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異世界の闇軍師  作者: まさな
第二章 盗賊ですが、何か?

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第十話 初めてのダンジョン

2016/10/2 若干修正。

「よーし、野郎共! 気合い入れろ! お宝を取って帰るぞ!」


「おうよ!」


 髭面の男達が剣を抜いて、まあ、暑苦しい事。


「じゃ、さっそくですが、皆さん、野葡萄を食べて下さい」


 そう言って俺が取ってきた野葡萄を配る。


「そうだな。暗いところでも見えるようになる。食っておけ」


「だが、お頭、ライトの魔法があるんじゃなかったのか」


「ああ。使えるな? ユーイチ」


「もちろんです。あ、でも、僕だけに明かりは頼らない方が…」


 敵に襲われたとき、上手く照らせない可能性があるし、万が一、俺が死亡したら即、真っ暗ってのもまずかろう。


「心配は要らねえ。クラン、松明は持って来たな?」


「ああ、持ってきたぜ」


 なるほど、準備は万端のようだ。


「じゃ、とっとと火を付けろ。隊列(フォーメーション)だが、先頭は俺とクランとリムだ。ジークとユーイチとリッジは一番後ろ。他の奴は真ん中に入れ」


 てきぱきと指示を出す盗賊のお頭。

 この様子だと、ダンジョンに何度も潜ったことがあると言うのは本当らしい。

 少しほっとした。

 なら、リーダーの指示に大人しく従っておこう。


「ニー」


 クロも付いてくる様子なので、頷いて、俺のすぐ側を目で示しておく。


「星々のかけらとなりて、我の道を照らせ、ライト!」


 明かりの呪文を唱え、杖代わりに拾っておいた木の枝に光を灯す。


「よし、中に入るぞ」


「へえ! こいつがダンジョンか。…なんだか普通の洞窟と変わんねえな?」


 リッジが言う。


「そう言や、リッジは初めてだったか。ダンジョンにも色々あってな。お城のように石畳で作ってあるのやら、炭鉱みたいに掘って板を当てたのやら、色々だ。だが、魔物が棲みついているのはどこも同じだからよ、油断するんじゃねえぞ」


「分かってるって」


 笑って言うリッジは本当に分かっているのかね。だが、他の盗賊達はすでに剣を抜いて、臨戦態勢、油断している様子は見られない。


「ビッグバットだ」


 盗賊の一人が言い、バサバサという羽音とともに、何匹かのデカい蝙蝠が姿を現した。体長は五十センチくらいか。


「キキッ!」


「くそ、ちょこまかと」


 蝙蝠達はすぐに襲いかかってきて、盗賊達も剣で応戦するが、なかなか剣が当たらない。


「ユーイチ、炎の呪文で落とせ」


 お頭が命じてくるが、そう簡単に行くかなあ。俺が使えるの、百円ライター程度の炎だぞ?


 とは言え、黙って見ている訳にも行かないので、すぐに呪文を唱え、洞窟の天井にいる、少し遠い蝙蝠を狙いをつける。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!」


