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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十三章 黒き帝国

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第九話 サイクロプス

2016/11/29 若干修正。

 あー、デカいわ。

 コレはデカい。

 凄くおっきいです……。


 空まで覆い塞がるような圧迫感を立ち込ませながら、暗紫色の巨人が土砂を滑り落とし、立ち上がっていく。


 腰布の下はふんどしのようになっていて、ふう、アブナイところまでは見えない。そこはセーフだ。


 しかし、これ何階建ての高さだ?

 都庁くらいはあるのかな。よく分からん。

 十メートルや二十メートルでは無いことだけは確かだ。


「WOOO―――」


 低いサイレンのような雄叫びを上げた巨人。


「な、何だ、コイツは?」

「大きいぞッ!」

「あ、ああ、ああああ…!」


 見上げながら狼狽える兵士達。


「何をしているのじゃ、馬鹿者! 早う逃げるのじゃ。アレはとんでもない力をもっておるのじゃぞ?」


 おお、リーファが注意してくれたが、思わず呆気にとられてたわ。


「総員、退避ッ! 下がれ! これは命令だぞ!」


 拡声器(スピーカー)の呪文を使い、俺が命令を出す。


 ようやく我に返った兵士達も慌てて下がり始めた。


 巨人がゆっくりと片足を上げ、砦を踏みつぶす。ズシーンと大地が揺れるが、うえ、これ踏まれるだけで即死攻撃になりそうだ。


「フン、この程度の敵、私の電撃で」


 エリカが電撃(ライトニング)の呪文を放つが、命中しても巨人に特に反応は無い。

 痛覚が無いのか、かなり鈍いのか。いずれにしても、HPは十万を軽く超えるだろう。百万とか行きそうだよな。


 分析(アナライズ)の呪文、まあ、望み薄ではあるのだが、念のために唱えておく。

 ……無効化された。やはりダメか。


「どれ、少し遊んでみるか。はぁああああ! 岩砕き!」


 レーネが大技を繰り出し、巨人の左足に大剣を叩き込むが、傷を負わせたものの、やはり痛がるそぶりは無い。


「ううむ、これは、ダメだな」


 一撃だけでレーネは諦めたようで、戻って来る。 


「こんなヤツ、どうやって倒せば良いの……?」


 ティーナが自問するようにつぶやくが、うん、コレは俺達にも荷が重い気がするね。

 なら、やることは一つだ。


「ティーナ、逃げるぞッ! 三十六計、逃げるに()かず!」


「え、ええ、分かったわ」


 退却を始めるロフォール騎士団。  

 が、周囲にはゾンビ兵が増えていて俺達を簡単には退却させないつもりのようだ。くそっ、あのドレイク伯爵、嫌らしい真似を。

 ファイアストームを使ってゾンビを倒していると、リーファが警告を発した。


「いかん! 奴の攻撃が来るぞ!」


「え?」


 攻撃って、踏みつぶしくらいしか無いんじゃないのか? 

 あれだけ大きな体となるとパンチでは地上の小さな敵には手が届かないだろう。


 怪訝に思って振り返ってみると、げぇ、あれは!


「何かしら? 口が白く光ってるけど」


 巨人が大きく口を開け、その中に収束していく燦めきが見えた。

 どう見てもアレだ、発射前の充填だ。

 やべえええ―――!


 どうしようと焦っていると、巨人が口から大口径レーザーのような白い閃光を一気に発する。

 一直線に飛んだ細い閃光が地上をすっと薙ぐと、数秒遅れて、あり得ないくらいの凄まじい爆発が起きた。

 爆風が遅れてやってくるが、今のレーザーがこっちに飛んできてたら、確実に死んでたぞ? ひいぃ。


「きゃっ! な、何よ、あれ…」


 ティーナも蒼白な顔になり、恐怖を隠せない。


「ちょっと! デタラメじゃない!」


 リサが怒るが、ホントそうだよな。そんな最終決戦に出てきそうな敵をいきなりここで出されても困る。


「とにかく下がるぞ。奴の視界から逃げないと。ハッ! リサ、煙玉だ!」


 俺は思いついて言う。


「分かった!」


 リサが巨人に向けて六つほど煙玉を投げたが、手持ちの全部だろう。俺も五つ持っていたので、それを投げる。

 ウインドボールで煙を移動させ、巨人の顔の前に漂わせておく。

 だが、赤外線レーダーとかも持ってそうだよな。


 そう思った俺は念のため、巨人の足下近くにファイアウォールを展開。


「WOOO―――」


 巨人が立ち止まって首を左右に動かしながら咆哮を上げるが、うん、アレは目標見失って苛立ってる感じだな。

 レーザーもすぐに撃って来ない。ヒュウ、あんな物を連発させられたら、人類が滅ぶわ!




