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異世界の闇軍師  作者: まさな
第三章 ジョブは冒険者?

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第十三話 出発

2016/10/2 誤字修正。

 純粋に記録(メモ)の魔法を開発していた俺は、ほんのちょっとした軽率さのせいで失敗し、ティーナにこってり絞られた。


 美人が怒ると本当に怖いですね。

 細剣(レイピア)を鞘から抜いて鼻先でちらつかせながらの説教だったので、俺は生きた心地がしなかった。

 しかも、ティーナ、笑顔で怒ってたし。


 だが、鞭打ちは無く、暴力も振るわれずに済んだ。

 やはり、ティーナはまともだ。

 奴隷が粗相をしたら、一発殴るくらいは当然だよね、と思ってしまった俺は、こちらの悪い慣習に相当染まってしまっていたようだ。

 

 うん、相手が本当に反省して、二度とやらないというのであれば、暴力では無く諭しで、寛容さをもって機会を与えるやり方で行こう。

 

 そう心に誓った。

 もっとも、再発の恐れがあり、なおかつ、俺の生存に関わるような話であれば、容赦するつもりは無い。



 ノックがあった。

 緊張する。


「ユーイチ、朝食を取りましょう」


「はいっ」


 クロをローブのフードに入れてドアを開ける。

 ティーナがまだ怒っていたらどうしようかと心配したが、彼女は昨日のことはもう気にしていないのか、普通に笑顔だった。

 紅緋色の瞳をおそるおそる窺う俺。


「敬語で無くて良いから」


「わかった」


 なぜか、ティーナは俺を対等に扱おうとする。封建制度で身分の違いもはっきりしているこちらの世界では、平等なんて思想が流行るとも思えないのだが、まあ、考えても仕方ない。

 ティーナにとって俺が役立つ存在であれば、しばらくは宿代も食事も持ってくれるだろう。その間に、なんとか稼ぐ算段は付けておきたい。


「リム、開けるわよ」


 一方のリムは、獣人だからなのか、身分の違いをすっ飛ばして、種族の違いの方に目が行くというか、何というか。

 リムも俺を奴隷扱いはしていないのだが、アホの子だから、あまり深く考えていないだけだろう。礼儀作法も色々教えないとね、とティーナがため息をつくほどだ。

 今も、こうしてせっかくの暖かい羽毛ベッドなのに、腹を出して大の字で寝相悪く寝入っていた。枕に噛みついていて、ヨダレが垂れているが、きっと魚を食べる幸せな夢でも見ているのだろう。


「リム、朝よ。いい加減に起きなさい」


 シーツをティーナが引っ張り上げ、枕も取り上げようとするが、噛みついたまま、宙ぶらりんになっても目覚めない強者。


「寝てる振り…とかじゃ無いのよね?」


 怪訝な顔で俺にも確認するティーナ。


「俺もよく知らんが、飯の匂いに反応して目が覚めてたな。リム、朝ご飯だぞー」


「ニャ! お魚かニャ?」


 すぐさま左右を見回すリムは、食欲が全てらしい。


「さあ、どうかしらね。下に降りるわよ」


 残念ながら、今日の宿の朝食に魚は無かった。少し残念そうに肩を落としたリムだが、ここの宿のパンが割合に美味しいせいか、笑顔でがつがつ食べている。


「じゃ、一応、ドットのところへ寄って、問題無さそうなら、次の街へ行こうと思うの」


 ティーナが上品にパンを小さくちぎって口に放り込み、飲み込み終わってからそう言った。南東へ行きたいと話していたのですでに俺たちパーティーは了承済みだ。リーダーはもちろん、俺では無くティーナである。俺は奴隷だものね。


「ああ。分かった」


 俺は当然だという顔でそう言い、自分が食べているパンを小さくちぎり、こっそり、足下へ差し出してやる。クロも食事中なのだ。さすがに、この世界にはペットに人間様の食事を出す宿は無いようで、予めティーナから、宿屋の主人に怒られたらクロを部屋に戻すように言われている。今のところはセーフだ。

 一方、食事も満足に取れていないドットの母親の病状が不安だが、たとえ治っていなくとも、ティーナとしてはこれ以上は待たないと言う決定なのだろう。一週間も寝込んでいるからタダの風邪では無いだろうが、命にすぐ関わる感じでもなかったし、いずれこの街の医者も帰ってくるだろう。

