第九話 バレた
2016/10/30 若干修正。
魔術入門の書に記されていない魔法を独自に編み出してからちょうど十日目、
俺は今日も熱心に魔法の鍛錬に励んでいる。
「マナよ、我が呼びかけに応えて、防壁と化せ! バリア!」
「ニー、ニー、ニー、ニッ!」
俺は防壁中心に色々と、クロはひたすら解除だけを唱えまくっている。
ディスペルって序盤はそんなに使いどころが無いと思うのだが、俺が他の魔法を勧めてもクロは首を横に振ってこれが良いというので、好きにさせている。
バリアは敵からの攻撃を防いでくれるし、前衛がいないボッチの俺にとっては、とても重要だ。
小さな盾の範囲で、効果もすぐ切れる今の状態では実戦ではとても役立ちそうに無いのだけれど、スキルシステムもあるのだし、鍛えれば範囲もより広く、効果も長く、防御力も上がっていくはず。
範囲の方は十日前より五センチほど直径が大きくなったかなと言う程度。効果の持続時間も延びているはずだが、クロにディスペルで俺のバリアを解除させているので、そちらは把握していない。
クロの解除の呪文は、何も無い所で唱えるよりは、俺のバリアを解除させた方が熟練度の上がりが良いはずだし、こちらも魔力を込めて抵抗し、魔法抵抗力も同時に鍛えている。
魔法抵抗力は1ずつ上がり、今では10ほど上がっている。
レジストの成功率は半々と言ったところか。
魔力の込め方、呪文詠唱の速度、魔法展開のイメージなど、色々と変えてみて試行錯誤しているが、極端な事をやると魔法が発動しても途中で効果が出ずに不発になってしまう。いったん魔法が発動すると、失敗でも魔力は消費してしまうので、損だ。
失敗しても魔力は鍛えられるが、呪文の熟練度の方は成長するかどうなるか分からないので、あまり極端な事はやらず、より強い魔法になるよう専念している。
「ふう、こんなところか」
魔力を全部使い切った。
使える回数は二十回に達している。
少し休憩を入れると、魔力が少しだけ回復して、午後には二回使えるようになる。
さすがに今は休憩しないとだるいのだが、午後からは洞窟の外に出て薬草探しだ。
魔力を回復させるモノが欲しいのだが、今のところ発見には至っていない。
それから、この世界には不思議なことに虫歯は存在しないらしい。
歯磨きをしていないと気づいて不安になったのだが、口の中も別に不快になっていないし、ひょっとしたらと思って盗賊達に聞いたが、歯が痛くなった者は一人もいないそうだ。そう言う話も聞いたことは無いと言うし、歯磨きの心配はしなくて良さそう。
「いいか、クロ、まずは魔力回復の薬草だ。それが見つかれば、もっとたくさん魔法の練習が出来る」
「ニッ!」
「と言っても、すぐに見つかりそうに無いし、他の薬草のスキルも上げて損は無いだろうし、何でも良いから見つけていこう」
「ニー!」
すでにスキルシステムの存在についてはクロに説明している。猫に教えてどうなるのかという気もしないではないが、コイツは魔法が使えるスーパー猫だ。俺に懐いているようだし、相棒として頑張ってもらうことにする。
ただ、クロと俺の成長速度はほぼ同じ程度で、そこが微妙に納得行かない。
俺の方はスキルシステムの存在を独自に発見し、ゲームの知識も最大限に利用し、創意工夫して熟練度を成長させているというのに。
パーティースキル効果なのだろうか。
そうではなく、この世界の人々が全員、熟練度成長速度56倍だったら泣ける。
だが、しめ縄を作った時や、猫の実の数から考えると、やはり、俺とクロが飛び抜けていると思われる。
森を歩き回りつつ、精神をリラックスさせ、周囲のマナを感じつつ取り込むような意識を持ち、なるべく早く魔力を回復させるよう努める。
それが本当に効果あるのかはまだ不明だが、やらないよりは色々試してみるべきだ。
魔力回復の薬草は結局今日も見つからなかったが、代わりにミカン、ビワ、ブルーベリーに似た果物を発見した。
持って帰って盗賊に聞いてみると、それぞれ山蜜柑、ピンクビワ(または桃ビワ)、野葡萄という名前だそうだ。
山蜜柑は皮が少し厚い。味はやや酸っぱいミカン。種があるのが残念だが、種の無いミカンもちゃんとあると言う。
ピンクビワは形はビワだが色はピンクで、桃っぽい。味はビワと桃の中間だろうか。ちょっと渋みがある。葉っぱがかぶれに効くそうだ。
野葡萄は紫と言うより黒色に近い。ブルーベリーに似ている。ちょっと酸っぱい。これを食べると夜でもはっきり物が見えるようになる。盗賊御用達だ。
「んー、桃ビワが美味しいニャー」
夕食の時、リムが特に喜んでいた。果物は魚の次に好きらしい。クロも喜んで食べたが、焼いた魚だと食えるんだよな、こいつ。
食事の後片付けを俺がやる。こういうのは新入りや下っ端の役目だ。
だが、リッジよ、魚を食い散らかすのは止めろ。骨からしっぽまで全部バリバリ食べる盗賊や、お頭も綺麗に身を食べてるのに。
「じゃ、お先に…」
なぜかみんな焚き火の側でのんびり酒を飲んでいるので、今日はそう言う気分なのかなと思いつつ、クロとベッドに向かおうとしたが。
「待て」
「何でしょう?」
「ユーイチ、おめえ、なんか言うことがあるだろ」
お頭が言う。
「ええと?」
「とぼけんなよ。お前が魔法使ってることくらい、俺らはお見通しだぜ?」
と、クラン。
ぬう、バレておったか。
「でも、スゲーよな。魔法が使える奴なんて、俺は初めて見たぜ!」
リッジが興奮気味に言う。やはり、この世界では魔法を使える人間は少数のようだ。
「ああ、大したもんだ。でだ、おめえが魔法が使えるってんなら、この先の洞窟のダンジョンも行けるだろう」
「えっ!」
ダンジョンと聞いて、思わず声を上げてしまった。
そりゃそうだろう。
いくら俺が魔法を使えるようになったと言ってもレベルは一桁。それに初級魔法の中の、入門書に書かれたものしか覚えていない。ステータスとマッパーは戦闘には役に立たないし。
「このところ、戦があったせいか、街道の行き来も少ない。一つ、ダンジョンで一儲けするとしよう」
「おうよ!」
盗賊はすでに話を合わせていたか、俄然、やる気の様子。
凄く、嫌な予感がします…。
「あ、あの、僕はまだ初心者で…」
「関係ねえよ。こちとら素人じゃねえんだ、心配するな」
いや、初心者の魔法使いを連れて入ろうとする時点で怪しいですから!
