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異世界の闇軍師  作者: まさな
最終章 宮廷魔術師

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最終話 終結、そして伝説へ

視点が変わります。


2017/1/15 本編に大きな変更はありません。最終章十四話に伏線の回収を数行追加しました。

 巨大なクレーターを残し、邪神は跡形も無く消え去った。


 各地で暴れていた魔王軍は、その統率と力を瞬く間に失い、瓦解した。



 行方知れずとなった最高司令官ユーイチの代わりに、トリスタンの軍師アイネ=フォン=オラヴェリアが指揮を執り、魔王軍の残党の掃討作戦と、徹底した邪神の捜索が行われた。

 邪神の痕跡はどこにも残っておらず、また、そのような活動も認められなかった。

 そのため、勇者一行は邪神を倒し、その封印に成功したと考えられた。

 一ヶ月後、魔王軍に対する勝利宣言が各国の王都で同時に出され、『総人類生存計画』は完全に終了した。  

 ただ、邪神と魔王軍の残した傷跡は大きかった。各地で多数の犠牲者が出ている。人々が普通の生活と笑顔を取り戻すのはまだ先のこととなろう。



 それからさらに三ヶ月が過ぎた。


 ミッドランド南東部、トレイダー帝国との国境付近に位置するヴァルディス領。

 そこに主の姿はまだ無い。

 

 かつて奴隷から騎士となり、爵位を得て男爵となり、ついには宮廷魔術師という重職を担った男。


 王宮はその後任は定めるつもりは無いようで、一部の貴族からは不満の声が上がっている。


 だが、ヴァルディスの領民達は、自分たちの領主が邪神を倒したことを誇りに思っていた。

 税も軽くなり、料理も美味しくなり、生活も楽になっている。

 魔王軍との戦いで麦畑も荒らされてしまったが、人々の顔はそれほど深刻では無い。


 彼らは自分たちの若き領主が再び戻って来ることを、当たり前のように信じているのだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ミッドランド北西部、スレイダーン王国との国境に接するロフォール子爵領。

