第二話 サザ村
2016/10/4 若干修正。
「ええ? 待ちなさいリム。港町は地図だと向こうの道だけど?」
リサが地図を出して首をひねる。
「いいから、こっちニャ! アタシの村がこっちにあるニャ!」
「ああ、そう言うこと。どうする?」
リサがティーナを見る。
「ええ、里帰りもした方が良いと思うし、じゃ、リムの村に行きましょう」
「分かったわ」
「ネコミミの人達がたくさんいるのでしょうか?」
クロが言うが。
「ハッ! おおおお…!」
ネコミミ美少女ハーレムの予感!
「ぷっ、分かりやすくてええな、ユーイチは」
とミネア。
「ただの馬鹿でしょ」
とリサ。
「ホントね」
ティーナも同意。
「うるさい。さあ、急ぐぞ!」
のんびりしているパーティーのみんなを叱りつつ、俺は先頭を切ってリムの村、サザ村へと急いだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「帰って来たニャー!」
リムが飛び上がって感慨深げに言う。
そこは、長い砂浜に面した村で、藁葺きの家がぽつぽつと並んでいる。トリスタンは先進国だと思っていたが、田舎はどこもこんなものか。
「んん? おお、リムじゃねえか、どこ行ってたんだ、お前は。ランドとイーサが探してたぞ」
中年のネコミミ親父がリムを見て驚いたように言う。
「ニャ、魚探しの旅に出てたニャ。パパとママにも心配掛けちゃったニャー…」
「魚探しって、おめえ…二年近くもか? まあいい、とにかく早く顔を見せてやんな」
「そうするニャ!」
リムが走って自分の家に向かったので、俺達はのんびり後を付いていく。
「まあ、リム! ああ、よく無事で!」
家の近くの砂浜で干し魚を作っていた母親らしき女性が、リムを抱きしめる。
「ただいまニャー。ちょっと遅くなったニャ」
「ちょっとって…この子は…。それで、そちらの皆さんは?」
「ああ、アタシの冒険者仲間ニャ」
「そう。あっ、じゃ、中でお茶でもどうぞ。娘がお世話になったようで」
やはり母親か。でもまともそうだなぁ…。
「いえ、こちらこそ」
家は十人が入るにはちょっと狭かったが、リムの母親が近所からもコップを借りてお茶を振る舞ってくれた。
それと干し魚。旨味がたっぷりで、癖になりそうな味だ。
「この子のことだから、無事だろうとは思ってましたが、それでも心配で」
母親のイーサがしみじみと言う。
「ええ…。リム、手紙くらい出せば良かったのに」
ティーナが気遣わしげに頷いた後、リムを見て言う。
「アタシは字は書けないニャ」
自慢げに胸を張るリムだが。
「じゃ、勉強だな。今度、俺が教えてやる」
「えっ! そ、それは別にいいニャ…面倒ニャ」
「ダメよ、リム。お母様にこんなに心配を掛けておいて」
「ムッ、そこは悪かったニャ。でも、美味しい魚がアタシを呼んでたニャ!」
格好良く言ってるが、食欲に負けたってだけだよな、それ。
「リム! 少しは反省しなさい。夕食は抜きよ」
「ニャッ! ママぁ、それは酷いニャー」
甘えん坊だな。自分で魚、獲れるだろうに。
「おう、リムが帰って来たって――おお、リム!」
「パパ!」
リムと同じ髪の色のネコミミ男がやってきて、感動の親子の対面。ひっしと抱き合う。
「馬鹿野郎、お前、心配させやがって、どこに行ってたんだ?」
「ミッドランドニャ。ここのみんなと冒険して、貴族の家臣になったニャ」
「な、なに? 家臣?」
「初めまして、ロフォール子爵ティーナと申します」
