表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の闇軍師  作者: まさな
第十三章 黒き帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/287

第一話 トレイダー帝国

2016/10/4 後書き追加。

 オズワード領の南東、トレイダーとの前線にほど近いヴァルディス伯爵領に今、俺はいる。

 

 そう、軍備を整えたトレイダー帝国がついにミッドランドへ侵攻を開始したのだ。

 おかげで俺もティーナも、すぐにロフォールに戻ることが出来ず、リックスと王都で合流したのち、ラインシュバルトに立ち寄って兵を借り、騎兵百、歩兵千で戦陣に参加している。


 いやー、トレイダーが動きそうだというのは知っていたのに、兵を整えるのを正直忘れていた。

 スレイダーンに注意が行きすぎて、それに浮民問題もあって食料の確保に躍起になってたもんな。


 おかげでラインシュバルト侯爵からは、次から気を付けるようにと注意を受けてしまった。

 ロフォール砦にはまだ兵がいるのだが、スレイダーンへの防備も怠れないから、あそこの兵はあまり動かせないんだよね。ギブソンがお留守番だ。

 リックスが兵数を削るのに難色を示していたが、こういうことなんだよなぁ。削った兵はラインシュバルトにそのまま戻っていたので、借り受ける分はいたんだけども。


 そして、なぜか俺が軍議に参加中。

 今回、俺の所属がロフォール家の騎士となっていることで、ティーナが俺を指名した。

 リックスで無く俺と言うのがよく分からんが、リックスも「それがよろしいでしょうな」とすぐに賛同しちゃうし。

 大将軍のアーロン侯爵とはあまり会いたくなかったのだが、仕方が無い。ティーナが側にいれば、アーロンも小突いたりはしないはず。


「揃ったようだな。では、始めるか」


 アーロン侯爵が軍議の開始を宣言。

 この場にいるのは、大将のアーロン侯爵、その副官のカーティス伯爵、ティーナと兄ルーク、ヴァルディス伯爵、オーウェン男爵、セコット子爵、そして俺の八名だ。

 一人だけ黒ローブだし、地位から見ても俺の場違い感がハンパないので肩身が狭い。なるべくここは空気でいよう。


「は。では、私が戦況をご説明致します。現在の状況ですが、五日前にトレイダー軍二万が我が軍の国境防衛部隊を破り、ここヴァルディス領の南二十キロ地点に集結しています。斥候の情報に()れば、ゆっくりと北に移動しているとのこと」


 カーティス卿が無表情で淡々と説明するが、兵数二万って多くね?


「ぬう、二万とは、また大軍で来たものよ」


 ヴァルディス伯爵も俺と同感だったらしく、眉をひそめて唸る。くりんっとした鼻ヒゲがチャームポイント。


「ええ。出来ればトレイダー軍がティーブル川を越えてくる前に布陣したかったのですが、敵の動きが思った以上に早い」


 カーティスが言うが。


「わ、我が軍の兵力はどれだけいるのです?」


 まだ若い、俺と同い年くらいのセコット子爵が緊張した面持ちで、落ち着き無く質問する。うん、味方の兵力の情報はとても大事だね。

 アーロンやラインシュバルトの兵力が前回と同じだと、八千くらいはいると思うんだけども。


「こちらの兵力は合わせて一万五百だ」


 前回より増えたが、それでも敵方の半分しかいない。


「ええっ? それではトレイダーの方が倍近いではないですか! え、援軍は来ないのですか?」


 仰天したセコット子爵は声が裏返った。ちょっと癇に障る甲高い声だ。貴族流行のマッシュルームヘア。凄く頼りなさそう。


「うむ、それが、南西のエンボス領にもトレイダーの別働隊が侵入している。そちらに援軍は回っているのでな。ディープシュガー侯爵にもこちらに援軍を出すよう王宮から指示が出たはずだが、かの御仁のこと、当てには出来ぬ」


