第九話 邪神復活
2016/10/13 誤字修正。
「我は、邪神なり」
俺の開発していたオートマタ、金髪美少女のエイリアが仁王立ちでそう口を利いた。
俺は落ち着き払って言う。
「あのな、リーファ、くだらない冗談はよせ」
「カカッ、つまらんのう、少しは驚くかと思ったのに」
「声で丸わかりだっての。リバーシがしたいなら、ちゃんと付き合ってやるから、大事なオートマタをつつくんじゃ無いの」
「良いではないか。別に壊してはおらぬぞ」
「そうだが、コレはお前の玩具じゃないんだし。でも、歩けるのか?」
「誰に物を言っておるのじゃ。そんなこと、お茶の子さいさいじゃ」
リーファはエイリアを器用に念力で操り、実際に人がやっているようにスキップしたりくるくると踊らせた。
「ほほう、こりゃ凄い。じゃ、リーファ用の玩具も作ってやるぞ」
「別に、玩具でなくていいのじゃが、ま、作るというなら、作らせてやる」
そう言ってるが、欲しくて堪らないんだろ?
リーファ用の人形もピエールに削り出してもらい、こちらは戦闘も想定して内側にオリハルコンを入れてみた。
オートマタ二号機、名前は二号ちゃんでいいか。
「どうだ? 二号機の調子は」
俺がリーファに調子を聞く。
「うむ、良い感じじゃ。もう少し背が高くても良かったのじゃがの」
服も着せてみたが、瞳の瞬きまでリーファは操り、人間と全く変わらないように見える。
金髪のツインテールの貧乳だ。
もちろん、全力で俺の趣味である。
「何度も作り直すのは面倒だし、それで我慢してくれ。魔剣なら、そのくらいの背丈のハンデは関係ないだろう?」
「もちろんじゃ!」
フッ、俺もリーファの扱いには慣れてきたからな。
「心の声も丸聞こえなのじゃが、まあ良い。コレがあれば、お主はもはや必要無いの。どれ、ちょっとハイランドかアルカディアに散歩でもしてくるかの」
「はっ!? ちょ、ちょっと待て! どこ行くつもりだ、バカ! それじゃ俺が死んじゃうだろ! わー、バカ、待てー!」
慌てて全力の追いかけっこ。一キロ以上、離れられたら俺のゲームオーバーだ。当然、俺は死にものぐるいでリーファを追いかけた。
「アハハ、楽しかったのじゃ」
「くそ、完全に遊ばれた…ぜーはー、ぜーはー」
これからまた歩いて帰らないと行けないなんて、疲れる。
「お? おお、迎えが来たようだ」
飛空艇がこちらにやってきたかと思うとスピードを緩めて着陸態勢に入った。俺と二号機装着のリーファはそちらに駆け寄る。
「お館様! すぐにお戻りを! 邪神が復活しました!」
飛空艇からセリオスが顔を出して言う。
「なにっ!?」
いつか来るとは分かっていたが、それでもまだ来年や再来年くらいだろうと思っていた。
思わずリーファと顔を見合わせる。
「いよいよじゃな」
「ああ。お前も頼むぞ、リーファ」
「分かっておる。カカッ、大船に乗ったつもりで任せるが良い」
俺達は飛空艇に乗り込み、総人類生存計画の司令部を置く天空の城へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
天空の城の一室、中央部に近いそこではメモリーウインドウの呪文による3Dホログラムマップが展開されていた。呪文を使っているのはもちろん、俺である。
天空の城の司令室は核攻撃にも耐えうる設計としてあるので、ここが一番安全だ。兵士の寝泊まりも可能で、食料や薬草や武具も保管できる。空に浮いているので侵入してくる敵は飛行能力を持つ物に限られ、移動も可能だから撤退も楽。理想的な空中要塞だ。
食料と水も大量に積み込んである。飛空石の反重力作用により、トン単位でも問題無い。
俺の冒険者仲間、ティーナ、リム、リサ、クロ、 エリカ、ミネア、レーネ、ミオ、クレアがこの場にいる。
その他にヴァルディス騎士団の幹部指揮官ケインとジェイムズ、ロフォール騎士団のリックスとギブソンもいる。
俺の参謀を務めるセリオスが、全員がいることを確認して状況説明を始める。
「現在、ミッドランド北東部に総勢百万のデーモン部隊が突如出現。すでにミッドランド国境警備隊との交戦に入っております。デーモンの平均レベルは35。その精鋭部隊はハイデーモンで構成されレベルは45、指揮官はデーモンジェネラルが確認されておりますが、そのレベルは不明です。また、ほぼ同時期にトリスタンの南にはオーガ部隊、アルカディアの北にはガーゴイル部隊、ヌービアの南にはキメラ部隊、スレイダーンの北にはトロール部隊と、世界各地に同規模の邪神勢力が出現し、各国の王都に向けて侵攻を開始しております」
