表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の闇軍師  作者: まさな
第十三章 黒き帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

216/287

第六話 死霊使い

ゾンビとかグールとか、それ系のちょいグロです。


2016/11/29 若干修正。

 東のヴァルディス領へ侵攻したトレイダー帝国軍を撃破した俺達は、すぐに南西に向かった。

 エンボス男爵領へ侵攻したトレイダー帝国軍の第二の軍団に対処するためだ。


「でも、ライオネル騎士団と、エクセルロット騎士団が負けるなんて……」


 道中、馬上のティーナはそれがショックだったらしく、気にしている様子だ。


「精鋭だったんだな?」


 俺は確認する。


「ええ。侯爵領の騎士団だから規模も大きいし、ライオネル家とエクセルロット家はその中でも名門とされる大貴族よ? 私が生まれてから何度か戦はあったけど、この二つの騎士団が負けたと言う話は聞いたことが無いわ」


 無敗の騎士団が敗れたか……まあ、その時その時の状況もあるだろうし、問題は、損害がどの程度か、敵の陣容はどのようなものか、その辺りだろう。

 再起不能、壊滅状態にされているとしたら、こちらも危うい。


「敵の襲撃に注意しつつ、エルファンテ城へ急ごう」


「ええ。リックス、斥候は多めにね」


「は、そのように」


 この辺りは鬱蒼とした森が広がっていて、葉の間からわずかに覗く空も暗灰色の層雲に覆われ、空気が淀んでいるように感じられた。


「降ってきましたな」


 頬に冷たい物が当たったかと思うと小雨がぱらつき始め、地面に低く霧が立ちこめ始めた。

 視界がさらに悪くなり、俺はそれを嫌って暗視(ナイトビジョン)の呪文を周囲の人間も含めて掛けておく。


 すると、左の茂みがガサガサと揺れ、近くの兵士が異変に気づき、すぐさま剣を抜いて構えた。

 リサもボウガンを構え、全員に緊張が走る。


 が、出てきたのは見覚えのある男で、敵では無かった。


「おお、ティーナ様、やはりロフォールの部隊でしたか」


 おどけるようにニカッと笑った壮年の男は、アンジェのお付きの上級騎士、バートン=ベアードだ。

 アンジェがロフォールに視察に訪れた際にも付き添っていた。やや赤みを帯びたあご髭と騎士にしては小柄でずんぐりした体型。もちろんムキムキだ。


「バートン。驚かさないでよ。敵かと思ったじゃない。危うく斬りかかってたわよ?」


「ガハハ、これは面目ござらん。ま、それがしはそう簡単にはやられぬ故、心配は無用ですじゃ」


「そうね。アンジェは来ているの?」


「は、お館様と共に出陣なさったのですが……難儀な事になりもうした」


「えっ、どういうことなの?」


 バートンが渋い顔で話したが、エクセルロット侯爵は、敵の騎士に腕を噛まれ(・・・)、具合が悪くなり熱を出し床に伏せっているという。アンジェの方は無事だったが、敗走と父親の負傷で嘆いているとのこと。

 それはつまり本陣に斬り込まれたと言うことだろうから、よほどの激戦だろう。

 それともティーナやルークみたいに自分から先頭を行く人なんだろうか?


「とにかく、詳しい話は城に入ってからですじゃ」


「ええ」


 城の庭には天幕が張られ大勢の負傷兵がそこに寝かされていた。すでに包帯で巻かれ手当は受けた様子だが、痛みに呻く者、怯えて震える者など、満足のいく治療がされているか心許ない。


「ティーナ、俺はちょっと薬草を配ってくるよ」


「ええ、お願い、ユーイチ」


 クレアやクロも一緒に天幕を回り、重傷者を中心に手当していく。

 俺はすぐに異常に気づいた。


「なんだこの傷? まるで削り取られたような…」


 刃傷もあるが、大半は肉がえぐられていて、これは自然回復に任せてはかなり時間が掛かりそうだ。

 酷い傷は素直にクレアの魔法に任せ、俺はヨモギ草のペーストを作ってまずは止血し、アロエ草と猫の実を食べさせてHPの回復と造血に努める。


「奴ら、噛みついて来やがったんだ。斬っても斬っても倒れないし、くそっ」


「死人だ。死人が蘇ってるんだ!」


 兵士達が治療する俺に真剣な顔で訴えてくる。


「ええ?」


 敵はゾンビやグールなのだろうか?


