表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の闇軍師  作者: まさな
第十三章 黒き帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/287

第十五話 決起

2017/2/5 武田信玄の名言を追加。

 トレイダー帝国のダマン城に忍び込んだ俺達。

 内側からの開門の隙を窺うため、隠れて夜を待つことにしたのだが。

 偶然、旧ルーグル国の者達による反乱計画を盗み聞きしてしまった。

 うちのお館様は同情からその計画を助けたいと思っているが、結構まずいんですよ、これ。


 何せ、ルーグル兵の今の所属はトレイダー帝国。その全てがきっちり反乱を起こしてくれるなら、ルーグル兵は相手にせず生かすのが正解だが、俺の考えでは反乱に協力するルーグル人は少ないと見た。

 理由は、この反乱、ロックスら騎士や貴族階級が準備している反乱だからだ。

 本当に重税で苦しむ民や奴隷なら、頻繁に一揆を起こし、七割五分の法外な重税など続かないはず。


 そして、ルーグル兵を助けた後でミッドランドに刃向かってこられると、結局、トレイダー兵を助けたのと同じ事になってしまうのである。

 武装している敵を助けたら、スパイかと疑われても仕方ない。その意図がどうあれ、結果が重視されるだろう。特に、上の命令でない独断ならば。

 それをミッドランド王宮がどう判断を下すか、おっかない。


「日が暮れたわ。行動を開始するわよ」


 リサが窓の外を見て告げる。


「ええ、行きましょう」


「む、もうか…」


 色々、策を練っていたのだが、時間切れだ。ロックスと接触してもう少し情報を得たいところではあるのだが、反乱を企てる騎士だ、素直に話すタマでも無いだろう。

 一度、開門を延期して、アーロン大将軍にお伺いを立てる、と言う方法もあるが、みすみす開門のチャンスを逃して帰って来たら、「馬鹿もん!」では済まない気がする。


「急いでや、ユーイチ、魔法チームが鍵やからね」


 ミネアが手招きするので、踏ん切りを付けて部屋を出る。

 通路の敵は、斥候チームが察知したり隠蔽(カモフラージュ)の呪文で姿を隠したりでやり過ごし、城の外に出る。


「上の見張りは落としたわ。急いで」


 リサがボウガンで見張りを数人片付けたから、発覚するのは時間の問題。それまでに俺達は開門し、ミッドランド軍の突入作戦を成功させなくては。


「なっ、なんだお前らは、ぐはっ!」


 門の近くにいる敵兵を前衛チームが片付ける。


「くっ、この人、奴隷だったわ。ルーグル人かも」


 ティーナが悔やむが。


「今はそんな事、気にしてる場合か! 開門を急げ!」


 レーネがそう鋭い声で言い、彼女自身も門を吊っているロープの巻き上げに急ぐ。

 巻き上げの器具は、船の舵を横に寝かせて置き、大型にしたような感じの物だ。一メートルくらいの大きな木の円盤が水平に固定されており、その円盤の周りには丸太の取っ手が放射状に伸びている。それぞれ人が押しやすいようになっており、それを押して円盤を回転させ、門の扉を吊るロープを巻き上げる仕組みだ。

 