なおも俺は不安な点を挙げてダンジョン行きを断念させようとしたが、下っ端で新入りの俺の言うことが通るはずも無く、決定は覆らなかった。
うーん、死ななきゃいいけどなあ…。
一応、盗賊の半数以上は、ダンジョンにも潜ったことがあり、お頭はいくつかのダンジョンのボスも倒して最下層もクリアしたことがあるそうだ。
ホラでなきゃいいんだけどね。
翌日、朝飯を食った後、装備を調え、この近くにあるというダンジョンに全員で向かった。
「あった!」
夜目が利くようになる山葡萄と、打撲の痛み止めになるロキソ草、止血に用いるヨモギ草を途中で集める。
少しでも必要なアイテムを増やしておかないと、ダンジョンのど真ん中で回復薬が無くなると取り返しが付かない。
本当は行かないのが一番なのだが、その気になっている盗賊達を止めるすべは無い。
逃げだそうにもボウガンを持ったジークが俺の後ろを常に歩いてくるし。どう見ても逃げ出すのを警戒されている。
ヨモギ草は、アロエ草と並んでよく使われる薬草だそうで、お頭に教えてもらった。
軽い傷や出血にはこれが一番だそうだ。
アロエ草も傷に使えるが、あちらは回復が早くなるものの、出血を止める効果はヨモギ草に敵わないらしい。
「アロエポーションを飲む方が早いからな。傷口にはヨモギ草を貼ったり、ヨモギポーションをかけて使うんだ」
ポーションに種類があるなんて、知らなかった。
「ヨモギポーションは、飲むとどうなるんですか?」
「まあ、普通に血が止まるわな。傷口がよく分からない時や、重傷の時はそうやるが、かける方が効果は早い」
「なるほど」
一枚葉っぱを食って、味を覚えておくが、苦くて香りの悪い春菊と言った感じ。苦いし、美味しくない。
「食べても死にませんよね?」
「当たり前だろ。薬草の類い、特にポーションにするようなヤツは毒にはならねえよ」
「飲んでも食っても不味いけどな」
クランが付け加える。
「違いねえ」
盗賊達が笑う。
ま、苦みがあるし、これを好き好んで食べる人はいないだろう。
良薬口に苦し、と言うヤツだ。
「お頭、ポーションですけど、ヨモギポーションとアロエポーションを混ぜたら、まずいんですか?」
二種類をそれぞれ使うのは手間だし、戦闘中は一刻を争うのだから、一緒にしたらどうかと思って聞いてみる。
「いいや。まずくはねえ。だいたい、回復ポーションはそれだからな」
さっきの二種類のポーションを混合した物を回復ポーションと呼ぶらしい。
「高級品ですか?」
「高級って程じゃ無いが、単品のポーションよりは高値だぜ」
「なるほど。パウダー状やペースト状の物はあるんですか?」
「ヨモギポーションは粉にしたり、軟膏にしてあったりもするぜ」
「へえ」
奥が深い。
魔法だけじゃ無くて、薬草の辞典みたいなのも欲しいところだなあ。
薬草も俺なら簡単に見つけられるし、もし元の世界に戻れないということなら、薬師を目指してみようかな。
「着いたぜ。ここがそうだ」
…生き残れたら、の話だけど。
俺様用メモ
ヨモギ草 … 止血用、消炎、殺菌効果もあるらしい。
アロエポーション … HP回復。飲んで使うのが一般的。
ヨモギポーション … 止血用。かけて使うのが一般的。
傷口が不明の時や、重傷の時は飲む。
回復ポーション … アロエとヨモギの混合ポーション。
野葡萄 … 夜目が利くようになる。
ピンクビワの葉 … かぶれを治す。
山蜜柑 … こたつが恋しくなる。




