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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十四章 貴族でおじゃる

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第一話 準備期間

2016/11/30 若干修正。

 ミッドランド国王ハイフリード十六世から、トレイダー戦の功績として正式に男爵の爵位を与えられた俺は、まず、王都でお披露目パーティーを行わなくてはならない。

 就任祝いであり、皆様への挨拶回りである。

 顔と名前を知っておいてもらわないと、さすがに都合が悪いからね。


 が、すでにこのお披露目パーティーで貴族の格が決まってしまうと言うのだから、貴族社会も大変そうだ。

 公園デビューならぬ貴族デビューと言うヤツだ。

 上手くやらないとなぁ。とにかく不安でいっぱいだ。


 王都には一流執事のセバスチャンと一流メイドのメリッサがすでに待機しており、披露宴(ひろうえん)の会場のセッティングを準備してくれていた。


「通常、新たに貴族となった御方は、自分の後見である貴族から会場を借り受け、そこで披露宴を行います」


 ラインシュバルト別邸の執務室で、俺とティーナを前にして、セバスチャンが説明する。


「ふむ」


「じゃ、私と言うか、お父様の別邸、ここでいいわよね?」


 ティーナもまだ自分の別邸は用意しておらず、ラインシュバルト侯爵家の別邸をそのまま使っている。が、これは別段、おかしな事では無い。家族だしね。

 ティーナの子爵昇進の披露宴は去年にやった。俺も行きたく無かったのだが、家臣なんだからと強制的に参加させられたっけ。主にティーナが挨拶を交わして、俺は端っこで立ち食いしてたから、特に問題も無かったけど。

 だが、セバスチャンは物言いを付けた。


「いえ、それはいささか問題がございますな」


「ええ?」


「後見の貴族が自分の会場を持っていないと言うのは、笑いものとなりましょう」


「むっ、でも、ユーイチは私の婚約者なんだし、いずれは……」


 ラインシュバルトの一族となるか。


「それもよろしくありません。アーシェ様との婚約がございますから。フッ」


 なぜかメリッサが小馬鹿にしたように鼻で笑って言うが。顔はお澄ましのまま。


「だったら、何よ。あんなの私は認めてないから」


「兵部(防衛省)のアーロン侯爵に喧嘩を売るのはおやめになった方がよろしいかと」


 セバスチャンが言うが、どっちの婚約を優先するかで、ちょっとあのワガママなジジイと揉めそうなんだよなぁ。

 アーシェ本人は婚約したがってないのに、そこはこの時代の貴族社会の因習と言ったところか。面倒臭え。


「別に、喧嘩は売るつもりもないけど……それで? ここがダメだとしたら、どこでやるつもりなの?」


「ヒーラギ男爵家の別邸としてふさわしい館を購入致しております。本来ならば、ユーイチ様に選んで頂くところ、しかし、会場の準備期間を考えますと、猶予が全くございませんでしたので、私とメリッサで決めさせて頂きました」


「ふむ」


 まともなところなら、文句は言わないが…。


「そ。まあ、ちゃんとしたところを選んでるならいいんだけど…」


 ティーナも、この二人が意地悪をしないか、微妙に疑っている。


「もちろんでございます。男爵家として恥ずかしくなく、かつ、ティーナ様とユーイチ様にご納得頂ける物件を王都中から探し出して参りました。こう言っては生意気かと思われるかも知れませんが、私、今回の物件には自信がございます。これ以上の物件はおそらく無いかと」


「これで満足しないなら、YOUはド変態って事」


 厳しいな、オイ。メリッサの言い方に急に不安になって来たぞ……。


「ちょっと。メリッサ」


「ご安心を。ちょうど良い物件が空き家になっておりまして。何でも聞いたところによりますと、かつては名のある侯爵がお使いになっていたとか」


 セバスチャンがニヤリと笑って言う。


「「 あ、オズワード侯爵? 」」


「左様でございます」


 なるほど、オズワード侯爵の別邸なら、問題は無いだろう。しかし、このジジイもすっとぼけるなぁ。オズワード侯爵の名前、知らないはずがないだろ。

 悪魔(セザンヌ)を召喚した一件で、オズワードの一族郎党全員が処刑となっているが、俺達が乗り込んでその悪事を暴いたわけだから、凄い因縁だ。


「後ほど、お二人でご覧頂ければと思いますが、さすがに侯爵家の別邸ともなれば、少々、出費がかさみまして……」


「構わないわ。ユーイチの為だもの。後見である私の体面にも関わることだから」


「いえ、この出費については、ユーイチ様に出して頂きませんと」


「ええ? ああ、そうかもね。後見に頼らずに用意したとなれば、それだけ格が上がるわ。後見人としても、面倒を見るなら格が高い貴族の方がいいし」


 ティーナがそう言うので、どうやら俺が支払わねばならなくなった様子。


「で、いくらだ?」


 聞きたくないが、聞く。


「一千万ゴールドと格安に―――」


「高えよ!」


 日本円で20億円もするじゃねえか。大邸宅となればそれが普通かも知れないが、俺の所持金、金貨は530枚、今までに手に入れた魔石や宝石を入れても630万ゴールド程度だぞ?

