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異世界の闇軍師  作者: まさな
最終章 宮廷魔術師

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第一話 情報収集と陣地構築

2016/10/4 フランジェの碑文を追加。

 その黒き者、英雄として人々から讃えられるも

 己の欲望に負け、邪な心に染まり、

 最後に絶望の災いを呼び起さん。


 黄金の水が逃げ、大いなる枝が揺らぎ、巨大な石が崩れ落ちるとき、

 世界は真の闇に包まれる。

 

 陽は昇らず、大地はひび割れ、水は膿み、麦は腐り、病ははびこり、

 魔物はますます盛んとなろう。

 悲哀の流血は川の如し。


 白き勇者、自らの命と引き替えに災いに挑み、

 星の力をもって、これを鎮めるであろう。


 ―――フランジェ王国の大神官が伝承する碑文の一節より



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 国王から宮廷魔術師の位を授かり、討伐軍を編成している俺は、飛空艇で一度自分の領地に戻り、そこからロフォールにも飛んでティーナと合流した。


 ロフォール子爵であるティーナは快く討伐軍への参加を表明してくれ、これで主力はロフォール騎士団となることが確定した。

 現時点で入っている情報によると、反乱を起こしたルーガウス子爵はミッドランドの東の国境近く、ヴァルディス領の北、ハイラール平原に陣を構えているという。

 俺はそれを聞いて「え? 城じゃ無いの?」と耳を疑ったのだが。


 通常、ミッドランド王国の子爵は五百から二千程度の兵士しか持たない。これは領地の広さと麦の収穫量の関係で決まっていることなので、特に兵数に法的な制限が有るわけでは無い。だが、どの領主も大軍は養えないし、大軍を持とうものなら赤字経営ですぐに破綻してしまう。

 ルーガウス子爵は北部戦線の前線司令を預かっていたことも有り、例外的に三千の兵を持っていたが、それでもアーロン侯爵があっさり敗れたのはおかしい。アーロン大将軍はその地位のため、配下の諸侯を含めれば一万以上の兵を動員できるのだ。

 しかも、大軍に有利な平原においてである。


 嫌ーな予感がするでしょ?


「陛下のご命令なんだし、謀反なんてとんでもない。一刻も早く鎮圧しましょう!」


 などと気が(はや)るティーナを俺はなだめつつ、各地を大型飛空挺で往復し、ハイラール平原の南に陣を構築した。

 俺が建造した天空の城も移動させてここの拠点としている。


 空中要塞だ。


 連中が空を飛んでこない限り絶対安全だ。


「なんでこの城は空に浮いてるんだ……」


 飛空石については全員に説明したのだが、アーサーはなおも理解しがたい様子で、ま、ほっとこう。


「オーライ! オーライ! ストップ!」


 また飛空艇が城の庭に着陸してきた。飛空艇はかなり改造を加え、垂直離陸が可能にしてある。大型飛空艇となると、ペダルをこいでってのは難しいからな。

 後部ハッチから騎兵がそのまま降りてきたが、アーロン大将軍だ。どうやらルーガウスに敗れはしたものの、本人は無事だった様子。小突かれたりはするが、知り合いなのでちょっとほっとした。

