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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十四章 貴族でおじゃる

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第五話 出る杭は打たれる

2016/11/30 若干修正。

 あと一週間で披露宴なのだが。

 発注していたフランジェ産のワインが途中、盗賊に襲われて全部奪われてしまったとのこと。


 ホント、盗賊はムカつくね!

 俺が領地をもらったら、パトロールを強化して速攻で盗賊を根絶してやるぜ。


 だが、ワインは他の店から買うなりして揃えれば何とかなるだろう。


 そう思ったのだが、リサが状況を説明してくれた。


「それが、あちこちの貴族がフランジェ産のワインをこぞって買い占めに走ったから、王都には一本も残ってないそうよ」

 

 おいおい。


 それ、明らかに仕組んだってことじゃん。


 ………。


 首謀者が分かったら、きっちり落とし前を付けさせてやる。


「じゃ、フランジェ産は諦めるか。国産…ミッドランド産はあるんだよな?」


「ええ、あるけど、去年の仕込みのワインは出来が悪いって話よ。半値以下で取引されてるって」


 むう、自国のワインだから、出してダメと言うことは無いと思うが、バーゲンセールの安物を出したと思われるのはマイナスだな……。


「それ以前のは?」


 アルコール類は保存が利くから別に初物で無くても良いだろう。


「十数本は残ってるけど、産地と年数と等級がバラバラで、数が揃わないわ。セバスチャンに言わせると、出席者に質の違うワインを出すのはトラブルの元らしいわよ?」


「だろうなぁ」


 あの貴族がうちに出されたのより良いワインを飲んでる!

 ってなったら、コモーノ伯爵みたいなのが怒り出すに決まってる。

 フランネル子爵なら個性的な味があるだのなんだのと言って、笑って一番悪いワインを進んで飲んでくれそうだが、少数派だ。


「んじゃ、ワインは止めちゃうか。ビールでもいいんじゃないのか?」


「さあ? どうかしらね。とにかく一度、別邸に戻った方が良いわ」


「分かった」



 戻ってみると、ティーナもいて、その話を聞きつけたようで憤慨していた。


「絶対、裏で糸を引いてるわ。襲った犯人と首謀者をとっ捕まえて王宮に突き出してやらないと!」


 まあ、それはそれでやってもらえばいいんだが、今はワインのリカバリーが先だな。


「セバスチャン、ビールじゃダメなのか?」


「なりませんぞ。貴族が飲んではいけないという法はございませんが、安酒という印象が強うございます。それに披露宴は就任の式典の一環、慣習からも外れてしまいます。伝統を重んじておかねば、ユーイチ様は特に不評を買うことになるかと」


 おっと、迂闊だったね。確かにその通りだ。


「じゃ、何が何でもワインだな。ラインシュバルトの蔵から出してもらうと言うのは?」


「それが、ごめんなさい! アルカディア女王が買ってやろうって言って下さったから、お父様にもお願いして、ラインシュバルトから大量に輸出しちゃったのよね」


 ティーナが両手を合わせて言う。


「あー、トリスタン産のワインの方が質が良さそうだが、アルカディア人は飲みたがらないだろうしなあ」


「ええ」


「それに、アルカディア以外の商人もラインシュバルトで高値で買って行ったそうでございます。かなり組織的に計画されていたようですな。ひょっとすると、アルカディア女王にも何か吹き込んだ者がいるやもしれません」


 セバスチャンが言うが、レベッカにそう吹き込んだ奴がいるなら、相当な策士だな。例えば、ディープシュガー侯爵が大量に買い付けたなら、もう犯人だとモロバレだが、間にレベッカや商人を挟んで正体がばれないようにしていれば、こちらとしては疑わしいと思っても、非難は出来ない。

 非難しようものなら、証拠を出せと言われてしまえば、それまでだ。逆に『嘘をついて(おとしい)れた』と、こちらが非難の対象になりかねない。


「困ったわね。ライオネル卿やアンジェのところからもアルカディアに回してもらったし、ううん、こんな事になるのなら、残しておけば良かった…」


 ティーナが悔やむが、ま、それだけティーナが優秀だった証拠だ。

 機会を逃さず取引量を増やすのは間違っていない。元々、フランジェ産のワインを披露宴に使うと言っていたので、ミッドランド産の在庫を気にするはずもない。今回は裏目に出てしまったが。


「となると、外国産か……ああ、トリスタンはどうだ?」


 思いついて言う。


「いえ、今から取り寄せとなると、間に合わないかと」


「むう、距離があるか…」


 それより近いのはトレイダーだが、これは論外だろう。

 戦争中の相手だ、運良く手に入ったとしても、快く思わない貴族もいるだろうしな。

 ルーグル王国は混乱の最中でワインどころではないだろうし、瓶に貼ってあるラベルはまだトレイダー帝国のままのはずだ。

 ヌービアは砂漠地帯で、ワインがあるかどうかも怪しい。クリスタニアやハイランドは遠すぎる。


「なら、スレイダーン側はどうだろう? ルバニアという地域の酒はそれなりらしいが」


 俺はかつて仕えていたエイト男爵の言葉を思い出して言う。フランジェ産には劣るが、悪くない品のはずだ。


「ええ、その産地は私も聞いたことがございますな。では、商人達に探させましょう」


 セバスチャンが頷く。俺は知り合いのロバートにも頼んで、どこでも良いから手配してもらうことにした。ロバートは大商人だから何とかなるかも。ロバートが言うには、ユーリタニアには米から作る酒があるそうで、それも一応、取り寄せとした。


