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異世界の闇軍師  作者: まさな
第四章 侯爵令嬢

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第一話 命を大事に

2016/10/30 若干修正。 

 ゴブリン軍との戦いは終わった。

 二人ほど犠牲者が出てしまったが、あれだけの大軍モンスターを相手に街を守り切ったのだ。

 正直、二度はやりたくないが、ちょっと誇らしい。


「じゃ、リム、私たちは町長のところに行ってくるから」


 と、ティーナ。


「うん。いってらー」


 俺たちが泊まった宿のベッドの上で、手を振るリム。


 昨日、ゴブリン軍による街の襲撃を撃退した冒険者の俺たちは、その功績を称えられ、町長直々に報酬を頂ける事になった。長々とした式典ならお断りしたいところだが、その辺は町長側も分かっているようで、報酬を渡して雑談する程度で終わるそうだ。


 報酬を受け取るだけなら、パーティーリーダーであるティーナが一人で行ってくればいいのだが、付いてきて欲しいと言うので、俺も一緒だ。リムは町長には面倒臭そうだから会いたくないと言うので、一人でお留守番だ。クロは俺に付いてくる様子。


「アイツ一人に留守番をさせるのは激しく不安だな」


 宿の外に出たところで俺が言う。


「ええ? 待ってるだけなら、誰でも出来ると思うけど」


「いやいやいや」


「それに、銀貨も一枚、渡してきたから、何かあっても大丈夫よ」


「銀貨を渡したのか…」


 俺の不安がかえって増大した。この世界の銀貨は、1000ゴールド、金貨に次いで価値のある硬貨だ。日本円にして20万円。バカ猫には過ぎたお小遣いだ。


「ええ、少ないって事は無いでしょう? 夕方には私たちも戻るんだし」


「いや、逆だ。なぜアイツに、そこまでの大金を持たせたのか。全部魚になって帰ってきても知らんぞ」


「え、ええ? まさか。いくらリムでも、自分が食べきれない魚は買ってこないと思うわよ」


「だと良いが」


 不安だ。


「服でも買ってくるわよ。女の子なんだし。それより、ユーイチ、昨日は疲れたからって、うやむやにしたままだったけど、私に攻撃させなかった件と、あの変なゴブリンの件、じっくり、話し合いましょうか」


「ううん、まだ根に持ってるのか」


「そうじゃなくて、どうしてあそこで、レベル制限なんてする必要があったのか、そこをちょっとね」


「それを、根に持つと言う」


「むぅ。だって、彼らとレベル差も実力の差も有ったのは私も認めるけど、でもね、戦えないって程じゃ無かったと思うんだ」


「ふむ。まあ、一対一でなければ、致命的な事にはならなかったかもな」


「でしょう? あの場にはレベル24が三人もいて、彼らの事情で押し切られた感じだったけど、私が四人目として包囲してても不思議じゃ無かったわ。装備も一番良いのだし」


「つまり、金持ちのお嬢様としてはだ、庶民が自分より活躍するのが許せなかったと、こう仰せで?」


 あえてそう言ってみる。


「ちょっと…ふざけないで。私がいつ、そんな事を言ったのよ。私はただ、あの場での最善の戦闘方法について、あなたと方針の違いがあるようだから、それを今のうちに詰めておこうと思って。

 余裕のある戦いじゃなかったわ。実際、油断した冒険者は一撃でやられたし。だから、私はなぜ待機させられたかを聞いておきたいの。これって、そんなにおかしな考え方かしら」


 これは反省が必要だろう。俺の反省だけど。

 ティーナは別に、見栄や不満でこの話を持ち出しているのでは無かったようだ。


「悪かった、リーダー、今のは言い過ぎた。それに、君の言うことも、もっともだ。じゃ、その点についてだけど、俺の戦略というか、作戦だな。これは命を最優先に、だ」


「ええ、私だってそのつもりよ」


「ふうん? だが、君がリスクを負っているじゃないか」


「最小限のリスクは取らなきゃ仕方ないでしょう。でも、四人で戦う方が、三人より危険が少ないと思うわ」


「連携の問題が無ければ、と言う条件付きだが、認めよう」


「それ、結局認めてないじゃない。仮に、連携の問題が無ければ良かった訳?」


「いや、その場合は俺としては反対する材料は無かったけど、君には前に出て欲しくなかったな」


「前衛が前に出るのは当たり前だけど。三人で無事に勝てたから良かったけど、誰か命を落としてたら、どうするのかしら」


「ああ、理解できた。つまり、君はあの他のパーティーの命も大事にしようとしてたわけだな」


「当たり前でしょう?」


「俺は、自分のパーティーを最優先に考えていた」


「ああ。でも、それ、感じ悪くない? 他人は見捨てるってことよね?」


「その通りだ」


「む…」


 あっさりと認めるとは思っていなかったようで、ティーナも二の句が継げない。

 だが、ここでティーナをへこましても意味が無い。


「君の方針は、全員の命を大切にと言うことだったから、次から善処しよう」


「善処ねえ。まるでお父様、おほん、どこかの役人みたいな口を利くわね」


「君のお父さんは役人なの?」


「む。ええと…あ、そうそう、ゴブリンのことだけど」


 あからさまに話題を変えられてしまった。まあいいか。下手に詮索しても俺に得るものは無いし、ティーナの父親が役人であることはもう間違いないだろう。この世界の役人は、まあ、下っ端は平民もあるのだろうが、上はおそらく貴族や騎士階級のみ。