「うーん、これだけの数で来るなんて、ユーイチの予想通りになったわね…」
ティーナがホログラムマップに散らばった赤い点を見ながら唸る。
「からかって悪かったわ」
リサも肩をすくめて言う。俺が軍備増強やレベル上げにやたら力を入れていたので「それじゃ邪神も一撃で勝てちゃうんじゃないの?」などとリサやみんなは少し呆れていたのだが。
正直、俺も余裕で行けるレベルなんじゃないかと甘く見ていたぜ。
「ああ、相手は魔物を意のままに支配する存在だからな。魔王と呼んでも差し支えないだろう」
俺は言う。使徒も操っていたのだろうし、現に今、統率の取れたモンスターの軍団を率いているのは邪神でしかないはずだ。
「そうね」
「では、これより、邪神勢力を『魔王軍』と呼称します。魔王軍の数やレベルを計算すると、人類の兵士とほぼ互角。数ではこちらが劣勢ですが、レベルや装備の面で敵を大きく上回っていると考えられます」
セリオスが言うが、特殊能力や魔法やスキルと言った要素も絡んでくるので人類側が不利と見るべきだ。ただ、あくまで俺の憶測なので実際に戦況を見て判断していく方が良いだろう。
「装備や道具は人間の最も得意とするところだからな。こちらの戦力が手薄なところはどこだ?」
俺はセリオスに問う。
「トレイダー帝国と思われます。かの国は『総人類生存計画』への参加を拒否して、武装の強化対象から外れています。自発的な冒険者達が装備を更新しレベル上げにも参加していますが、数の面でやはり不足しているかと」
「そうだろうな。ま、ミッドランドと交戦して疑ったり嫌ったりするのは分かるんだが、情報は流してやったんだから、対策くらいは取って欲しかったが」
「ええ。それで、いかがなさいますか?」
「トレイダーが魔王軍に落とされると、トリスタンとの連携が分断される。あそこに拠点を作られても面倒だからな。直ちに精鋭部隊を援軍に差し向けるぞ!」
「御意」
トーマスが無線を開発してくれたので、それを使ってロフォールまで通信。待機していた赤備えの騎士団が十隻の大型飛空艇に乗り込んで移動を開始した。地下鉄リニアで糧食やポーションなどの戦略物資の輸送も開始する。
これらの行動はすべて訓練済みであり、3Dマップの青い点は停滞すること無くスムーズに移動している。
「よし、じゃ、俺達も行くか」
「ええ!」
空中要塞をそのままトレイダーへ移動させ、城の中に待機しているヴァルディス騎士団もそのまま乗せていく。
「見えましたッ! モンスターの群れですッ! 数はおよそ十万ッ!」
物見が報告し、俺達は城の司令室を出て飛空挺に乗り込む。
「じゃ、ミオ、クロ、後は頼んだぞ」
「ん、任せる」
「分かりました」
クロはこの城のコントロール、ミオは鉄球を落とす空襲部隊を支援する。
他のメンバーは飛空挺で地上に降り立ち、すぐさま敵軍へ突撃を開始した。
「オォオオオ!」
「ひいいっ、止めろぉ! 噛むなぁ!」
敵は緑色の不死者、グールだ。分析したがレベルは50と結構高め。
トレイダー兵も剣を持って立ち向かってはいたが、斬っても斬り殺せない相手、その恐怖も相まってすでに隊列が崩れかけていた。
「敵はグール! 助太刀致す!」
拡声器の呪文で味方だと言うことをトレイダー兵にも報せておく。
「なっ、その赤い鎧、ミッドランド兵か!」
『赤備えの鎧』はトレイダー帝国にも知れ渡っていたようで、兵が緊張したが、こちらがグールを倒し始めるとようやく味方だと理解したようだ。
「しかし、ああも容易く…」
当然だ。
この世界においてトップクラスの攻撃力を持つオリハルコン製のショートソードである。クレア司祭にも祝福を与えてもらい、聖属性の能力もあるから、その剣がかすっただけでグールが白い煙を上げ悶え苦しみ始める。
元々、グールのような雑魚では無く、硬い鱗を保つドラゴンや強大なデーモン、そして邪神ともやり合えるように想定・開発した武器だ。アナライザーさんにもSS評価をもらい、神器クラスと認定されているからな。
「ファイアウォールを使うぞ。下がれッ!」
俺はそう命じて兵を下がらせ、炎の壁を前に作る。グールは恐れもせずに炎の中に突っ込んでいき、そして煙を上げて魔石へと成り変わる。
優勢だ。
「包囲しろ!」
ケインが命じてグールを逃がさないよう、追い詰めていく。
―――が。
「うわああっ!」
赤備えの兵士が数人、空中を吹っ飛んだ。
「どうしたッ!?」
俺は戦慄しながらそちらを見る。兵士が邪魔でよく見えないが、うちの騎士団は全員レベル99である。それを吹っ飛ばすとなると、相当な力だ。
イーグルアイのウインドウを確認するが、複数が毒状態だと?