 それから、俺は冒険者ギルドに密かに依頼を出し、フランジェ産を買い占めている商人に依頼を出した首謀者の調査と、もう一つ、フランジェ産のワインの空瓶を集めさせた。 

 フランネル子爵には、クレアの実家から大量にフランジェ産のワインをロバート商会を通して仕入れる予定だという偽情報(・・・)を流しておく。



「食いついてきた商人がいます」


 三日後、ロバートが報告してきた。


「商会の名は?」


「ザイアス商会。残念ながら小さな商会なので、情報があまり有りません。これまでは毛皮を扱っていたと言うことですが、このところ羽振りは悪かったそうです。ワインの取り扱い実績は全くありません」


「当たり臭いな…」


「はい。普通、フランジェ産が品薄になったと知れば、フランジェから輸入しようとするでしょう。わざわざミッドランド国内で高値を買う必要もありません。そんな事をするのは個人の酒好きや小さな酒屋、レストラン、コレクターくらいのものでしょう」


「コレクターね。じゃ、本物の(・・・)フランジェ産ワインを数本掴ませて、予定通りブラックU商会を紹介してやってくれ。ただし、少し渋って手数料を取るくらいした方が良いだろうな」


「そこまでせずとも引っかかるとは思いますが、ええ、やってみましょう」



 翌日の深夜、俺は王都の外れの倉庫の中で取引相手を待つ。


「来たわよ」


 窓から外を見張っていたリサが告げる。

 少ししてノックがあった。俺は扉の外にいる人物に向かって問いかける。


「合い言葉は?」


「おっぱいは小さい方が好きです」


「よし。入れ」


 緊張した面持ちで入ってきたザイアスは、ここにやってきたことを後悔しているのかもしれない。どう見ても怪しすぎの商人だからな、ブラックUは。

 俺が魔法使いと知られるのはよろしくないので、ライトの呪文は使わずに魔道具のランタンを購入して用意した。


「むむ、なぜ顔を隠しておられるので?」


 石仮面を見て少しギョッとした様子のザイアスが質問してくる。


「言わせるなよ。ヤバい仕事してるからに決まってるだろが」


 スピーカーの呪文で濁声を出してブラックUが答えた。


「そ、そうですか」


「余計な詮索はお互い無しで行こうぜ。アンタはフランジェ産のワインが、俺は金貨が欲しい。それだけだろ?」


「え、ええ、そうですね」


「じゃ、金はちゃんと持ってきただろうな?」


「ええ、もちろん」


「じゃ、見せてみな」


「はあ」


 ザイアスが木箱の上に金貨を積み上げていく。

 念のため分析(アナライズ)してみたが、本物の金貨だ。


「よし、二百枚あるな。次はお前が確認する番だ」


「ええ」


 木箱を開けてやり、ワインボトルを引っ張り出す。ラベルは全てクレアの実家、アーベル家の本物の紋章がデザインされている。


「確かに」


「おいおい、冗談だろう、ザイアスさんよ」


「ええ?」


「お前さん、飲まないでコイツがフランジェ産だと分かるのか?」


「あ、ああ…そうでしたね」


「一本を開ける。心配しなくてもコイツは俺の奢りだ」


「どうも」


 グラスにワインを注いでやる。


「フランジェ産は、湧き立つアロマとまろやかで上品な口当たり、スッキリとした飲み応えが特徴だ」


 料理長のクラウスに聞いた話をそのまま受け売りしているだけだが、頷いたザイアスはすっかり信じてしまったようだ。


「ふむ、こんなものですか」


 毛皮の目利きは出来るのかも知れないが、酒の目利きはさっぱりらしい。

 ま、クラウスも、飲み慣れていない素人にはミッドランド産とフランジェ産の違いは分からないだろうと言っていた。

 その場にグラスを二つ置いて飲み比べをすれば、当然、味の違いには気づくだろうが、どちらがフランジェ産かを言い当てるのは難しいはずだ。

 もちろんここにはミッドランド産しか置いてない。ヒヒ。


「お気に召さないなら、買ってもらわなくて結構だぜ? 買い手の当ては他にもあるんだ。さる貴族が高値で買うと仰せだからな」


「い、いや、別に文句を言ったわけじゃありませんよ。約束通り、千本を二千ゴールドで、合計二百万ゴールドで取引しましょう」


「よし、成立だ」


 瓶を詰め替えただけの一本20ゴールドのミッドランド産ワインが、百倍の高値で売れてしまった。

 だが、こういう儲け方はしちゃダメだ。

 不正をやってきた相手に対する報復ということで、今回は有りにするが、やるなら正攻法で儲けないと。

 目には目を、歯には歯を!

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