第八話 ルドラのダンジョン
2016/10/28 若干修正。
「さあ急ぐぞ二人とも!」
意気揚々と言う俺は、ルドラの街のすぐ近くにあるダンジョンの中にいる。
新品の装備である樫の杖に明かりの呪文を唱え、後衛のくせに先頭を切ろうかという勢いだ。
パーティーメンバーは、俺、ティーナ、リム、そして子猫のクロ。
「どうでもいいけど、なんでワーキャットにそんなに興味を示すのよ?」
ティーナが腑に落ちないという顔をしている。分かってない奴。
ネコミミだぞ?
しかも、猫族の扱いでは無く、モンスターだと言うではないか。
裸のメスのワーキャット!
それに抗える男がいようか。否! いやしない。
「おほん、純粋に学術的興味だ」
「凄く嘘臭いんだけど…」
「黙らっしゃい。せっかく俺がやる気を見せてるんだから。お前らの目的もここでちょっと腕試しだったんだろ?
晴れて一丸となったパーティーの熱い心を無駄にするんじゃ無い」
「いや、そこまで熱い心を前面に出されてもね…」
「まー、そのつもりでここに来たんだから、細かいことは良いニャ。新しい装備も試してみたいニャ!」
手斧と小盾をカツンカツンと当てるリム。鬼に金棒だ。
「分かったわ。じゃ、隊列はさっき決めたとおりでいいわね」
「ああ」
剣士のティーナと狩人のリムが前衛で、魔術士の俺が後衛。魔法が使える子猫のクロも後衛だ。体長二十五センチの猫ではどうやっても前衛は務まらんし。
「じゃ、行くニャー!」
リムが嬉しそうに手斧を掲げ、俺たちはいろんな意味でワクワクしながらダンジョンに入った。
「おっと、少し待ってくれ」
人工的な石畳の通路に入ったところで、俺は気づいた。
「何ニャ?」
「マッピングの呪文を唱える」
「ああ。どうぞ。待っててあげるわよ、それくらい。別に広いダンジョンでも無いって言うし、必要ないとは思うけど」
ティーナはそう言うが、熟練度を上げるためには、効果的に使う機会を活かした方が良いはずだ。
「我らが地図となりて道を示せ、マッパー!」
対象を個人では無く、パーティーに変更したが一発で成功。
「あ、こうなるんだ」
ティーナが自分の脇に出てきた半透明のMAPウインドウを見て納得したように頷く。
「ニャ! 不思議ニャ! 触れないニャ!」
リムはウインドウに向かって猫パンチを繰り出しているが、コイツに鏡を見せてやったらどうなるんだろう?
…いや、それくらいは、大丈夫な知性があると信じたい。人間の分類らしいし。
「魔法だからでしょ。それより、敵が出てきたわよ」
体長七十センチくらいある巨大な蜘蛛。どうせ名前はビッグスパイダーだろう。それがわらわらと四匹。通路に横一列に並んでそこで止まり、俺たちを威嚇するように前足を上げたりしている。
「うえ、虫のモンスターは気持ち悪いなあ」
もうね、見た目からしてアウト。直視しないようにしよう。
「同感だけど、やっつけないと!」
ティーナは悲鳴を上げるどころか、細剣を抜いて一番右端の蜘蛛に下からの振り上げで斬りかかる。
同時にリムはそのまま直進して前に出ると、斧を横薙ぎに振るった。
蜘蛛が三匹、宙に舞い、仰向けにひっくり返る。が、暴れつつ起き上がった蜘蛛はダメージこそ受けたものの、まだ死なない様子。
「ニーニーニー、ニーニー、ニッ!」
クロが一番手前の蜘蛛にファイアの呪文をかます。俺もすぐさま、同じ呪文を唱え始めるが、激しく燃え上がった蜘蛛は、あっという間に黒焦げになってしまった。
おお? 凄いな。炎が弱点のようだ。
「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!」
さらに俺が一匹を倒し、残った二匹はリムとティーナがそれぞれ一撃で片付けた。
ふむ、楽勝か。
「ちょ、ちょっと待って!」
ティーナが振り向いて慌てた顔で、こちらに駆け寄ってくる。
「ん? どうした」
後ろを見るが、バックアタックでもないようだ。
「今、クロちゃんがファイア、唱えてなかった?」
「ああ、そうだぞ。コイツは、呪文が使える凄い猫だからな」
「ニー」
ちょっと照れくさそうにクロが鳴く。
「ええ? 猫が呪文、使うなんて私、初めて聞いたけど、あなたの使い魔なの?」
「いや、野良だったコイツに野苺をやったら懐いただけで、俺が作ったとか呼び出したとかじゃあないんだ」
「へえ。リムは知ってたんだ?」
「うん。火の魔法が使えるニャ」
「他にも色々使えるぞ。な、クロ」
「ニー!」
「わあ、賢いね、クロ」
にっこり笑って撫でるティーナ。
おっと、俺まで和んでる場合じゃ無かった。他にも呪文、使わないと。
「マナよ、我が呼びかけに応えて、各々の防壁と化せ! バリア!