 俺の右手から赤い光がほとばしると、小さな、百円ライターよりはちょっとマシの炎が蝙蝠の顔を襲った。


「キー!」


 蝙蝠は面食らった様子で、滅茶苦茶に暴れつつ、地面に落ちた。

 あれ? 効いちゃったよ。

 おやまあ、あっさりと。


「よし! やりやがった!」


「すぐとどめを刺せ!」


 それでもまだ生きているようだったが、地面に落ちれば盗賊の餌食。

 三匹の蝙蝠は、あっという間に殲滅され、死体は光ると、紫のかけらに変わった。


「なんだぁ? どうなってるんだ?」


 リッジも疑問の声を上げる。


「こいつは、ダンジョンの魔物がよく残す魔石だ。高値で売れるから、良く覚えとけ」


「へええ。見せてくれよ、お頭」


「ほれ」


「僕も良いですか?」


 そう言って、俺も見せてもらう。


 手に取って近くで見ると、魔石は、紫色に光る透明な水晶と言った感じで、綺麗だ。

 微かにだが、魔力の存在が感じられた。


「これは、何に使うんですか?」


「魔道器の道具や、錬成に使うらしいが、俺もそこまでは知らねえ。じゃ、次行くぞ。貸せ」


「はい」


 魔石をお頭に返した。


 洞窟は横幅五メートルくらいで、十人近いこのパーティーだと、真横に一列というのは無理だが、三人ずつくらいなら戦闘にも支障が無い。ただ、あまり大人数でも、最前線のプレイヤー以外は、飛び道具や魔法でしか攻撃できないので、一般のゲームでパーティー人数の制限があるのは、割と理に適っている感じ。


「ビッグスラッグだ!」


 それほど歩かないうちに、今度は大きなナメクジが現れた。デカいな…。全長一メートルはありそう。だが、凄くゆっくり動いている。


「ハッ! 呪文!」


 ぼさっと眺めている場合では無かった。戦闘中!


「いや、ユーイチ、お前はいい。飛んでくる敵だけ見ていろ」


 隣のジークが言う。彼もボウガンを構えてはいるが、今回は撃ったりしないようだ。


「よし、やっつけたぜ!」


 早いな。

 と言うか、このパーティー、かなり強くない?


 大ナメクジも魔石に変化したようで、もう死体も無い。

 その方が良いな。血や体液がだらだら垂れたままで放置されたら、洞窟が悲惨なことになりそうだ。


「ブラックスライムだ」


「ちいっ」


 次の敵は強敵なのか、お頭が舌打ちした。


「ジーク、お前がやれ」


「分かった」


 ジークがボウガンを構え、撃つ。

 俺はその間も、いつでも呪文が唱えられるよう、油断なく構える。

 黒いスライムは矢が命中するとブルッと震えたが、それだけで崩れ落ち、魔石に変化した。


 …んっ?


「リッジ、あの矢はまだ使える。拾ってこい」


 ジークが言う。


「分かった。うえ、なんかどろっとしてるし、臭いぞ?」


「スライムだからな」


 ジークはそう言うと、受け取った矢を振って粘液を飛ばし、面白く無さそうに背中に担いだ矢筒に入れた。


 ああ、臭いから、みんな触りたがらないってだけなのね。


「勘弁してくれよ。ああ、そうだ、ユーイチの魔法で倒せば良いんじゃねえの?」


 俺もそう思うが。


「ダメだ。魔法使いの呪文は使える数が限られてるし、ユーイチは初心者だからな。ビッグバットだけ、魔法で攻撃させる。他の奴は剣で倒せるからな」


 お頭が言う。

 なるほど、俺を連れて来たのはそういうわけか。 


「お頭! 宝箱が有りやすぜ!」


 盗賊の一人が見つけ、興奮する。


「おう、そう焦るな。こういうのはな、たいてい、しょぼいんだ。ボスの部屋の宝箱以外は期待するな。罠もある」


 だが、そこは盗賊団、宝箱を開けるのはお茶の子さいさいだろう。

 お頭自ら三十センチくらいの小さな宝箱を開け、言う。


「アロエ草だ。誰か持っとけ」


「要らないんじゃねえの? ユーイチが山ほど持ってるし」


「だが、捨てるのもなんだしな」


 盗賊の一人が受け取ったが、薬草じゃあなあ。

 俺が一日に50枚以上、集めることが出来るだけに、ありがたみが全然無い。


 その後も、大蝙蝠と、大ナメクジとブラックスライムが交互に現れ、大蝙蝠だけは、このパーティーも攻撃がなかなか当たらず苦戦する。俺の魔法の命中率はかなり良いが、それでも何度か外した。

 呪文が絶対命中で無いとは意外だった。

 動いてる的で訓練しないと、ダメかも。


「よし、ここの道を降りるぞ」


 洞窟の奥に枝分かれして坂道になっている部分が有り、そこを下る。

 洞窟の様子は上の方と同じだが、一般のゲームだと、階数が変わったと言うところだろう。地下一階。

 敵の種類が変わるかも知れない。

 注意が必要だ。


「む?」


 辺りが暗くなり、何か出てくるのだろうか。

 ぼ、ボスですか?


