第二十三話 目には目を歯には歯を
2016/12/2 若干修正。
悪代官の謀は躱して窮地を乗り切った。
だが、俺を潰そうとするのが明らかになった以上、こちらも強硬手段に打って出るつもりだ。
「少し早いのではないか? 失脚させられるだけの証拠は揃っていないぞ」
ラインシュバルト侯爵が言う。探部(検察・公正取引委員会)として前々から悪代官の調査を行っていたそうだが、真実の証拠が一つ有れば、それで充分。
「足りない分はでっちあげます」
俺は言う。
「なっ! ダメよ、それは」
ティーナが拒否するが、決めるのは探部の大臣、お父様の方だ。
「ですがこのまま手をこまねいていれば先手を打たれ、探部が切り崩される可能性もあります。なに、証拠が足りなくとも、兵部(防衛省)と協力すれば討てますよ」
俺が招いた参謀、セリオスがそう言って知恵を出すが、そうだな、何も陰謀や正攻法で行く必要は無い。武力をもって真正面から行けば、ディープシュガーを上回ることは簡単だ。
証拠をでっちあげるのではなく、失脚の材料をあとから精査して追加しても良い。
マキャベリ曰く、
『人間というものは、 自分を守ってくれなかったり、誤りを正す力もない者に対して、忠誠であることはできない』
ラインシュバルト派閥の中には日和見の貴族達も多い。俺はディープシュガーの魔の手を上手く躱したが、次は自分がターゲットになるかもと恐れ始めれば、寝返る者も出かねない。
悪代官の事だから、金をちらつかせたり脅したりして派閥の切り崩しくらい、やってくるだろうし。
『結果さえ良ければ、手段は常に正当化される』
『運命の女神は、 積極果敢な行動をとる人間に味方する』
マキャベリ先生はこうも仰っておられるし、ここは攻めだろうな。勝算も有る。
「侯爵様、ご決断を。ご許可頂けるなら、私一人でもやります」
許可してくれないなら、派閥の転向も考えないとな。エクセルロットかアーロン辺りが候補だ。
保身もあるにはあるが、俺がどうも集中攻撃を受けそうだから、探部とは切り離した方がいいのかもしれない。
「分かった。動くぞ」
「お父様!」
ティーナは納得がいかない様子だが。
「案ずるな。失脚させるだけの材料が無いとは言え、不正の証拠は有る。悪は悪だ。陛下に面従腹背する奸物を討つ!」
決まったな。やはり名門の大貴族、決めるときには決めてくるなぁ。
お父様、一生、付いて行きます!
ラインシュバルト派閥は水面下で慌ただしく動き始めた。
「アーロン大将軍は快諾してくれた。エクセルロット卿、ライオネル卿もこちらに付くそうだ」
ラインシュバルト侯爵が大貴族の動向を教えてくれた。
「行けそうですね。これで大貴族のほとんどはこちらの側です」
俺は勝利を確信した。残る大貴族は星部(魔術省)のバルシアン侯爵と、宰相のオーバルト侯爵だが、宰相の方は立場上、中立を保つ。
バルシアンは公の場にはあまり姿を見せず、魔術の研究に勤しんでいるようだから、こういう権謀術数には関わってこないだろう。
「うむ、そうだな」
「実に残念ですな! こういうときこそ、私があちこち飛び回って一人でも味方を増やしたいところですが」
灰色おかっぱ頭のフランネル子爵が言う。
「お前は目立つからな。今は大人しくしているのだ」
ラインシュバルト侯爵が言う。
「はい、承知しております」
ラインシュバルト派閥の広報係のような存在のフランネルは、確かにこういう場では派手に動かない方が相手に覚られないから良いだろう。
「兄も説き伏せておりますので、オファリム家もこちら側です。ま、敵方についても構いませんが」
セリオスがニヤッと笑って言うが、敵方に付いたらお家断絶もあるだろうに、冗談なのか本心なのか。
「それで、決行はいつになる予定なのか」
オールバックの髪型の若い武人、ハウラー子爵が問う。彼は俺が探りを入れたら、悪代官を毛嫌いしていたようですぐに味方に付くと賛同してくれた。裏表が無い人物と判断して引き込んでいる。
