第十話 エルフの少女
2016/10/28 若干修正。
ダンジョンのボスを倒した。当分の間、ネコミミは要らないです…。
「さて、宝箱が有るわね」
「お宝を開けるニャー!」
「その前に、全員、回復させておこう」
慎重な俺は言う。
「ええ? もう敵はこの部屋にはいないけど」
「それでもだ」
薬草を食べて、全員回復。
今日の消費、十五枚か。ポーション、使わなくても行けたなあ。まあいいか。あの時は回復量も分からなかったし。万が一、足りてなかったら悲惨だ。
魔力切れのため、罠の探知魔法は使えないので、リムがそのまま開ける。だが、罠は無いようだ。
「お魚ー!」
そうリムが叫んで中身を取りだしたが、まあ、無いよな。
「ムー、ニャんだコレ」
白い羊皮紙の巻物。
「あっ! 俺に見せてくれ。呪文のスクロールかも」
使える魔法だと良いなあ。
「呪文~? あたしは使えないから、要らないニャ。ふう」
リムから巻物を受け取り、紐を解いて広げてみる。
「なになに? 三連突きの極意、む、まさか」
「あっ! それ、技の秘伝書よ。私が使えると思うから、見せて」
「ああ。俺はそんなの要らない。ふう」
ティーナが羊皮紙を読む。
「へえ、なるほど、ここをこうして、一気に重ねるように、か。分かったかも」
そう言ってティーナが立ち上がり、細剣を構え、気合いの声と共に突き出す。
「せいっ! わぁ、出来た!」
「よし、拍手ー、おめでとう」
正直どうでも良いのだが、一応、パーティー組んでるし。
「おめっとさんニャ」
「ありがとう。あ、羊皮紙が」
見ると、白い羊皮紙は黒くボロボロになっていた。
「ニャニャ? あ、あたしは触ってないニャ! 違うニャ!」
「分かってるわよ。リム。多分、これ、誰かが技を覚えたら、もう使えなくなるんだと思う。お父様から聞いたことがあるわ。秘伝書よ」
「つまり、宝箱を開けたり、それを手に入れた奴に、限定ってことか」
「ええ。中には強力な技もあるらしいけど…まあ、別に、一度習得した技なら、他人に教えられないって事は無いと思うけど、技って難しいのは何年もかかるって言うから」
本当なら何度も真似て練習するところを、ゲーム的要素で一発で覚えられるというわけか。
頭に入れておこう。
他にお宝は無く、ちょっと拍子抜け。
「じゃあ、戻りましょうか」
「戻るニャ!」
「そうだな」
「ニー」
みんなでボス部屋を出る。目の前にはまた迷路。
「ああ、そうか、ボスを倒した後も考えなきゃいけないのか…」
ちょっと衝撃。ゲームによっては帰還魔法があるが、こういうリアルな世界では無さそうに思える。一応、聞いておくか。
「ティーナ、一発で街に飛んで帰る呪文とか、知ってる?」
「さあ、そんなの聞いたこと無いわね。有れば凄く便利そうだけど」
「有れば、便利だろうなあ」
俺が発明してみようか。
…いや…、テレポートは相当、高度な呪文だろうし、失敗したときが怖い。
「そうね。でも、無いものは仕方ないじゃない。歩いて帰るわよ」
「ああ。じゃ、敵が出てくるし、気を抜かないように行くか」
「ええ」
「ニャ!」
「ニー」
階段へ直行する。
その途中、高めの少女の声が聞こえてきた。
「…をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
バチバチっと、電気特有の音。
これは!
