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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十四章 貴族でおじゃる

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第二十一話 空軍創設

2016/12/1 若干修正。

 女神ミルスから未来についての啓示を受けている俺は、来たるべきスレイダーン戦のために、防衛軍を整えている。

 出来る事は全てやって、悔いの無いようにしないとな。


 外交での解決ももちろん模索すべきだが、それも失敗したときの保険は絶対に必要だ。

 防衛や戦争を完全に放棄すると言うことは、話し合いが通じない他の国に力や脅迫でねじ伏せられ、安全保障を他国に握られることとなり、本当の意味での独立を維持出来ない。


 自国を守らない、と言うことは自国の民を見殺しにすると言うのと同じ事だ。 



 マキャベリ曰く、


『自らの安全を、自らの力によって守る意思を持たない場合、いかなる国家といえども、独立と平和を期待することはできない』



 俺は自分と仲間を守るための力を手に入れる。 


 俺はセルン村の元村長として、セルン村の人々を守る。

 ミッドランドの国民として、ミッドランドの人々を守る。

 たとえそれが血塗られた汚い手段であろうとも、だ。

 人殺しと(そし)りを受けようとも、最優先事項は自分達の命だ。


 ゆえに、妥協はしない。

 徹底した強力無比な軍隊を作り上げ、自分と仲間の安全を保障する。


 マキャベリ曰く、


『武装する予言者は勝利を収めることができるのであり、反対に、備えなき者は滅びるしかなくなるのだ』



 そのための空軍である。 


 地球の歴史ではライト兄弟が飛行機を飛ばして第一次世界大戦から空軍が登場し、偵察、爆撃、対空戦闘など役割が大きくなっていく。


 中世の時代に空軍があれば、敵戦力を圧倒し、アウトレンジからの爆撃でヒャッハー出来る。



 ……そんな風に思っていた時期が俺にもありました……。



 この世界の中世は、グリフォンやワイバーンが初めから存在し、空軍としてすでに利用されている。


 特にトリスタン王国はワイバーンを大量に飼育し、三百騎以上の大部隊を抱えて運用している。

 じゃあ、我らがミッドランド王国は?


 ワクテカしながら、ティーナやリックスに聞いてみたのだが。


「え? うちはそんなのは無いわよね?」


「ええ。グリフォンが数匹、偵察用に使われているだけですな」


「は? いやいやいや、他の国との空軍の戦闘はどうするんだよ?」


 俺は問わずにはいられない。


「それは――どうしてるの?」


 ティーナも知らない様子。


「戦えぬわけではございませんぞ。矢を射かけたり、魔法を使ったりですな。まあ、たいていは退却して地上戦に持ち込みますが」


 頭がくらっと来たわ。

 ここの将軍は相当、頭悪いな。誰よ?

 アーロン大将軍の顔が思い浮かんだが、なるほどな。まあ、ミッドランド軍は、鋼が多く採れるため、やたら重いフルプレートの重装歩兵なんかもいて、地上戦が好みなんだろうな。で、それが伝統になっている、と。軍の上層部のエリートが重装歩兵上がりで、空軍出身者が小馬鹿にされたりするわけよ。

 予算も当然、重装歩兵や騎兵が全部取っていくんだろう。

 ダメだわー。


「オホン、真面目な話、それでは危ういと思う。それに、邪神が復活したときに、魔王軍みたいなのも出てくる可能性があるから、空軍の創設は必須だぞ? 前にハーピー軍団で苦労したが、アレより強い飛行型モンスターだっているだろう」