あまり事前に情報は漏らさない方がいいのだが、元々ラインシュバルトと関係が薄いと見られている貴族も必要だったので、彼には重要な役割を果たしてもらう予定だ。
「ユーイチ、準備は整っているか?」
ラインシュバルト侯爵が俺に問う。
「は、いつでも」
「よし、なら、三日後にやるぞ」
「ははっ!」
「いよいよね」
最初は渋っていたティーナも、俺とお父様が説得して納得させた。
今はやる気満々だ。
俺はヨージスキー子爵やジップ伯爵ら盟友に、三日後に王都の外れでオークションを開催すると告げ、危険が予想される場所からは遠ざけておく。ローハイド侯爵はこちら側に加わっているので作戦の全貌も知っているのだが、他のメンバーは信用が置けないために作戦は教えず、蚊帳の外とした。
―――三日後。
ハウラー子爵が王都にあるディープシュガー侯爵の別邸を訪問した。
冒険中、高価そうな剣を手に入れたが、武具としては攻撃力がいまいちなため、買い取ってもらえないか。その辺の商人では値が張ってなかなか買い手が付かないため、ここは大貴族で名高いディープシュガー卿に取引して頂きたい―――。
そーゆー筋書きだ。
悪代官は疑いもせず、すぐに了承し、約束の日時に別邸で待つことを約束してくれた。
前日の夜に飛空艇に騎士団を乗せて王都に入り、ヴァルディス別邸に待機。
アーロン侯爵、エクセルロット侯爵、ライオネル侯爵らの騎士団も同様に、それぞれの別邸に魔法チームが飛空艇で騎士団の輸送を完了している。
ディープシュガーの騎士団は本領の方にいるはずだから、この圧倒的戦力でタコ殴りにできるぜー。
王都の警察である王都親衛隊は事が済むまで魔法チームで足止めだ。
過去の反省を活かし、時計の魔道具とタイムの呪文でしっかり同期させ、各部隊の作戦開始時間も綿密に打ち合わせ済みだ。
決行する時間は、ディープシュガーが食事を取る直前、午前十一時四十五分。食事中だとハウラーの訪問が断られる可能性もあり、食事が済んだ後の時間では、すぐに別邸からどこか別の場所に移動してしまうかも知れない。
それを考慮した時間だ。この時間はセリオスが提案した。もちろんディープシュガーの食事の時間も調査済みだ。彼は決まった時間に食事を取る。遅れた時、事情も認めずその料理長を手打ちにしたこともあるそうで、こういうところでも他人に厳しく自分に甘い、いけ好かない奴だ。
「時間だ。これより、逆賊を討つ!」
俺はウインドウ表示された時間を確認し、宣言する。
「「「 はっ! 」」」
「行くぞッ!」
馬上のケインが手を前に振って合図する。
すでにブリーフィングは済ませているので、後は動くだけだ。
ヴァルディス騎士団は『ヒーラギ別邸』改め『ヴァルディス別邸』から次々と勢いよく飛び出していく。
真っ赤な鎧に身を包んだ精鋭だ。
のぼり旗に、この世界の人達が読めない『風林火山』の漢字の文字が混ざっているが、ご愛敬だ。
俺自身もその騎士団に混じり、中央を走る。王都の交差点にカーブミラーが見えた。俺が王宮に提案し、最近、建てたものだ。馬車の出会い頭の事故を防ぐため、という名目であったが、もちろん今日この日のためでもある。
うっかり貴族の馬車と事故ったら後が面倒だからね。ま、探知の呪文も唱えているから、俺の部隊はカーブミラーが無くても問題は無いんだが。魔法使いがいない部隊もいるからな。
「急げっ! 遅れる者は置いて行くぞ!」
はええよ、ケイン。
本当に遅れる者が出ているが、ううん、今の将はケインだからな。指揮系統を考えても俺が横から口を出すのは止めておく。混乱してはまずい。
ケインは訓練や統率をしっかりやってくれていたので、俺は褒美として大枚叩いて名馬を買い与えてやったのだが、ちょっと他の隊員とのバランスも考えなきゃだな。
「前方! ルーク部隊を確認!」
物見の兵が告げる。ルークの部隊は小さくケツしか見えなかったが、やはり素早い行軍だ。さすが戦上手のお兄様。
「左から、ロフォール部隊が来ます!」
おっと、ティーナも来たか。この感じだと競り合うことになるか?
