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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十五章 大魔導師への道

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第五話 魅惑のセイレーン

2016/12/1 台詞を少し修正。

 サザ村の海岸沿い。

 月明かりに照らされた砂浜の上で、ボウガンを構えたリサが、俺に問うた。


 「あなたは誰?」と。


 リサは俺の顔はよく知っているし黒ローブなんてこの村で着込んでいるのは俺だけだ。

 誰かと間違うはずが無い。

 それでも聞く。それが俺達が話し合って決めた、22番目の想定ルール。



 ルール22 …… パーティーメンバー、あるいは村人の誰かが、異常な行動を取った場合、その者の名前を問う。 



「む、むう…フフ、さすがと言おうか、いや、この男(・・・)の用心深さが異常よの。だが、撃てるかな? 仲間のこの男を―――ガッ!?」


「撃てるわよ?」


「ばっ、お前達は冒険者仲間(パーティーメンバー)では無かったのか! くそ」


 俺は(・・)悪態をつきながら薬草を食べ、体に刺さったボウガンの矢を抜く。


「名を名乗りなさい」


「フフ、我に名など無い。強いて言えば遭難させるモノ、セイレーンとも呼ばれるな」


「むう。伝承と少し違う……」


 リサがそうつぶやいて渋い顔になる。


「ほう? 何か知っておるのか?」


「第七の使徒、セイレーンは海で歌を歌い、人を惑わしたそうよ」


「お望みなら、歌を歌ってくれようぞ。さあ、お前も、我が魅了の支配下に―――ガッ!?」


 喉に激痛が走る。口の中に撃つって。相変わらず容赦ねえな。だが、ナイスだ、リサ。

 (コイツ)に歌を歌わせてはならない。


「馬鹿ね、喋りすぎよ、アンタ。ティーナッ!」


「ええ、これでどう?」


 ティーナが俺の前に飛び出てきて、『真実の鏡』を使った。


 だが、俺はニヤリと笑う。


「フフフ、悪魔が俺に化けているとでも思ったか? 俺は正真正銘の本物よ。ただ、ちょっと操られてはいるがな」


「もう、それなら、正気に戻りなさいよ、ユーイチ。おっぱい、見せてあげるから」


 ティーナが言う。


「フッ、そんなもので―――ほ、本当だな! ティーナ!」


 ()は慌てて聞き返す。


「うわ、呆れた、それで本当に正気に戻るなんて」


「どうしようも無いドスケベ野郎ね」


 何とでも言え。すでに一度ティーナのおっぱいは見ているのだが、あえて言おう。


 何度でも見たい! と。


 いつも、おっぱいが見たい! と。


「くっ、馬鹿な。完全に術に掛かっていながら、なぜ……―――たわけっ! 性欲とは人間の生存本能(ナチュラル)にして、人類繁栄の摂理(ルール)。『男の性欲が無くなれば全ての女から美は消え去るであろう』by ショーペンハウアー! 即ち、美とはエロス! エロスとは人間の生きる糧、生き様であるッ!」


 正気を取り戻した俺は喝破すると杖を構え、探知(ディテクト)で敵の位置を探る。


「海だ!」


 俺が指差す先、その岩場の上には人魚が座っていた。


 上半身裸で。


 ああっ! しまっ―――


「ふう、我が術を破るとは、なるほど、エロスとはお前にとっては大層なものらしい」


 再び心を乗っ取られた俺が感心しながら言う。


「遅くなりました!」

「待たせたな」


 クロやレーネ達もこの場に駆けつけた。大人数なので別の家に泊めてもらっていたのだが、そのため念話(パーティーチャット)で召集を掛けてから来るまでにタイムラグがあったのだ。ま、それも全て想定内。