 アーロンからもらった宝玉、あのエメラルドは、家宝にしておかないとまずいだろうし。

 金が足りないな。


「そこは頭金を支払って、残りは割賦と言うことになさいませ。頭金については私がすでに立て替えております」 


「ローンかよ…嫌だなぁ」


「大丈夫だと思うわよ? 新しくもらう領地の税収もあるんだから」


「うーん」


 税金を投入すれば、一千万ゴールドなんてすぐ払えそうだが、俺は出来ればそれは領地の発展や福祉なんかに使いたいんだよなあ。


「セバスチャン、安い物件だと、どうなんだ?」


 聞いてみる。


「この、ド変態が」


 メリッサがボソッと言う。なんだかなぁ。


「ちょっと、メリッサ」


「いえ、ユーイチ様、そこはご納得頂きませんと、準備の時間の方が…」


「仕方ないな。頭金はいくらだ?」


「530万ゴールドとなっております」


 がっつり来たなぁ、オイ。俺の現金のあり合わせ、ほぼ全部じゃねえか。と言うか、このジジイ、俺の所持金を把握した上で、ギリギリを狙ってきてるだろ?


「さっさと耳を揃えて払いやがれです。持ってるのは存じておりますので。フッ」


 コイツもちょっとムカついてきたな。いつかバニーガールの格好させてやるぞ、メリッサ。


「ユーイチ、もし、足りないようなら、私が立て替えるから」


「いや、ティーナ、それだと意味が無い。俺が全額支払って、格を上げるんだろ?」


「そうだけど…、手持ちはあるの?」


「ロフォールの屋敷に400万ゴールド置いてあるが、アレを持ってくれば足りるよ」


 さすがに、所持金全部をいつも持ち歩くなんて馬鹿げたことはしていない。スられたり、金を出せと脅されたらどうするんだと。


「ご安心なさいませ、すでにここにその400万ゴールドを持って参りました」


 セバスチャンがそう言って金貨の入った袋を出してくるが、有能すぎる執事にも困りものだな。

 俺の現金を勝手に持ち出すんじゃねえ!


「セバスチャン、そう言うのは、最低でも報告は入れなさい」


 ティーナも注意してくれる。


「は、色々と立て込んでおりまして、ご報告が遅れてしまいました。平にご容赦を」


「じゃ、次やったら、一万ゴールドの罰金で」


 俺が言う。


「そうね」


 ティーナも了承。


「は、ま、その程度でしたら」


 軽く言うが、金貯めてそうだな、このジジイ。


「やっぱ、十万ゴールドで」


「お(いたわ)しや、配下の老人から金をせしめようなどと、貴族としてはあるまじきことですぞ?」


「待て、お前はそもそもティーナの家臣だろうが」


「いえ、大お館様より、しばらくユーイチ様の身の回りのお世話を仰せつかっておりますので。メリッサも同様でございます」


「俺は若いメイドが良いんだが」


「却下」


 ティーナが俺の希望を聞くなり、即座に突っぱねる。


「私で我慢して頂きます。ただし、性的なサービスは致しませんので、あしからず」


 メリッサが真面目な顔で言うが、うーん、若くて美人ではあるんだが、まあいいか。そっちのサービスが無いなら、仕事が出来るメイドの方が良い。

 と言うか、コイツもセットで来るのか…。


 まじまじとメリッサを観察。

 若葉色の髪のメイドさん。笑ったところは見た事が無い。いつも澄まし顔。メイド服なのに、なぜ萌えぬ…。


「ユーイチ、メリッサに手を出したら、どうなるか、分かってるわよね? あと、じろじろ見ないで」


 ティーナが余計な心配をしているが。


「分かった分かった。じゃ、二人には俺に付いてもらうとして、他に何が必要だ?」


「家の紋章を決めて頂かねばなりません」


 紋章!


「おお! じゃあ、髑髏とか、悪魔とか、ちょっと待ってくれ、今、デザインを考えるから!」


 自分の紋章なんて、中二病が刺激されるわー。ここは一発、凄くカッコイイ奴を。

 下地は黒色で決定!


