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異世界の闇軍師  作者: まさな
第三章 ジョブは冒険者?

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第二話 契約

2016/10/2 誤字修正。


 なんだか慌ただしい朝だった。

 俺とリムとクロは、乙女心が傷ついてすっかりしょげてしまったティーナをなんとかなだめ、宿の朝食をしっかり取ってから、今はティーナの部屋に戻っている。ティーナも朝食は食べたが、この世界は一日二食だから朝食はとても大事なのだ。

 しかしねえ、あれだけ盗賊相手に剣をブンブン振り回してたから、剛毅(ごうき)なお転婆娘かと思いきや、割とナイーブな一面も有ったんだなあ。俺にも責任の一端はあるので、心苦しい。後の責任は、宿屋の親父と、不可抗力だ。そこはしっかり主張し、ティーナにも言い含めておいた。


「おうちに帰れない。それに、私一生、独身だわ…」


 ベッドの上で体育座りでへこんでいるティーナ。服は当然着替えている。上等な赤い上着と、赤のミニスカート。マントは白色だけど、赤が好きなのね。


「お魚食って元気出すニャ」


 さっきから、魚をやたらプッシュしてくるリム。お前はそれで元気になれるだろうけど、悩み事がチープに思えて仕方が無いから、ちょっと黙っててくれ。


「ニー」


 今度は、クロが愛らしくティーナに体をこすりつける。乱暴に振り払われたらどうしようかと少しハラハラしたが、ティーナも猫は嫌いでは無いらしく、そっと撫でた。ふう。


「この猫、なんて名前?」


「クロだ」


「そう。ふう、黒猫だから、クロ? 安直ねえ」


「いいだろ。ルシフェルとか、アレクサンダー三世とか、熊五郎とか、寿限無とか、ひねればいいってもんでもないし」


「いや、それはひねりすぎでしょ。なんで王様みたいな名前が出てくるのよ。不遜だわ」


「あくまでものの例えだ」


 同姓同名がやたら多くて混乱の元になったり、親戚中で似たような名前を付けて、お爺ちゃんお婆ちゃんが必ず間違えて子供がムッとしたり、そう言うのもちょっと工夫が足りないが。

 かといって、個性的すぎる名前で、浮いたり名前負けしたりすると名付けられた子が可哀想だ。緊急搬送など一刻を争う医療現場では読めないキラキラネームが致命傷になりかねない。自分の名前が書けないで馬鹿にされて虐められたりというのも、間抜けな話。就活の際、人事担当がDQNネームを問題児として落とすなんて噂もある。


 名前は簡単に識別できれば、それでいい。


「ものの例えでも、不遜だって言ってるの」


「それは失礼を」


「…あー。お嫁に行けない」


 重症だな。


「大丈夫だよ、ティーナは凄く美人だし、このことを知らない男がほっとくわけ無いって」


「噂が広まったら、どうするのよ」


「あの貴族は君の名前も知らないようだったじゃないか。宿屋の主人は脅すなり口止め料を渡しておけば良い」


「そうね。ちょっと脅してくる」


 そういうところは切り替えが早いな。

 俺が付いていっても藪蛇になりそうなので、待つ。ティーナはすぐ戻って来た。


「脅してきたわ」


 そして、ベッドの上で体育座り。


「大丈夫だよ、理想の王子様は必ずやってくる!」


 根拠も何も無いが、このまま落ち込んでもらってても困るので、元気づける。


「私、王族と結婚する野心なんて無いけど…ああ言うの、かなり面倒そうだし…」


 本物の王子という意味では無かったのだが、真面目に考えるティーナ。


「まあ、格好良い男が現れるからさ」


「それ、適当に言ってるでしょ」


「むっ、い、いや、君の美少女度合いなら、充分にあり得そうな話で…」


 ちょっとしどろもどろになるが、そこは間違ってないと思う。


「ふん。ちょっと顔が良いくらいで、変態じゃ、誰も寄ってこないわ。寄ってきたとしても、あんな変態のぶくぶく親父は嫌よ」


「いや、そこはイケメンの若い変態もいるかも知れないだろ」


「変態が嫌なの!」


 さいで。

 まあ、そりゃそうだよね。

 鞭でビシバシ殴られて喜ぶ男ってのは、ちょっとぞっとする。

 うう、想像しただけで恐怖の身震いが。

 いかんいかん。

 早く忘れよう。


「私、結婚できないんだ…。それで後ろ指を指されて、うう」


 弱気だなあ。


「よし、なら結婚できそうに無かったら、俺が結婚してやるから」


 言う。


「ああ、それが良いニャ!」

「ニッ!?」


「えっ!」


 びっくりした様子でティーナが俺を見る。

 ああいや、軽い、ほんの軽い気持ちで、励まそうとしただけデスヨ?