 その中の村の一つ、セルン村の大神殿では、結婚式が執り行われようとしていた。

 花嫁は純白のウェディングドレスに身を包んだ美しき貴族の娘。

 名をティーナ=フォン=ロフォールという。

 ここの領主である。


 控え室で待機している彼女に、吟遊詩人のイシーダが、挨拶もそこそこに質問をぶつける。


「おめでとうございます、ティーナ様。現在のお気持ちなどを一つ、お聞かせ下さい」


「ええ、ありがとう。良き伴侶を迎え、私もこれで一人前の領主として認められると思います。跡継ぎを早めに作ってロフォールの発展にも努めていきたいと思います」


 教科書的なつまらない答えである。イシーダはそれでもにっこりと笑って頷き、次の質問をした。


「今回のお相手は王宮推薦の方だそうですね」


「ええ」


 素っ気なく返事をするティーナ。


「新郎の侯爵様とは前々からお知り合いだそうですが」


「ええ、そうです」


 新郎の侯爵に対して特に思うところは無い様子。


「オホン、前の婚約者についてお話を―――」


 イシーダが微妙な質問を持ち出そうとしたところで、ずいと若葉色の髪のメイドが前に出た。


「プライベートなご質問にはお答え出来ません。本日の結婚式についてのみ、ご質問下さい」


「分かりました。今回のお相手はすでに第一夫人をお持ちの方ですが、それについては何かコメントを」


「第一夫人も素晴らしい御方で、私も面識はありますし、仲良くやっていけると思います」


 にっこりと答えるティーナは想定問答もやっていたのか、動揺するそぶりは無い。


「そうですか。某国の王族とのスキャンダルも明るみに出たばかりの方ですが、それについては」


「気にしていません。王族と懇意なら、それだけの地位のお相手だと思っています」


「異端審問官の―――」


 なおもイシーダが質問をしようとしたが、メイドが遮った。


「お時間です。質問はここまでとさせて頂きます」


「あと一つだけ! 異端審問官の捜査が現在行われていますが――」


 イシーダの質問には答えず、席を立ったティーナは控え室から大広間に通じる廊下へと歩き出す。二人の少女がウェディングドレスの裾を持ち、付いていく。


「えー、それでは皆様、準備が整ったようでございます。新郎新婦のご入場です。皆様、拍手でお出迎え下さい」


 司会を務めるのは灰色のおかっぱ頭の貴族、フランネル子爵である。

 大広間に参列した招待客が一斉に入場してくる扉に注目した。


 両扉が開かれ、その向こうから新郎新婦が入場してくる。新郎は赤い襟付きのきらびやかなローブに身を包んだ男。さすがに緊張した面持ちである。まだ若い。

 二人は歩みの速度を合わせてそのまま中央を歩き、司祭クレアが待つ壇上の場所へと階段を上がった。


「天上の神々よ、この者達に祝福有らんことを。汝、ティーナ=フォン=ロフォール子爵、ここにいる夫を生涯に渡って愛し、尽くすことを誓いますか?」


「はい、誓います」


「汝、ユーイチ=フォン=ヴァルディス侯爵(・・)、ここにいる妻を生涯に渡って愛し、尽くすことを誓いますか?」


「はい、誓います」


 指輪の交換が行われ、司祭クレアが笑顔で頷く。


「司祭クレア=ド=アーベル伯爵が確かに証人となりました。二人の未来に幸有れ!」


 ユーイチがティーナのドレスのヴェールを後ろにやって、キスをする。


 会場の招待客から口笛と盛大な拍手が起きる。

 前列には王族や貴族、中列には騎士、後列には冒険者などの平民も多く参列している。


 花束を受け取ったティーナは、それを高く放り投げた。

 

 落ちてきた花束を掴んだのはクロであった。

 彼女は嬉しそうに、はにかんだ。


 新郎新婦が大神殿の広間から外に出てくる。そこには伝説の人をひと目見ようと集まった民衆が大勢集まっていた。


「ヴァルディス、バンザーイ! ロフォール、バンザーイ! ミッドランド、バンザーイ!」

「ティーナ様~」

「ユーイチ様~」


 民衆から声援と拍手が飛ぶ。

 共に世界を救った勇者にして、名領主。

 人々の理想のカップルとして惜しみない祝福が送られた。


 ユーイチとティーナも笑顔で手を振ってそれに応え、立派な馬車に乗ってパレードへと向かったのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ひー、くっそ疲れた」


 俺はくたくたになりながらベッドに仰向けに倒れ込んだ。もう一歩も動けない。


「ふふ、お疲れ様。良い式になったわね」


 ティーナは満足している様子だが、やり過ぎだ。

 あそこまで盛大にやると、貴族だけでなく、下手をすると国王からも睨まれかねない。

 このところ公務も完全にサボり気味だしな。


「でも、ほんま綺麗やったなぁ。ティーナのウェディングドレス」


 ミネアがため息交じりに言う。

 ティーナは今はもう普段着に戻っているが、確かに見違えるほど綺麗なドレス姿だった。


「ふふ、じゃ、次はミネアが着る?」


 ティーナが言う。


「え、ええ? うちはええよ。そんな、恐れ多いし」


 ミネアが少し慌てたように手を振るが。


「何言ってるの、相手はユーイチじゃない」


 ティーナが微笑んで言う。


「そやけど…」


「決まりだな。だが、私はあんなもの着なくて良いぞ。着替えるだけで疲れそうだ。そうだな、指輪だけもらえばそれでいい」


 レーネが言うが俺と結婚する気でいるようだ。ま、この世界は貴族の重婚は認められているから法的に問題は無いのだが、あまり多くやると、目立つんだよなあ。俺の知っている侯爵は全員、妻は一人だけだし。ただ、愛人はこっそりいるかもね。


