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異世界の闇軍師  作者: まさな
第二章 盗賊ですが、何か?

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第十一話 ルドラの街

2016/10/3 若干修正。

 ダンジョンはクリアしたものの、俺は結構痛い目に遭ったし、何より怖かった。

 ゲームならいくらでも敵を倒す自信はある。

 だって、死んでも生き返るし、痛くないでしょ?


 痛いのは無理だから…。

 死ぬのも普通に怖いですから…。


 冒険者という職業、この世界では、本当に命知らずだと思う。

 実際に命を落とすという話だし。


 堅実な生活の方が良い。

 でも、農夫は勘弁。

 畑仕事はきつかった…。


 だとすると、やっぱり薬師や道具屋さんが良いのではないかと思う。

 もちろん元世界の高校生が一番だけど。


 正直言うと、異世界に行って、魔法を唱えてRPGロールプレイングゲームをやれたら面白そうだなあと思った事はあるよ?

 でもね、実際に来てみると、大変なことだらけ。

 ゲームはゲームだから楽しい。

 それがよく分かった。


 ネコミミ美少女ともあんまり仲良くなれてないし。

 まあ、リムは見た目は可愛いが、中身はただのアホな子だ。

 俺の求めてる美少女じゃない。


 もっとお淑やかで、高貴で、いつも優しく俺を支えてくれるような、そんな癒やし系がいいな。


「ニー」


「よしよし、お前も癒やし系だよなあ」


 クロをナデナデ。

 美少女じゃないけれど、猫は猫で普通に可愛いし。

 心がちょっとだけ癒やされる。


 あとは、ロリっ娘と金髪エルフとツンデレ美少女か。

 いや、そんなのが出てきても、俺は元世界に帰るから!

 絶対なんだからね!

 

 でも、帰り方の手がかりすら、今は掴めていない現実。


「くっそ! くっそ!」



「どうしたんだ? ユーイチは」


「さあな。ボスに攻撃を食らってたから、あれが悔しかったんだろ」


「ああ、食らってたな。ぷぷぷ」


「ユーイチは、すっトロいニャ」


「うるせえよ!」


 ぷんすか。

 そーゆーコトじゃないの。

 俺が気に入らないのは、もっと別なことだ。


 そう、俺たちは今、森を抜け、街道を東に、ルドラの街に歩いて向かっている。

 あのダンジョンでは、ボスが守っていた宝箱が有り、そこには大銅貨が百枚近くも入っていた。

 大銅貨は一枚で100ゴールドだから、

 一万ゴールドである。

 日本円に換算すると200万円。

 ちょっとした大金だ。

 十人で分けると少なくなるが、普段の彼らの本業よりも実入りが大きかった。


 それがよろしくなかった。


「お頭、これなら、ダンジョンをクリアした方がずっと儲かるんじゃねえですか?」


「そうだな。よし! 野郎共! 次のダンジョンへ行くぞ」


「「「 ヤー! ダンジョン! ダンジョン! ダンジョン! 」」」


 そう言う流れだ。


 もちろん、俺は必死に反対したよ?

 理路整然と、デメリットを並べ立て、情に訴え、泣き落としも、脅しもやった。


 だが、悲しいかな、下っ端の言うことは聞いてもらえない。

 反対したのは俺だけだったから、多勢に無勢、多数決でも負ける。

 安○先生、独裁者になりたいです…。



「ユーイチ、そうしょげるな。街に行けば、美味い物も食えるし、酒も飲めるし、女も買えるぞ」


 あら嫌だ。

 金で買う女なんて。

 不潔よ、不潔。

 だいたい、まともな女の子がいるとも思えない。


 …いや、凄い美少女の娼婦がいたら。


「ち、ちなみに、美少女はいますか?」


「あん? まあ、高い金を払えばな」


 高いのか…でも、ゴクリ、高い金を払えば可愛い子がいたりするんだ…

 い、いかん、ちらっといけない世界を想像してしまった!