 ただ、詳しく聞いてみると、魔石に変わるモンスターでは無く、鎧を着込んだ人間だという。


 うーん。ピラミッドのミイラみたいな連中なのかな。アレは元は人間だったはずだが、秘術によってモンスター化して、最後には魔石に変わってたからなあ。

 そう考えると、気分が重くなる。


「ユーイチさん、後は私とクロさんでやりますから、あなたは軍議の方へ」


 クレアが促す。


「ああ、うん、じゃ、任せた」


「「 はい 」」


 城のメイドにアンジェの部屋に案内してもらったが、やはりそこにティーナがいた。


「ああ、ユーイチ、どうだった?」


「ああ、噛まれてる兵士が多くて、割と重傷だ」


「そう…」


 ティーナが兵士達を気遣ったか、視線を落とす。

 その隣、物憂げにソファーに腰掛けたアンジェは、やはり鎧では無く群青色のドレスを着ていた。ゴージャスな縦ドリルの金髪は以前と変わらないが、いつもの勝ち気な雰囲気ではない。


「あれはネクロマンサー、死霊使いの仕業ですわ」


 アンジェが力無く言う。


「おおお…!」


 ネクロマンサー!

 ダークな魔法使いなら一度は憧れるクラス!


「ユーイチ、それはアウトだからね。神殿の敵になっちゃうし、領主としてネクロマンサーへのクラスチェンジは禁止します」


 ティーナがまた権力を悪用する。


「なっ…! 一回くらい良いだろー」


「ええ? ダメよ」


「まったく、何を馬鹿げたことを仰っているのかしら。一度死霊使いになってしまえば、普通の人間になど戻れませんわよ」


 不可逆のルートか。だが、どう言う能力と魔法があるのか、気になる。

 それに、アンジェって魔法やモンスターにかなり詳しい感じだよな。


「アンジェリーナ様、事は一刻を争います。敵を知り己を知れば百戦危うからず。是非とも、ミッドランドの安寧のために、その深き造詣を披露して頂きたく」


 キリッと出来る男のフリをして言う。


「む、ユーイチ」


「いえ、ティーナさん、ユーイチさんの下心はともかく、敵については知っておいた方がよろしいでしょう」


「ええ?」


「死霊使いのクラスは、ダーク・カオスの属性に限定されます。また、これは一般には公開されておりませんが、クラスチェンジには一定のレベルと触媒が必要になるのですわ」


 アンジェが説明してくれたが、ま、上級職にレベル制限があるのはむしろ当然だな。触媒というのは、クラスチェンジ用のアイテムだろう。


「それで、その触媒とはいったい……」


 ゴクリ。


「ふふ、それは秘密ですわ」


「えぇー? そんな殺生な」


 俺はもうレベル42なので、多分、レベルは足りてる気がする。足りなくても、もうちょっとのはずだ。


「そんな事より、どうやってその死霊使いと戦うか、そこでしょ?」


 ティーナが言うが、まあ、敵に弱点があるなら、聞いておきたいところだ。

 俺やティーナの身の安全に繋がるからな。


「ええ。不死者(アンデッド)との戦いでは、やはり聖職者の魔法が第一ですわ」


 聖属性の呪文だな。俺は知らないが『ターンアンデッド』みたいなのがきっとこの世界には有るんだろう。クレアも時々使っていたが『ホーリーアロー』も良く効きそうだ。

 