「む、そうね…」


「ふむ、必要性は分かったが、どうするのだ?」


 そこはリックスも俺に聞くんじゃ無くて、自分でアイディアを出して欲しいのだが、まあいい。


「グリフォンやワイバーンを増やす。増やし方は知ってるか? …知らないよなぁ」


 こういうのは餅は餅屋、空軍関係者に聞くべき質問だった。


「イザベルやアルカディアの女王に聞いてみる? 多分、教えてくれないと思うけど…」


 ティーナが言うが、駄目元で一度は聞いておくべきだな。

 来たるべき邪神との戦いのためだ、そこは協力してやろうなんて話になるかもしれないし。


「じゃ、それはティーナ、君に任せる。手紙を伝書鳩で飛ばしてみてくれ」


「ええ、分かったわ」


「俺はロバートに話を聞いて、それでダメなら、文献を当たってみる」


「うん」


「では、私も伝手を当たってみましょう」


「お願いね、リックス」


「はっ」


 大商人のロバートに手紙を出して聞いてみたが、人が乗れるような大型の飛行生物は希少であり、さらに、各国とも軍事機密として取引はおろか、情報も公開されていないそうだ。アッセリオに行った時も、街中で飛竜の姿は見なかったもんな。

 うちのパーティーメンバーも空軍に伝手は無いそうで、困った。


「チッ、やっぱり、ミッドランド国の文献じゃ、話にならないな」


 オズワード侯爵の書斎を漁ってみたが、バリスタという(おおゆみ)が出てきただけだった。対空兵器として用いられるもので、巨大なボウガンと思えば良い。

 コレはコレで必要だろうと思ったので、設計図を写し、ミオに試作品の作成を依頼した。


 さあ、どうしましょ?


 飛行機を作る?