 前衛チームがその取っ手を握って、力の限り回し始める。


「ふんニャー!」


 本来なら八人くらいで回すそれを、ティーナ、レーネ、リム、アーシェの四人で回す。

 さらに、俺とミオとエリカとクロの魔術チームが浮遊(フロート)の呪文で扉を軽くする。


 ギロチン型の扉は、ズズズズッとかなり素早く上がり始めた。


「おいっ! 門の扉が開いているぞ! どうなっている!?」


 くそっ、もう気づかれたか。

 門は大きいため、遠くからでも見えるし、全部の見張りを沈黙させるのはちょっと無理がある。

 煙玉…は目立つだろうしな。ここの篝火(かがりび)を消すわけにも行かない。異変を察知されたらどのみち同じ事だ。


「よし、しんがりは任せろ」

「さあ、死にたい奴は掛かってきなさい。電撃の餌食にしてやるわ」


 格好良すぎるレーネと、危ないエリカの二人がこの門のハンドルを守る。


 その間に、俺達は次の二の丸の門へ。真正面の位置ではないので、少し城壁に沿って移動して回り込まねばならない。


「いたぞっ! 曲者だ、矢を放て!」


 上から弓部隊が駆けつけ、矢を射かけてきた。


 これは風玉(ウインドボール)の呪文で的を逸らす。


「くっ! 当たらないだと!?」


 ふふふ、ドレイク伯爵の風バリアとまでは行かないが、あの時のもどかしさ、とくと味わうが良い! ハーッハッハッハッ!


「ふう、ようやく辿り着いた」


「急ぐわよ」


「ガッテンニャ!」


 やっぱり、城は三重の堀と三重の扉に限るね。開門にかなりの時間が掛かってしまう。


「うえ、エリカ、呪文全開で使うってアホか。持たないだろうが」


 ステータスを見て俺はギョッとしたが、エリカのMPがもう半分を切っている。

 上級呪文ばかり使いやがったな? あのバカ。

 設置型のファイアウォールで行けば良いのに、指定しておくべきだった…。


「よし、開いた。では、ここが私が受け持つぞ」


 アーシェがここのしんがりを務める。


「ん、早くみんなは魔王のところへ急いで。ここは私が食い止める」


 ミオがつまんない冗談を言ってるが、気の利いた言い返しも出来そうにない。今度、台詞を考えておくか。


「ひい、ふう、はあ」


 走る。


「見えたわ、外門よ!」


 あれを開ければ、三つの門を全てコンプリートで、ミッションクリア。

 俺が真上に向けて合図の光玉(ライトボール)を飛ばしたが、エリカが派手に雷の呪文を使っていたので、外のミッドランド軍にはすでに知れていたようだ。

 城門のすぐ外で大勢の兵士達の雄叫びが聞こえる。


『くっ、ユーイチ、レーネがやられたわ。作戦中止よ!』


『な、なにぃ? そんな馬鹿な』


 リサが念話してくるので、慌ててステータスを確認したが、うえ、重傷かよ。 

 俺達のレベルは70台、一騎当千の強さで、その辺の(ザコ)では相手にならないと思ったのに。


 とにかく、レーネのところまで回復役(ヒーラー)の俺が戻る。

 ミネアがレーネを背負い、こちらに向かってきていた。

 すぐに二人と合流する。


「レーネ!」


「すまん、油断した。あんな手練れがいるとはな、面白い」


「喋るな。結構ヤバい怪我だぞ」


 ハイポーションをぶっかけ、斬られた腹にヨモギ草のペーストを貼ってその上から包帯を巻いておく。


「よし、応急処置は済んだ! 後はクレアのところへ」


 レーネを担ぎ上げたミネアに指示する。


「分かった!」


「ミネア、私は自分で走れるぞ」


「あかんよ。傷が開くし、今は大人しゅうしててや」


 ミネアがレーネを背負ったまま走って行く。


「リサ、もう良いぞ!」


 その手練れの騎兵を相手に、煙玉やボウガンで時間稼ぎしていたリサに俺は言う。


「ええ、ふう、助かった」


 ほっとするリサは、結構ギリギリだったようだ。顔に切り傷を作っているし、回避率高めの彼女に手傷を負わせるとは、こりゃ相当だな。


「逃がさぬ!」


 黒い甲冑の騎兵が三日月刀(シャムシール)を持ってこちらに駆けてくる。

 ダンディーな声に聞き覚えがあった。ロックスだ。



 駄目元で交渉してみるか…。ここは武人っぽい喋りで行くかな。

 

「名のある将とお見受け致す! 我が名はユーイチ=ヒーラギ、ミッドランド王国上級騎士にしてロフォール子爵家家臣! そちらも名乗られませい!」


 身分を重んじる感じのタイプの気がしたので、こう名乗ってやれば、ロックスもティーナと同じ気質で名乗り返さずにはいられないはずだ。


「む、それがしはトレイダー帝国ダマン城守備隊騎士隊長、ロックス=バックスなり!」

 