我らが体力を様式に従って常に示せ、ステータス!」
少し詠唱を変更したが、どちらも一発で成功。失敗しつつ色々試したおかげだ。
青のバリアは物理防御の呪文。小石をぼよんっと弾き返せる程度でしかないので、気休めだが、熟練度を上げると強くなっていくだろう。
パーティーの体力の常時表示は、ゲームなら当たり前の機能だが、この世界では魔法で示す必要がある。クロも含めて四つの緑のバーが足下に出現し、左横には最大HPと現在HPが数字で並ぶ。
クロが、一番低くて、たった12ポイント。俺が33。ティーナが俺の三倍以上の108で、最高はリムの113。
レベル差もあるのだが、十倍近く差が開くと心配になってくる。
「クロ、お前は攻撃の事より、自分の回避を優先させろよ?」
「ニー…」
「ふうん? 体力が分かるのね」
「あたしが一番ニャー!」
見た目はそうでも無いが、リムは半分獣だからな。
「じゃ、いいぞ、次に行こう」
「待つニャ。魔石を集めるニャ」
モンスターの死体が消えて魔石になっている。売れば金になるんだったか。
リムとティーナが拾い集め、次へ。
「ビッグフロッグよ!」
人間より大きな、高さも横幅も二メートル近いカエル。こいつは横一列だとこの通路に二匹までしか入りそうに無い。
今は一匹で単独だが、強敵の予感。
「舌に気を付けろ! 体当たりもあるぞ」
そう言って俺はすぐさま炎の呪文に入る。弱点も炎だろう。カエルだし。
「了解!」
「分かったニャ!」
「ニー!」
みんながそれぞれ、攻撃に移る。
「うりゃ! むう、しぶとそうニャ」
「せいっ! そうねえ。弱点はどこかしら?」
斧を打ち当て、細剣を刺したが、一撃やそこらではビクともしない感じ。
幸い、ビッグフロッグはその体の重さ故か、鈍重な動きだ。
俺とクロがファイアの呪文を一発ずつかまし、さらにリムとティーナが一撃をそれぞれ入れたところで、ようやく向こうの反撃が来た。
「来るよ!」
ティーナが叫ぶ。カエルは俺をターゲットにしたようで、口を開く。
「くっ! うげっ!」
避けようとしたが、顔に食らった。
痛い…。
舌が来ると分かっていたけど、あんなの避けられねえよ…。
しかも、べとべとした粘液が、気持ち悪っ。
「もう! 教えてあげたのに。平気?」
「何とかな」
連続して食らったらヤバそうだが、単発なら、リムの一撃よりずっと軽い。それでも一応、アロエ草を食べておく。4ポイント減った体力が満タンに戻った。
「ちょっと、そんな小さいダメージでいちいちアイテム使わないで」
ヤダもん。
だって、これがゼロになったら死ぬんだよ?
この世界で死んだらどうなるかはまだ分からないが、半端なく痛いと言うことだけは分かりきっている。
「ふう、ようやく片付いたニャー」
カエルから緑の煙が出て、一瞬で魔石に変わる。
「全部で6撃か。数が出てくると厄介だな」
そこを懸念したので俺は言っておく。
「そうね。でも、横一列にはならないと思うから、順番に二匹ずつくらいで戦えるんじゃないかしら」
「ああ」
こういう通路で、大量の敵が出てくると、貫通攻撃が出来る魔法が欲しいところだが。
さすがに、ダンジョンの中で試行錯誤をやる勇気は無い。不発でも魔力を消費する場合があるし。
「何匹出てきても、あたしに任せるニャー」
リムはこういうときは頼もしくて良い。前衛が臆病じゃ務まらないしね。
通路を進む。
「待って」
ティーナが、左手を掲げて待機の合図をする。すぐ先で通路に入り口が有り、小部屋に通じているようだ。
彼女がすっと覗き込む。
「気を付けろよ」
「分かってる。大丈夫、中に敵はいないわ。でも、宝箱がある」
ほう。
「やったニャー」
すぐに飛びつこうとするリムを慌てて止める。
「待て待て!」
「なんだニャ? 早い者勝ちニャ」
パーティー組んでるはずなのに、そんな事を言いだすリム。その辺のルールも話し合っておいた方が良いな。揉めると嫌だ。
「いや、お前に開けさせてやっても良いが、罠が仕掛けられてあるかもしれないだろ。ちょっと、試したい魔法がある」
「罠か…分かったニャ。ユーイチに任せるニャ」
「ああ。我が呼びかけに応じよ、探し物はいずこや、ディテクト!」
罠をイメージしつつ、探知の呪文を唱える。
反応無しか。
「いいぞ。開けてみてくれ。多分だが、罠は無いと見た」
「開けるニャー。むう、お金ニャ。魚が出てくると思ったのに」
いやあ、リムちゃん、干し魚ならともかく、生魚なんて入ってたら腐ってると思うぞ。
「いくら入ってたの?」
