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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十四章 貴族でおじゃる

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第十三話 ギルド戦争

2016/12/1 コモーノ伯爵 → オーベッカー伯爵に変更。若干修正。

 不正の捜査や、組織の殲滅において、最も重要な事は何か?


 それは実行に際して相手に感づかれる前に機先を制することだろう。

 だんだん兵士が集まって「どうやら査察が入りそうだ」「襲撃があるかも」などと警戒させて証拠隠滅を図られ、仲間を呼んだり逃げられたりしたのでは都合が悪い。


 

『其ノ(ハヤ)キコト、風ノ(ゴト)ク、

 其ノ(シズ)カナルコト、林ノ如ク、

 侵掠(シンリャク)スルコト、火ノ如ク、

 動カザルコト、山ノ如シ、

 知リ難キコト、陰ノ如ク、

 動クコト、雷霆(ライテイ)ノ如シ』


「疾風のように速く動くかと思えば、

 林のように静まりかえり、

 攻撃するときは燃えさかる火のように、

 動かないときは山のように微動だにせず、

 暗闇の中に隠れたと思えば、

 雷のように瞬時に現れる」



 武田信玄がその旗印にしたという風林火山の一節は、兵の運用のTPOとメリハリの大切さを説いている。

 当然、ここでは、スピードが第一、襲撃直前までの静かさも欲しい。



「いいかっ! これより、紙ギルド本部を襲撃する!

 奴らがアサシンを雇い()(いえ)に敵対した明白な証拠も押さえた!

 探部(検察)と共にこれを討ち、敵を殲滅する!


 直前まで覚られぬよう、静かに、しかし、速く移動し、一気に攻め落とす!

 一人たりとも逃すな! 情けも不要である!

 全て斬り捨てよ!」


 俺は兵に迷いが生じないよう、目的地、作戦時間、任務内容、大義名分を一通り簡単に分かりやすく説明しておく。

 ブリーフィングだ。


 後は目配せして指揮官のケインに任せる。



「それでは作戦開始! 行くぞ!」


「応ッ!」


 ケインが号令を掛け、騎兵部隊が飛び出していく。

 俺や数人のパーティーメンバーも一緒に向かう。

 ミオやクロは別パーティーで、リックス率いる騎士団と組み、パンギルドを同時に押さえに行く。


「どけっ!」


 王都の通行人が何事かとこちらを見るが、速度は緩めない。

 慌てて道を空ける人々。そこを騎兵が疾走する。


 地図(マッパー)探知(ディテクト)を使い、道の角を曲がったところで出会い頭の衝突事故が起きないよう注意しておく。王都だから、大貴族の馬車が行き来しててもおかしくないし、そんなのと事故った日にはヤバいからな。

