるからどれだけの男かと思ったら、幻滅ね」


 金髪のツーサイドアップのボウガン持ち、リサが仲裁に入ったが、ほぼ無関係のビクトールさんに難癖付けるのは止めて欲しい。


「おいおい、ビクトールの旦那は関係ねえだろ。悪かった、俺の軽口で気を悪くしたようだから、文句のある奴は後で酒場に来い。全員、俺が一杯、奢ってやる」


 ラッドがそう言うと、あちこちから口笛が鳴った。


「よし、ラッドの奢りだ! 今日はとことん、飲み明かすぜ!」


「応ッ!」


 ここだけ、凄い団結力。


「い、一杯だけだぞ! 全部じゃねえからな!」


 明らかに焦っているラッドは、途中までは格好良かったんだが。


「そちらに整列して下さい!」


 町長の家の使用人か、普通の布の服を着た男が先ほどから繰り返し呼びかけている。だが、冒険者達、ほとんど言うことを聞いていない。中には、屋敷の中でも覗いてやろうと思ったか、裏庭へ向かって歩いて行こうとする者や、正面玄関に近づく者もいて、大丈夫かな。

 下手したら小学生以下の団体だ。武器を持ってるから、余計に(たち)が悪い。


「おうおうおう、てめえら、さっさと整列しねえか。除名にするぞ、コラ」


 一番の悪玉と言った感じの巨漢が、濁声(ダミごえ)を上げる。


「やっべ、トーマスだ」


「ギルドマスターが来てんのかよ」


 ささっと戻って集まってきた冒険者達、あっという間に整列。


「おほん、では、皆さん、今回のご協力、大変、ありがとうございました」

 

 紺色のジャケットを着たそれなりに身なりの良い男が、咳払いをして笑顔で言う。

 これが町長だろうか? 

 ちょっと若すぎる感じ。まだ二十そこそこと言った風貌。髪の毛は白色だが。

 

「おい、町長はどうした!」


 整列している冒険者の一角から、声が上がる。


「ああ、これは失礼しました。私がこのヒューズの街を預かる町長のロット=ガウディと申します。ご存じなかった方はお見知りおきを」


「あれが町長だと?」


「若いな」


「チッ、どこぞのぼんぼんか」


 名字も名乗ったから、平民ではあるまい。この世界の平民や奴隷は家の名は名乗れず、名字を持っていない。ティーナに確認済みの知識だ。


「黙って聞きやがれ」


 ざわついた冒険者の一団に、町長の隣に立つギルドマスターがぞんざいに言う。それで一応、静かになった。


「さて、長話も皆さん、お嫌いでしょうし、さっそく、報酬の受け渡しと参りましょう」


「よっ! 町長、待ってました!」


 ここだけ、愛想が良くなる冒険者達。


「では、一人頭大銅貨三枚、特に働きの有った方には一枚上乗せでお支払いさせて頂きます」


「三枚? ケチくさいな」


「あれだけの数のゴブリンを全部退治したんだぞ?」


 気が抜けたような感じになったが、一応、抗議する冒険者達。ただ、本気で交渉していると言うよりは、完全に愚痴だ。


「私としても心苦しいのですが、見ての通りヒューズは小さな街です。税の集まりも少なく、財政は火の車、お察し下さい。代わりにと言ってはなんですが、冒険者の皆さんに限り、酒場の飲み放題をご用意させて頂きました」


「おお」


 なるほど、酒を振る舞うことで、報酬の費用を安く上げようとしたか。酒はそれなりの値段かもしれないが、この世界では食料品は安い。若いがやり手の町長のようだ。 


「合い言葉はヒューズの未来に乾杯、お勘定の際にお申し出下さい」


「なんだ、それを早く言えや」


「よし、ラッドと町長の奢りだ! 飲み明かすぞ、てめえら!」


「応!」


「い、いや、俺は奢らなくても、もういいんじゃねえのか?」


 とラッドが言っているが、みんな聞いてない。心配しなくても、ラッドに支払い請求は来ないと思うが。


「では、こちらの方から、順にどうぞ! なお、上乗せの方は後回しとなります!」


「おし、じゃあ、俺だな」


「いや、俺も活躍したぜ?」


 立ち止まる冒険者達。まあ、気持ちは分かるが、全員って事は無いから。


「さっさと、並ばねえか! 上乗せは、ビクトール、ラッドのパーティー、ヤック、リサ、それと、そこの嬢ちゃんに黒いローブの薬師だけだ。すっトロい奴は分け前無しにするぞ!」


「そりゃねえよ、親分」


 わあ。親分って呼ばれてるんだ。まあ、似合う。凄く似合うけど、なんだか、これじゃ冒険者ギルドってまるで…ううん、荒事専門で、底辺が集まるんだろうなあ…。


「ありがとうございました。これからも街の人々のためにご活躍を期待しておりますよ」


 などと、一人一人に笑顔で大銅貨を手渡しして握手している町長。報酬はしょぼいが、ああ言われて悪い気はしないだろう。


「おうよ、任せときな」


「当然のことをしたまでだ」


 なんて、格好付けて答える冒険者も多い。


「ふうん、こんな感じでやるんだ」


 と、割と興味深そうに眺めているティーナ。


「ティーナは、こういう報酬は初めて?」

 

 聞いてみる。


「ええ。個人やギルドのクエストでもらったことはあるんだけど、町長は初めてね」


「ふうん」


 ま、町長がわざわざ出てくるのは珍しいと思う。普通は冒険者ギルド協会を通してだろうし。


「それでは、ビクトールさんは最後に」


「いや、ボスを倒したのはラッドのパーティーだと聞いた。ろくに戦って無い俺が出しゃばるのもあれだからな。トリはラッドにしてやってくれ」


「分かりました」


「すまねえな、旦那」


「気にするな」


「じゃ、あたしからもらうわね」


 リサがそう言って大銅貨を四枚受け取り、町長と握手。


 続いて、よく知らない冒険者。あの場にいたっけな?