「ああいう組織だったゴブリンは、君も知らないんだな?」


 ティーナにまず確認しておく。


「ええ、私は出会ったことも無いし、聞いたことも無いわ。だって、ゴブリンよ? 拾った物を装備するのは知ってるけど、薬草で回復したり、あんな組織だった動きをするなんて。不気味だわ」


 他の人間にも確認が必要だが、もしも、これまでに無いゴブリンの動きだった場合、いくつか考えないといけないことが出てくる。中でも危険なのは、モンスターの進化だ。


「モンスターが進化するというのは、聞いたことがあるか?」


「えっと、進化? どう言う意味?」


 ティーナの知識レベルは俺とそう変わらないと思っていたが、この世界ではまだ進化論などは出てきていないのだろう。考古学の発展、そのための制度の進歩、論文と専門家が集まる場所、などと色々と、前提条件がある。科学では無く魔法が発達している文明か。


「つまりね、モンスターが別の種族になったみたいに、急に強くなることだよ。何匹も」


「そう言う話は、聞いたことが無いわね。突然変異は今までにも記録があるけど、えっ? それって、品種改良のことを言ってるの? そんな…」


 ふむ、品種改良はすでにこの世界でも行われていたか。まあ、掛け合わせるだけだし、偶然出来たりもするんだから、むしろ無い方が不思議か。


「魔物、モンスターだけど、彼らは種別によって強さがだいたい決まっているわ。一方で人間は装備を変えたり、鍛えたりすることで強くなる。身体能力に劣る私たちが、最大勢力として君臨しているのはレベルアップと装備、それからアイテムに依るところが大きいわね。でも、あのゴブリン達…むぅ。これは色々と調べなきゃいけないかも」


「ああ。そこは賛成だ。然るべき機関、学者や領主あたりにも報せた方が良いな」


「ええ。なら、ちょうど良いわ。今日、町長に会うんだから、それも合わせて話せば良いから」


「うん。話の持って行き方は、君に任せるよ」


 この世界での役人への対処の仕方は、ティーナの方が俺よりずっと知識があるだろう。


「分かった。あ、それと…クロちゃんの魔法のことなんだけど」


「む。それは、伏せておいてくれるか」


「そうね。クロちゃんが取り上げられては私も困るもの」


 そう言って、足下を歩くクロににっこり笑いかけるティーナ。


「ニー」


 クロも、ティーナには懐いている。


「でも、どうやって仕込んだの?」


「んー、俺も分からん」


 はっきり言って、何もしてないし。魔法はクロが勝手に覚えたとしか、言いようが無い。


「ええ? 教えてくれたって良いのに…」


「隠してるわけじゃ無いぞ。とは言え、こればっかりは、もう少し俺の信用が出てこないと分かってもらえそうに無いな」


「そう、ね」


 半信半疑のようだが、ひとまずは納得してくれたようだ。


 道具屋の看板が見えた。

 ポーションを早めに補充しておきたいところだが、今はリュックも持ってきていない。ティーナの話では、町長はお金と、この街での便宜を図ってくれるだろうとのことだった。リムが期待していたお魚は、ひょっとしたら獣人向けにあるかも知れないという程度。


「後でちゃんと寄ってあげるから」


 視線で俺の心配を察したか、良く気の付く子だ。


「そうしてくれ。ポーションは今、ゼロだからな。不安だ」


「でも、薬草はまだ持ってるんでしょう?」


「あれも残り少ないな。手持ちのアロエ草は二十二枚しかない」


「充分すぎると思うけど…」

 

「持てる回復アイテムは限界まで持つべし。使ったらすぐに補充すべし。これが冒険者の鉄則だ」


「ええ? 心得にそんな事は書いてなかったと思うわよ?」


「俺が長年の研究の末に得た心得だからな」


「いや、あなた私とそんなに変わらない歳でしょう。十六だったよね?」


「それはそうだが、俺の心得は絶対に間違ってない」


「分かったわよ。別に反対した訳じゃ無いし。少し、偏執狂じみてると思うけど」


 アイテム欄が一つだけ空きを残していっぱいか、九十九個か百個でずらっと消費アイテムを揃えるのが、理想的で美しい姿だ。そこにあまり実用的な意味は無いのだけれど。


「なんと言われようと、命の大切さには代えられん」


「うーん、ま、そういうことにしておきましょ」


 その点について俺と議論しても得るものが無いと判断したか、ティーナが適当に折り合いを付けた。

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