 うわー、この戦時に、自分だけ兵を出さないとか遅れるとか、そんな事が許されるのかね? 税務を握っている大臣だから、多少のワガママも通りそうで嫌だ。


「なんと、これでは我先にと急いでやってきた私が、間抜けではないですか!?」


 気持ちは分かるんだが、今それを言っても仕方ないよね、セコット君。


「セコット卿、何も戦は兵数だけでは決まりませぬぞ。少数でも勝ちを拾う戦もございまする。が、狼狽えた軍というのは、たいてい負けでござる。卿も将ならば、堂々と構えられよ」


 老将のオーウェン男爵が、ベテランらしく心構えを諭す。生き残りたければ、冷静に行かないとな。


「むむう…」


「作戦はどのようになさいますか?」


 納得行かぬ様子のセコット子爵をよそに、ルークがアーロンに問う。こちらは落ち着き払っていて、頼れるお兄さんだ。髪型もまとも。


「そうだな、何にせよ、一度ぶつかってみねばな。最初から籠城では奴らに舐められる」


 ムキムキおっさんのアーロン侯爵がムキムキらしいことを言う。


「左様ですな、援軍が来ると分かっているならまだしも、ここで引き籠もってしまっては、好き勝手に領地を荒らされ、最悪、王都近くまで侵攻されかねません」


 切れ者の策士、カーティス伯爵が同意した。もしもこのまま王都が攻められるようなことがあれば、ここにいる迎撃部隊は何をしていたのかと、責任論に発展するのは明白だ。せめて一撃は与えておかないとな。


「地の利もあることだ。迎え撃つべきだ」


 ご自慢のヒゲを指で撫でつつヴァルディス伯爵が言うが、ま、この人の領地が今、荒らされてるわけで、さっさと敵を追い払って欲しいだろうからな。


「おお…」


 地の利と聞いてセコット子爵が落ち着きを見せたが、そこまで有利にはならないと俺は思う。険しい山岳地帯や迷いそうな難所ならともかく、この辺、適当に散らばった森と広い平原ばっかりだもの。

 こういうところではとにかく騎兵が有利。だが、話を聞く限り、トレイダーは騎兵の数も多いそうで、結構苦戦しちゃう予感。大丈夫かよ?


「では、異論も無き様子、迎え撃つことと致しましょう。次に布陣ですが、中央本隊がアーロン侯爵閣下の騎士団として、その左翼に私、カーティス部隊。右翼にヴァルディス伯爵の部隊、この三つを水平に並べ後陣とします」


 カーティスが机上に広げた地図の上に凸型の駒を置いて行く。お、これは分かりやすいね。駒の尖った部分が部隊の前側だ。ゲームと一緒。


「次に先陣ですが、先鋒中央はルーク卿の騎兵部隊、その左にロフォール子爵、右にセコット子爵。後方の糧食部隊の護衛はオーウェン男爵にお願いしたい。いかがか?」


 くそっ、俺らが前列ですか。


「な、なんと! 私が前でございますかっ!?」


 セコット子爵は俺と同じ性格らしく、あからさまにびっくりして嫌がっている。


「ガハハ、若造は前と決まっておる。手柄を立てるチャンスぞ?」


 ニヤニヤと嗜虐的に笑うアーロンだが、絶対、危険を分かってて言ってるよね。セコットは顔面蒼白になり、否応の声も出ない様子だ。

 頑張って! 後列と前列を交代させるよう進言するんだ、セコット! 子爵でしょ。


「大将軍閣下、お言葉ですが、それがしもまだまだ若い者に負けるつもりはありません。セコット卿は未だ戦に慣れておられぬ様子、それがしを前に出して頂きたく」


 おお、気骨のありそうな老将がアーロン侯爵を恐れずに言ってくれた。


「私も、今回は中央で一番槍を取らせて頂きたく」


 などと、ティーナまで言い出したし。


『ちょっ! バカか、ティーナ! 一番槍は一番、危ないんだぞ?』


 パーティーチャットで説得に掛かる。俺もティーナの部隊の所属だから、しゃれにならない。


『む、分かってるわよ、そんな事。だからこそ、戦の誉れなんじゃない』


 ダメだコイツ、早く何とかしないと…!