「ユーイチ、ライトの魔法がそろそろ切れるぞ。唱え直せ」


「ああ」


 なんだ、そんな事でしたか。

 大ボスでも登場するのかと、ドキドキしちゃったよ。


「しっかりしろよな、ユーイチ」


 リッジ、うるさい。

 魔法には効果持続時間というものがあるんだから。


「ニー、ニー」


「ん? ああ、じゃ、クロが唱えてくれるか」


「ニー。ニー、ニー、ニッ!」


 俺の持っている枝がさっきと同じように明るくなった。


「んん? その猫、魔法が使えるのか?」


 ジークが眉をひそめて聞く。知らなかったらしい。

 チッ、なら、隠しておけば良かったな。

 いや、今からでもごまかせるだろう。


「なーんちゃって、僕の無詠唱魔法です」


「ふん。アホらしい」


「新手だ。ビッグラットだ」


 チューチューと、デカいネズミが四匹現れた。

 あのね、何でもビッグにすれば良いって物じゃ無いと思います…。


「気を付けろ! こいつらは毒を持ってるぞ」


 おお、ちょっと、レベルが高くなった感じだ。

 まあでも、毒消し草ならこの私が、50枚ほど持ってますからね。いくらでも毒に侵されて…いや、ひょっとして、毒消しの種類があるのかな?

 毒によって効かないとなると、ヤバいかも。キノコの毒はそうらしいし。

 ムムム…。


「ちいっ、素早い! そっち、行ったぞ」


「馬鹿野郎! ちゃんと囲い込まねえか。数はこっちが上なんだぞ!」


 お頭が怒鳴る。微妙に、連携が取れてないんだよなあ、この盗賊達。


「よし、俺に任せろ!」


 リッジが剣を持って飛び出して行くが、君は後衛の護衛役だと思うんだけどね。まあいいや。


「そら!」


 リッジが大きく振りかぶって大上段から薪でも割るかのように剣を振り下ろす。だが、モーションが大きすぎだ。ネズミはサッと避けた。


「くそ! うわっ!」

 

 逆にピンチになってるリッジ。

 ああん、お約束過ぎるぅ。


「リッジ!」


「いててて!」


 こりゃ助けてやった方が良さそうだ。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!」


 呪文を唱え、こちらに背を向けているネズミに炎を浴びせる。


「チュー!」


 激しく身をよじったネズミは、結構効いたようだ。まあ、いくら炎が小さいと言っても、火傷はするだろうし、熱いだろう。


「任せろ!」


 別の盗賊がネズミを攻撃し、どうやら全滅させたようだ。

 ふう。


「大丈夫か、リッジ」


「ああ、だが、足を噛みやがった。いってー、あの野郎」


「どれ、見せてみろ。ああ、毒にやられてるな。ユーイチ」


「ええ。じゃ、これで」

 