「なんと! その腕と立ち居振る舞いで、総隊長では無く、タダの騎士隊長と仰るか! 名乗りを上げた私を欺くとは、敵と言えども非礼であろう!」


「何を言う、それがしの所属は騎士隊長で相違ござらん。腕については褒め言葉と受け取っておく! いざ尋常に勝―――」


「あいや、待たれよ! しばし! しばし! お待ちを!」


 俺は手を前に出して言う。


「何だ?」


「その特徴有る剣、もしやルーグル国の名剣ではございませぬか?」


「む、いかにも。よく分かったな?」


「は、私は行商もやっておりまして、いかがでございましょう、その剣、百万ゴールドでお譲り頂きたい」


「なに? バカを言うな! 戦の最中に、敵に剣を売る奴がどこにいる!」


「しかし、大金が手に入りますぞ? お命も保証致します。何かと入り用ではございませんかな?」


「…何が言いたい」


 乗ってきたか?


「聞けばトレイダー帝国は、ルーグルの民を虐げ、重税を掛けているとか。元々この地はルーグルのモノ。正しき税は正しき元に」


 声を落として言う。


「痴れ者がっ! それがしに皇帝陛下を裏切れとそそのかすかっ!」


 うえー、ダメでござったぁ!

 説得失敗!

 敵兵もたくさんいるし、ルーグル人以外に反乱計画を知られる訳にも行かないだろうしな。

 タイミングが悪かったとしか言いようが無い。


 仕方ないので、向かってくるロックスの馬をスリップの呪文とアースウォールで転ばせる。


「ぬっ!?」


 だが、巧みな手綱捌きでロックスは体勢を素早く立て直した。こちらもびっくりだ。

 騎乗スキル高そうだなぁ。馬もこれは名馬クラスだろう。


 それならばと、ファイアウォールを設置。だが、これも炎の中を駆け抜けてきた!

 アイスウォールで防ごうとするが、これって空中に作っても意味ないんだよなぁ。分かっててもやってしまった。

 