ティーナもリムのことを考えたか、そこで領主名を出して挨拶する。ただ、簡略だな。あんまり堅苦しくやっても、ここの人達は慣れないだろうし。
「は、ははぁー! 平に、平にご容赦を! ありがたき幸せ!」
やっぱり慣れなかったか、ちょっと違う挨拶を返す親父さん。血は争えぬのか。
「ああ、いえ、無礼講で構いません。冒険仲間ですから」
ティーナも同じ事を思ったか、苦笑してひらひらと手を振る。
「へえ、お前、家を飛び出てほっつき歩いてるかと思ったら、貴族の家臣たぁ、てぇしたもんだな!」
「ニャッハッハッ、パパの自慢の娘だから、トーゼンニャ!」
「おう、そうだな、俺の娘だからな、トーゼンか。ハッハッハッ!」
楽しそうな家族だ。
「おし、そう言うことなら、パーッと、祝いだな。村長に言ってお前の出世祝いをやってやろう!」
「ニャ! パパ、ホント?!」
「ああ、皆さんも是非、参加してってくだせえ」
「ええ、そうさせてもらいます」
「そうね、貴族様ご一行だもの、じゃ、私もご近所に話して手伝ってもらうわね」
「ママ、でっかい魚、料理して出すニャ」
「任せておいて、とびきり大きいのをもらってくるわ」
「やったニャー!」
リュックを家の裏に置かせてもらい、俺達はリムに村を案内してもらう。
「ここが砂浜ニャ!」
「お、おう」
「わあ、広い海ですね!」
「ええなぁ」
クロは海を見た事が無かったか、感動した様子だが、すでに海を見た事がある俺は海だなあとしか思わない。
しかし、日差しが強いな。もう七月だもんなぁ。こちらでも夏の季節だ。
「おーい!」
沖の方から呼ぶ声が聞こえ、誰かが泳いでやってきた。
「リム!」
「ニャ、クルト!」
黒髪の青年は銛で素潜りの漁をやっていたようで、手には刺した魚と銛を持っている。
知り合いみたいだな。ふーん、ネコミミでも泳げるのか。
「お前、どこに行ってたんだ?」
「旅に出てたニャ。ミッドランドニャ」
「ええ? 何でそんなところに」
「旨い魚があるって聞いたニャ!」
「は?」
うん、普通はそう言う反応だよな。
「そいつらは?」
黒髪の青年が俺達をチラッと見て気にした。
「アタシの冒険仲間ニャ」
「んん? そうか。人族ねぇ? うお、エルフがいるじゃねえか」
「そうニャ、エリカはエルフニャ。耳が変ニャ」
「アンタに言われたくは無いけど」
エリカが軽く言い返す。
「それより、リム、親父さんが探してたが、もう会ったのか?」
「会ったニャ。出世祝いをしてくれるって言ってくれたニャ」
「ええ、なんだそれ?」
リムが事情を話し、ティーナがまた挨拶する。
「むむ。どうも」
クルトはぶっきらぼうに礼を返したが、事情があんまり飲み込めてない感じだな。ま、それはいい。
「とにかく、でっかい魚、獲ってくるニャ。そんな小物じゃダメニャ」
「ええ? 分かったよ」
クルトはリムの言うことを聞いて、大きな魚に挑戦しに行くようだ。
俺はリムを引っ張って、こそこそ話をする。
「リム、この村の女の子はどこにいる?」
「ニャ? アタシ?」
「いや、まあ、お前も一応、女の子だけど、他の子、他の子」
「ティーナ、ユーイチがまた病気を出してるわよ」
「そうみたいね」
くそっ、気づかれた。病気って酷いな。
「まあ、そんな心配せんでも、べっぴんさんはそんなにおらんと思うで?」
ミネアがそんな夢の無い事を言い出すが…確かに、人口が極端に少なそうなこの村で美人が発生する確率は少ない。
だがっ! それはあくまで確率。
