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異世界の闇軍師  作者: まさな
第三章 ジョブは冒険者?

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第九話 ワーキャット

2016/10/28 若干修正。

「ここも、上と変わらないわね」


 俺たちはルドラのダンジョンの地下二階へ移動している。五十センチくらいの長細い石のブロックを積み上げて作られたダンジョンだが、誰が何の目的で作ったかは不明だ。

 

「敵の分布が変わるかも知れない。注意していこう」


 ゲームなら階層が下に行くほど強い敵が出てくるのがセオリーだから、俺は皆に注意を促しておく。


「ええ」


 最初に出てきたのは、ビッグスパイダー六匹。数が多いが、うちのパーティーの前衛は優秀で一匹も後ろに寄せ付けないので、楽勝だった。後衛も俺とクロがファイアを唱えると一撃で倒せるので、火力も充分。


「うーん、人数が多いとやっぱり楽ね」


 ティーナが歩きながら、そんな感想を漏らす。


「今まで一人でやってたニャ?」


「ええ、最初のダンジョンは、他のパーティーに誘われて組んだけど、二回目は一人で潜ったわ」


 無謀と言うか、チャレンジャーと言うか。


「そのダンジョンはこんなに数は出てこなかったんだけど、二匹敵が出てくるとそれでもう結構キツイというか、時間が掛かってたのよねえ」


「いざと言うときもあるし、一人は止めておいた方が良いぞ」


 心配なので言った。


「そうね。ま、あなたたちはしばらく付いてきてくれるのよね?」


「ティーナは気前が良いし、金持ちだからいつまでも付いて行くニャー」


 現金な猫。干し魚を買ってもらってご機嫌だ。


「俺も今は行く当てが無いし、当分だろうな」


 いずれは元世界に帰る予定だが、今はどうしようも無い。


「ニー」


 クロもそのつもりらしい。


「そ。じゃ、ひとまずは、私の目的が終わるまでは、付いてきてもらおうかしら」


「分かったニャ!」

「ああ」

「ニー」


 通路を進む。俺の呪文の残り回数はあと十回くらいだろう。なので、地下三階へ行くと言いだしたら、無理せずギブアップさせてもらう。

 …一人で帰れ、なんて言わないよな?


