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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十三章 黒き帝国

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第四話 略奪

2016/11/29 若干修正。

「申し上げます! 敵本隊、西に向かって行軍を開始しました」


「んん? 引き返さないか…」


 斥候の報告を受けた俺は疑問を感じた。すでに一日が経ち、敵も自分の糧食隊を失ったことには気づいているだろう。

 俺達は今後の方針を決めるため、ロフォール家の軍議を開いた。


「西には何があるの?」


 ティーナがこの場にいるヴァルディス伯爵の部下に問う。彼はここヴァルディス領の地形を全て把握している案内人(ガイド)だからな。


「は、ニーフレームの街がございます。おそらく、略奪で自分達の糧食を賄うつもりかと」


「ええ? くっ、どこまでも外道な!」


 ティーナが拳を握りしめて憤慨するが、なるほど、それでトレイダー軍は引き連れている糧食隊が少なかったのか。

 奴ら、初めから略奪目的の侵攻らしい。

 軍隊と言うより、巨大な盗賊団やごろつきみたいだな…。


「すぐに向かうわよ!」


「待て、ティーナ、行ってどうするつもりだ?」


 答えは分かっているのだが、俺としては問うしかない。


「決まってるでしょ。トレイダー軍から街を守るのよ」


「どうやって?」


「戦う以外にあるの?」


「お館様、それは、およし下さい。敵の本隊を相手にするには、我らの兵力は少なすぎます。大将軍も、足止めだけで良いと―――」


 リックスも止めに入る。


「じゃ、足止めはするわよ?」


「いや、それも止めた方が良いな」


 俺が言う。

 昨日さんざん、ゲリラ戦を仕掛けてやったので、連中も森には近づいてこないだろうし、街道をそのまま街へ向かわれるともう止めようが無い。

 まともに立ち(ふさ)がれば、あっと言う間に蹴散らされるのがオチだ。


「ユーイチ!!!」


「まあ落ち着いてくれ。策はある」


「それは?」


「あまり良い手じゃ無いんだが…」


 俺が策を説明すると、ティーナはそれを聞いて驚いたものの、すぐに了承してくれた。ヴァルディス伯爵の部下は渋い顔をしていたが、手伝ってはくれる様子。


「では、お館様、ご武運を」


 リックスはミオとエリカをとある(・・・)場所に連れて行ってもらう。別働隊だ。


「ええ、そっちも気を付けて」


 ティーナと俺とクロの騎兵部隊は、全力で馬を飛ばしてニーフレームの街に急ぐ。

 トレイダーの本隊より先に辿り着かなければこの作戦は失敗だ。


「見えましたッ! アレがニーフレームの街ですッ!」


 ヴァルディスの部下が指差して叫ぶ。森の木々が途切れたところに、街を囲む塀が見えた。


「よし、すぐに町長のところへ」


 騎乗のままで門をくぐり、驚いてこちらを見る街の人に怒鳴る。


「ミッドランド軍、ロフォール騎士団の者だ! 町長はどこにいる!」


 街の人が指差した方向へ向かい、出てきた町長に話をする。


「トレイダー軍がここに迫っているぞ。すぐに街の者を避難させろ」


「わ、分かりました」


 トレイダーが国境を越えて攻めてきたのはここの町長も情報を得ていたようで話が早い。


「こっちよ、急いで! 荷物は持たないで!」

「急いで下さい」


 ティーナとクロが住民の避難を先導する。

 その間、俺は町長が付けてくれた町人と共に井戸を回った。


「ここです」


「よし。臭いの分身よ、漂いて敵の鼻を欺け! スメル!」


 それから、メモランダムの呪文で水を真っ黒に着色。

 さらにミニキノコをポイポイッと。


 これで事情を知らないトレイダー軍は、井戸に毒が投げ込まれたと思うだろう。

 わざわざこれを飲んで確かめる奴もいるとも思えない。


「次へ」


「こちらです」


 宿屋の裏の井戸に同じように工作を行う。


「ユーイチ様、敵がやってきました!」


 ケインが走ってきたが、ええ? 早すぎるっての。


「残りの井戸は?」


「あと五つ有りますが」


 多いな、おい。

 うーん、ここは街の入り口近くの井戸だけで諦めるか?