 カーティス副将軍もいるが、ふむ、彼が裏切ったわけでも無いようだ。


 俺はすぐに出迎えに上がる。


「大将軍閣下、ご無事で何より」


「フン! 何が無事なものか。反逆の子爵相手に大将軍が負けるとは、末代までの大恥ぞ!」


 機嫌悪そうだなぁ。当たり前だけど。

 俺はすぐさま笑顔で言う。


「いえいえ、まだ負けてはおりません。前哨戦では後れを取りましたが、これからが本戦、第二ラウンドです」


「ほう、第二ラウンドか。無論、このままおめおめと引くつもりは無いがな。その前に腹が減った。食い物はあるな? ユーイチ」


「は、もちろんございます。城の食堂の方へおいで下さい。すぐに食事の準備をさせます」


「うむ、では、後はレオナルドと話し合っておけ」


「はっ」


 アーロンが城の中へ入っていく。


「城や大神殿を作っていると聞いたが、よもや空を飛ぶ城とはな……」


 カーティスが城を見上げて言う。


「冒険で飛空石を手に入れまして。それで飛ばしております」


「うむ。ところで、私が裏切ってルーガウスに付いたと思ったか?」


「い、いえ」


「ふふ、負けたのは兵数のせいだ。子爵なら三千が良いところ、そう思っておったのが間違いだった。三万はいたぞ」


「ええ? まさか、他に大貴族が?」


「いや、コボルト、ホブゴブリン、オークと言ったモンスターだ」


「ああ…むっ! まさか、もう邪神軍が」


「そうかもしれん。だが、そうだとすると、邪神はさほど強い相手ではなかろう。戦えぬ相手では無かった」


 カーティスはそう言うが、結局負けている。モンスターの頭数で来られると、数の差で勇者軍団が負けそうだなあ。


「ルーガウスの姿は?」


「有った。奇妙な石仮面をかぶり、呪いの品か魔道具かは知らぬが、アレでモンスターを操っているのであろう」


「そうですか……ああ、カーティス様も中に入ってお食事を」


「うむ、そうさせてもらう。さすがに疲れた。また後でな」


「はい」


 副将軍のカーティスとはまた後で打ち合わせするとしよう。

 その後ろからアーシェが前に出てきた。鎧を着ているが、彼女もアーロン達と一緒に出陣していたようだ。うっすらピンクがかった金髪の美少女。とてもアーロンの孫とは思えん。


「お久しぶりです、アーシェ様」


「様はいらないぞ、ユーイチ。なにせ自分の城を持つ男だ。ヴァルディス旧伯爵領も持つとなれば、うむ、我が夫にふさわしい」


「ええ?」


 前は嫌がってたのに、城と領地が有ればオッケーなのか。割と現金な子だね。ま、美人さんだし、性格も悪くないし、俺としても―――


「――オホン! ユーイチ」


「ふおっ! ティーナ」


 背後から咳払いが聞こえたので焦る。


「ふふ、ティーナも久しぶりだな」


「ええ、お久しぶり。だけど、アーシェ、ユーイチは渡さないわよ?」


「さてさて、こればかりは本人の意向も大事だろう。だが、腹が減った。私も食事とさせてもらおう。また後でな」


「もう。本人の意向って……もちろん、アーシェを選んだりはしないわよね? ユーイチ」


「あー……兵士の様子はどうだ?」


 生返事はしない方がいい気がしたので、俺は話を変える。


「ちょっと! ええ? 何よそれ……編成は終わって、いつでも戦えるけど、アーロン騎士団も加えるんでしょ?」


「まあね。とにかく今は戦時だ。アーシェや君との件は後で真面目に考えるから、時間をくれ」


「え、ええ。分かったわ」


 俺は城の庭に生えている薬草を集めつつ、作戦を練る。

 敵は三万以上の大軍、こちらはアーロン騎士団を加えれば五千以上にはなるが、まともにぶつかるのは止めた方が良いだろうな。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「それではこれより作戦を決行する!」


 城門で高らかに俺が宣言する。


「「「 応! 」」」


 野太い声が応じ、ムキムキマッチョの兵士達が鉄の玉を転がして押し出していく。

 鉄壁(アイアンウォール)で生み出した鉄球による上空からの空爆作戦だ。


 これならアウトレンジ攻撃が可能。

  

 しかも高度一千メートルからの自由落下だ。

 鉄球が地上に落ちる頃には400キロ以上のスピードに達している。

 鉄球の重さは五十キロ。

 50トンとか、それくらいの威力になってるだろうな。

 ドン、ドン、ドン、と、ここまで音が聞こえてくる。


 人間も落ちたらタダでは済まないため、命綱のロープを体に固定してやっている。


『ミオ、東へ移動だ』


『ん』


 ミオには天空の城のコアの操縦を任せている。

 飛空石は至近距離からなら魔力干渉が出来るため、魔術士がいれば直接の重力操作が可能だ。ゆっくりとではあるが、上下左右前後、好きな方向へ城を動かす事が出来る。ただし、ある程度のレベルの魔術士でないと魔力の注入も困難。魔力干渉をしないときは静止したままなので、城を動かさないときは操縦者はいなくても良い。

 敵の主力部隊の位置をイーグルアイで把握しつつ、しつこく爆撃していく。

 普通の爆撃と違い、砲弾が爆発しないから、命中率は低い。

 爆弾も開発しておけば良かったか。

 でも、火薬って管理が難しいんだよな。味方が死傷するリスクを取る必要性も無い。

 安全第一だ。

 魔術チームでローテーションを組めば、弾切れの心配も無いからね!


「実につまらんぞ」


 腰の魔剣リーファがボソッと言うが。


「お前の出番はちゃんと用意してやるから。あんな雑魚相手に無双しても格好悪いぞ?」


「雑魚を蹴散らすのも楽しいのじゃが…」


「蹴散らしてるだろ」


 アウトレンジ攻撃で向こうは手も足も出ない。


「妾が活躍しておらんではないか!」


「あーはいはい、じゃ行ってこい」


 距離があると呪いの制約で俺の命に関わるので、いったんミオに城の高度を下げてもらい、リーファを地上に投下する。

 ドォン! と一際大きな衝撃音が聞こえたが、張り切ったみたいだね。


「ユーイチ、そろそろ第二段階に移行しましょう」


「まだ早いぞ、ティーナ。空爆の効果が認められなくなってから――」


「構わん! このままではお前が手柄を独り占めではないか。さっさと城を降ろすのだ、ユーイチ」


 アーロン大将軍に首根っこを掴まれては嫌とは言えない。階級は上だから不効率な作戦となっても、従っておかないとな。負けたり俺が死ぬとかそんなクリティカルな状況なら拒否するけど、ド突かれるのは嫌。