「そいつが敵ね! 雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」 


 エリカが呪文を唱えるのでヒヤッとしたが、きちんと俺では無く海の岩場にいるセイレーンを打ち据えた。


「ぎゃあっ!」


 悲鳴を上げたセイレーンだが、まだHPは残っている様子。


「急げ!」

「ええ!」


 レーネ、ティーナの前衛組が海に入り、セイレーンへと立ち向かっていく。


「フッ、遅いな」


 セイレーンはニヤッと笑うと、歌を歌い始めた。リサがボウガンを放つが、離れすぎていて威力が弱く、セイレーンが簡単に手で矢を弾いた。


「アアア~♪」


「くっ!」


 ふむ、成功だ。

 本来ならこの世のモノとは思えぬ素晴らしい歌声だったのだろうが、俺が事前に唱えていた呪文により、波長や音程が強制的に変換され、耳障りで下手な歌にしかなっていない。


 音は空気を伝う。なら、耳の側の空気を特定の振動数で振るわせてやれば、音が変わるのだ。

 この仕組みを利用して外の騒音を低減するヘッドホンなんてのも現代では開発されてたな。


「むっ! なんと言う魔法抵抗、馬鹿な、人間の分際で……我の歌に逆らうか。だが、逆らえぬ者(・・・・・)もいたようだな。ククク」


 セイレーンが笑う。


「あっ!」


 周りを見ると、いつの間にか集まったサザ村の村人達が黄金色に目をぎらつかせ、俺達に飛びかかる隙を窺っている。

 まずいな。


 普通の村人なら余裕で相手に出来るが、獣人の猫耳族、こいつらはパワーとスピードはありそうだ。


「皆さん、正気に戻って下さい。陣を払い、流れを戻さん。打ち破れ、ディスペル!」


 クロが解除(ディスペル)の呪文を唱える。かつて自身の呪いの姿を解こうと必死になって鍛え上げていたその呪文は、充分な熟練度に達していた。

 一度に範囲指定とか。


「ナイス、クロ!」

「むっ? ワシはどうして…」

「あんれ? なんで外を出歩いてるだか?」


 俺も含め、村人達が全員正気に戻った。


「あっ! 皆の衆、アレを見るだ! 人魚だべ!」


 チッ、せっかく魅了を解除したというのに、姿を見て魅了され、またこちらにファイティングポーズを取り始めるし。

 爺様は牽制のジャブを繰り出しつつ軽快なステップまで踏んでるが、こいつらのネコパンチはヤバそうだ。


「ん、ルール35を適用、静寂になりて安息のまどろみに(いざな)え、スリープ」


 ミオがルールを一つ飛ばして(・・・・・・)、村人達を一斉に呪文で眠らせた。

 俺が策定したルールでは、視覚で魅了してくるタイプなら、まずは暗闇(ダークネス)の呪文を使うか目を閉じて戦うというものだった。

 セイレーンは歌声でも魅了してくるので、良い判断だ。


「ちい、役立たずが! かくなる上は……」


 セイレーンは分が悪いと思ったか海に逃げ込もうとしたが、ピンクの光る輪っかが数本降りてきて、その身を縛り上げる。

 俺の束縛(バインド)の呪文だ。


「くっ、動けぬ!?」


「今よ! ティーナッ!」


 リサが叫ぶと同時、その場に辿り着いたティーナがレイピアをセイレーンに突き立てた。

 ボフンッと、セイレーンの肉体が青い煙と化す。


「クリア!」


「やった!」


 クロやミネアと俺は片手でそれぞれハイタッチ。 

 多分、今までの使徒の中では一番早く、そして楽に倒せたな。

 俺以外は全員、ノーダメージだし。


 だが、誤算もいくつかあった。てっきり歌声でやられるモノだと思って、音が遮断出来なかった場合の想定を色々と考えていたのだが、一番最初に、歌声を聞く前から俺が魅了されるなんて。

 ホント、情けないというか、なんと言うか。

 音でも姿でも無いとすれば、フェロモンにでもやられたか?

 あり得そうでやだなー。


 ま、仲間が変な行動を取りだしたら、敵性と判断しろとずっと前から話し合っていたから、気づいて対処も出来た。


「さて」


 俺は埋めておいた石の箱をアースウォールで取り出す。

 ストーンウォールでさらにその石の箱の中に封じていたリーファも取りだしてやった。


「ふう、このまま放置されたらどうしようかと、少し心配になったぞ」


 リーファが本当に心配したらしく、そんな事を言う。


「しないしない」

 

 それで呪いが解けるなら考えるが、俺と引き離したら俺が死んじゃうらしいからな。まったく。

 魔剣(リーファ)は攻撃力が高いし、魔法抵抗が上がるのはいいのだが、やはり万一の時に危険だと判断して、仮の封印をしていた。


 魅了の術を使う敵と戦う時に一番やっかいなのは、味方の攻撃、パーティーアタックだからな。


 ティーナやレーネが魅了された場合もルールを決めていたが、女性のためか、前衛組は無事だった。

 これが男だらけのパーティーだったら、結構ヤバかったかも。


「さて、じゃあ、ティーナ、おっぱいをフヒ、さっそく……」


 俺はニヤけそうになる顔を何とか抑えつつ、揉み手でその話を持ち出す。


「呆れるわね、この男」


 などとリサが言うが、約束は約束だしね? フフ。


「ごめんね、ユーイチ、期待させたのは謝るけど、あなたを正気に戻すためのブラフ? みたいなものだから」


「なっ! そんな……! ティーナ、一つ聞くが、君はオオカミ少年の話を知っているか?」


「ええ、もちろん。いつもオオカミが来たと嘘をついて、いざと言うときに本当のオオカミと信じてもらえずに命を落とす少年ね」


「分かってるじゃないか。パーティーメンバーの信頼に拘わる問題だ、ここは大人しくおっぱいを見せてもら―――」


 スコッ!


「ぎゃっ! お、おい!」


「それ以上言うと、パーティーメンバーに対するセクハラとして、刺すわよ?」


 刺してから言うなよと。


 まあいい、俺の脳裏には君のおっぱい動画がきっちり保存してあるからね!

 ウヒヒ。

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