 アンタなんか、と鼻で笑ってくれればと思って、ほら、お約束じゃない。

 俺はこの世界じゃ奴隷だし。

 元世界でもモテた事は一度も無い。


「ホントに?」


 なんて、おそるおそる聞いてこられると、ちょっと焦る。


「い、いや…」


「むう、ちょっと! 冗談で、チッ、私の心を弄んだ訳ね?」


 舌打ちしてベッドから降りて、剣を取るティーナ。

 すでに鬼の形相だ。

 怒るとすぐに剣というのは、ホント、止めて欲しい。

 暴力反対。


「ま、待て待て、誰が冗談だと言った。俺は本気だ。ティーナは美少女だし、一目惚れだ。それに、今回の一件、俺にも責任があるからな」


 早口に言う。

 一応、嘘は言ってない。

 本気で死にたくない。


「そ、そうなんだ…ええ? 一目惚れって、やだ、そんな」


 顔を赤らめるティーナ。

 ふう、何とか死なずに済みそうだ。

 鬼の顔にも照れですか?

 

「あくまで、結婚ができそうになければ、だぞ?」


 なんだか反応が怪しいので確認しておく。


「ええ、ただし、約束よ。忘れたり反故にしたらどうなるか…」


 チャッと、細剣の柄を握って音を立てるティーナ。


「お、おう…」


 俺は悪魔と契約してしまったのだろうか…?

 

 まあ、大丈夫、ティーナの美貌(びぼう)なら、結婚できないなんてことはあり得ないし。

 初めて見たときはこういう女の子と付き合ってみたいと思ったが、すぐに剣を出してくるし、ちょっと俺には荷が重い。一つ選択肢を間違えただけで、デッドエンドを迎えそうで怖いし、セーブ無しでそんなスリリングな駆け引きなんてやりたくも無い。

 お淑やかで安全な美少女、どこかにいないかな…。


「じゃ、リム、あなたが証人よ」


「任せるニャ。どんなにユーイチが言い逃れしようとも、捕まえてやるニャ」


 おいおい…。

 た、助けて、クロちゃん。あっ!


 クロがさっとドアの方へ逃げていき、だが、ドアが閉まっているので、そこで途方に暮れたか座り込んでいる。


「トイレに行きたいのかしら。ほら」


 ティーナがそちらに行って、ドアを開けてやると、クロがバッと凄い勢いで飛び出していった。

 むう、そんなにトイレに行きたかったんだったら、早く言ってくれれば良いのに、ティーナに気を取られていて気づかなかった。ごめんな、クロ。


「さてと!」


 パンッと手を叩いたティーナは、さっきまでの落ち込みが嘘のように晴れやかな顔だ。元気が戻った様子。

 それは何よりだが…。


「まあ、奴隷ってのが残念だけど、そこは色々と手はあるしね。ふふっ」


 などと俺を品定めするように上から下までじっくり眺める。

 なんだこの嫌な視線は…。

 アレだ、ライオンに睨まれたウサギとか、そんな感じだ。


「それで、お嬢様、今日のご予定は」


 話を()らすべく、言う。


「ティーナで良いわよ。お嬢様は禁止で」


「分かった。それで」


「うん、ひとまず、詰め所へ寄りましょう。あの山賊達、どれだけ金を持っていたのか知らないけど…」


 酒場の弁償か。こういうところはきっちりしていて、好感が持てる。


「それなら、心配は要りません。大銅貨を80枚近く持ってたはずですから」


 8000ゴールド。日本円でおよそ160万円。あの酒場のテーブル代なら余裕だろう。

 マホガニーの無垢材一枚板でもないだろうし。


「ええ? 結構な金額じゃないの? 山賊にしては、だけど。儲かるのかしら?」


「ダンジョンをクリアしたばかりだったので」


「そうそう、大銅貨がたくさんあったニャ」


「ああ、ボスのお宝が、お金だったんだ。ふうん」


「なので、あちらに弁償はいらないかと、ああ、シーツ、どうなったかなあ」


「どういうこと?」


 宿屋のシーツを持ち出した事を話す。


「じゃ、見に行きましょう。それと、私に敬語は要らないわ」


 ティーナが言う。

 普通、奴隷には使えそうなら敬語を使わせると思うんだが、結婚の約束が関係しているのか。

 ぬう、考えるのは今はよそう…。

 早まったかも知れない。


 ロリっ子と金髪エルフとお姫様ががが。


 酒場は女将とその夫らしき人が片付けをやっていた。


「む、アンタ達かい」


 女将がこちらに気づいて、渋い顔。ま、暴れて店を壊した張本人だからなあ。


「えっと、その節は、申し訳なく…」


 ティーナが謝る。


「それで、金を持ってきたのかい?」


「あ、いえ、それは…」


「それはまだです」


 はっきり言う。ここは、お茶を濁しても時間の無駄だ。


「じゃ、何しに来たんだい」


「宿のシーツや、盗賊の持ち物を回収に来ました」


 あわよくば、武器をもらって、金にしてしまおう。イヒヒ。

 どうせ放って置いても、兵士達に取られちゃうし。


「じゃ、あっちだ。ただし、武器は弁償代を払うまではこっちで預からせてもらうよ。シーツは持っていってもいいけどね」


 さすが商売を営んでいる女将さん、その辺は俺より一枚上手だった。転んでもただでは起きないその姿勢、ちょっと見習わないと。普通、店を滅茶苦茶にされたら、落ち込むでしょうに。


