第六話 装備を調える(武器と防具)
2016/9/28 若干修正。
服の次は武器と防具だ。
まず、武器屋に入る。
「ああ、アンタ達か。投げナイフの調子はどうだい?」
ムキムキの店主が聞いてくれたが、没収されて使ってないんだよね。
「悪くなかったと思いますが、別の人の物なので」
「ああ」
「今日はあたしの武器を買いに来たニャ!」
リムが嬉しそうに胸を張って言う。
「そうかいそうかい。じゃ、猫の嬢ちゃんはどんなのが良いんで?」
「とにかく威力があるのが良いニャ!」
「ふむ。じゃあ、この辺か? 言っとくが、威力があるのは重いぞ」
武器屋の店主が槍や斧を持ってくる。
カウンターに置いただけでゴトンと音を立てるゴツい鉄の武器。
こんなの扱えるのか?
リムのことだから、考え無しの適当に言ってそうだけど…。
「ふふん、あたしは力持ちだから、任せーるニャー♪」
そう言って、片手で斧を持ち上げるリム。
おお? 軽々と。
「ほう、大したもんだ。やっぱり獣人は強えなあ」
「ニャッハッハッ」
リムは調子に乗って斧を振り回し始めた。危ない奴。
予め離れておいて正解だったぜ…。
「リム、そこで振り回しちゃダメよ、危ないから」
ティーナが注意する。
「おっと、そうだったニャ」
「試し斬りなら、店の裏を使ってくれ」
武器屋の店主がそう言って親指で示した。
「お、やってみるニャ!」
「ユーイチは、どうするの?」
「杖が欲しいな。ライトの魔法に使えそうなヤツ」
俺は間違っても前衛じゃ無いからな。
ゴツい武器は要らない。
と言うか、持つだけで運ぶのに苦労させられそうだ。
「ああ」
「じゃ、この辺だな」
武器屋の店主が、しょぼそうな木の杖を出して来た。
「そっちのロッドもお願い」
「あいよ」
鉄製のロッド。宝石などは付いていないが、コレで殴られても充分死ねる。
試しに持ってみると、うわあ、ズッシリ感が。手が引っ張られそうだ。
「これはダメだな」
言う。
「ううん。でも、木の杖だと、ほとんどダメージは出ないわよ?」
「いいよ。このパーティーで俺が前衛になるって事はまず無いだろうし」
「そうね」
一番小さな杖を選ぶ。軽いし、それなりに硬そうだ。敵の攻撃を素手で防ぐよりは役に立つだろう。リムの斧とかは無理だけど。
ティーナはすでに自分の細剣を持っているので、買う必要は無い。細かい装飾まで施されており、ここにある品より、ずっと上等な品だ。
裏庭に行ってみるとリムが、斧をブンブン振り回していた。
「どうだい、嬢ちゃん、手斧は」
武器屋の親父が聞く。
「良い感じニャ。剣と比べて、ちょっと届かないけど、その分、踏み込めばどうってコト無いニャ」
そう言って、凄いジャンプ力で三メートルくらいをポンポン俊敏に飛び跳ねて動くリム。
何だろう。全然期待してなかったのに、リムって強い?