「小銅貨4枚ニャ。たったのそれっぽっちニャ」
しょぼいが、それでも40ゴールドある。安宿なら四泊分だ。俺の薬草集めスキルの方が安全に金を稼げると思うが、ダンジョンも悪くないか。
「それは残念だったわね。でも、それで魚を何十匹も買えるわよ」
「おお! どんどん開けまくるニャー!」
「ええ、ふふっ」
「それはいいが、ティーナ、このダンジョンって、他の冒険者にも知られてるんだよな?」
「あ、うん、街から近いし、冒険者ギルドの人にも、オススメって言われたわ」
となると、毎回、潜る度に、ランダムで宝箱が配置されるか、一定時間で復活するのだろう。それがなぜなのかは考えるだけ野暮ってものだろう。ダンジョンのお約束。
「宝箱の事だが、これからは、みんなで順番に開けて行くのはどうかな? それだと公平だろ?」
俺が言う。
「そうね」
「いーや、早い者勝ちにするニャ! 早い者勝ちが良いニャ!」
ふっ、お前は絶対に反対すると思ったぜ、リム。
「ええ? でも、それだと、前衛の私たちが断然有利になると思うけど…」
「それに、取り合いでぶつかったりして怪我をするのも馬鹿らしいぞ。そこでだ、宝箱を開ける係はやる気のあるリムに全部譲ってやって、その代わり、後でみんなで山分けにしたらどうだろう? 公平だろ? それに全部、リムの開け放題だぞ?」
「賛成ニャ!」
チョロいな。所詮、獣。
「ええ? それでいいんだ…。まあいいけど」
「決まりニャ。宝箱は全部、あたしの物ニャー」
「ああ。しっかり開けて運んでくれよな。宝箱係さん」
「任せるニャ!」
「う、ううん…。じゃ、じゃあ、通路を左から回っていきましょうか」
「ああ」
マップが表示されたままなので、迷う心配は無い。半径十メートル範囲くらいで、地図が埋まっており、オートマッピング方式だ。熟練度が上がってくれば、可視範囲も広がるのだろう。
「敵! ビッグスパイダー、五匹!」
こちらが何も言わずとも、ティーナが言ってくれるのでそこは安心だ。
武器と魔法で難なく倒したが、途中、一匹が後ろを向いてお尻をこちらに向け、糸を飛ばしてきた。ティーナは素早く躱して何事も無かったが。
「あの糸でぐるぐる巻きにされたら、動けなくなるのかしら?」
「さあな。だが、火には弱いはずだし、剣でも切れるんじゃないのか。動きが鈍るだけかも」
一度当たって、検証するのも良いが、俺はやりたくない。べとべとになったら、服、多分、洗わないといけないと思うし。
「だといいけど、ま、その時に考えるか。リム、全部、魔石拾った?」
「バッチリニャ」
「じゃ、次、行きましょう」
時折、後ろを確認して、バックアタックにも備える。
途中でカエルを一匹また倒し、宝箱は毒消し草が二枚入っていた。アイテムが複数入っているのは今後を考えると嬉しいが、毒消しだと俺がすでに大量に持ち歩いているので、このパーティーだと一番嬉しくない宝になる。
「階段があるけど、降りるわよね?」
ティーナが確認してくるが、一階は全て回った。それほど広くないダンジョンだし、オートマッピングのおかげで楽々。これ、いちいち羊皮紙に手書きでやってたら、大変だと思う。
「もちろんニャー」
ダメージは、俺がさっきのカエルでまた一撃を受けた他は、全員無事だ。
もちろん、とっくに薬草を食べてHPは回復させている。
アロエ草、毒消し草、サロン草をそれぞれ百枚ずつ、それにロキソ草を十枚ほど、風呂敷に入れて持ち歩いているのだが、このダンジョンで使ったのはアロエ草二枚だけ。リュックの中にはポーション三つ入れてたりするのだが、ちょっと過剰だったかな?
これらの薬草は一ヶ月は持つ感じなので、それまでに新しいのを採取して常にフレッシュに保っていれば、加工の必要性もあまり感じない。ただ、食べるよりは粉末にして置いて水筒の水で飲んだ方が即効性はあるだろうし、ダメージがきつくなればエキスを煎じたポーションに頼るようになるはずだ。
「いいけど、本当にここ、ワーキャットがいるのか?」
ここまでエンカウントゼロ。気になってきたので俺もティーナに問う。
「知らないわよ。私はここ、初めてなんだから」
「下まで降りて確かめれば良いニャ」
「いいけど、リム、あなたはワーキャットとは戦えるのね?」
ティーナが確認する。
「当然ニャ。モンスター相手に怖じ気づいたりしないニャ」
「そう。まあ、同族でも無いんだろうし、いいか」
獣人とモンスターの違いか、ま、今は気にすまい。
バリアがもう切れてしまったので、再度、かけ直して階段を下に降りる。