「ドラゴンだぁ!」
ドラゴンがようやく見えた。大きい。体長は三十メートルほどだろうか。茶色の腐りかけたドラゴンは肋骨がすでに見えており、生きて動いているのが不思議なほどだ。
いや、コイツも不死者か。
紫の毒の霧を吐いたが、おそらくドラゴンゾンビだろうな。
分析を使う。
エルダードラゴンゾンビ Lv 110 HP 49992940/ 50000000
【弱点】 聖、光、炎
【耐性】 闇、即死、窒息、精神、毒、麻痺
【状態】 不死
【解説】 不死化した上位竜。
知性は完全に失われているが、
体力は増加している。
性格は極めて凶暴で、
すべてに対してアクティブ。
上位竜は魔法抵抗が高いので
弱点の聖魔法と言えども
掛かりにくい。
思った通りだ。
だが、エルダードラゴンか。HPが五千万もあるし、面倒だな。
「下がれ! コイツは俺達のパーティーで対処する」
兵士に命じてドラゴンから下がらせ、冒険者仲間で立ち向かう。
俺はすぐさま全員に五重の物理バリアとマジックバリアを掛け、動体視力向上やスピードアップなど支援魔法を次々に展開。
「はぁあああ! せいっ!」
ティーナがオリハルコン・レイピアで薙ぎ払いながら斬りかかる。ゾンビ系に刺突は効果が低い。数々の経験を積んだ俺達には言わずとも常識だ。
ティーナがドラゴンに与えたダメージは一万ポイント。思ったより出ている。
「食らえ! おらぁっ!」
ドラゴンゾンビの懐に入り込んだレーネが豪快に大剣を振るい、脇腹の肋骨を狙う。
ドラゴンの骨に当たった『大剣グラム』はキィイイインと音を立て、その骨を粉々に破壊した。
ダメージは二百万。良い感じだ。
「ニャー! それっ!」
リムがオリハルコンの手斧で攻撃。彼女は必殺技もへったくれも無い通常攻撃ばかりだが、その素早さとパワーはもはや一流だ。ドラゴンのあごに直撃し、ドラゴンが堪らずよろけた。
「今よ! クレア!」
リサがタイミングを見て叫ぶ。
「はい。死者の肉体はすべからく土に還るべし。魂は天上へと安らかに導き給え。ターンアンデッド!」
白き光の円柱がドラゴンゾンビを包み込み―――
「あっ! くそ、レジストしやがった!」
消えるもの、と思っていたが、身体を半分失いつつもドラゴンはしぶとく生き延びた。
「雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神と風神をもって天の鳴動となれ! サンダーストーム!」
エリカが大魔導師級の雷撃呪文を唱えた。
青白い雷が幾重にもドラゴンを包み込む。
雷神と風神の話は彼女にしたことがあるのだが、それでもこの魔法文字と術式はエリカのオリジナル呪文だ。やるな、森の賢者。
「光れ! 幾万の太陽の灼熱よ、黒き災いの瞳をもって、全てを消し去れ! テラフレア!」
こちらも負けてはいられない。
俺は伝説級の太陽火炎の呪文を唱え、ドラゴンの腹のど真ん中に展開してやった。
MP消費は一千と桁違いに増えるが、威力はそれに見合うモノとなっている。
「GUOOOO――――」
咆哮を上げて抵抗したドラゴンは、しかし炎に耐えきれずに茶色い煙と化した。
大きな魔石だけが後に残る。
「よしっ!」
エルダードラゴンゾンビ、110レベルの魔物を数ターン、ものの十分と掛からずに仕留めることに成功した。
「クリア。良い感じね」
リサが軽く頷いて言う。
「ああ」
俺は懐から極上マジックポーションを取りだしてグビグビ。
魔力草の栽培についに成功したので、量産化して大量に用意してある。
赤い透明な色の液体だ。味もアセロラっぽく、ちょっと酸っぱい。
「お館様に続けッ!」
ケインが兵に号令を掛け、再びグールを押し返す。
一時間後、トレイダー帝国に姿を現した不死者軍団は殲滅した。
俺達はすぐさま天空の城に戻り、次の援軍へと向かう。