 カーブミラー、欲しいな。鏡はこの世界にもあるんだし、今度作ってみるか。

 幸い、貴族とは出くわさずに紙ギルド本部まで辿り着いた。


「んん?」


 紙ギルドの門番二人、フルプレートとは豪華だが、こいつらは無能だな。

 走ってくる兵士の一団を見たら、怪訝な顔をしてないで、即座に大声を上げて異変を報せないとダメだ。


 俺とエリカがデスの呪文を使い、門番を沈黙させる。


 続いて解錠(アンロック)の呪文で門の扉を開ける。


「突入!」


 ケインが号令を掛け、馬から下りた兵士達が一斉に中になだれ込む。


「な、なんだ? ぎゃっ!」

「ひい!」


 ギルド職員が歩いていたが、うちの兵士が問答無用で仕留めた。

 いいね、無駄口叩かず、速攻で仕留める辺り、ケインもかなり兵士の訓練を重ねてくれたようだ。


「クリア!」

「クリア!」

「クリアッ!」


 建物の中に入り、殲滅完了を次々に兵士が告げていく。


「お前とお前は、門を見張っていろ。残りは奥へ行くぞ」


 ケインが指差しながら素早く指示を出し、建物の奥へ向かう。


「むっ、何奴!」


 またフルプレートの兵士が出てきたが、割と警備は厳重にしてたんだな。まあ、正規騎士団の襲撃に耐えうる警備ではないけれど。


 ケインがその兵士と一合だけ斬り合わせたが、エリカがデスって、そこで終わり。


「急ぐぞ!」


 ケインも気にせず、さらに奥へ向かう。



「む、ここって…」


 ティーナが部屋の中に入り、立ち止まった。


「ああ、製紙工場みたいだな」


 向こう側には、引き延ばして固定した羊皮紙の作りかけが壁に立て掛けてある。

 挟み込むローラーや、台の上で叩く工程も有る様子だが、ここで出来る紙の質は良くないはずだ。

 良いのが出来るなら、俺を暗殺しようなんて思わないだろうし。


 作業員達が手を止めて何事かとこちらを見た。

 全員抹殺のつもりでやってきたが、この下っ端作業員はどう見ても暗殺には関与してないだろう。


「探部の不正捜査だ! 領主に対する反逆、並びに暗殺容疑で取り調べを行う。全員、ここに並べ!」


 俺が言う。

 こちらは完全武装で剣を抜いているし、逆らう職人は一人もいない。

 全員青ざめつつ、指示通りに並んだ。

 一通り事情を聞いたら自宅謹慎ということにしてやるか。


 聴取を終え、引き続き捜索を行う。


「クリア! 周辺、全て終わりました!」


「よし、次だ」


 別棟の建物に向かう。



「おい、外が騒がしいようだが何か―――ギャッ!」


 建物の中にも警備兵がいたが、未だに外の状況を把握していなかった様子。外の異変を察知してたなら、連絡や確認くらいしろと。


「なってませんね、こいつら」


 ケインもここの警備体制には不満を覚えた様子で、斬り捨てた後で言う。頭数と格好だけ揃えても、想定や訓練をやっていないとタダの置物だ。

 職務に対する緊張感やプロ意識も持たせておけば少しは動きも違っただろう。有事に役立たない兵など穀潰しでしかない。


「この部屋に責任者がいるみたいね」


 リサがドアの上のプレートを見て言った。プレートには『執務室』と書かれている。さっきの職人の一人から、ここに現場責任者がいると聞き出していた。


 目配せして頷き、ケインとレーネがドアを蹴破った。


「動くな!」


 が、中には誰もおらず、もぬけの殻。


「しまった、逃がしたのか?」


 ケインがそう言って見回す。


「いや、逃げ出す暇は無かったはずだ。よく探せ」


 俺は言う。

 ここはそれほど広くない部屋だ。正面には執務用の大きな机があり、先ほどまで何か書き物をしていたのか、書きかけの羊皮紙と羽根ペンが置いてある。窓ははめ込みの磨りガラスでここからの脱出は不可能だ。

 リサが机の後ろに回り込み、すぐに下に向けてボウガンを撃った。 


「ぎゃっ! ひ、ひい!」


 絹服を着た男が、お尻に矢を撃たれて、悲鳴を上げながら机の下から這いずり出てきた。


「かくれんぼか。少々、芸が無かったな」


 レーネが拍子抜けだと言う感じで眺める。


「答えなさい。あなたがここの現場責任者ね?」


 ティーナがレイピアを突きつけながら問う。


「そ、そうだ。私は伯爵の臣下だぞ? 貴様らはいったい、何者だ!」


 ここに来て権威を持ち出すか。しかも伯爵の部下程度でね。上級騎士風情が俺達より上と思ってもらっちゃ困る。


「ラインシュバルト侯爵より探部の任を預かるロフォール子爵、並びにヒーラギ男爵と言えば、理解できるかしら?」


 ティーナは左手で紋章を掲げ、男に見せながら言った。


「なっ! い、いや、知らぬ、私は何も知らぬぞっ!」


「その物言いで充分! 有罪(ギルティ)ッ!」


 ティーナがそう言い放ち、レイピアを男に突き立てて終わらせた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 


「紙ギルドの管轄権を持つリッケン伯爵については正式に告訴を王宮に提出したわ。沙汰がどうなるかは分からないけど、管理責任は問われるわね」


 ティーナが報告する。ここはヒーラギ邸の俺の執務室だ。

 リッケン伯爵が暗殺の指示を出したのかどうかは不明だが、いずれにせよ今は震え上がっている事だろう。「そのまま総責任者に居座り続けることはあり得ないはず」とティーナやセバスチャンの言葉。なら、ひとまずこれでいい。告訴を受けた今、まだ俺達にちょっかいを出そうとすれば事実上、罪を認めたようなもので自殺行為になるから、リッケンも動くに動けまい。