「ふーん、ユーイチは女がいいのニャ。あたしは魚の方がいいニャ!」


 そりゃリム、お前は猫だからな。魚は安いだろうし、好きなだけ買ってたらふく食べてくれ。


「街に行けば好きなだけ買っていいぞ、リム」


「やったニャー!」


 ふん、魚で幸せになれるとは、安い女だ。


「だが、お頭、街は…」


「心配するな、ジーク。一晩、酒を飲んで情報を手に入れたら、すぐに発つ。ちょっと寄り道するだけだ」


「ならいいが、買い物はユーイチとリムにやらせた方が良い」


「分かった、そうしよう」


 ジークは何か懸念があるようだが、何だろうか。


「見えたぞ、ルドラの街だ」


「よし、いいか、てめえら、俺たちは冒険者だ、そう言う顔して堂々としてろ。いいな」


「「「 へい! 」」」


 ああ、ひょっとして、お尋ね者だから、そこが心配なのか。賞金首だったりして。

 うーん、巻き込まれないよう、他人のフリをしておくか…とほほ。


 ビクビクしながらルドラの街に入ったが、入り口で番をしている兵士は、笑って右手を挙げて挨拶してきた。門番の役目を果たしていない。


「な? 言っただろ。ジーク。おめえは、心配しすぎなんだよ」


「ふん、街を出るまでは安心できん」


 そうだね。盗賊は他所様に忍び込んで根城に帰るまでがお仕事だよね。


「分かった分かった。じゃ、先に宿を取ろう。娼館に行く奴は手を挙げろ。ひい、ふう、みい…五人か。よし」


「ユーイチは行かないニャ?」


「い、いや、俺は良いよ」


 お頭、ジーク、リッジ、この辺は行かないようだ。なら、馬鹿にされることもないだろう。


「じゃ、お前らスられたりすんなよ」


「そんな間抜けはしませんぜ、お頭」


「この街にいる間は、リーダーと呼べ」


「へい、リーダー」


 いや、もうね、染みついた雰囲気が、盗賊だと思うんですけど。


 最初の関門は宿屋だ。宿屋の主人は顔を覚えるのが仕事みたいなもんだから、指名手配犯もきっちり記憶してるんじゃないだろうか。


「じゃ、俺が行ってくる」


 お頭が自ら宿に入る。ジークは中から見えないように、軒先の方へ移動した。


「そうだ、五人、大部屋でいい。一泊だけな」


「夕食付きだと、30ゴールドになるが、どうするね」


「いらん。他所で食う」


「そうか。ま、好きにしろ。ロドル一匹込みで、25ゴールド、前払いだ」


「ああ」


 チェックインはあっさりと成功し、大部屋に案内される。

 部屋にはベッドが六つ、等間隔に並べられていた。大部屋と言うが、ベッドが大半を占めていて、狭い感じ。


「じゃ、荷物を置いたら、すぐ出るぞ」


 ちょっと重い魔術書を引き出しに入れ、それで俺の荷物は終わり。薬草は葉っぱを重ねて風呂敷に包んでしまえばかさばらない。

 アジトにあったお宝は、持ち運べない物は放置して、金目の物だけ持ち出している。魔術入門の書もその一つで、俺が持たされた。俺としてはずっと持っていたいのだが、売りに出す予定だ。まあ、内容は覚えたので、問題はない。


 鍵を宿屋の主人に渡し、外に出る。中に入らなかったジークがやってきた。

 

「よし、じゃ、ユーイチ、リム、言っておいた物を買ってこい」


「はい」

「分かったニャ!」


「買った荷物はさっきの部屋に入れておけばいい。入り用だと思えば他に買っても良いが、いや、お前は魚をやたら買い込みそうだからな」


「なんで分かったニャ!?」


 おい。


「分かるに決まってるだろう。言われた物だけ買っておけ、いいな」


「はーい」


「市は向こうだ。日が暮れる前に済ませろ」


 ジークが指差す。


「分かったニャ!」


 やや不安の残るリムと一緒にお使い。クロも付いてくる。

 

「ええと、干し肉と、あと、なんだったかニャ?」


「干し肉、リュック、コンパス、塩、煙玉、ポーション、ダガーだ」


「おおー、ユーイチは良く覚えてたニャ」


 お前はホント、物覚え悪そうだな。

 とは言え、メモ用紙も無いこの世界では、お使いも楽では無い。

 ふむ、あとでメモの呪文を使えないか、試してみるか。


「じゃ、まずは肉ニャ!」


 露店が並ぶ市場の手前で干し肉を売っている。

 だが、これは順番として最後だ。

 重いし、かさばるし。


「いや、先にリュックと小物から買うぞ。重くなるから」


「んん? 全部買えば、重さは一緒じゃないのかニャ?」


「そうだけど、そこまでの歩きもあるだろ」


「ああ。ちょっとの事ニャ」

 