「誰か魔法で戦ってるの?」
「行ってみよう!」
あれは稲妻の呪文で間違いない。上手く行けば、教えてもらえるかも。
「ええ? ちょっとユーイチ」
声のした方向へ向かって走ると、広間に紺色のローブを着た金髪ツインテールの少女がいて、多数のビッグフロッグに囲まれていた。うち四匹が煙を上げて魔石に変わったが、金髪少女が魔法で倒したに違いない。
「きゃっ!」
だが、敵は多数、一人で戦うのは無茶だ。
金髪少女はビッグフロッグの舌の攻撃を受けて転んだ。
なら迷うことは無い。
モンスターのカエルと、ツインテールの金髪美少女なら、たとえ世界を敵に回したとしても、俺はツインテールを取る。
「これを食べて。薬草だ」
駆け寄り、少女を助け起こし、アロエ草を三枚渡す。
「む、ポーションは無いの?」
「生憎と切らしてる」
「ええ? 仕方ないわねえ…」
俺の手からぶんどるようにして薬草を取ると、その小さな口に放り込む少女。耳がとんがっていて、おおお、エルフだ…。
ややつり目の瞳の色は深めのブルー。鼻が低いのと下あごが小さいので幼く見える。
体格は華奢。
薬草を一枚、食べ終わったのを確認して、彼女の手を引っ張る。
「こっちへ」
「ちょっと! 触らないで!」
振り払われてしまった。だが、敵に囲まれている状態は、危険なんだけど。
「くっ、いって!」
案の定、一匹が舌を飛ばしてきて、俺に命中。
「ユーイチ、早く、こっちへ!」
入り口近くでティーナとリムがカエルを牽制している。あそこだと少数の人数でも囲まれずに済む。良い防衛ラインだ。
「あそこへ行けば、安全だ。移動しよう」
「嫌よ」
なぜですか…。
「いて!」
むう、カエル共め、ちょっとタンマ! 空気読んで!
「何してるのよ、もう」
ティーナが見かねてやってきてくれた。
「すまん。この子が、動こうとしないんだ」
「怪我をしてるの?」
「そうじゃないけど、人間共の力なんて借りるつもりは無いわ」
そう言って立ち上がるエルフ。
「ええ? これだけの数よ? あなただって一人じゃ危ないんじゃないの?」
「それがどうしたのよ。雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮を持って天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
呪文を唱えたエルフの杖から、青白い閃光がほとばしり、直線上にいた三匹のカエルが感電すると、煙を吐いて魔石へと変わった。
凄い。アレを一撃か。しかも複数。
「いたっ!」
だが、別のカエルの舌攻撃を受け、のけぞるエルフ。
ううん、俺が何か魔法を使えればいいんだが、ボスで使い切っていて、今すぐは無理だ。
「仕方ない、リム、こっちへ来てくれ」
「いいけど、広すぎるニャ。防ぎきれニャい」
「それでもいい。この子が魔法でなんとかしてくれるだろう」
「む。そう言うアンタも魔法使いでしょ。何か使いなさいよ」
エルフの子がそう言うのも当然だろうけど。
「それが、今、切らしちゃっててね」
「ええ? 使えない…」
俺もやる気だけはあるんですけどね。
何もしないよりはと思って、カエルを樫の杖で叩く。
「うおっ!」
カエルが一斉に俺を狙って、舌を飛ばしてくるし。
「ちょっと、危ないでしょ。ユーイチはいいから下がってて」
「むう」
下がって、薬草をもぐもぐ。
何だろう? 俺だけ、妙に狙われてる感じだよね。
戦闘はしばらく続いたが、リムとティーナがカエルを全て片付けてくれた。エルフの子は呪文を唱えなかったが、魔力切れかも。
「ふう、ようやく終わったわ」
「疲れたニャー」
「じゃ、これとこれは私の魔石だから」
そう言って礼も言わずに魔石を拾い始めるエルフ。
ううん、人間嫌いなのかなあ。
「礼儀知らずな奴ニャ、助けてやったのに」
「フン、誰も助けてくれなんて頼んでないけど」
「ええ? 何よ、あれ…」
さすがのティーナも不快に思った様子。
自分の魔石だけ拾い終えた彼女は、こちらをちらっと見て、ぷいっと顔を背け、去って行った。
一応、人間のカテゴリーだろうし、人助けをしたのは間違いないと思うが、なんだかなあ。
「すまん、俺の判断ミスだ」
「いいわよ。別に。でも、お礼の一つくらい、有っても良さそうなものだけど」
「そうニャ。魔石の一つくらい、くれても良さそうなもんニャ」
愚痴を言っていても仕方ないので、全員で手分けして魔石を拾い集め、ダンジョンを出た。
「エルフって、人間が嫌いなのか?」
「さあ? でも、彼らの里には入れたがらないって聞いたことがあるわ。迷いの森に住んでて、普通の人間は入れないの」
なら、普通に嫌ってそうだ。その理由。
「あれか? エルフの血が錬金術に使えるとか、そう言う理由?」
「それはデマだって聞いたけど。三百年前にエルフと人間が戦争をやって、多分、それでじゃないかしら」
「それか。まあ、仕方ないか」
俺には関係の無いことだが、それを主張しても仕方ない。
うん、前向きに行こう。あのエルフはダメだったけど、友好的で親切で甘えてくるエルフも探せばいるかも知れないし。