「ニャ、あたしも、指輪は欲しいニャ」


「良いけどリム、分かって言ってるのね?」


 リサが確認を取るが、リムも少し照れながら頷く。

 あのリムが食い物以外を欲しがるのだ。目的は間違えていないだろう。


「ん、私も指輪はもらう」


 ミオも俺と結婚するつもりらしい。


「わ、私は、くれるって言うなら、もらってあげても良いけど?」


 ようやく最近、エリカがツンデレだったのだと気づいたが、分かりにくかった…。


「私も、指輪だけにしておきますね」


 クレアがニッコリして言う。


「わ、私も…」


 クロがおずおずと言うが、俺も頷いてやる。


「ふむ、そうなると、ここの全員が妻となるのか?」


 この場にいるアーシェが確認を取るが、俺の正式な第一夫人である。アーロン侯爵に配慮して、先週、結婚式を行ったばかりだ。


「いや、リサは違うから」


 彼女が怒る前に俺は否定する。


「む。私はもらうつもりでいるんだけど?」


 リサがそう言ってジロッと俺を見た。


「ええ?」


「ふふ、それがいいわね。それから、エルにも渡してあげないと。そのつもりなんでしょ?」


 ティーナが確認してくる。


「まあな」


 エルは良いお嫁さんになってくれそうだ。


「他に誰かいたかしら?」


 ティーナが少し思案する。


 いたかな? 


「ん、ニーナ、ベリル、レベッカ、メリッサ、ルフィー、アリシア、アイネ、リリィ、ミミ、セリーヌ、リン、イザベル、リーファ、ヴァネッサ、ミース、メリル、スカーレット――」


 ずらずらと名前を指折り挙げていくミオ。

 

「ま、待てミオ、ミミやイザベルは違うから! ベリルも! あと、スカーレットは絶対ねえよ!」


 俺が慌てて否定するが――。


「……この浮気者!!! そこに直りなさい!」


 ティーナがあまりの人数に怒ってしまい、レイピアを抜く。


「ひい!」


 なんだろう、美少女達に囲まれた夢のハーレム状態なのに、生きた心地がしない。


 俺は女神ミルスのもう一つの予言、DT問題に戦々恐々としながらその夜を正座で過ごした。


 初夜はまだ果てしなく遠い―――。



 ――― 異世界の闇軍師 完 ―――


 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。



登場人物の一覧

http://ncode.syosetu.com/n3495do/


番外編 プロジェクト・スリングショット

http://ncode.syosetu.com/n1939do/


番外編 セルン村の驚異的発展

http://ncode.syosetu.com/n4466do/


異世界の闇軍師 番外編(連載形式)

http://ncode.syosetu.com/n5368do/

(ユーイチの転移の謎やクリスタニア編を追加)



 設定と構成をろくに考えず、思いつきでテキトーに書き綴ってしまったので序章のテンポが遅かったり、画家の章のあたりが今ひとつだったり、肝心の軍師の戦術が少なかったり、クレア編やクリスタニア編を省略してしまったりと、他にも色々と自分の中の反省点もあったりします。


 ただ、これほど長い物語は初めてで、内容レベルはともかく、一応狙い通りの道筋に完結できたので、そこは大満足です。たいていは完結せずに飽きて投げてしまいますので。


 これで私の考える異世界(RPG風の領地経営)モノとして書きたいエピソード・読みたいエピソードはだいたい全部詰め込んだ感じです。出し切ったのはいいですが、少々詰め込みすぎましたね。


 次に何か書くときはもっと短く行こうと。登場人物も絞って、深く行こうと。

 頂いた感想や疑問が、やる気と新しい発見になりました。

 誤字のご指摘をたくさん頂いて、自分の漢字レベルと校正レベルに愕然としましたが、非常に助かりました。ダメ出しもへこみましたが、公開している以上はなるべく修正したいのでありがたかったです。「むう」が少しだけ減って改善できました。私が今まで書いた中では、最高の作品に仕上がったと思っています。

 ティーナを初めとするヒロインの動機に関する疑問やご指摘を多く頂きましたが、やはりこれも設定不足から来ていると自分では考えています。


 ポイントを入れて下さった方、ありがとうございました。

 念願のランキング入りができたので、次の作品では評価点での合計一万点クリアを目標にしてみようかなと思います。前に後書きで一万点やらアニメ化の妄想を書きましたが、私のリサーチ不足でございました(;´Д`) 書籍化のハードルも高いんですねぇ。


 最後に、皆さんがワクワクする作品に出会えることを願って、あるいは自分も何か書いてみようと思い立つことを願って。

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