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異世界の闇軍師  作者: まさな
第二章 盗賊ですが、何か?

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第十三話 裏切り

2016/6/25 台詞を一つ修正。

 盗賊団と兵士の斬り合いになってしまっている酒場は、てんやわんやの状況だ。


 迷わず俺は行動した。


 持ってきた煙玉についている紐を思い切り引っ張る。

 プシュッと内部で火が付いた音。

 思い切り酒場の真ん中に向けて投げる。

 あらっ?

 思ったより勢いが付きすぎて、酒場の向こうへ飛んでっちゃった。


 …おおう。

 アイテムにミスが発生するとはね。

 これは想定外だった。


 ま、慌てなくても、もう一つ予備がある。できればもっとたくさん買い込んでおきたかったが、仕方ない。売ってる品も二つきりしか無かったし。


 今度は下手投げ(アンダースロー)で慎重に加減して投げる。


「よし!」


 ちょうど酒場の床のど真ん中に転がっていく。


「させないっ!」


 と、女剣士がタタタッと倒れそうな姿勢ながらも軽快に走り込んできて、その煙玉を剣でゴルフのようにパコーン!

 ナイスショット!

 煙玉は闇夜に消えていった…。


「えっ! なっ…! 何するんですかーっ! それ最後の一つなのに」


 俺の起死回生の秘策が!


「うるさい! 煙玉なんて使わせるわけが無いじゃない。あなたバカでしょ」


 ぐっ。

 くっそ! くっそ!


「ちっ、バカが。煙玉はすぐに火が付かねえんだ。三つ数えて投げやがれ」


 すでに床に突っ伏し、兵士に剣を突きつけられているジークが言う。


 ええ? そう言うの、知らなかったし。


「さあ、どうするの? アンタの手下はほとんど捕まえたけど」

 

 女剣士がお頭に向かって言う。

 見ると、リムやリッジやクラン、他の盗賊も全員、武器を捨てて降参の状態。ロープで縛られている者もいる。

 まあ日頃から訓練しているであろう完全武装の兵士(プロフェッショナル)にごろつきが勝てるはずも無いか…。


「ふん、やめたやめた! あの奴隷の役立たずのせいで、このザマだ。煙玉を持って来いって簡単な命令一つ、できやしねえ。さっさと安値でいいから売り飛ばしてやりゃあ良かったぜ!」


 ぐ。


「ホントだぜ」


 いや、リッジ君、お頭は多分、俺に同情して、俺は盗賊団に脅されてこき使われていた被害者として罪を軽くしようとしてくれてるんだと思うんですよ?

 そんな心底うんざりしたような顔しなくても。うん、煙玉は悪かった、ごめんよごめんよ。

 

「まったくだ。仕事はなーんにもできねえし、ダンジョンでも一人だけボスにやられかけてたよな」


 クランがニヤニヤしながら追い打ちを掛ける。


「ニャ! それは酷いニャ! ユーイチは魔法も使えるし、おつかいもできるし、役に立つニャ!」


 わあ、リムが擁護してくれたけど、うん、今はあんまりひっくり返さないで欲しいな。ほら、怖いお姉ちゃんがこっちを凄く胡散臭そうな目で見てるし。嬉しいけど、お頭の粋な計らいが台無しになりかねない。

 …それと、私、今の今まで、魔法を使えること、忘れておりましたっ! 

 すんませんしたっ!


「うるせえ、だいたい、てめえもだ、リム。魚を捕るしか能がねえ猫族なんて捕まえるんじゃなかったぜ。騒がしくて待ち伏せにも使えなかったしな」


「ニャ!? ア、アレは、アレは、美味しそうな干し魚の匂いが」


 この様子だと俺が加入する前になんかやらかしたな、リム。リムはみんなとはいつも別行動で魚獲りだったし。ま、今となってはグッジョブだ。


「ふん、黙れ。この期に及んで責任のなすりつけで仲間割れとは、クズ揃いの山賊らしいことだ」


 兵士の一人が軽蔑した目で言う。

 へへ、バレてなーい。

 いや? 仲間割れってことはもう盗賊一味で勘定されてるのか…むう。


「おいおい、勘違いすんな。あの二人は俺らの仲間なんかじゃねえよ。俺らが襲って手に入れた戦利品だ。そういうわけだから、せめてもの罪滅ぼしだ、持ち主のところへ返してやってくれ」


 お頭ぁ!

 ありがとうございます! ありがとうございます!


「いいだろう。だが、ルゴーよ、その程度で罪が軽くなると思うなよ」


「ふん、思っちゃいねえさ。俺様は天下の大悪党だからな。だが、大人しく投降してやるんだ、手下共を手荒に扱わないと約束してもらおうか」


「ふざけるな! 山賊風情が、頼める立場と思ったか!」


「ほお、威勢が良いなあ、兄ちゃん。だが、俺とまともにやり合って無事で済むと思うなよ?」


 お頭が剣を構え直した。


「むむっ」


「待って! いいでしょう、手下は手荒に扱わない。その条件、飲みましょう」


 女剣士が言う。


「おい! 勝手なことを言うんじゃ無い。山賊が大人しく言うことを聞くわけが無いだろうが」


 兵士が怒るが。


「ボスが大人しくさせると思うけど? そうよね、ルゴー」


「ああ、てめえら、詰め所じゃ大人しくしとけ」


「「「 押忍! 」」」


「どうかしら?」


「ふん、いいだろう。だが、少しでも暴れたら、その話は無しだ。いいな?」


「おうよ。じゃ、降参だ」


 お頭が剣を床に投げる。すぐに二人の兵士が左右を挟んでロープでぐるぐる巻きにして、手下と一緒に連行していく。お頭達のお芝居が功を奏したか、兵士達は俺とリムを放置。それはそれで、ちょっと脇が甘いとは思うけど。


