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異世界の闇軍師  作者: まさな
第三章 ジョブは冒険者?

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第十二話 錬金術のアイディア


 スラム街の母子のため、病気に効くという月見草を取りに来た俺たち。

 途中、眠っているビッグクロウラーの大きさにちょっとビビったものの、戦闘に至ることも無く、無事、咲いた花を採って帰ることができた。


 さすがにその日は、みんな寝てしまっているだろうから、調合だけにして、翌朝、またパンや卵を買い付けてドットの家を訪れた。


「ああ、そんな薬まで。本当にありがとうございます…!」


 ドットの母親は感激したようにありがたがってくれた。これで治れば、いいんだけどね。

 食事をまたティーナが作って、朝食がまだの俺たちも一緒に食べる。


「じゃ、コレを飲んで下さい」


 黄色い液体のポーション。飲みやすいよう、すり潰した花びらに水を加えて、ポーションの空瓶に入れている。


「はい、頂きます」


 ドットの母親が飲み干すのを見届ける。


「どうですか?」


 ティーナが聞くが。


「ええ…」


「ま、そんなに、すぐ効いたりはしないだろうから。様子見だな」


 言う。


「そうね。じゃ、また夕方、寄ります」


「どうもすみません」


「ありがとな、ねーちゃん」


「うん」


 ドットの家を出る。


「じゃ、どうしましょうか。またダンジョンに行く?」


 ティーナがそんな事を言い出すが。


「冗談だろう。あんなところに用は無い。俺は今日は魔法の鍛錬をやるつもりだ」


「そう。まあ、好きにしてもらって良いわ。私も、そうね、剣の練習でもしようかしら」


「じゃ、あたしは魚を獲りに行ってくるニャ」


「ええ、じゃ、今日は自由行動の日にしましょう」


 宿に戻り、部屋で魔術の練習。

 メモの呪文の発明なので、外でやる必要も無いだろう。


 クロは隣で、ひたすら解除(ディスペル)の練習。

 なぜそれがお気に入りなのかは俺にはよく分からんが、好きにさせてやろう。個別の呪文の熟練度だけでなく、魔法全体の習熟度みたいなものがあれば、色々お得なはずだ。呪文の詠唱速度というパラメータがあったので、おそらく、そう言うカテゴリーの熟練度も存在すると俺は予想している。


 さあ、メモの呪文だ。


「記憶を一時保管せよ! メモ!」


 ダメだ。完全に不発。それに、メモって最後の掛け声は、なんか締まらないというか。言いにくいと言うほどでも無いが、呪文の形式から外れている気がする。できれば韻を踏みたいよね。


「思い出を書き込め! メモ!」


 不発。


「記憶のペンよ来たれ! メモ!」


 むう。

 何だろう? かなり、様式から外れているという感覚。

 このまま、キーワードを変えてもダメな気がする。


 一番、問題があると思うのは、メモの単語だ。

 コレがよろしくない。

 言い換えよう。


「記憶を保管せよ! メモランダム!」


 おお、これは良い感じだ。

 なんか、もうちょっとで行けそう。


「記憶を記せ! メモランダム!」


 発動した!


「ニー?」


「ふっふっふっ、さすが俺様。天才過ぎて、自分の才能が怖いよ、クロ」


「ニー」


 いやいや、そう褒めるな。


「ニー、ニー、ニー」


「もういいって、うん? げげ」


 クロが床と俺を交互に見ているが、床にメモという文字が黒字で書かれている。

 いや、そうじゃないでしょ。

 俺がやりたかったのは、記憶に保管したいだけであって。

 

 しかもこれ、宿屋の床だから、タダの落書きになっちゃうわけで。

 ここの宿屋はティーナが宿代を出してくれているが、グレードは高いはず。


「うわー、やべー」


 まずは拭こう。

 調合の器具を掃除する時に使ったボロ布を持ってきて、床をから拭きしてみる。

 

 ダメだ、消えやしない。油性マジックみたいな感じ。


 一階に降りて、裏手の井戸に回り、桶に水を汲む。


「ああ、アンタか。何か手伝おうか?」


 などと、要らないときに宿屋の主人が無駄にサービス精神を出してくれるし!


「いえっ、結構です」


 そそくさと、何食わぬ顔で桶を部屋に持って上がり、布を濡らして絞り、拭く。


「うわあ。このインク、何のインクなんだよ。ひょっとして材質ごと変えたのか?」


「ニー…」


 仕方ない。ここは、魔術には魔術で、やるしかない。


「灰は灰に、塵は塵に…」


 いや、遊んでる場合では無かった。ついね、何となくね。


 では、お掃除呪文を発明するとしますか。


「床よ、消え去れーっ!」


 なんてやると、さらにとんでもない事になる予感がするので、もう少し文言を考えてからにしよう。


 まず、対象の認識だ。

 