 だが、飲めそうな水を敵が見つけてしまったら、ここまでやった意味が無いな。

 黒く着色し、臭いも付けたから違いは一目瞭然だし…。


「仕方ない、ケイン、お前は兵を連れて先に避難しろ」


「ですが私は」


「良いから急げ。俺も後から逃げる」


「はっ」


 井戸を順に回っていく。


「残りは、向こうの角の井戸だけです」


「よし、あなたも先に避難を」


「分かりました」


 案内してくれた街の人も避難させ、俺は最後の井戸に向かう。


「あれ? ここじゃないのか……くそ」


 井戸、井戸、井戸はどこ?


 路地裏に入ったりするが、見つからない。おいぃ。

 あの案内人が間違って教えたか? だが、町長の推薦だしな。しっかりした感じの人物だったし、彼が俺に嘘を教える理由も無い。


「おお! そうだ、探知(ディテクト)があるじゃん」


 慌てていて、すっかり呪文のことを忘れていた。唱えてみると、家の中に井戸があって、くそ、分かるか、そんなもん。


 とにかく、工作工作と。


「さて、後は脱出…げげっ」


 家から出ようとしたら、黒い鎧の騎士が通りを走っている。

 やべえ、逃げ遅れたわ。


 どうしましょ?


 ひとまず、そーっと入り口から離れ、この家の階段を上がって二階へ向かう。


「探せッ! 街の者を早く見つけるのだ!」


 情報を集めるためか、トレイダーの兵士達も躍起になって街の人間を探している。

 こりゃ、見つかったが最後、拷問もやられるだろうから、絶対に見つかるわけには行かないな。


 ベッドの下…は、覗き込む兵士がいたらヤバい。

 ここは天井裏だな。


 上を見て決意した俺は、フロートの呪文も使って何とか苦労して天井裏に上がり込んだ。埃っぽいので、クリーニングの呪文で掃除しておく。

 じっと息を潜めて、地獄耳(ビッグイヤー)の呪文を使い、外の様子を窺う。


「いたか?」


「ダメです、隊長。人っ子一人いません」


「くそ。良い女がいるかと楽しみにしてたのに、これかよ。もうこの近くの街の奴らも全部避難していないのか?」


「ですが、隊長、机の上のカップもそのままで、どうやら慌てて逃げ出したようです。追いかければ間に合うかも」


「よし、ならば追撃隊を編成するぞ」


 うえ、まずいな。よし、ここは……。


 探知(ディテクト)の呪文で隊長のいる場所を確認し、スリープの呪文を掛ける。

 ここに魔法使いが潜んでいると気づかれたらまずいが、下っ端の筋肉バカは魔法の感覚なんて大抵知らないから。


「隊長!? しっかりして下さい」


 効いたようだ。


「む、おお、急に眠気が」


「このところ夜襲もあって、お疲れなのでしょう。先に休まれては?」


「そうだな。追撃部隊も止めておこう。今日はここでゆっくり休むぞ」


 ナイス。部下想いの隊長さんで助かった。


「隊長! 大変ですッ! 井戸に毒が投げ込まれています!」


「何? くそっ、自分たちの井戸を使えなくしたか。他に井戸がないか、よく探せ!」


「はっ」


 ふう、全部潰しておいて正解だったね。


 しばらくトレイダー軍は水を探していたが、井戸が他には無いと理解したようだ。


「ええい、川まで戻るぞ。そこで野営だ」


 食料なら一週間くらいなら食べなくても生き残れるが、水はそうは行かない。

 72時間の壁があるから、すぐに川を選択したこの隊長は割と切れ者だ。

 他の街の井戸も同じように毒を投げ込まれていたら、そちらに行くだけ無駄だものね。大軍だけに、水も大量に必要だしな。

 川に毒を投げ込むと言う手もあるのだが、常に水が流れているから、毒も時間が経てば薄まってしまうだろう。



 トレイダーの兵士が完全にいなくなったのを確認してから、俺は屋根裏から降りる。


「セーフ!」


 俺の命も助かったし、これでトレイダー軍はしばらく川の側から離れないだろう。他の街が襲われる可能性も下がった。


 ま、ここまでは策のオードブルだからね。


 メインディッシュはこれからだよ?


 黒色の旗の盗賊団は俺が全滅させてやる。

 トレイダーの国力もごっそり削りまくって、当分の間、戦なんてできなくしてやんよ!


 俺はティーナ達と合流すべく、意気揚々と西へ向かった。

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