 毒消し草を渡す。


「貸してみろ」


 盗賊が受け取り、それを手でくしゃくしゃっと葉を潰してから、少し黒くなって腫れている傷口にこすりつけた。


「いててて!」


「我慢しろ。よし、効いた。もう大丈夫だ」


「お? 変な痛みが取れたぜ」


「今のが毒だ。放っておくと大変なことになるから、気を付けろよ」


「分かった」


「リッジ、どんな感じだったんだ?」


 症状を聞いておくことにする。


「ああ、なんか足がジンジンして、痺れる感じだったなあ」


「なるほど」


「それに、力が抜けるようだった」


「ふむ」


「あのまま放っておくと、黒いのが広がって、熱も出る。一日で死ぬこともあるからな」


 ジークが言う。

 一日って怖いなあ。


「ええ? そんなにか。お頭、もう帰ろうぜ」


「馬鹿野郎、毒消しはちゃんと持ってるんだ。そんな毒の一つや二つ、臆病風に吹かれてんじゃねえぞ」


 そうは言うが、下手したら死ぬんだし。

 俺はリッジに賛成なんだけどなあ。


「臆病って訳じゃ…けっ! 何見てんだよ、ユーイチ」


「あ、いや」


 別に馬鹿にしたわけじゃ無いのよ? そこは怖くて当たり前だと思うから。


 とは言え、誤解されては困るので、洞窟の先に意識を集中させる。


「敵が出てこないな」


「そろそろだ」


 そんな会話が交わされ、やっぱ、ボスだろうなあ。

 行きたくねえ…


「ニー…」


 クロも心配そうだ。なのでクロに声を掛けてやる。


「だ、大丈夫だ」


 俺の声も震えてるけどね。


「ふっ。心配しなくても、ここいらのダンジョンに強い魔物はいないはずだ」


 ジークがそう言うが、それなら良いけどねえ。


「いた! マッシュマンだ」


 聞き覚えが有る。男爵のお屋敷にいた頃、ノルドを襲ってきた椎茸だ。


 だが、おお?

 デカいんですけど…。


 二メートルには届かないが、俺たちの身長くらいはある。


 ノルドの話ではこの辺にはデカいマッシュマンはいないって、ああ、あの森とは離れてるし、分布が違うのか…。


「よし、コイツなら倒せる。だが、突進は威力があるから、まともに食らうんじゃねえぞ」


「おう!」


 ボスのいる場所は、少し開けた感じになっているので、こちらも散開して取り囲む。


「おら!」


 お頭がまず、最初に切りつけた。


 椎茸はダメージが痛かったのか、ぐにっと変な風に曲がると、短い足をちょこまかと動かして突進を始めた。


「来るぞ! 避けろ」


 すぐに結構なスピードで勢いが付いた椎茸は、そのまま一直線に壁まで走っていき、壁に派手にぶつかって跳ねる。

 ドスンという音。


 ぶつかった後に、くらくらしているので、ええと、なんだか自滅気味だ。アホだな、コイツ。まあ、目が無いので、仕方ないか。


「今だ!」


 盗賊達が一斉に斬りかかる。

 タコ殴り状態になった。


「なんだコイツ? しぶてえ」


「しっかり当てろ! かすったくらいじゃ、ダメージにならんぞ」


 む、ここは、俺も援護した方が良いだろう。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその息吹を借りん。ファイア!」


 赤い光がボスに向かって飛んでいき、びくっと震わせたのでダメージは入ったはずだ。

 だが、倒れない。


「ニーニーニー、ニーニー、ニッ!」


 クロもファイアを唱える。


 まだ、倒れないか。

 タフだなあ。


「来るぞ!」


 うお。こっち来た。


「わわわ」


「馬鹿、避けろ!」


 ひー!


 横に避けようとしたのだが、盗賊の一人がその間にマッシュマンに切りつけ、微妙に方向が変わり、俺の方へまた向いてしまった。

 なぜに!


「ぐえっ!」


 体当たりを食らってしまった。

 痛いん…。

 正面からもろに当たったわけじゃないんだが、それでも結構痛かった。マッシュマンの体は硬くなかったので良かったが、そのまま弾き飛ばされた俺は、よろけて硬い洞窟の岩床に体を当ててしまった。


「いった!」


「おい、ユーイチ、ちっ! 誰か見てやれ。さっさと倒すぞ!」


「ボスはあたしに任せるニャー!」


「大丈夫か?」


 ジークが助け起こしてくれるが、目の前が緑色だ。


「うう、た、多分」


 地面で頭は打っていないし、骨が折れた感じではない。


「よし。これを食っとけ」


 アロエ草を渡されたので、食べる。

 美味しくない…。


 だが、体の痛みは軽くなったし、ふらつきが止まった。

 ふう、死ぬかと思った。


「よし! 倒したぞ!」


「「「ヤー!」」」


 雄叫びのような歓声が上がり、ボスの方はなんとか倒せたようだ。


 た、助かった…。


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