「死ね!」


「ひっ!」


 凄い勢いの剣の一閃をかろうじて躱したが、首にかすり傷。今のあと半歩でも踏み込まれていたら、俺の首は飛んでたな。


「む、くねくねとおかしな動きを。この妖怪め!」


 人間です。あくまで人間。だけど、柔軟体操のやり過ぎで首が三百六十度くらい回っちゃうからなぁ。自分でもちょっとキモいと思っている。

 だが、正騎士団にありがちな、対人戦闘は得意だが、人外の魔物には慣れていない様子で、ロックスの攻撃と俺の回避は膠着した。

 いや、結構俺が斬られてるんだけども、致命傷を避けて、ハイポーションや薬草で回復させまくり。


「ユーイチ! 任せろ!」


 後ろからルークが馬に乗ってやってきた。


「えっ? いや、危険ですよ! ルーク」


「心配するな、この若さで副将軍に任じられた理由、今、見せてあげるよ」


 そう言った彼は、真正面からロックスに斬りかかる。


「おおっ!?」


 ロックスが三日月刀(シャムシール)で受け止めたが、それでも驚きの声を上げた。

 続いて、流れるような動きで双方が残像を出す。幾重にも斬り合う。


 うわぁ、なんちゅーハイレベルな。


 おっと、見とれてる場合じゃなかった。

 ルークに物理バリアやコンセントレーターなど支援魔法を次々と掛けていく。

 ここは下手な攻撃魔法だと、ルークに当たったり、邪魔になるからな。

 支援魔法なら位置指定では無く完全な個人指定が可能だ。


「いいぞ、ユーイチ」


 その度にルークが優勢になり、ついに、ロックスが右肩を斬られて落馬する。


「うおっ!」


「待った!」


 ルークが首を刎ねに行くがそれを止める。


「ユーイチ、コイツは危険だ。僕はともかく、他の者がやられるかもしれない」


「それでも、命は取らないで下さい。理由は後で言います」


「分かった」


「おのれ…う、うお?!」


 ロックスが動き出す前に、アースウォールで下の土を抜き、落とす。

 とりあえず、埋めちゃえ。


 這い上がってくるロックスを、スリップの呪文で滑らせ、上から土をどんどこ盛っていく。


「おのれ! 魔術士! せ、正々堂々と戦え!」


 やなこった。


「じゃ、ここは君に任せても良さそうだね」


 様子を見ていたルークが言う。


「ええ。それより、中の制圧をよろしくお願いします、ルーク」


「ああ。任せておけ。斬り込むぞ!」


「はっ!」


 ルークが騎兵部隊を統率して駆けていく。

 多分、彼なら大丈夫だろう。


「ユーイチ、良くやった」


 少し遅れてカーティス卿の部隊もやってきた。


「いえ、危ういところでしたが」


「そうか。その騎士は?」


「レベル70のレーネが重傷を負わされた強敵です。今は呪文で抑えているので、こちらは構いませんから、カーティス卿は先へ」


「分かった」


 城壁がドバンッと派手に崩れ、攻城兵器(カタパルト)部隊の攻撃も始まった様子。


「馬鹿な…、二の丸も破られただと!? 城門の守備兵は何をしていた!」


 いきり立つ敵の隊長だが、フフフ、今頃やってきても遅い遅い。


「ユーイチ!」


 ティーナとリックスが自分たちの騎士団を連れて突入してきた。ケインから馬を受け取り、俺も馬に上がる。


「ん、交代」


 ミオもやってきてくれたので、ロックスの蟻地獄を引き継いでもらう。


「さあ、一番乗りを目指すわよ!」


 多分、ルークが一番乗りしているはずだが、そこは我らがお館様の気を削いでも可哀想なので、頷いて俺も付き従った。


「ロックス卿が寝返った! トレイダーに刃向かったぞ!」


「ルーグルの騎士達よ! 今こそ、圧制者に立ち向かい、真の君主に忠誠を誓うのだ! 敵はトレイダーなり!」


「ミッドランドとロレーヌ様は密約を結んでいるぞ! ルーグルの味方だ! 計画は繰り上げられた! ミッドランドは味方! ミッドランドは味方!」


 途中、スピーカーの呪文であちこちで声色を変えて全部俺が言いふらす。


「さすがね、ユーイチ」


 ティーナが褒めてくれたが、ま、ロックス本人を抑えているから出来る詐欺だ。


 カエサル曰く『人は喜んで自己の望むものを信じる』だったか。


 兵にも命じて、それを連呼させる。


「むむ、反乱が早まったか?」


「ええい、裏切り者の蛮族共が!」


 トレイダーの隊長がそういきり立って近くのルーグル兵を斬り捨てる。


「ぎゃっ!」


「た、隊長、何を。彼らは今は味方ですぞ」


 副官が動転しつつも咎めるが。


「うるさい、ルーグル兵は皆殺しにせよ! 一人も生かすな。裏切り者には全員の死をもって制裁を加える!」


 やられる前にやれと、先手を打とうとしたのだろうが、この命令を聞いては、ルーグル兵も自衛のためにトレイダーと戦うしかない。


「おのれ、トレイダー! 苦杯を飲んで忠義を示した我らまで斬り捨てるか! もはやこれまで。敵はトレイダー! ルーグルよ、今こそ立ち上がれ!」


 トレイダーの隊長が俺の嘘に引っかかり、ルーグル兵を攻撃し始めたことが決定打となり、ルーグル兵はトレイダーに対する反乱の意思を明確にした。

 混乱したダマン城は一気に陥落。


 『ダマン城の一日落とし』


 「どんなに堅固に見える城でも、兵の忠誠が無ければ一日と持たない。また、その変化の速さを言い表す訓戒」

 

 後に、軍師ユーイチがロックス卿と結んで数年前から綿密に計画していたと誇張されることになるが、うん、ただの行き当たりばったりなんだよね。


 武田信玄曰く、『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