「そうか、分かった」


 俺は満足して頷く。


「ミネア、そっちはどうだった?」


 ティーナが、パンギルドに向かってもらった別働隊の結果を聞く。

 

「うん、パンギルドの方やけど、カルテール商会の会頭ダンゴー以下六名の幹部を拘束してこの館の(・・・・)牢屋にぶちこんである。裏帳簿を押収して脱税の証拠も掴んだし、『最低価格を下回るパン屋には麦粉を売らないように』って嫌がらせを指示した指示書も見つけたし、ふふ、セコット子爵やオーベッカー伯爵への献金額を記したメモも見つかったで?」


「ほう」

「上出来ね」


 オーベッカー伯爵は税務を司るディープシュガーの派閥だからな。献金の性質がまだ不明だが、脱税をやっていたパンギルドがそのお目こぼしの見返りにという目的の賄賂なら、あっせん収賄罪でディープシュガー一派にもダメージが行く。

 敵前逃亡罪で甥っ子のコモーノ伯爵も先日処刑されたし、悪代官一派は凋落の一途だ。


「兵部(防衛省)や王宮の購入担当者とも話しましたが、どっちもカンカンでしたよ。高級品だからという理由で高値で買わされて、それでいて大して美味しくもないから不満が溜まっていたようです。アーロン大将軍閣下からは、次からヒーラギ男爵家のパンにせよと言う話も出てたそうですし、カーティス伯爵もパンギルドの不正調査を独自にやっていたようですよ」


 灰色のおかっぱ頭、フランネル子爵がなぜかここにいて、ニコニコ顔で俺に報告している。今回の一斉捜索(片方は完全に襲撃だが名目上こう記される)は教えてなかったのに、耳聡いと言うか、なんと言うか。

 

「そうですか。ま、不正摘発の直後に俺がパンの納入をやり出したら、他の貴族から納入の横取りを狙っただのなんだのと痛くもない腹を探られるでしょうから、そこはお断りで」


 俺が言った。


「別に良いんじゃないかしら。不正捜査はラインシュバルト家の管轄で、あなたは形式上は無役なんだし。不正の証拠もきちっとしてるから問題無いでしょう」


 ティーナがそんな事を言うが、実行部隊に俺が入ってる時点で、その建前は通用しませんから。だいたい、俺がラインシュバルト派閥ってのも周知の事実だしな。

 なので、俺は手で待ったを掛けて言う。


「いや、それについては、ラインシュバルト家の最大のライバルと目されるエクセルロット家にレシピとイースト菌を渡して、そっちでやってもらうことにしよう」


 これでエクセルロットに恩も売れるし、不正摘発が私心で行われていないという心証も与えられる。それに、パンギルドの美味しい部分を持って行かれたディープシュガーはエクセルロットにも不満を向けるだろうからな。敵の敵は増やすに限る。

 

「ああ、それがいいわね。パンが美味しくなれば、誰も文句は言わないでしょうし」


 ティーナの言う通りだ。文句を言いそうな奴、パンギルドの連中はもう首根っこを押さえたからな。


「それで、牢屋の連中はどうするつもりなの?」


 リサが聞いてくる。俺は答えた。


「王宮の指示待ちだ。報告書とお伺いを立てる文書は送ったから、後は向こうで指示してくれるだろう」


 本来なら、ラインシュバルトの別邸か兵の詰め所に押し込むところだろうが、ティーナが気を利かせて俺の手柄とすべくこの館に拘留している。


 二日後には王宮から返事が来て、脱税の罪でパンギルド幹部には全員斬首が言い渡された。脱税の証拠品を渡すように要求するジップ伯爵の使いの者がやってきたが、当然、俺は拒否。ディープシュガー一派は証拠隠滅の恐れがあるから、立ち会いの下で現物は見せてやったが、引き渡すなんて馬鹿なことはしない。

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