「ちょっと…何でそんなおかしな物ばかり……」


「いえ、せっかくやる気になっておられるところ、非常に申し上げにくいのでございますが、旗の発注などにどうしても時間が掛かりますので、僭越ながら私めがこのような紋章をご用意致しました」


「ええ?」


「ああ、いいじゃない、これにしなさいよ、ユーイチ」


 ヒイラギの四枚の葉っぱに斜めの樫の杖を重ねた紋章。

 背景色は黒色じゃなくて紺色か。


 俺の名字や、薬師の薬草から葉を連想し、魔法使いだから杖か。デザイン的には悪くないんだが、フツーだなぁ。


「お気に召さない場合は、また後日、紋章を変更できますので」


「ああ、ならいいや」


「でも、紋章なんて滅多に変えない物よ?」


「ま、就任が一段落してからじっくり考えるよ、そこは。一回しか変えるつもりはない」


「ええ。それが良いわね」



「続いて、騎士の総隊長をお決め頂かねばなりません。披露宴の儀礼と、警備の管理もございますので」


「ああ、それについては一人候補がいるが、セバスチャンは誰か、目星を付けているのか?」


「はい、こちらも一人ほど」


「ふむ? 俺はケインに任せようと思う」


「じ、自分が、ですか?」


 それまで黙ってドアの側にじーっと突っ立っていた護衛のケインが驚いて聞き返す。


「ああ。今まで良くやってくれてるし、気心知れてる奴の方が安心だからな」


 総隊長とは、その貴族の家の軍事部門のトップであり、警備部門のトップでもある。

 国で言えば親衛隊長、現代日本で言えば防衛大臣と警視総監と言ったところか。

 当然、忠誠心が篤く、信頼が置ける人間でないと任せるわけにはいかないのだ。

 裏切られたら即、命に関わる。謀反やクーデターが起きれば、たとえ鎮圧できたとしても領地はガタガタだ。

 

「実を言うと、リックス様よりご推薦頂き、私もケイン様がよろしいかと」


 セバスチャンやリックスも目を付けていたか。なら、問題無いだろう。


「決まりね。じゃ、上級騎士に任命してあげないと」


「そうだな。じゃ、先に王宮に報告書を書くか」


「ええ」


 ケインはロフォール騎士団の所属で、ティーナも移籍を了承したから、後は男爵である俺の一存で任命できる。

 元々、下級騎士だから、昇進も難しくはない。これが爵位ともなると、完全に国王の専権事項で俺にはどうにも出来ないが。


「あ、ありがとうございますっ! ユーイチ様! 一生、お支え致します!」


 嬉しい事言ってくれるじゃないの。

 

「ふふっ、良かったわね、ケイン」


「はい、お嬢様、ううっ」


「ええ? 泣かない泣かない。男でしょ」


「申し訳ありませんっ」


「じゃ、ケイン、後でリックスから披露宴の儀礼についてはきちんと教わって、予行演習も必ず行っておくように」


 俺はさっそく指示しておく。

 ロフォール騎士団総隊長のリックスなら、やり方は全て知っているだろう。

 ちなみに騎士団長はティーナである。


「はっ、了解しました」


「それと、暇があればでいいが、地図を見てミッドランドの全ての領地の場所と、主要な街道については、暗記しておいてくれ」


「分かりました。ユーイチ様がどこの領地を頂こうともすぐ対応出来るようにしておきます」


「頼んだ」


 現時点で、俺は爵位はあるが、領地はまだもらっていない。国王からはいずれ用意して渡すと明言してもらったが、これは、いきなり領地とセットで渡すと他の貴族がうるさいから、段階的にと言うことだ。宰相のオーバルトからもそんな話を聞かされている。

 王都や王宮に住む『宮廷貴族』や、領地無しで役職持ちの『法衣貴族』というのも有るらしいのだが、役職も無い俺の今の区分はよく分からない。ま、どのみち俺は田舎の領地をもらって小さな『地方貴族』となるはずだ。辺境で良いけど最前線は勘弁。ま、兵力を考えるとそんなに最前線の領地をもらうことも無いと思うが。


「兵については、リックスと相談して。そうね、うちの半分は持って行ってもいいから」


「いや、ティーナ、それはもらいすぎだ。ロフォールも兵力は充分じゃないんだし、うちの領地の年貢がどれだけ取れるかも分からないんだ。あまり大人数でスタートしても、飢え死にや赤字経営は困るから」


「糧食については、買えばいいでしょ。私がロフォールの分から援助するし、足りないようなら、お父様を頼っても良いわ」


「なりませんぞ。それではおんぶにだっこ、ユーイチ様の貴族としての格が下がってしまいます。糧食も全て自腹で用意してこそ」


 セバスチャンが言うが、確かにその通りだ。

 さすがに初期配置の兵は借り受けるしかないが、最初は少なめにして、後は余裕があれば募兵や傭兵で増やしていけばいい。強制的な徴兵は領地が攻められたりしない限りは行わない。強制的な兵役は、生産力が落ちる上に民の不満も買うからな。


 さて、次だ。

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