「あ、ここ、狭いわね。こっちとこっちに壁があるし、向こう側はもう通路が無さそう」


 マップを見つつ、ティーナが言う。


「そうだな」


 行ける場所は、マップの上側と下側だけだ。


「上から行きましょうか」


「ああ」


 探索を続ける。


「宝箱ニャ!」


「じゃ、ちょっと待ってろよ」


 探知(ディテクト)の呪文を唱えたが、今度は赤く宝箱が光り、罠が有る様子。


「罠がある」


「ええ? どうしようか」


「ひとまず開けてみるニャ」


「おい」


 俺が止める間もなく、リムは勝手に宝箱を開けてしまう。


「痛っ!」


 リムが宝箱を落としてさっと手を引っ込める。


「ええ? 大丈夫?」


「なんか、針が刺さったニャ。ムー」


「見せてみろ。ああ、毒針だな」


 リムの左手の親指の付け根あたりが赤く膨らんで腫れ上がっており、中心部はすでにどす黒い。


「ニャニャ!」


「安心しろ。コレを食べればすぐ治るはずだ」


 こんなこともあろうかと。ずっと持ち歩いていた毒消し草を渡す。


「匂いはまあまあだけど、全然、美味しくないニャ」


「薬草はそんなもんだ」


 良薬口に苦しって言うしな。


「手はどうなの?」


 ティーナがリムに聞く。


「んー、気分は楽になったけど、ああ、治ってきた」


 食べてそんなにすぐに効果が出るはずもないのだが、この世界の薬草は驚異的だ。


「大丈夫みたいね。さっき体力表示が紫になってたけど、あれが毒って意味?」


「だろうな。8ポイントのダメージか。割と食らったみたいだな。ほれリム、コレも食っとけ」


 アロエ草も食べさせておく。すぐにHPは満タンになった。


「元気いっっぱいニャー!」


 だが、宝箱の中身、ポーションが入っていたのだが、落とした拍子にガラス瓶が割れてしまっていた。


「これは残念ねえ」


「ごめんニャ。ちょっとびっくりしちゃったニャ」


「いや、気にしなくて良いぞ。20ゴールドの安物だ」


 薄い青色の液体がわずかに残っていたが、匂いからしても普通のアロエポーション。


「魚が二十匹は買えるニャー…」


 落ち込むリム。


「ほら、元気出して。また宝箱は見つけて取れば良いし、帰ったら今日はお魚を食べましょうか」


「ニャー! 頑張るニャー」


「良いリーダーだ」


 うんうんと頷く。ティーナは照れくさそうに肩をすくめて笑う。


「いやー、お魚で良ければ、いくらでも出すよ。ユーイチも何かあれば言ってね」


「む。じゃあ、お言葉に甘えて…、そうだな、俺は銀髪お姫様とぉ、金髪エルフとぉ、ロリっ娘…はうっ! そ、その剣は?」


 俺の喉元に、すでに抜き放った細剣の刃が。


「いえ、何かしら? ちょっと殺意が湧いちゃって」


 にっこり笑うティーナ。


「エエエ? も、もちろん、今のは軽いジョークなんだけど」


「ええ、だろうと思ったわ。当然よね」


 ティーナは細剣を鞘に戻した。

 訂正。恐ろしいリーダーだった…。


「じゃ、行くわよ」


「は、はいニャ」

「お、おう」

「ニ、ニー」


 付いて行く。


「ああ、また宝箱だ」


 ティーナが見つけた。


「じゃ、まずは呪文だな」


 毒針をイメージしつつ、探知(ディテクト)の呪文。


「毒針の罠は無さそうだ。じゃあ、他の…」


「じゃ、開けるニャー!」


「あっ! だから、待てと言うに」


「ムッ!」


「どうしたの!? また何か別の罠?」


「違うニャ! これ、空っぽニャ」


 リムが不満げに蓋の開いた小箱を逆さにする。


「ええ? 空箱があるのか…」

 