可愛いネコミミ美少女がこの村に十人いたとしても不思議は無い。
「あれ? リムじゃないの」
「ニャ、ミーシャ…」
リムが嫌そうな顔をしたのがちょっと気になるが、金髪のそこそこ可愛いネコミミ娘だ。しっぽは灰色。
「へー、帰って来てたのね。どこかで飢え死にしてるかとも思ったけど、ククッ」
金髪のネコミミ娘はそう言って意地悪そうに笑う。
「ムー、ちゃんと生きてるニャ!」
「それで、どこで何してたわけ? あ、ひょっとして魚でも盗んで、牢屋に入れられてたんでしょ、うん、きっとそうね、アハハ」
「そんなわけ無いニャ、兵士に捕まってお仕置きされたことはあったけど、牢屋には入ってないニャ!」
魚を盗んだ事は有るみたいだな、まったく。
「そ、ま、どうでもいいんだけど、そこの人達は?」
「ああ、アタシの冒険仲間ニャ」
「ええ? やけに大人数だし、エルフ? がいるの?」
「そうニャ。みんな強いニャ!」
「へえ? ふふ、じゃあ…」
スッと身構えたミーシャが一番近くにいたレーネに飛びかかったが。
「おっと。ほれ」
「きゃっ!」
剣を抜くまでも無く、片手で簡単にひっくり返され、尻餅をつくミーシャ。
「だから言ったニャ」
「むう、くっ。覚えてなさいよ」
「やニャこった。ベー、だ」
「リム、あの子も知り合いなの?」
「ムー、ミーシャは村長の娘だけど、アタシは嫌いニャ。すぐ意地悪してくるし、嘘つきニャ」
「そう」
ま、どこにでもそう言う奴が一人くらいはいるよな。顔はそこそこ可愛かったが、性格が悪い子は俺もパスで。
「じゃ、リム、次の女の子を紹介しろ―――はうっ?!」
喉元にレイピアが突きつけられていた。
「ユーイチ、何か勘違いしてない? 私達がここに来たのは、単にリムの里帰りに寄っただけよ?」
ティーナが微笑んでそう言ってるが、目は笑ってない。
「う、うん、そうだな。オーケー、大人しくしてるから、それを下げてくれ」
「約束よ?」
「う…くそ、分かったよ」
俺としたことが、ネコミミ村ということで浮かれて焦りすぎていたようだ。
ここは黙って探知の呪文を使えば一発じゃねえか。
条件は、俺に一目惚れするネコミミ美少女はいずこや!
もちろん、無詠唱でこっそりとね!
―――スコッ!
「ぎーゃっ! ティ、ティーナ! いきなり何をする!?」
「約束って言ったでしょ。何をこっそり、探知の呪文なんて使ってるのかしら?」
「い、いやいや、今のは、マッパーだから…」
チッ、ステータスを常時表示にしていたのが仇になったか。俺としたことが…。
「嘘ね」
スコッ! スコッ! スコッ!
「ひいっ、止めて、連続刺しは薬草が追いつかないから、止めて!」
「カカッ、情けないのう、ま、本当に嘘だから、自業自得じゃな」
などと、リーファまで俺の思考を読んでバラすし。
「申し訳ございませんでしたっ!」
謝って許してもらうが、ここまでは計画通りッ!
「つきましては、お詫びの品に、コレを献上したく」
俺はそう言いつつ懐から色とりどりの布を出す。
「ん? 何コレ」
ティーナが手に持って広げるが、見当が付かなかったようで首をひねる。
「フフ、俺の故郷で水着と呼ばれるモノだ。この炎天下、せっかく海に来たんだし、それを着てみんなで海をエンジョイして欲しい。フヒッ」
傘や雨合羽が欲しいなぁと思って探していたら、ナイロン草という良い物を見つけて、それを加工し染めたモノだ。
さすがに現代日本の素材の用にはいかないが、泳ぐだけなら充分な強度を持っていて、実用レベルである。肌触りも悪くない。