 冷たいようだが、なんて前置きもするつもりも無い。初対面のスラム街の親子に、そこまでする義務も義理も無いのだから。

 高価な薬を無償で与え、何度も訪れて食事も作ってやっただけで、過剰な善意だろう。そう言えば、ティーナのカルマは低かったが、今までもこんな行動を続けていたからか。

 それだけに、今後、誰かにつけ込まれるのでは無いかとパーティーの一員としては懸念するほどだ。


「リムもそれでいいわね?」


 食べることに夢中になっているリムに、ティーナが確認を取る。


「んあ? ニャにが? このスープ、旨いニャー」


「ふう、ご主人、スープのお代わり、もらえるかしら?」


「あいよ」


 ティーナが追加注文してやり、リムは上機嫌で出発に同意していた。


「じゃ、行きましょうか」


 宿はチェックアウトして、元は山賊の物だった大トカゲ(ロドル)をちゃっかり頂き、ドットの家に向かう。


「あ、ティーナ姉ちゃん、ユーイチ!」


 ドットの明るい笑顔が救いだ。食事を作ってくれたティーナには一番感謝しているようで、扱いがお姉ちゃんだ。


「どう? お母さんの様子」


「うん! それが、あれから咳も止まってさ。な、おっかあ」


「ええ、本当にありがとうございました」


 顔色も良くなっており、咳が止まったなら、大丈夫だろう。黄色い花の月見草は咳の病気に効果有りか。覚えておこう。


「じゃ、これ、後で二人で食べて」


 ティーナが宿で包んでもらったパンを包みの布ごと渡す。


「わあ、美味しそう」


「申し訳ございません、お嬢様。このご恩は必ず」


 母親が深々と本当に申し訳なさそうに頭を下げる。


「ああ、いえ、気にしないで下さい。じゃ、私たちはもう次の街へ行くから」


「えっ! そりゃないよ!」


 ドットが驚きついでに、そんな事を口にする。


「ドット、俺たちはボランティア団体じゃないんだ。後は自分でなんとかしろ。男だろ」


 厳しいようだが、恵んでもらえるのが当たり前だと思ってしまったら、人間、終わりだ。渋い顔を作って言う。


「はあ? 何か勘違いしてねえか、ユーイチ。ボランチ団体だか何だか知らねえけど、そうじゃねえよ。オイラの方は借りたお金、まだ返してないじゃないか」


 ああ、ドットが問題にしたのはそこか。

 くそ、格好付けて言った自分が恥ずかしい…。

 ごめんよ、ドット。


「それは気にしなくて良いから」


 ティーナが何でも無いことのように言う。


「でも」


「私たちは用事があるし、それに、ドット、お金を働いて返してくれるのはありがたいけど、すぐのことにはならないでしょ?」


「む、それは、そうだけど…」


「じゃ、またこの街には寄るから、その時にでも」


「分かった。じゃ、約束だぞ!」


「ええ」


 力一杯手を振るドットと、頭を下げっぱなしの母親に見送られつつ、俺たちはルドラの街を離れた。


「ん、元気になって良かったね、ドットのお母さん」


「そうだな」

「そうニャ」

「ニー」


「でも、あまり根を詰めて働き過ぎなきゃ良いけど…」


 ティーナが心配する。


「心配しなくても期限は切ってないし、あの親子なら大丈夫だと思うぞ」


 母親はそれなりに頭も回るようだったし、ドットもあの歳にしては働き者だ。何より、元気だし。


「そうね。まあ、取りに行くつもりは無いんだけど」


 そう言うだろうと思った。証文も形も無し。


「それは良くないニャ。きちんと約束したんだから、取りに行くニャ」


 リムは約束事は守るべきという道徳観からそう言ったのだろう。干し魚の数に換算してないよな? オマエ。


「うーん。稼げるかしら?」


「別に全額で無くても良いだろ」


 言う。あのドットが思い悩むとは思えないが、一部でも返すことができれば、双方とも気が楽になるだろう。


「ああ、そうね」


「それで、次の街ってどんなところなんだ?」


 魔術実験の不慮の事故により昨日は色々と立て込んでいて、聞く暇も無かった。