 リムが呆れた顔をするが、俺は少しでも楽をしたい。

 まずはリュック。

 丈夫で軽くて安ければ良いと思うが…。


「おじさん、リュックを十個くれニャ」


 選ぶ前に、さっさとリムが店主に話しかけてしまう。まあいいか。


「十個か、ちょっと多いが、パーティーの仲間で使うのか?」


「そうニャ! あたしらは歴としたいっぱしの駆け出しの冒険者ニャ。盗賊とは違うニャ」


 頭痛がしてきた。


「ううん? いや、別に盗人扱いしたわけじゃないんだが、はは、面白い奴だな。で、どんなのがいいんだ?」


「うーん、オススメはどれニャ?」


「そりゃ、金があるんなら、とにかく丈夫で大きいヤツがいいぞ。たくさん入るし、すぐ破れたりしないからな。ちなみに、嬢ちゃんたちはいくらあるんだ?」


「大銅貨20枚ニャ!」


 手持ちを大きな声で言うの、止めて欲しい。泥棒さんに目を付けられたらどうするのよ。


「ほう、そいつはちょっとした小金持ちじゃねえか」


「うん、昨日、ダンジョンのボスを倒したニャ!」


「なるほどな。分かった。じゃ、冒険者向けの上等なのが良いだろう。これがうちに置いてある一番上等なヤツだ。たっぷり収納できるし、リュックの背中側は厚めの硬革が張ってあるから、荷物がとんがってても背中が痛くない優れものだぞ」


「おおー」


 店主が持ち出してきたリュック、登山用の本格派みたいな印象。脇にあったピクニック用みたいなのとは、材質からして違う。丈夫そうだ。ポケットも付いているし、利便性も高そう。


「それに、この金具がポイントでな。大きな物を入れるときや、邪魔な時はこう外して底の方に仕舞っておけば良いが、こう骨格を組み立てておくと、戦闘で魔物に少々噛みつかれたくらいじゃ潰れないって寸法だ。中のポーションも安全だぜ?」


「おおー」


 なるほど、よく考えられている。


「値段は一つで大銅貨2枚だが、大口取引だからな。二割引にして大銅貨18枚に負けてやろう。200ゴールドの値引きだ」


「おおー、じゃそれで決まりニャ!」


「待て待て、リム、他の物も買わないといけないんだぞ」 


 コンパスとダガーは値が張りそうだから、予算オーバーだ。


「ああ、そうだったニャ。でも、200ゴールドなら…買えないか」


「多分、買えないな」


「そうか、まあ、ギリギリで買うのも後が大変だからな。じゃ、出せる予算を言ってくれ」


 だが、それもはっきりしない。市場を全部回って、リュックを後回しにすればいいかもしれないが、時間も掛かるし、他もこんな感じで迷い出すとキリが無さそうだ。


「大銅貨1枚くらいのリュックはありますか?」


「良し来た! じゃ、これよりはランクが落ちるが、丈夫で多めに入るコレがオススメだ。値段は一個大銅貨一枚。金具が無くて添え木になってるし、ポケットも少なくなってるが、容量は一緒だ」


「じゃ、それで」


 これで万一、足りなくなるようだったら、怒られるだろうが、お頭の所へ行って追加予算をもらうとしよう。まだ大銅貨80枚近くあるんだし、リュックは長持ちするだろうから、ケチらない方が良いと思う。