「分かりました。では、シーツだけ、返してきます」


「そうしとくれ」


 シーツは幸い、破れてもおらず、汚れてもいなかった。


「何か大事なものでも、あっちに置いてきたの?」


 ティーナが心配したか、聞く。


「いや、そう言うのは何も。お金になるかなと思っただけだよ」


「うわ…。じゃ、ダメよ。あれは、被害者の商人の人たちへの弁償も残ってるんだから」


「そう。でも、僕やリムが受けた精神的苦痛や正当な労働の対価ももらわないと」


「精神的苦痛って…まあいいわ」


 さすがにこの世界ではそんな言葉、一般的では無いようでティーナが眉をひそめていたが、彼女が反対しなければそれでいい。


「ああ、お前さんか、ちょうどよかった。さっさと荷物を持ってチェックアウトしてくれ」


 宿屋の主人が、こちらも渋い顔で、疫病神を追い払うかのように急かす。泊まったのが盗賊だったと聞いたのだろう。


「じゃ、鍵を開けて下さい」


「分かった」


 お使いで買っておいた、コンパス、塩の小袋入り一つ、ポーション四つ、干し肉の大袋入り一つ、リュック十個、それにロドル一匹。

 引き出しに入れておいたルザリック先生の魔術入門の書も忘れないようにしないと。

 リュックの一つに小物を全部入れ、後は手分けして、残りの空のリュックを運び出す。


「二度と来るんじゃ無いぞ」


 そう言って宿屋の主人は瓶に入った液体を振りまいていた。

 多分、聖水だろう。


「なんか、私まで聖水撒かれたみたいで、なんだかなあ」


 ティーナが愚痴を言う。


「かけられて煙を出して緑色の反吐を吐かないなら、気にすること無いよ。…吐いたりするの?」


 こちらの世界の聖水がどんな効果なのか俺は知らない。


「するわけ無いでしょ! 私、人間、しかもほら、冒険者カードはライトロウ、カルマも低いんだから」


 そう憤慨しつつ、カードを印籠のように見せられたが、なるほど、冒険者カードもちゃんとあるのか。


「僕は田舎者だからよく知らないんだけど、ライトロウって?」


 ある程度の予想は付いているが、確認は大事だ。


「ううん、属性って言えば良いのかな? 炎や水の方じゃ無くて、性格の方なんだけど。ライトは普通、善人で、聖騎士はライトじゃないと称号をもらえないらしいわ。シーフはダークの人も多いって聞くけど、私はシーフの知り合いはいないからよく分からない」


 思った通りだ。ライトとダークの仲間は行動方針が違うので、ソリが合わないというヤツ。

 中間はニュートラル、のはず。


「どちらでも無いのはニュートラル?」


「いえ、それでも良いと思うけど、ライト、ノーマル、ダークって言うわね」


 ノーマルか。意味は通じると思うが、覚えておこう。

 

「それから、ロウ、ニュートラル、カオス。ええと、秩序を重んじるのがロウ、自由を重んじるのがカオスだったかしらね。ごめんなさい、私もこの性格の属性って、詳しくないから。ただ、聞いた話では、パーティーは、できるだけ同じ属性で組むとトラブルが無いみたいね」


 ティーナが説明してくれたが、今はパーティーを組んでいるわけでも無い。また必要になったときに調べれば良いだろう。後で、冒険者ギルドに寄って、カードでも作ってもらった方が良いだろうか。でも、俺は元世界に帰るのが目的だし、帰れなくても薬師志望なんだよなあ。


「あたしは自由がいいから、多分、カオスニャ」


 リムがなぜか自慢げに言う。


「そう。うーん、まあ、度合いもあるから、大丈夫かな?」


 それを聞いたティーナが同行に少し不安を覚えたようだが、リムは魚で釣っておけば問題ない。安い猫だ。


 俺たちは市場に行き、リムと俺の分はそのままにして、不要な残りのリュックを全部売り払った。

 大銅貨4枚が返ってきた。

 ほとんど未使用だったにも拘わらず、半額。

 道具屋になりたい…



 [冒険者カード]


【 氏名 】 ティーナ

【 種族 】 人

【 年齢 】 17

【クラス】 剣士

【 Lv 】 16

【 属性 】 ライト C

      ロウ C-

【カルマ】 9

【特記事項】特になし

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