 脱力。そう言えば、ゲームにもたまにあったな。これで罠だけ引っかかった日には落ち込みそうだ。


「いえ、無いことも無いけど、ほら、ここを見て。パンくずと、水をこぼした感じのシミが出来てるわ。誰か、先に来て、宝箱を開けたんじゃないかしら」


 なるほど、ティーナの指差したところには、確かに、今し方、冒険者がいた形跡があった。


「ニャー! 先を越されたニャ! 頭に来るニャー。さっさと追い越すニャ!」


「ええ? ちょっと待ちなさい、リム。敵もいるんだから、危ないわよ」


 先行したリムを呼び止めるティーナ。そのままバカ猫が先に行ったらどうしようかと思ったが、そこはリムも最低限の理性はあるようで落ち着いてくれた。


「分かったニャ。でも、急ぐニャ」


「ううん、でも、ここの宝箱って、そんなに美味しくないのよね…」


「そうだけど、そう言う問題じゃ無いニャ! あたしの宝を横取りされるのは、我慢ならないニャ!」


「ええ? でも、こういうダンジョンの宝は」


「いや、リムの言うとおりだな。よし、先を急ごう! ただし、敵の不意打ちを食らったら、余計に時間を食うかも知れないし、そこは慎重にな」


「ガッテンニャ!」


「扱いが上手いわねえ」


「伝説のビーストテイマーが目標だからな。猫限定だけど」


「伝説の?」


「ティーナは知らないから、まあ、暇があったら教えるよ」


「そう」


 索敵しながら通路を進むと、中央に木のドアのある、いかにもな部屋に辿り着いた。


「ボス部屋ね」


 ティーナが言う。


「むう。今日はもう帰らないか?」


 魔法の残りは半分を切っている。薬草は山ほど有るが…。


「ええ? なんでそうなるニャ? 多分、ここが最後ニャ。行くニャー」


「ええ? やる気だなあ」


「ユーイチは、ワーキャット、見たかったんじゃないの?」


「ハッ! ボスでございましたか…。じゃ、お前ら、装備の最終チェックだ。抜かるなよ!」


 きびきびと指示。俺も薬草の確認。バリアの呪文も唱える。


「扱いが上手いニャ」


「ふっ、リーダーだもんね」


「ニー…」


 念のため、薬草とポーションをリムとティーナに分けて渡し、ボス部屋の扉に手を掛ける。


 いよいよ、上半身裸の猫娘とご対面です。

 下まで見えてたらどうしましょ?

 いや、まさかそんな事は無いよね?


 ふおおお…!


 で、でも、不可抗力だもんね?

 ボスだから、目をそらしてたら、危ないし?


 初めて俺は異世界に来て良かったなあと、しみじみ思った。


「行くわよ!」

「ニャ!」

「ニー!」


 さあ、向こうに桃源郷が!


 そう思うと、変に緊張してきた。


「あっ、ごめん、ちょっと待って」


「何よ…」 


「いや、ホントごめん。ちょっと心の準備が。深呼吸させてくれ」


「ニャー、気が抜けるニャ。早くするニャ、ユーイチ」


「ごめんごめん。よし、いいぞ」


 どんな娘かな? どんな娘かな?


 ドアを開けて、俺たちは一斉に部屋になだれ込み、そして見た。


「にゃんですと!?」


 ボスを見て、俺は凍り付く。


「じゃ、リム、挟み撃ちよ。ユーイチやクロに向かわせないように」


「分かってるニャ」


 凄くがっかりだ。ってか、二人とも、全然、気にしてないなー。


「おいー。何だよ、コレ」


 確かに、そこにいるのはワーキャットだ。しかも全身裸。


 だが、オスだ。

 しかも、全身、毛むくじゃらだ。

 いや、オスの時点で、裸なんて見たくも無いけどさ!


 帰っていいですか?


「ユーイチ、そっち行った!」


「げっ! 何してるの前衛」


 とは言え、二人だけでボスを囲み切るのは難しいだろう。

 とにかく俺は逃げようとするが、ボスの方が足が速い。


「くっそ!」


 逃げ切れないと覚って、樫の杖を構える。

 猫パンチ!

 上手く樫の杖で受け止められたが、

 重っ!


「ぐえっ」


 耐えきれずに、その場に転ばされる。


「「 ユーイチ! 」」


 ボスのワーキャットはさらに容赦なく、俺に飛びかかってきた。

 うえ、マウントポジション!?


「させないっ!」


 ティーナが横から細剣を突き出す。


「ギャース!」


 忌々しそうに咆えたワーキャットは、すぐに俺から飛び退いた。


 ふう、死ぬかと思った。


 いかん…何浮かれてたんだ、俺は。

 

 今はそれどころじゃ無かった。

 