「ヤックさん、この度は、お悔やみ申し上げます」


 先ほどまで笑顔で受け渡しをやっていた町長が一転、悲しそうな顔になる。


「ふん、ま、街も救われた。ポールもそれで少しは浮かばれるだろうさ」


 ああ、あの油断してボスに首をやられた冒険者の片割れか。

 微妙に心苦しい。

 俺のせいじゃ無い。…とは思うんだが、あの注意喚起は、ちょっと藪蛇だったよなあ。


 俺が油断するなと声を掛けなければ、ポールは死ななかったんじゃなかろうか…。


「ええ。領主様にはこの街の英雄ポールの活躍もきちんとご報告させてもらいます」


「ああ、そうしてやってくれ。幸い、アイツは家族もいない」


「はい」


 ヤックはそのまま帰るかと思われたが、俺の方へやってきた。

 むむ。


「坊主、お前が油断するなと注意してくれたよな。ポールも感謝してると思うぜ」


 そう言って、ぽんと肩を叩かれ、むう、涙腺が。


「あれはユーイチのせいじゃないよ」


 ティーナも言ってくれた。


「そうね」

「そうだ」


 やべえ、なにみんな、優しくしてくれちゃってるの?

 くっそ、涙腺が。

 泣く場面じゃないんだがなー。


「ま、気にするのも分かるが、ユーイチ、同じパーティーの仲間でも無い奴に辛気くさく泣くのはやめておけ。ヤックだってこの場は我慢して立ち去ったんだからよ。一番悲しいのは相方のヤックだったと思うぜ」


 ラッドが言うが、その通りだろう。むしろヤックは、俺を問い詰めたり一発殴ったとしても、不思議では無かった。


「ええ、そうですね。すみません」


「じゃっ! 皆さんを待たせてもあれですし、ささ、報酬の方を。ユーイチさん」


 町長が明るく言う。


「あ、はい」


「勇者ユーイチよ、ビクトールさんと協力し負傷者の治療に努めて頂き、さらに、中級の雷の呪文で多数のモンスターを打ち破り、さらにさらに、的確な指示で戦況を勝利に導いた手腕、このロット、誠に感服しております」


「いや、さすがに持ち上げすぎですから…」

 

 勇者って呼ばれちゃったし、凄く気分、良いけどね。

 むしろ、戦場で誰がどのように活躍したか、きちんと調べて覚えている町長に感服だ。

 この人、スゲえやり手だろ。

 それとも、このくらいはどこも普通なのかな?


「いやいや、実際、大したもんだったぜ。俺も雷の呪文、見たのはこれが初めてだったしな」


 ラッドが言う。今回、戦闘に参加した中で最高レベルの冒険者が言うのだから、割とレアな呪文なのだろう。

 ビクトールは何も言わないので、彼はもう雷の呪文を何度か見たことがあるようだが。


「指示もできれば、大したもんだ」


 ビクトールも言う。


「うん、思ったより頑張ってくれたしね」


 ティーナが笑顔で頷く。


「ええ、悪くなかったと思うわよ」


 リサもそう言ってくれたが、ちょっと辛口な評価だ。

 

「では、続いて、剣士ティーナ」


「はい」


「見事なレイピア捌きで敵を蹴散らし、戦況を有利に運び、また、ユーイチとリムのパーティーリーダーとして快くヒューズの危機に立ち向かって下さったこと、感謝します」


「いえ、当然のことですから」


 さらっと笑顔で返すティーナも、落ち着いているというか。


「続いて、鉄壁のビクトール。あなたがこの街に滞在していた幸運を私は神に感謝せずにはいられません」


「大袈裟だ町長。俺がいなくても、負けは無かったぜ」


「それでも、あなたの名はこの界隈では知れ渡っております。冒険者の士気に大きく影響したのは疑う余地も無いでしょう」


「どうだかな。ま、さっさと報酬をくれや」


「分かりました」


 適当に町長と握手したビクトールは、拍手が巻き起こると照れくさそうにしていた。


「最後に、ヒューズの冒険者ギルドが誇る英雄、ラッド、アッシュ、トラッド、バズ。あなた方の活躍は歴史に残る物となるでしょう」


「いやいや、そんな大層なもんじゃねえよ。あんまりおだてんなって。ドラゴンじゃねえんだぞ。ゴブリンだぞ」


 それでも一番の活躍には違いない。拍手しておく。


「じゃ、酒場でぱーっとやるか」


 ラッドが言う。


「その前に!」

 

 町長が割と鋭い声で口を挟んだ。


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