 うーん……。


 電気モーターは開発済みだが、アレって、ゴーレム頼みなんだよね。

 重いゴーレムを飛行機に乗せるのはどう考えても無理だろう。

 それで無くても、馬力のあるエンジンを開発しないと、飛べない気がする。


 ジェット戦闘機なんて、夢のまた夢。

 プロペラ機も相当に厳しい。


 ここは、アレだな、技術や時代を落としても、作れそうなレベルのモノにしよう。うん。

 空を飛べればそれでいいのだ。



 セルン村の俺の工房の前で、地面に広げた木綿の布をせっせとつなぎ合わせる俺。


「ユーイチ、これ、何を作ってるの?」


 エリカが問うが。


「熱気球の袋。暇ならお前も手伝ってくれ」


「いいけど」


 素直だ。俺の助手、クロちゃんはセルン村を含めて下水道ととある(・・・)モノを作ってもらっているのでちょっと忙しい。


 針と糸でチマチマと縫っていく。

 地道で細かい作業だ。

 俺もエリカも無言になる。


「……だーっ! きーっ!」


 エリカがせっかく縫っていた部分を両手で引きちぎるし。


「オイ」


「やってられないわ! こんな細かい作業! 別のは無いの?」


「そうだなあ。じゃ、この薬品を布に染みこませてくれ。丈夫にする薬だ」


「ええ、いいわ。最初からそれをやらせなさいよ」


 ムカつく奴だ。


「それで、熱気球って何?」


 理解せずに作ってたのか、エリカ。まあいい。俺様が説明してやろう。


「袋の中の空気を暖めて、空を飛ぶ物だ」


「ハァ? そんなので空を飛べるわけ無いでしょ!」


「ま、実際に見てみれば分かるよ」


「飛べなかったら、私の肖像画を描いてね」


「へいへい」


 チマチマ、チマチマ。

 ひたすら地道だ…。


「おう、ユーイチ、何やってるんだ? 教えろよ」


 ネルロがやってきたが、邪魔くせえなぁ。


「ネルロ、お前、畑仕事はどうしたんだ」


「ああ、いいだろ、細けえ事は言うなよ。俺は今を生きるんだ!」


 チッ、前より余計に面倒臭い奴になったな…。


「じゃ、教えてやるが、コレは熱気球と言って中の空気を暖めて空を飛ぶモノだ」


「うん? もう一度言ってくれるか」


「だから…」


「あっ! なになになに、またユーちゃんが何か作ってる、わー、楽しそう!」


 ベリルまで来た。俺は男爵になったのに、勝手な愛称で親しげに呼ぶなと。


「ケインッ! こいつらをつまみ出せ!」


「ちょっ! 酷い、何言うの、いきなり」


 だが、ケインの返事は無い。


「くそ、そう言えばケインは訓練でいなかったな。おい、お前らの役目だぞ」


「りょ、了解です」


 護衛の兵士二人が慌ててベリルとネルロを捕まえに掛かる。


「いやぁーん、兵士に襲われるぅー、脱がされるぅー!」


「い、いえ、別に自分は」


 狼狽えて手を放してしまうコイツも真面目すぎだ。


「いいから、気にせず引っ張って行け。命令だ」


「はっ!」


「ちょっとぉ、後でバラしまくってやるんだからぁ!」「覚えてろよ! ユーイチ!」


 何をだよ。知るかよ。


「あの、ユーイチ様、私が手伝いましょうか?」


 騒ぎを聞きつけたか、エルがやってきた。水色のお下げの髪の美少女。今日もシンプルな白い木綿の服。俺がプレゼントしてやったドレスは一度着て、ベリルにはお披露目したそうだが。


「おお、エル。ぜひ頼む。村の方はどうだ?」


「はい、麦の種蒔きも終わりましたし、ジャガイモの実が大きくなってきたので、今日は村人に掘ってもらってます」


「おおー、セルン産がついに採れるか」


「はい。昨日、様子を見たときに、ネルロとベリルが生のままでかじっちゃって、一応、叱ってはおきましたけど」


「アホだな、あいつら。生はさすがに味がマズいと思うが」


「ええ、大して美味しくないって二人とも。フライドポテトやふかし芋、食べたことあるのに」


「馬鹿だからな」


「ええ…あ、それとブロッコリーとキュウリの種もジャガイモが終わったら蒔かないと。他にも玉葱と春菊も大きくなったのでそろそろ収穫しようと思ってます」


「ああ。悪いな、手伝えなくて」


 村のルーチンワークの管理はエルに丸投げ状態だ。


「いえ、そんな。ユーイチ様は領主のお仕事がお有りでしょうし」


 くう、なんかこの子と結婚したくなってきた。

 いや、ネルロとベリルがあまりに酷すぎて、エルがよく見えちゃうだけだろう。きっと。

 それでも、エルのためにも色々とセルン村を発展させないとな! 

 

「あ、そうそう、同じ場所に同じ作物を毎年植えていると育ちが悪くなるから気を付けてくれ」


 俺は農業で大事なことを思い出して言う。


「ああ、連作ですね。トマトとか」


 エルはそう言って頷いたので、この世界の農民達もよく知っているようだ。こりゃ、下手にうろ覚えの現代知識に頼るより、こちらの世界の書物や専門家を当たった方が良いか?



「ユーイチ様!」


 ターバンを巻いた行商が手を振って走ってきた。


「ああ、ルキーノさん」


 若き行商のルキーノには、ヌービア産のパンを持ってきてもらったり、キュウリの種を持って来てもらったりと、良い関係だ。


「見つけましたよ! 醤油!」


「あー」


 ルキーノは嬉々としているが、もうそれ、ロバートが持って来たんだよね。


「それはどうも、ありがとうございます」


「あれ? じゃ、さっそく、持って来ますね」


「あー、うん、工房に入れておいて下さい。代金は払いますので」


「ええ? ちょっと塩辛いですが、なかなか面白いソースですよ?」


「うん、まあ、味は知ってるので。それより、野菜の種は何か有りましたか」


「ああ、白菜と言うこれくらいの大きさに育つ野菜の種を買い付けました」


「ほほう、白菜ですか」


 いいねえ。こりゃ冬は鍋だな。


「それって、白いんですか?」


 エルが興味を示す。


「いえ、そこまで真っ白ではないですが、スープに入れて煮込むと美味しいですよ。塩漬けして食べる方法もあるんですが、私はあまりアレは好きでは無いですねぇ」


 白菜の漬け物、美味しいのに。唐辛子を入れないほうが俺の好みだ。柚子とか入れると香りも良くなる。


「じゃ、持って来ます」


「ええ」


「種蒔きの時期、いつかな? 上手く育つと良いですね!」


 エルがさっそく興味を示しているが。


「ああ」


 守りたい、この笑顔。

 よーし、俺は頑張っちゃうぞ。

 この熱気球が有ればッ!