 この落書きをどう特定するか。

 まあ、この落書きと指定すれば確実なんだろうけど、それだと今後の汎用性が無い。

 せっかく今は時間があるのだし、じっくり魔法の開発に取り組んでもいいだろう。


 インク。

 違うな。それだとインクしか消せないし、インクで書かれた大切な物まで消しそうで怖い。


 (よご)れ。

 うん、コレだろう。(けが)れとやると、さらに文学的で俺的には好みだけど、違うモノが消えるかもしれず、あまり自信がない。

 ついでに、範囲指定の単語も入れておこう。俺の魔力の限界を超えるような魔術になると、詠唱する呪文の単語が正しくても不発になってしまうだろうし。


 次に、動詞だ。

 消すというのが、最も簡単で思いつきやすい言葉だが、もう一工夫しておきたい。間違えて床を消したら、取り返しが付かない気がするし。


 返す…、戻す…、戻れ。

 うん、この辺だろう。

 還れとやると、時間を遡りそうで良い感じだ。


 …床が木に戻ったりはしないよね?

 そこは対象を汚れに指定してあるから、平気だろう。

 今の失敗でちょっと臆病になってしまっているな。


 大丈夫、今度は問題ない。

 確認が大事だ。

 何事も。


「我の前に在りし汚れよ、元に還れ! クリーニング!」


 うおっ、一発で発動しちゃった。

 ちょっと怖い。


 ドキドキしながら、床を確かめると、床が綺麗になっていた。


「ふう、助かった…」


「ニー」


 クロをナデナデして一呼吸入れ、メモの呪文に再び取りかかる。

 唱えること、四十回以上。 


「記憶を分かちて封じよ、メモリー!」


 もうこれでダメなら諦めちゃおうかな、なんて思っていると、上手く発動した。

 あれだな、俺の意識が多分に反映されてるね。


 つまり、メモの呼び出しはこうだ。


「封じた記憶を分かちて戻せ、メモリー!」


 他の人が唱えて、同様の効果があるのか疑問になってくるが、とにかく、これで目的は達成した。


 メモウインドウと名付けられた半透明のウインドウに、今唱えた呪文をメモっておいた。

 ちなみに、俺の意識を集中させれば、ウインドウの濃度も自由に調整可能だ。

 他人に見せるか見せないかも、俺の自由に調整できる。ただし、このメモウインドウに限った話だ。


「ニーニーニー、ニー!」


 クロがメモリーの呪文を唱えたようだが、不発。


「ニー…」


「ふむ、ま、気にするな。俺しか使えないみたいだ」


 俺だけの専用呪文。ふっ、効果はメモするだけだけどね。


「どうせなら、プリントアウトしたいなあ」


 そう思ったが、何度やっても、紙は出てこなかった。どうやら、この呪文には材料が不足しているか、俺のレベルが足りないのだろう。

 無から有を作るのはまず無理だと思うし、この世界に存在しない上質の紙だったりすると、相当、厳しいことになるだろう。


「いや、待てよ? そうか、組み合わせれば良いんだ」


 紙の材料はパルプの木だ。似たような木を探してきて、呪文で加工するか、いざとなれば、スキルシステムでごり押しして、紙を自力で作ってしまえば良い。


「おお! 武器も防具も、お金も自分で作れる?」


 やっべ!

 そう、文字通りの錬金術だ。


 キタコレ。


 ついでに、お姫様も金髪エルフもロリっ娘も、錬金術で作っちゃおうかな。

 ムフフ。


「お。ちょっと試してみるか」


 さすがに、本物の人間なんて今はどう考えても無理だろうが、さっきの落書きの呪文、使えるかも。


「記憶を記せ! メモランダム!」


 もちろん、床では無く、ボロ布に試す。


「うお、やった…」


 裸のティーナ(俺の想像図)がボロ布に印刷されている。


「ニー…」


 なんだクロ、その残念そうな顔は。


「これはあれだ、芸術だ」


「ニー? フゥ」


 ため息までつかれちゃったよ。


 しかし、白黒ってのが残念だね。もっとカラーで、写真のように鮮明に行かないかな。

 呪文をいじる前に、頭の中のイメージを調整し、唱えてみる。


「記憶を記せ! メモランダム! くっ、ダメか…」


 黒いインクしか出ないらしい。

 ならば…。


 色々試してみようと思ったとき、ノックがあった。


「ユーイチ、入るわよ」


 ふおっ! ティーナだ。

 いかん!


「ま、待て待て待て!」


「ええ? 着替え中なの?」


「そんなところだ。ええと、我の前に在りし汚れよ、元に還れ! クリーニング!」


 これで証拠隠滅は完璧、そう思ったのだが。


「き、消えないだとぅー?」


「ねえ、何やってるの? 入るわよ」


「わー! 待て待て待て! いやーん!」


 待てというのに、待ってくれないティーナ。

 ひとまず、後ろ手に隠す。


 こちらをジトッとした目で見るティーナ。


「今、何を隠したのかしら? ユーイチ」


 ああ、そんな、神様。

 俺は自分が絶体絶命の窮地に立たされていることを覚った。


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