「ふうん、獣人は身体能力が高いって聞いていたけれど、なかなかね。リム、ちょっと手合わせしてみましょう」
そう言って、自分の細剣を抜くティーナ。
「いいけど、怪我をしても知らないニャ」
「ふっ。その心配は要らないわ。じゃ、掛かってきなさい!」
「応ニャ!」
リムが真っ直ぐに突っ込んでいく。そのまま手斧を振りかぶり、だが、機先を制してティーナが細剣を突き出した。
「ウニャッ! 危ないニャ!」
首を素早く引っ込め、柔軟にのけぞって躱したものの、リムが目を丸くして抗議する。
「誰も反撃しないなんて言ってないわよ?」
「ムー、新しい武器を試すんじゃ無かったニャ? でも、このあちしが本気を出したら、人族なんてちょちょいのちょいニャ!」
お約束のような小物臭を出したリムはそう言うなり、また手斧を振るって駆け出す。
「振りが大きすぎよ。それじゃ避けて下さいと言ってるようなもの」
軽く上半身を横に反らすだけで躱したティーナは、攻撃はせず、余裕のアドバイス。
「ムム、すばしっこいヤツ。ふんっ!」
気合いの声を入れて斧を振り回すリムだが、かすりもしない。
「ううん、斧だとこんなものかしら。じゃ」
ティーナはそう言って立ち止まり、真正面からリムの斧を細剣で受け止めた。
細剣がぽっきり折れるんじゃ無いかと懸念したが、キンッと音を立てただけで、斧が止められた。
「そ、そんニャ…」
リムがショックを受けた様子で唖然とする。
「ふむ、さすがに良い力、持ってるわね。材質が同じだったら、ちょっと危なかったかも。じゃ、ここまでにしましょう」
ティーナが剣を鞘に収める。
「ティーナ、その剣の材質は?」
俺は気になって質問してみた。
「えっ、ああ、うん…、鋼かしら?」
また視線を泳がせてトボけた。
「そいつは聖銀だよ。しかも、相当な業物だ」
武器屋の親父が暴いてくれた。さすがプロフェッショナル。
「そ、そうなんだー。へー、私、知らなかったなー」
と、引きつり笑顔で完全な棒読みのティーナ。まあ、そこは別に詮索されたくないようだからこっちも聞かないが。
「ちょっと見せてもらっても良いか?」
頼んでみる。
なんと言ってもミスリルですよ?
ゲームでは、鋼や銀の上に位置する上質な金属。
高い魔法防御を誇っていたりと、異世界にしか存在しない幻の代物だ。
「ええ、いいけど…」
ティーナはあまり気は進まない様子だったが、鞘ごと腰から引き抜いて俺に渡してくれた。
持ってみてびっくりしたが、軽い。
さっきのロッドの半分、いや、俺が持っている木の杖とそう変わらない重さだ。
長さは一メートル二十センチくらいか。騎士のアルフレッドやトムが持っていた剣に比べると短めだ。
刃の幅も極端に細い。三センチ弱。
光沢はやや青みがかった白銀で、美しい。
「んん? おお」
手をかざして日光を遮ってみたが、ほのかにではあるが、自ら発光している。
「聖銀、特に清められた物は自分で光るそうだ」
武器屋の親父が説明してくれた。
「やはり、魔法防御も高いんですか?」
「ああ、コイツで作った鎧なら、初級魔法なんかにはビクともしないな。それでいて、エンチャントと相性が良いから、属性を付けたりもできる」
炎の剣や氷の剣だろう。
素敵な金属だ。
「じゃ、坊主、もう良いだろう。お前には過ぎた代物だ」
なおもしげしげと見つめていた俺に、武器屋の親父が言う。別に盗むつもりじゃなかったんだけどね。
「ありがとう、ティーナ」
「いいえ」
ミスリルには全く興味を示さないリムは、てふてふを追いかけて遊んでいた。
和むヤツ。
「リム、戻るぞ」
声を掛けてやる。
「はいニャ」
次は防具屋。
さっきの武器の支払いはティーナが持ってくれた。鉄の手斧は800ゴールド。約十六万円。
現代日本ならそんなにはしないと思うが、製鉄や加工の技術力がその差を生んでいるのだろう。
鍛冶屋になろうかなあ。
「ユーイチ、ブーツ、見ておいたら?」
俺はローブがあるから要らないよんオーラを全開にしていたのだが、ティーナがそう言ったので、他にも防御力アップの余地があることを覚った。
この薄めの革の靴、裸足よりはマシなんだけど、やっぱり歩きにくいし。
「そうさせてもらう」
防具屋の主人が出してくれた丈夫な革のブーツを履き比べて、自分にピッタリのサイズを見つけた。靴底も分厚いので、これなら小石を踏んでも痛くない。
「ニャー、歩きやすくなったニャ」
リムもおニューの革靴でご満悦だ。
それと、鉄の小盾。直径二十センチ程度の円盤の丸い盾。
ちょっと小さすぎるんじゃないかと思ったが、リムもティーナもそれでOKらしい。
【装備】
[リム] 手斧、革の鎧、丈夫な革のブーツ、鉄のスモールシールド
[ユーイチ] 樫の木の杖、漆黒のローブ(木綿)、丈夫な革のブーツ