「おりゃおりゃおりゃ――はうっ! いっつ!」


 針で自分の指を思い切り刺してしまった。


「だ、大丈夫ですか? 手を見せて下さい、ああ、血が」


 そう言ってエルが俺の指の血を舐めてくれたが、本当はそれ、治療としては良くないのよ。

 ま、エルちゃんの舌が心地良いから、黙ってやってもらうけど。ウヒヒヒヒ。


『む…ワザとね。後でティーナに言いつけてやるんだから』


 などと、エリカが念話で言い出すし。


『アホか。ワザとじゃねえよ。痛かったんだぞ?』


 いくらエルが舐めてくれると言っても、自分の手を針で刺すのはやりたくない。


「エル、もういいぞ。後は薬草があるし」


「ああ、そうでした。私ったら、つい」


 少し恥ずかしそうにするエル。



 ようやく気球の袋を縫い終わり、エリカに持ってもらって、ウインドボールの呪文で風をまず吹き込んでみる。


「あっ!」


 エリカが耐えきれずに、袋を握る手を放してしまった。ま、非力なエルフでは仕方ないよね。


「ここはコイツの出番だな」


「GHAAA!」


「フン」


 エリカが不機嫌そうにぶすっとしたが気にしない。

 ゴーレムに持たせて空気を送り込み、次に、ファイアウォールで風を熱してみる。


「あっ! う、浮いてる?」


 目を丸くするエリカ。

 袋が燃えないように注意しつつ、熱し続けると……行けるな、これは。


「よし、手を放せ」


「GHA!」


 ゴーレムが手を放すと、袋がゆっくりとだが上に上がっていく。 


「フガッ! み、皆の衆、大変じゃ! 霊じゃ、霊が現れおったぞ!」


 ちょうど通りかかったお爺ちゃんが腰を抜かしてしまった。


「あ、お爺ちゃん、これはユーイチ様の魔法で」


「気球と言うんだ。霊じゃ無いぞ」


 エルと俺も説明しようとするが。


「いいや! 霊に違いないわい!」


 その確信はいったいどこから来るんだと。


「まーたお爺ちゃんがお化けだの霊だの言ってるのかい? そんなお化けが、いるわけ――ひいっ! みんな、早く出てきておくれ! お化けが出たよ!」


 おばちゃんもそんな事を言って騒ぎ始めてしまった。


「あの、違いますから」


「霊じゃ無いぞ」


 エルと俺が説明したが、その間に気球が地上に落下して、ようやく村人達が落ち着いた。


「フフン、やっぱり蛮族には理解出来ないようね。空気を熱して飛ばしてるだけなのに」


「エリカよ、お前も見るまで全然信じてなかっただろ……ここは、きちんと教育だな」


 空気を暖めると体積が膨張するという話から、村人にしっかり講習してやってなんとか理解させた。


「ほれ、作ったぞ、ユーイチ。こんなもんでいいか?」


「ああ、ヴァネッサ、上出来だ」


 大工のヴァネッサに乗る(カゴ)を竹で編んで作ってもらい、ロープで上の袋と繋いで、いよいよ試乗。


「よし! 浮いた!」


 試作品第一号で行けるとは、俺はもしかして天才じゃね?

 ま、気球を見た事があるし、知識はあるし、魔法を使えば火力や風は余裕だもんな。


「ユーイチ! もう良いでしょ。次は私が乗るから! 早く降りてきなさいよ!」


 地上で見上げるエリカが乗りたくて仕方がない様子だが、これ、高く上がると絶対怖えぞ?


 一度降りて交代し、おだてて思い切り高度を上げさせてみた。何事も安全テストだ。


 降りてきたエリカは青い顔でそこにへたり込む。


「…怖かった」


 やっぱりな。


「でも、これ、面白いわね!」


「ええ? じゃあ、エリカ、お前が空軍司令官な」


「任せなさい!」


「はいはいはーい、次! アタシね」


「いや、バッカ、どう考えても俺が先だろ!」


 ベリルとネルロも乗りたがっていたので、サービスで乗せてやった。

 魔法使いが最低一人はいないと、空に上がれないと気づいた瞬間だった。

 この世界、魔術士はそんなにいないのよね。うちのパーティーは魔術師が四人もいるがこれは例外中の例外だ。


 とほほ。


 空軍ぇ…。

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