「ここから東に向かって街道沿いに四日ほど行けば、ヒューズの街があるそうよ」


 この話し方だと、ティーナ自身は、そこへはまだ行ったことも無いらしい。なら、あまり詳しい情報は知らないか。


「魚は? 魚はあるかニャ?」


 リムはそれだけが気になるようで、聞く。干し魚が彼女のリュックの中に山ほど入っているし、四日で食い尽くすなんてことは無いと思うが…ううん。


「ああ、ごめん、それも聞いてなかった。次は聞くようにするね」


「頼むニャ」


 手斧は腰のベルトに引っかけ、小盾は腰の反対側にぶら下げているリム。街から街への間は、街道と言えどもモンスターや獣が出るので、武器は手放さないのが普通のようだ。

 一方の俺はロドルの荷台にリュックと杖を放置。魔法は杖が無くても使えるし。もちろん、他の二人のリュックも乗せてある。俺も荷台に座って、一番楽をしているけども。


「ティーナ、旅をする上で、必要な事は?」


 暇なので、レクチャーでも受けるか。薬草集めや魔法の鍛錬もやりたいところだが、探して歩き回ると四日の行程は俺のか弱い足が持ちそうに無いし、いざモンスターが出てきたときのために魔力は節約したい。

 この時代の旅って、相当、ヤバそうだし。

 無事に次の街へ辿り着けますように…。


「ん? 路銀と情報と武装かしら? 私を試しているの?」


「いやいや、まさか。単純に、俺が旅慣れてないから、大先輩に教えを請おうとしてるだけだよ」


「大先輩って、私もそんなに旅慣れてないわよ。馬車で連れられて王都に何度か行った事があるくらいかしらね、遠出となると」


「じゃ、リム。お前は、旅慣れてるだろ?」


「そうだニャ。一年もほっつき歩いてると、慣れるニャ。お金なんて無くても、川か海があれば、魚は捕れるニャ」


 お金が一番大事だと思っていたが、コイツと一緒にいれば、飢え死にだけはしないかも。盗賊団にいたときも魚たくさん取ってきてたし。


「モンスターはどうだ? 危ないヤツがいたら、早めに教えてくれよ」


「分かってるニャ。でも、街道を行く分には、そんなに心配は要らないニャ」


「なぜ?」


「んっ? んー? なんでかニャ」


 凄く頼りないです…。


「多分、街道って、モンスターの住処は避けて通ってるからじゃないかしら? そうしないと、強い冒険者以外は、誰も通れないでしょ」


 ティーナが推測を述べてくれるが、理に適っているし、それっぽい。


「でも、全然出てこないって訳でも無いんだろ?」


「ええ、そりゃあね。モンスターがいないのは、街やお城の中と、祝福の場だけよ」


 知らない単語が出てきた。要チェックだ。


「祝福の場?」


「ええ、なんて言ったら良いかしら、神様に祝福されて、モンスターが絶対に入ってこない場所が、時々在るの」


安全な場所(セーフティーゾーン)って事だな?」


「ええ。ただ、人間や獣人は普通に入れるから、モンスターがいないってだけよ」


 だが、無限に広がるフィールドの中で一時しのぎ出来る場所があるなら、助かるだろう。


「他に、俺が知っておいた方が良い事って、何かあるかな?」


「うーん、そうねえ…いえ、ダンジョンにも入ったし、大丈夫じゃないかな? 旅と言っても、一度も外に出たことが無いなんてことじゃ無いでしょう? なら、焚き火のやり方と、そうね、見張りをどうするか決めておきましょうか」


「焚き火のやり方は聞いてるし、ファイアスターターの枝も持ってるぞ」


「なんだ、知ってるんじゃない。私を試したのね?」


「違うって。旅慣れてないのは本当だ。何度か野営したことはあるけどな」


 そう言えば、森でサバイバルもしたっけか。


「充分じゃない。じゃ、三人いるから、野営の見張りは、私、ユーイチ、リムの順にやるわよ?」


「分かった」

「分かったニャ」

「ニー」


 俺たちは思いつくままに細々としたパーティールールを決定しながら、のんびりと次の街へ向かった。


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