 俺一人なら、あの扉から逃げられるかも知れないが、ティーナもリムもクロも戦ってる。

 見捨ててはいけないだろう。


「すまん、何とか時間を稼いでくれ」


「ええ!」


 ティーナはこちらを振り向かず、ボスに視線を固定したままだが、俺の申し出を了解してくれた。リムもちゃんと戦っている。


 壁際まで下がって、呪文を唱える。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!」


「シャアアッ!」


 ワーキャットの顔を狙ったが、やはり熱かったらしく、首を激しくブルブルと振るボス。

 そこへ、リムが手斧を叩き込む。


「ギャアッ!」


 よし、効いている。

 リムとティーナもボスに殴られて、それなりのダメージは受けているが、深くは無い。


 回復アイテムは充分にある。


 これなら行けそうだ。


「体力が半分になったら、下がってポーションを使え」


 指示する。


「ええ、分かったわ」


「コイツ、すばしっこいニャ」


 リムの攻撃は、時折、ボスに回避されて空振りさせられる。


「大振りは避けて。そこっ!」


 ティーナがそうアドバイスしつつ、細剣を横に振るう。


「ギャース!」


 強いダメージは入っていないようだが、ヒットを優先させる作戦か。


 俺ももう一度、ファイアを唱える。クロも唱えた。


「今だ!」


 ボスが炎の呪文で怯んだところに、二人が左右から同時に攻撃に入る。

 決まった。

 充分に力を乗せたクリーンヒット。


 だが、ボスはまだ倒れない。


「むぅ、焦らずに行きましょう」


「分かったニャ」


 攻防が続き、六度目のファイアを撃ち込む。

 ひょっとして炎に耐性があるんじゃないかと不安になるが、怯ませて足止めする効果は充分にあるので、前衛の力を信じて俺はそのまま炎を唱え続ける。


「ごめん、リム、体力回復させるから、少し足止め、お願い」


 きつくなったようでティーナが言う。彼女の体力(HP)も半分を切った。


「任せるニャ!」


 ティーナが下がってポーションを飲む間、俺も炎の呪文をクロとはタイミングをずらして当てて、時間を稼ぐ。


「ありがと! もういいわ」


「リム、今度はお前だ。下がってポーションを使え」


「まだ平気ニャ!」


「いや、先に回復しておけ。ポーション一つじゃ、全快しない。ピンチになってからだとキツイぞ」


「ムゥ、分かったニャ」


 今度はティーナが足止め。だが、ボスが動きを変え、俺をターゲットにした。


「くそ」


「ユーイチ! 逃げて」


「逃げられないっての」


 また樫の杖で猫パンチを受け止めようとしたが、続けざまに反対の手で猫パンチ。


「ぐっ!」


「ユーイチ!」


 重い…。


 薬を飲んで回復したリムと、ティーナがボスを追い払ってくれたから追撃を受けずに済んだが、俺が連続攻撃を食らうと危ない気がする。

 そう思ってたら、またボスがこっち見やがった。


「マジかよ」


 迷うことなく、ポーションを使う。これで、ポーションは全て無くなった。後は薬草が頼りだ。


「ええい、いい加減に!」

「倒れるニャ!」


 ティーナとリムが必死に攻撃し続ける。

 ボスも動きが鈍り始め、ダメージはかなり行っているはずだ。


「ニー…」


 クロの呪文が尽きたか。


「いいぞ、端の方で大人しくしててくれ」


「ニー…」


 さて、どうなるか。


 薬草の回復力がそこそこあれば、問題は無い。が、数ポイントしか回復しないようだと、数がいくら有っても追いつかなくなるかも。


「ティーナ、ちょっと薬草、食べてみてくれ」


「むぅ、分かった」


 あまり気が進まないようだが、薬草を出して食べるティーナ。

 体力バーに注意するが、回復は30ポイント前後。

 行ける。


「ん、大丈夫ね」


「ああ」


「じゃ、あたしも食べるニャー」


 薬草を食べつつ、攻撃を続ける。


「ユーイチ、魔法、尽きたの?」


「いや、まだ一発分、温存してる」


「そう。じゃ、さっさと使って」


「むう、分かった」


 ピンチになった時のために、と思ったのだがティーナがそう言うなら、彼女を信じるとしよう。


 いつもより、集中を高めて、威力が上がるよう、魔力を込める。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!」


 難なく命中。

 点火場所を予め決められるので、ボスが激しく動いていないときなら、問題ない。

 コイツの動きのパターンも掴んだ。


「今よ!」


「ほいニャ!」


 ティーナとリムも勝手が掴めてきたか、全体重を乗せて、大振りの一撃。


「ギャアアアア!」


 ワーキャットが大きく咆え、だが、崩れ落ちた。


「お、終わった…」


「やったニャ-!」


 かなり長い戦いだった。盗賊達と戦ったマッシュマンよりずっと強かった。

 だが、俺たちは勝ったのだ。

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