 部下の俺も巻き込まれちゃうよー。


『私達のレベルなら大丈夫よ』


 そうかなあ?


「ふむ、オーウェンか。どうする、レオナルド」


 アーロン侯爵もそこは検討するつもりなのか、副官(カーティス)に問う。


「よろしいのではないでしょうか。歴戦のオーウェン卿であれば、寡兵と言えども簡単には崩れぬでしょう」


「うむ、では…そうだな、セコットと替えるか」


 ほっとする表情のセコット。くそっ、女の子(ティーナ)がこの中にいるでしょ! ここは男が前に出るべきだっつーの。


「はい。ただ、一番槍の方は、機動力のある騎兵部隊の方がよろしいかと」


「む、お兄様、騎兵部隊を私に貸して下さい」


「うーん、悪いね、ティーナ。いくら血を分けた兄妹とは言え、先んじて馳せ参じた者が取るのが慣わしだしね。それに、あまり言いたくは無いけど、自分の兵を揃えられない貴族はどうかと思うよ?」


 ルークが微笑んでやんわりと指摘するが、口ではともかく、内心では可愛い妹を安全な場所にいさせてやろうという配慮だろう。ステキ! お兄様!


「くっ、次は必ず、騎兵を揃えてきますから、お兄様、お願い」


「まあ待て、ロフォールよ、そうワガママを言うで無い。兄が困っているではないか。お前は今回は大人しく脇にいるのだ」


 アーロンが仲裁に入った。


「はい…」


「ロフォール卿、貴殿は若い。またいずれ機会もあろう」


 そうそう、カーティス卿の言う通りだよ。

 

 しかし、脇というのは、前列の左だろうなぁ。くそ、ここも危険な配置だ。

 口を挟みたくてうずうず(・・・・)するが、アーロンに小突かれまくるのも嫌なので、今は黙っておく。


「では、軍議はここまでとする」


 解散して、自分の部隊へ各々が戻っていくが。


「ユーイチ、どうしてずっと黙ったままだったのよ。せっかく私の副官として軍議に出してあげたのに」


 ティーナが少し不満そうに言う。


「いやいや、貴族だらけのあそこで発言出来るわけ無いだろ。それに俺はゲームじゃ百戦錬磨だが、実戦経験はちょこっとなんだし、下手に口が出せる訳ないだろが」


「そう? いつもみたいに良いアイディア、出してくれると思ったんだけど」


 そんな良いアイディア、出してたかね?



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 翌日、日が少し登り始めたところで、トレイダー帝国軍二万の軍勢が平原の向こうに姿を現した。

 黒い鎧に身を包み、黒き旗がはためいている。


 威圧感があるなぁ。


「む、騎兵隊が突っ込んできますぞ!」


 リックスが鋭い声で言うが、土煙を上げながらこちらに向かってくる一部隊がいる。数は……よくわかんね。


 え? どうすんの? そういう時はどうすべきなの?


「返り討ちにするわよ!」


 ティーナがレイピアを抜いて掲げ、後ろに向かってそう声を掛ける。


「「 応ッ! 」」


 と野太い声が応じた。

 はぁー、うちもアプリコット騎士団みたいに、女性だけの軍隊を作りたいよね。


「って! うぉい、ティーナ! 前に出ちゃう? 何で前に行くの?! バカなの? 死ぬの?」


 これでは弓兵も使えないじゃん。


「行くぞ、ユーイチ。お館様が先頭を切っているのだ、配下の我らが後れを取ってどうする」


 リックスがそう言って俺の馬の尻を蹴って勝手に走らせるし。

 俺、もう独立して自分の部隊を持ちたいです……。

後書き


ヴァルディス伯爵のくりんっとしたヒゲですが、カイゼル髭というモノらしいです。

教えて頂きました。

私の中ではもう少し細いイメージですが、カイゼル髭です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