「ちょいと! この店はどうしてくれるんだい」


 待ったが掛かったので、ちょっとドキリとしたが。

 酒場の女将だ。彼女が店内を指差す。テーブルは全て壊され、皿は割れて散乱し、さんざんな状態だ。

 兵士の足が止まった。困ったように顔を見合わせる。


「俺の懐に金がある。そいつで弁償してやってくれ」


 お頭が言う。


「じゃ、女将、後で被害額を報告しろ。コイツの金で足りる分は弁償してやろう」


「ええ? そりゃないよ。アンタ達が壊した分もあるだろうに」


「む」


「その分は私が払いますから」


 女剣士がさらっと言う。


「そうかい? なら、いいけどさ。じゃ、そうだね、そこの奴隷のアンタ」


 酒場の女将がこちらを見る。


「いえ、自分は事情聴取がありますので」


 こき使われて、そのまま下働きにされては敵わない。

 給金がもらえれば良いが、奴隷扱いだと年収ゼロもあり得る。

 なので、ささっと、リムの手を引っ張り、女剣士の側に行く。

 俺たちをこんな目に遭わせてくれた張本人だが、ここにいる人間の中では一番まともそうだ。

 位も高そうだし、へへへ、この女、金を持ってそうですぜ、兄貴。


「ええ? ふう。じゃ、疫病神はとっとと帰っとくれ」


 酒場の女将も諦めた様子。


「ごめんなさい」


 女剣士が申し訳なさそうに謝る。

 ま、ちょっと可哀想な気もするが、酒場から出たところで仕掛けなかった貴女のミスですからねぇ。

 女将は完全に被害者だ。


「じゃ、えっと…」


 すでに外は真っ暗だ。街灯も無い。酒場から少し離れたところまで歩いて、女剣士がこれからどうしたものかと立ち止まって考え始める。

 だが、やることは決まってるんだし、言う。


「まず、今日はもう遅いので、二人分の寝床の手配をお願い致します、マスター」


「んっ? マスター?」


「はい。ご主人様(マスター)。問おう、あなたが私のマスターです」


「いやいや、ちょっと勝手に決めないでよ。しかもそれ質問になってない!」


 狼狽えつつも、きっちり細かいところをツッコんでくる女剣士。良い相方になってくれそうです。


「私の名前はユーイチ、こっちはリムです。

 色々、言いたいことはお有りでしょうが、私たちはあの恐ろしい山賊達に監禁され、いつ殺されるかと、ろくに睡眠も取れていなかったものですから。今日のところはマスターもお疲れでしょう、早く寝床の手配を」


「いや、それ嘘だよね。だって、食事してるとき、和気藹々(わきあいあい)だったじゃない」


 鋭い子だし、下手に嘘をつくと信用も得られないか。


「申し訳ございません、私、嘘をついておりました。ですが、疲れて眠いのは本当です。早く寝床の手配をして頂けると。慈悲深きマスター」


「ふう、分かったわ。このままアンタ達を逃がすわけにも行かないし、その辺の事情は明日一番に聞かせてもらうわよ?」


「もちろん」


「じゃ、私の泊まっている宿、空きがあったはずだから、付いてきなさい」


「おお! ありがとうございます! よっ! 美人マスター、太っ腹!」


「宿ニャー! ありがと、太っ腹!」


 おい。リムちゃぁーん。

 それ、意味が全然違って聞こえるぞ。

 俺まで悪口を言ったように聞こえるのはなぜだ。


「太っ…! うるさい! 私の名前はティーナ! マスターでも太っ腹でも無いから、そこのところよろしく」


 お腹はしっかりくびれているのだが、割とその辺を気にしているっぽい乙女のティーナは、割と怖い目でこちらに釘を刺すと、宿へ向かう。



「あの宿よ」


「ああ」


 彼女の宿泊している宿は上等な宿で、看板が魔道器を使って照らされており、すぐに分かった。さすがにネオンのようなレベルじゃなかったけど。


 …美少女とホテルに泊まるシチュエーション。

 まさかこんな日が来るとはねえ。

 うひょ。


「ユーイチ、おかしな真似したら、遠慮無く斬るから、覚えておいてね」


 ちらっとこちらを見て、さらっと怖いことを仰るご主人様。


「いっ、いえいえ、滅相もございません。命の恩人ですし、大人しくしております故、平に平にご容赦を」


「むぅ、私は貴族でも王族でも無いから、普通に喋りなさい」


「さいで」


 この子、身なりは良いし、威風堂々とした雰囲気があり、それでいて上品な感じだから、てっきり貴族かと思ったんだけど。

 ちょーっと当てが外れたなあ。

 そう言えば、貴族ならいるはずのお付きの者もいないか。

 むう。


 だが、ちゃんと名前で呼んでくれたし、扱いは良い。

 明日の事情聴取次第かもしれないが…。


 ま、このお人好しなら、ワタクシ、丸め込める自信があります!


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