 エルファンテ城の近くまで退却してきたところで、ルークの部隊がやってきた。


「ティーナッ!」


 ルークも無事で何よりだが。


「お兄様! 良かった、無事で」


「そっちもな。だが、あの巨人は、いったい何なんだ?」


「敵将のドレイク伯爵が呼び出したみたいなの。砦の地下から急に出てきて」


「なっ! トレイダーはあんな化け物を動かせるのか…?」


「とにかく、城の中へ。詳しい報告もしないとだし」


「ああ、そうだな」


 すぐに城の広間に行き、待機していたアーロン達にティーナが詳細を報告した。


「うぬぅ…そのようなことが。ここからでも爆発が見えたのでな。何事かと思っていたが」


 アーロンも直接自分の目で見た様子。


「ユーイチよ、あの巨人はトレイダーの完全な支配下にあるのか?」


 カーティスが聞いてきた。トレイダー軍があの巨人をきちんと操れるのかどうかが気になったのだろう。重要な点ではあるのだが、現時点では判断する材料が足りない。呼び出した張本人のドレイクはもう逃げちゃったし。


「それは不明ですが、すでに呼び出したドレイク伯爵はこの場から逃げ去っています。あの無差別っぽい攻撃の仕方から考えても、奴が細かい命令は聞くとは思えません。とにかく、近づくのだけは厳禁です」


「うむ。だが、放置するというわけにも行かぬだろうな」


 カーティスも頷きつつ言う。


「当然でございますぞ? あんな物、我が領地をほっつき歩き回られたら、狩りも出来ぬし年貢も集められん」


 エンボス男爵が少し的外れな感じのことを言うが、大きな城の管理を任されているにしては……まあ、貴族はコレが普通か。

  

「しかし、倒す手立てがあるのですかな? 最悪、トレイダーと和睦し、巨人を退かせてもらうしかないのでは…」


 ライオネル侯爵がそう言うが、あのドレイク伯爵って、俗世の事はどうでもいいやって感じのマッドサイエンティスト気質だから、巨人を呼び出した後、戻すことは考えてない気がするんだよな。最悪、彼もどうにも出来ないなんてパターンもあり得るだろう。

 うえぇ。


「おお、それがよろしいではないですか。何も戦わずとも」


 コモーノ伯爵が賛同するが、それは本当に手立てが無かった場合でないと。それに―――


「馬鹿もん! 戦わずして降伏など、武門の名折れぞ! 陛下がそれで納得されると思うのか!」


 案の定、武門のアーロン侯爵が怒鳴る。


「し、しかし」


「とにかく、倒す手立ては考えるべきかと。降伏はその後ですわ。ユーイチ、あなたなら、何か思いつくのではなくて?」


 アンジェがそう言って俺に振ってくるが、むう、そう期待されてもね。


「うーん、考えてはみますが、少し時間を頂かないと。それから、煙玉を大量に用意してください。巨人の視界を塞いで、時間を稼ぐ必要があります」


「よし! レオナルド」


 アーロンがすぐに同意してカーティスに声を掛ける。


「は、それは私の部隊が受け持ちましょう」


 頷いたカーティスは、ま、彼ならいちいち細かいことを指示しなくても上手くやってくれるだろう。 

 熱センサー対策として、焚き火を別の場所で燃やすことだけ、カーティスに伝え、俺は城の一室に戻る。




「さて……どうしたもんかね」


 巨人はとにかく耐久力がハンパないだろうから、非常に強力な攻撃方法がこちらも必要になる。

 レーネの大技やエリカの電撃もダメだったからな。

 持続型のファイアウォールも選択肢の一つだが、あの巨人の動きを止める必要が出てくるし、それはちょっと無理かも。

 落とし穴も、百メートル単位で掘らないとダメなので、この辺りの軟らかい土で上手く行くかどうか。


「ユーイチさん、第六の使徒の事ですが」


 クロがそう切り出してくる。


「んん? 第六? ええと、確か、大バジリスクを鏡の盾を使って倒した伝承だったな」


 トリスタンのブンバルト大司祭から教わった、使徒の倒し方。

 あらゆる生物を石化する大バジリスクに英雄ボレロも石にされてしまうが、その娘のイベリアが鏡を用いて大バジリスクの目にナイフを突き立て、上手く倒したという。


「ええ。アルカディア国で出てきたケルベロスが第五の使徒だとすると、次は、鏡が使えるのでは?」


「んん? いやいや、同じ順番で出てくるとは限らないし、今回の敵は巨人だぞ? アレはドレイク伯爵が呼び出したモノだから、使徒とも限らないし」


「ええ、ダメですか、すみません」


 しゅんとしてしまうクロだが。


「いや、思いついたアイディアはとにかく出してくれ。そこの森の賢者、お前もたまには知恵らしきモノを出して良いんだぞ?」


「くっ」


 エリカが拳を握りしめ、悔しそうにするが、あんまりいじめるのも可哀想か。

 こう言うのってエルフの長老が倒すヒントを教えてくれそうな気もするが、里も遠いらしいし、コイツ、俺と同い年のガキんちょだからな。長寿のエルフ基準で言えば、赤ん坊同然だろう。