「了解です。作戦は第二段階へ移行! 地上強襲部隊は準備願います!」


 拡声器(スピーカー)で庭に待機している騎馬隊に告げる。


「よし! そうこなくては。ルーガウスめ、目に物見せてくれるわ」


 アーロンも自ら出陣するようで、張り切っている。死なれちゃ敵わんから、支援魔法を掛けて、護衛も付けておくか。


 敵の軍団のど真ん中に城が(・・)強行着陸する。


「グェッ、グェー!」

「ギャギャギャッ!?」


 ホブゴブリン達が騒いでいるが、「城だ! 城が出てきたぞー!」「そんなバカな!?」なんて言ってるのかね。

 魔物の言葉は分からんが、慌てているのは確かだ。


 城門が勢いよく開け放たれ、満を持して騎馬隊が攻勢に出る。

 敵兵は鉄球の空襲から逃れるので精一杯で隊列も完全に崩れており、こちらの勢いが圧倒した。


 俺はリーファを回収し、そのまま城の防衛に就く。

 万が一にも敵に乗っ取られたら嫌だし、間抜けだからな。


 しばらくして剣を打ち合う音が()み、微妙な顔をしたティーナやレーネ達が戻って来た。


「ごめん、ユーイチ、あと一歩のところでルーガウスを取り逃がしちゃった」


「むっ。まあ、相当な化け物だったんだろ?」


「ええ、レベル76の私とほとんど互角の力量だったわ。絶対レベルで勝ってると思ってたのに、あんな風になってるんだもの。傷も勝手に回復しちゃうし、途中で変身までするし、結構苦戦した。あなたがいてくれれば良かったのに」


「ああ、そこはミスったな。余裕で勝てると思ったから俺はここにいたんだが…石仮面、使徒を甘く見たなぁ」


 第十二の使徒は憑依型だ。石仮面を付けた人間の意思を操り、力を引き上げるタイプである。

 伝承では石仮面を付けたのは、九英雄の一人であった。

 苦難を共にした仲間の一人だったためにグランハード王も倒すのを躊躇する悲劇となったのだが。

 ルーガウスは俺達の仲間じゃないし、国王から逆賊指定も受けてたから余裕で倒せる、そう思っていたのだ。

 仲間が石仮面を装備しないようにと、そこだけ気を付けていたんだが…。

 変身って「ウリリリィ!」って叫んだり「オレは人間を止めるぞー!」とか、そっちレベルの石仮面だったみたいね。

 ヤバすぎ。

 こんな事ならイザベルにワイバーン部隊の援軍も頼むべきだったか。

 だが、今回のルーガウス子爵の謀反はミッドランド王国の国内問題としておいた方が良い。

 内戦に他国が干渉すれば、侵略だの傀儡だの見返りだの、政治的に色々、ややこしいことになる。

 トリスタンに対抗して、トレイダー帝国がルーガウスを(かつ)ぎ上げ、「実はルーガウス殿は、ミッドランド王家の先々代の隠し子の血を引いている、正統なる真の王である! 証拠はこの宝剣だ!」なんて事を軍を派遣して言い出したら泥沼だ。



「だが、最後の使徒にしてはそれほどでも無かったぞ。石仮面に傷も付けた。次に会えばやれる」


 レーネが言う。


「分かった。次は全員で当たろう。とにかく城に入って休んでくれ。ご苦労様」


「ええ、そうさせてもらうわ」


 こうしてルーガウスの反乱軍はちりぢりとなり、鎮圧は成功した。


 俺は天空の城をヴァルディス領にいったん戻し、飛空艇で王宮に向かった。

 王都に城を移動させて行ったら、不敬と思われる可能性もあったし、目立ちすぎるからな。

 国王に報告する際、アーロンやアーサーやティーナをしっかりヨイショして、手柄は三人に譲ってやった。

 めでたし、めでたしだ。


 ルーガウスがまた軍を集めてくるようなら対処しなければならないが、すぐのことにはならないだろう。

 仮に大軍を揃えてきても、『天空の城』がこちらに有る限り、奴に勝ち目は無い。

 それに反逆者として指名手配犯となったルーガウスは逃亡生活で手一杯になるだろうし、その正体が使徒だと分かった以上、諸侯もよほどのバカで無い限り味方はすまい。


 後は邪神の復活に備えるだけである。

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