『ケイン、ロフォール部隊を先に行かせろ』
念話で指示。
『了解!』
先頭を行くケインがスピードを少し緩め、そこにロフォール部隊が入り込んだ。
『ユーイチ、変な気は遣わないで』
ティーナが念話で言ってくる。
『いやいや、ぶつかったら事だろ?』
『もう。でも、チッ! お兄様が先頭みたいね。こんなことならフライングすれば良かった!』
だんだん清らかなティーナちゃんが穢れていくなぁ。
『一番乗りは重要じゃ無い。作戦成功だけ考えろ』
勘違いしてもらっても困るので言っておく。
『む、分かってるわよ。じゃ、お先に』
ティーナの部隊がスピードを上げ、むむ、これはミオが何か支援魔法を使った様子。
くそ、そういう呪文、俺にも教えておけと。
「見えました! ディープシュガー別邸ですッ!」
物見が告げる。
「よし、このまま突入するぞ!」
ケインが言い、すでに門は大きく崩されているので、魔法使いの誰かが石壁を使ったようだ。ミオかな。
騎兵がスピードを緩めず、そこから中の敷地に突入していく。
「で、出会え! 出会え! 曲者ぞッ!」
「ええい、何奴! ここが民部(税務)を預かるディープシュガー侯爵家と知っての狼藉かッ!」
ようやく警備兵がちらほらと出てきたが、遅い遅い。
すぐさまこちらの騎兵に切り捨てられ、沈黙した。
「探せッ!」
「ディープシュガーはどこだっ!」
むむ、アレはルークの部隊の兵だと思うが、まだ仕留めてなかったのか。
まずいな。
どこか抜け道があって、もぬけの殻となっていては作戦失敗だ。
屋敷も無駄に広いんだよなぁ。
俺はすぐさま、探知を使う。今のレベルもスキルも鍛え上げた俺なら十キロ四方は軽く行けるぜ。
条件は『みんなの敵』
反応が有った。
「向こうだ、ケインッ!」
俺はC4Iシステムでポイントを全員のウインドウに示してやる。
「行くぞ!」
赤備えが放たれた矢のようにそこに向かって一直線に駆ける。
そこには蔵があった。
解錠で頑丈そうな鉄扉の鍵を開け、浮遊の呪文も使って鉄扉を軽くする。
「開けろ!」
兵士が取っ手を掴んで両脇から引っ張る。
「ひ、ひい」
中には茶色い絹の服を着込んだ太った男が、宝箱を背に腰を抜かして尻餅をつき慌てている。
間違い無い、悪代官顔のディープシュガーだ。
見回すが、ティーナは残念ながら近くにいない様子。じゃ、俺が口上をやるか。
「ディープシュガーよ! 探部である! 貴様の不正の証拠は掴んだぞ! 観念しろ!」
「ええい、ラインシュバルトの奴隷め、このような手段に打って出ようとは……!」
こっちが手も足も出ないと思って油断していたようだな。甘いよ。
「ふむ、アレが男爵に上がったという奴隷か」
今の今まで気づかなかったが、宝箱の横に黒いローブの男が立っていた。
俺はぎょっとした。
いつからそこにいた?
「バルシアン卿! た、助けてくれ!」
悪代官がその男に向けて手を伸ばして、名を呼んだ。
予告
次の回でユーイチがビビる戦闘をやります!