「毒はどうやろな?」


 ミネアが提案してくれたが、うーん、効くとは思えないんだよな。


「ええ、毒矢は準備してもらいましょうか」


 ティーナはそれでも採用し、リックスに合図して用意させる。


「ん、アレは奈落の底に落とすべし。落とし穴、作ってくる」


 ミオがそう言って部屋を出て行く。


「あっ、待って、私も手伝う!」


 エリカもここで活躍しないとというプライドが出てきたようで、ミオを追いかけて部屋を出て行った。


 先ほどからみんなの紅茶を入れて回りつつニコニコしているクレアは、何も言わないから封印の方法も知らないみたいだな。


「リーファ、お前はアイツと戦ったことがあるんだよな?」


 良いアイディアも浮かばないので、俺は魔剣に話を向けて問い質す。


「うむ。じゃが、戦いと言うよりは、一方的な殺戮じゃったぞ、アレは。斬っても斬っても、図体が大きすぎて埒が明かぬ。しばらくすると傷も勝手に回復してしまうのじゃ」


「あー、また自動回復系か…無敵じゃねえか、畜生」


 グリーンオークは小分けに出来たが、今回の巨人はそんな事はとても無理。


「それで、リーファ、最後はどうなったの?」


 ティーナがその先を聞いたが。


「どうにもならん。王国が六つくらい滅びて、巨人は眠りについた。三月と掛からんかったの」


「ええ…?」


 国を滅ぼす巨人か。


「ハッ! うわぁ……」


 俺としたことが。


「ど、どうしたの、ユーイチ、何か思いついた?」


「いや、倒す方法じゃ無いんだけど、大事な台詞、二つも言いそびれてた」


「え?」


「ダメだ、腐ってやがる。早すぎたんだ。あと、一匹残らず駆逐してやるッ! あーくそ、今思い出すなんて、迂闊!」


 最高のシチュエーションを逃してしまった。


「ふう、死んで良いわよ、あなた」


 ティーナが軽くため息をついて真顔で言う。


「ええ?」


「ユーイチ、お腹空いたニャ。なんか出してニャ」


「おう。腹が減っては何とやらだもんな」


 猫の実を渡してやる。


「そうニャ。腹が減っては良い考えも出ないニャ」


 リムが珍しくまともなことを言ってるが、まあいい。コイツもたまには良いアイディア、出せるかもしれんし。


「ユーイチ、私にも一つ、くれ」


 レーネも手のひらを出してくる。


「ああ、むむ」


 ローブを探るが、猫の実が無い。

 そう言えば、猫の実のストックがもう無いな。ティーブル川の戦いの時に、兵士に配りまくってて、あの後、補給してなかった。


「無ければ無いでいいぞ」


「いやいや、非常用にもう一つ、ほら、あった」


「よし」


「時々、そのローブを脱がせたくなるわね。どこに仕舞ってるのやら」


 ティーナが言うが、ダメよ、ダメ。魔術士のローブには秘密がいっぱいなんだから。


「それにしても、この下の固い感触は何を入れてたかな? …ああ、真実の鏡か」


 探っていて手に当たったが、しばらく使ってなかったので、懐に入れてるの自分でも忘れてたわ。


 俺が持つ唯一のS級魔道具にして、絶対に壊れない(・・・・・・・)という貴重品。

 ん? 


「ああーっ!」


「ん? ユーイチ?」


「クロッ! 可愛いよ、クロ! んー、チュッチュペロペロしちゃいたい!」


「きゃっ、くすぐったい、ユーイチさん」


「ちょっ! 何してるのユーイチ! こんなところで!」

「このド外道! クロを離しなさい!」

「あ、あかんよ、ユーイチ」

「あらあら、うふふ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 …………。


 今、俺の鼻には、ティーナのレイピアが刺さっている。


「いててて……も、もういいだろ、ティーナ、それを抜いてくれ」


「事情は分かったけど、反省してもらわないと。いくら良いアイディアだからって、舐めるの禁止だから」


「うん。まあ、反省しております」


 ティーナやリサがいる前ではまずかったね。


「私がいないところでもやっちゃダメだから」


「ぬ、ぬう」


「ちょっと、抜かないわよ?」


「お、おう、約束しよう」


「ええ。破ったら……どうしようかしら? リサ」


「嘘つきには針を千本飲ませるか、舌を切り取ってやれば良いわ」


「そうね」


 マジかよ、こいつら。


 レイピアをようやく抜いてもらえたので、クロに薬草を塗ってもらい、一息つく。


「さて、じゃあ、巨人を倒しに行くか」


「ええ」


 俺達は立ち上がった。 

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