「じゃ、コレを十個でいいんだな?」


「ええ」


「十個で大銅貨10枚のところだが、大口だからな、一枚負けて、9枚、900ゴールドにしてやろう」


「さっきは二枚負けてくれたニャ」


「はは、そりゃ、値段も高かったからな。よし、じゃあ、嬢ちゃんに免じて、もう50ゴールド負けてやる。それ以上は無理だ」


「じゃ、それでいいニャ」


「毎度有り!」


 簡単に値段が変わるなあ。それに人見知りの俺と違って、ぽんぽん話せるリムは、買い物でも結構役に立ちそうだ。


「よっと」


「大丈夫かい?」


「平気ニャ、全然軽いニャ」


 さすがです、リムさん。俺は四つ持っただけで、ズッシリきました…。


「んもう、ユーイチ、持ってやるからもう一個、貸すニャ」


「ごめん」


「いいニャ。あたしは力持ちニャ。ニャッハッハー」


 楽しい奴だ。


「じゃ、これじゃ大荷物になるし、いったん、宿屋へ持って行こう」


「ニャ」

「ニー」


 猫二匹を連れて、宿屋へ凱旋。


「ああ、あんたらか。また買い込んできたなあ」


「一個大銅貨一枚ニャ! 大口買いニャ!」


 自慢するリム。まあいいか。


「そいつはなかなかだったな。ほれ、鍵だ」


「ニャ」


 二階へ上がり、大部屋の鍵を開ける。


「じゃ、次を買いに行くニャ」


「リム、リュックは一つ、担いで行こう。そんなにかさばるとも思えないが、干し肉も買うしな」


「あー、おおー、ユーイチは天才ニャ!」


 安い天才だぜ、まったく。


 また干し肉から買おうとするバカ猫を説得し、値が張りそうなダガーを見に行く。


「らっしゃい! 何をお探しで?」


 ムキムキの武器屋の店主が声をかけてくる。

 武器屋には、当然ながら、たくさんの武器が並んでいた。

 剣、長剣、両手持ちっぽい幅広剣、細い剣や、斧、槍もある。

 値札を見るが、付いているのは半分くらいで、値段が書いてないものも多い。

 一番安い剣を探してみたが、銅の剣、200ゴールド。

 日本円にしておよそ4万円。

 やはり、武器は高めだ。


「ダガーが欲しいニャ」


「投げにも使える奴で」


 俺が付け加えて言う。

 前回のダンジョンで、中衛や後衛はなかなか攻撃参加が出来ないという問題点があったので、お頭が適当な奴に投げナイフを持たせようと発案した。良い考えだと思うのだが、どうせなら、大金もあることだし、三人くらいボウガンを持たせても良いのではと思う。

 ま、リーダーの決めたことだし、あまり口は挟まないでおこう。


「投げて使うなら、投げナイフ、細くて威力は無いが、安いから気兼ねなく使えるぞ」


「威力が無いのは駄目ニャ」


 リムが言う。ま、ボス戦だと、投げナイフなんかは役立たないだろう。


「じゃ、この辺りはどうだ?」


 武器屋の親父が、奥から何本か、適当に短剣(ダガー)を持ってくる。

 完全にまっすぐなナイフのようなものから、三日月のように反り返っているのまで、種類が多い。


「んー、オススメはどれニャ?」


「誰が持つんで?」


「後衛です」


「ははあ、じゃ、投げまくりたいなら、こっち。武器として使うなら、こっちだな。投げにも使えるぞ」

 二十センチほどの小さめのナイフと、三十センチほどの、重そうな短剣。


「こっちが強そうニャ」


 単純だが、まあ、威力があるに越したことは無い。


「こっちは300ゴールドだ」


 むむ、銅の剣より高いのか。まあ、材質も、鉄か鋼みたいだし。


「これは、鉄ですか、鋼ですか」


「坊主、鋼ならこんな値段じゃとても売れないよ。鉄だ」


 鋼は相当高いらしい。店を見回すが、鋼とおぼしき武器はここでは売っていないようだ。


「どうするニャ?」


 リムが聞くが、これでいいだろう。多分、鋼は買えない。


「これで」


「毎度有り。二本、買っていくかい? 投げて使うなら、予備を持っておいた方がいいですよ」


 2000ゴールドの予算で、リュックにすでに900ゴールド、ダガー一本で300ゴールド。コンパスがあるからなあ。


「また後で」


「はいよ。じゃ、どうぞ」


 武器屋の主人がリムに渡すので、ちょっと不安に駆られる。

 なんとかに刃物…。

 先に注意しておくか。


「人に向けちゃダメだぞ」


「分かってるニャ」


 ムッとした様子のリムは、その辺の常識はあるらしい。ふざけて俺に斬りかかってきたらどうしようかと思ったが、大丈夫そうだ。


「奴隷が偉そうに」


 むむ。武器屋の親父がつぶやいたが、なるほど、それで俺には渡そうとしなかったか。

 ちょっとムカつくぜ。

 いつか、金貨で一番高い…いや、そんな見栄を張ってアホらしい事をする程のことでも無い。


「なーんか、今の親父、感じ悪いニャ」


 リムもそう思ったらしい。

 ま、コイツはバカっぽいけど、俺を奴隷扱いはしないからな。他の盗賊の何人かはそう言う面が若干あるのだが。


「気にするな。次だ」


「ニャ!」


 道具屋に行く。

 ござを敷いてやっている露天商が安く売っているかもしれないが、まがい物を掴まされても事だ。

 コンパスは信用がおけそうなところで買うとしよう。


「いらっしゃいませ」


 道具屋のおばさんは声はかけてくれたが、それほど商売熱心でも無さそうだ。じっくり眺めるとしよう。

 もちろん、商品をだよ?