「次が、炎ですね?」


 俺が先回りして言う。


「ええ、そうですわ。これは何も呪文でなくても良いので、火矢や松明を用いれば良いと思いますわ。ただ、風向きでどう燃えるか分かりませんから、注意も必要ですけど」


「ミスリルの剣はどうなの?」


 ティーナが自分の持っているレイピアを気にして言う。


「ええ、あなたがお持ちのそれはかなりの業物、光り輝くほどの魔力を秘めていますから、充分に効果がありますわよ」


「そ。良かった」


「ちなみに、ゾンビに噛まれたら、ゾンビになるなんてことは…」


 そこも気になるので俺は聞いておく。


「あり得ませんわ。麻痺や毒にはなりますけど、禁呪を用いない限りゾンビは生まれません」


 それは良かった。アンジェの父親がゾンビ化する心配は無さそうだ。

 でも、破傷風は普通にありそうだから、対策が必要だな。

 俺はそれを言う。


「怪我人は聖水や蒸留酒で消毒した方が良さそうだ。ちょっとクレアに作ってもらってくるよ」


「ええ、お願い」



 クレアは聖水作成を快く応じてくれた。

 瓶や水筒に詰めた水をひとまとめに祈りで清めていく。

 ほのかに白い光が水から発せられ、そして消える。


「はい、できました」


「エッ!? そんな簡単なの?」


 驚いた。


「ええ。人によってはなかなか苦労されるようですが、私はこれで。うふふ」


 むう、クレアって大司祭級の魔法も使えるし、実はかなりの高僧なんじゃなかろうか。

 となれば……。


「ははーっ、次からクレア大明神様とお呼びさせて頂きますッ!」


 全力でひれ伏す。


「ええ? あらあら、うふふ、それは困りますわ。頭を上げて下さい、ユーイチさん。全てはファルバス神のお導きですもの」


「はっ、ファルバス神のお導きに感謝を。つきましては、クレア様、今後も聖水をちょくちょく作って頂きたく。ヒヒ」


 タダの水が祈るだけで聖水になっちゃうんだから、クレア印の聖水として高値で売ればボロ儲けできるぜー!

 ついに俺の時代が来たかもしれん。


「ええ。ユーイチさんのお望みとあればいつでも。ただし、あまり高値では売らないで下さいね? や、く、そ、く、です」


 クレアが人差し指を立てて可愛く微笑む。


「むう、まあ、適正価格で。どのくらいかな?」


「んー、平民には十ゴールド、商人には百ゴールド、貴族の方には千ゴールドくらいでしょうか」


「おけ! じゃ、それで!」


 平民向けは安物の革袋になりそうだが、貴族向けは瓶のコストを差し引いても充分採算が取れそうだ。

 ついでにガラス瓶も自分で作ろうかね。

 頼れるドワーフっ娘、ミミに手伝ってもらえば、行けそうな気がする。ミミは細工も得意だし、芸術的に仕上げて高級感を出してもらって、付加価値を付けて競合品と差別化すれば……きっと売れまくりだ。


「むほっ、うほほほ、フヒヒヒヒ」


「ちょっと、そこの黒い悪魔」


 リサがやってきた。


「おい、リサ、神聖なる場でそう言う質の悪い冗談は止してくれないか。不謹慎だぞ」


「金勘定してほくそ笑んでるアンタの方がよっぽど不謹慎だっての。だいたい聖水の販売は神殿が握ってるから、儲けるのは無理よ」


「シット! そこでもギルドが幅を利かせてるのか! くっそー!」


 こうなったら領主のティーナを騙くらかして規制緩和させちゃおうか。だが、神殿を敵に回すのは色々まずそうだしなぁ。


「でも、聖職者が自分で販売する分には問題ありませんし、セルン村に私の神殿を作って頂ければ大丈夫ですよ、うふふ」


 クレアが言う。


「おおー。よーし、お兄さんはセルン村に大神殿を作っちゃうぞー」


「ふう、ま、それは好きにすれば? じゃ、これ、兵士に配るんでしょう? 手伝うわよ」


 リサもそこまでは文句を言わない様子。


「おう、頼んだ。俺は魔法チームでやることがあるから、クレアと二人でちょっとやっててくれるか」


「ええ、いいわよ」


 クロは兵士の手当に残し、残りの俺とミオとエリカでゴーレムを大量生産する。

 いくら聖水や聖魔法や薬草があると言っても、噛まれるのは嫌だもんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