 

 棚に商品がずらりと置かれているが、干し肉やポーションもあるし、ここで全部揃ったかも。


「全部有るニャ!」


「そうだな」


 まずは重要なコンパス。コレが存在すると言うことは、この世界は思ったよりも進んでいて、大航海時代へと突入しているようだ。


「やっぱり、高いなあ」


 一番安い物で500ゴールド。思った通りの高額商品だ。


 俺が渋い顔でつぶやいたのを聞いて、干し肉の棚からこっちへやってくるリム。


「コレは、方向が分かるんだったニャ?」


「そうだ。こうして、矢印が北を指すように使う…で、良かったんですよね?」


 異世界なので、確認が必要だ。


「ああ、そうだよ。それと、平らなところに置かないと、上手く動かないからね」


 おばさんが答える。


「ニャ! 不思議にゃ。動かしても、矢印が、あっちを示すニャ」


「ま、そう言うもんだからな。磁力でそうなってるんだが、細かい説明は後だ」


 三つ置いてあったが、矢印の反応が一番良い物を選ぶ。

 800ゴールド。

 三つのうち、一番値段が高いものだった。

 んー、ま、足りないようだったら、お頭に事情を話した方が良い。


「ユーイチ、こっちの方が安いニャ」


「そうだが、磁石が弱い。しばらくすると、動かなくなるかも」


「ああ」


「うちはそんな、質の悪いのは置いてないですよ。もし、動かないようだったら、持ってきて下さい。新しいのと交換しますから」


 アフターサービスはしっかりしているが、いちいちここに来るのも面倒だし、動かなくなる時点でダメな物はダメですから。

 お頭の方針だと、ダンジョンを求めてあちこち旅しそうだし、ここは一番高値の物を買っておいた方が良い。


「じゃ、リム、リーダーにお金をもらいに行こう」


「ああ、足りないニャ…」


 コンパスは買わずに、酒場に向かう。

 いた。


「おお、早かったな、お前ら」


 すでに飲んでいるお頭は上機嫌だ。


「リーダー、コンパスが思ったより高くて、お金が少し足りないんですが」


「なに? いくらだ?」


「800ゴールドです。質の悪そうな安物なら500でしたが」


「じゃ、800のでいい。ほれ、五枚有れば足りるだろう」


「はい。どうも」


「コンパス、高いんだなあ」

 

 リッジが感想を述べている。


「どこでも作れるってもんじゃねえからな。そんなもんだ」


 ジークがああ言っているところを見ると、問題ないようだ。


「ふう、お頭に怒られると思ったニャ」


 それで黙ってたか。道理でリムが静かになったと思った。


「リーダーな」


「おっと、そうニャ、リーダーニャ」


「リーダーも、きちんとした理由があれば、そう怒ったりしないさ」


 酔ってるときは要注意だろうけど。


「うん。じゃ、さっさと買って、干し肉を食べるニャ」


 お前は食うことしか頭に無いのか、リム。


「リム、干し肉は旅先で食べるもんだ。魚にしとけ」


「おお。干し魚でもいいニャ?」


「いや、それは多分、微妙」


「えー?」


 少量なら買っていっても怒られないだろうが、干し肉を指定されているだけに、そこはきちんとしておいた方が良い。


 コンパス、塩の小袋入り一つ、ポーション四つ、煙玉二つ、干し肉の大袋入り一つ、で負けてもらい、百ゴールドが残った。

 いったん、また宿屋へ戻って荷物を全部置いた後、酒場へ行く。


「リーダー! 終わったニャ!」


「よし、いくら余った?」


「100ゴールドです」


「そんなものか。まあいい。じゃ、それはお前らが持っておけ」


「ニャ!」


 ぱっとリムが俺に手を出してくるので、大銅貨を渡す。


「ほれ、ユーイチ、お前も駄賃くらいは渡してやるぞ」


「どうも」


 大銅貨を一枚、もらった。

 でもねー、もらえないよりはマシだけど、まだ俺はあのダンジョンの分け前をもらっていない。


「心配するな。ユーイチ、次のダンジョンをクリアしたら、ちゃんとお前の分け前もやる」


 それを信用できたら良いんだけどね。タダ働きならごめんだ。


「あっ! こら、リム、それ、俺のだぞ!」


 チーズを横取りされたリッジが怒る。


「細かいことを言うニャ」


「いや、俺のだっての、返せよー」


「おい、騒ぐな。また新しいのを頼んでやる。女将! チーズを二つ追加だ。それにパンも四つ、あと適当に二人分持ってこい」


「あいよ」


 お頭が俺たちの分も注文し、少し早いが、夕食だ。

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