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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第二十一話 追及

2016/11/29 若干修正。

 セルン村の経営方針は俺の望んでいるモノとは全く異なっていた。

 任務で離れざるを得なかったとは言え、他人任せで責任放棄だったな。


 そこは俺も反省している。


 ま、タールには、はっきり言ってやらないと。


 ティーナの執務室にノック無しで入る。


「あっ、ユーイチ! 遅いわよ!」


 机の上の書類に何か書き込んでいたティーナが、俺を糾弾するように指差す。


「そう怒るな。セルン村に行って来たんだ」


「ああ、どうだった?」


「早急にタールが出したお触れを改める必要がある。タールは?」


「今日は商人との会合に出た後、自分の商会の支部の仕事があるそうよ」


「そうか……直接、言いたかったけど、夜には帰って来る?」


「ええ、そう言っていたわ。それで改めるって具体的にはどんなこと?」


 行きすぎの成果主義、村のノルマ、学校の教育方針、病人の発生や、ネルロの話も報告する。


「そう、やっぱり……。町長や村長からの嘆願書、リックスが渡してくれたんだけど、どうにもやり方がおかしいわ。これじゃ、まるで街全体を自分の商会のようにしようとしているみたい。診療所の予算、勝手に削ってるし」


 なるほど、領地の私物化か。

 経済規模を大きくするという点においてはタールのやり方は最も効率が良いのかもしれないが、領民の多くを奴隷のように扱い、仕事に追い立てるやり方や、福祉を切り詰めてまで業績を上げようとする方針……。

 それは、国王から任命された正式にして正統な領主、ティーナの方針とは相容れないだろう。

 

「私が細かいところは好きにして良いと言ってしまったことも問題だと思うけど、でも、私が明確に指示した方針と背くような事もやっていて、そこの報告書は出てなかったりするのよ」


「うーん、確信犯かぁ」


 タールにしてみれば、国王から推薦された代官の仕事で、数年という期限が切られているため、可能な限り業績を上げ、自分の出世の踏み台にしか考えていないのかもしれない。

 報告書は大量に作成してあるが、都合の悪いところを隠蔽する為のモノならば、悪質と言わざるを得ない。


「どうせ冒険好きの世間知らずでお人好しな領主だから、細かいところまでは見ないと踏んだんでしょう。あなたもいることだし、きっちり、精査するわよ」


「うえ…そう来ますか」


 精査は結構なことだが、俺も作業しなきゃいけないというのが頂けない。


「当然でしょ」


「お前も子爵家の重臣、大お館様も期待されているのだ、しっかり働くのだぞ、ユーイチ」


 ニヤニヤしているリックスは、アンタも重臣でしょと。と言うか、俺がいつから重臣になってるのやら。

 ティーナもうんうんと頷いているだけ。


 ノックが有り、クレアが入ってきた。


「ティーナさん、今、よろしいでしょうか?」


「ええ、何かしら?」


「実は、神殿の司祭から、陳情を受けたものですから」


「聞きましょう」


 予想は付いていたが「生活が苦しい」「仕事がキツイ」と言った民の不満。それに、神殿への寄付が削られたと、これはうちのお館様が帰って来たと聞いてタイミングを見た司祭が陳情してきたのだろう。

 ティーナはすぐにクレアに金貨の袋を持たせ、持って行くように頼んだ。


 書類を精査していると、再び、ノック。


「ミネアですけど、お館様、今ええかな?」


「いいわよ。なあに?」


「リサに言われて酒場や井戸端で街の人の話を聞いてみたんやけど、ここの代官のやり方には不満も多いみたいやで?」


「ふう、聞きましょう」


 ミネアの話では、タール商会以外の商人には、手数料名目で税金が掛けられていて、コレでほぼ、私物化が確定した。

 うん、コレはヤバいね。


「徴税権は領主の専権事項、しかも、今年は無税と、陛下のお取り計らいもあって、タールも私には無税にすると言ったくせに…」


 拳を握りしめるティーナ。


「すぐに全員を集めて! 報告書で他におかしなところがないか、徹底的に洗い出すわよ!」


 他のパーティーメンバーや、執事のセバスチャンとメイドのメリッサ、護衛のケイン、文字が読めると言うことで、他にニーナや村人のエルやトゥーレなんかも集められ、総出で報告書とにらめっこ。


「なんで私がこんなことを……」


「私に書類仕事をさせるとは良い度胸だな」


「ごめん、エリカ、レーネ。後で、何かお礼をするから、今は手伝って、お願い!」


 ティーナがウインクして両手を合わせるので、この二人も断れない様子。


「あのぅ、ユーイチ様」


「なんだ、トゥーレ」


「そのぅ…この報告書なんですけど、絹糸の染料って、どこから持って来たのかなって。いえ、安いなら良いんですが…」


 金髪の美形の勝ち組なのに、いつも自信無さそうなトゥーレ。だが、コイツは賢い。エルもそうだがタダの無役の村人にしておくのは惜しい存在だ。


「おお、そうだな。青紫色は高いはずだぞ」


 赤紫色は毒消し草の色なので、そちらは安物なのだが、青紫はここロフォールにはなかなか無い。エロい芸術家でもある俺は、絵の具の調達に少し苦労してるから分かる。

 多分、他の領地から輸入してきているはずだ。


 仕入れの報告書もあるはずなので、探すが、無い。


「おかしいな…」


「見落としたのかも。もう一度、そっちから探しましょう」


 ティーナの指示に俺もエリカも耳を疑う。


「えー、マジか」

「ハァ?」



「ああ、やってるわね」


 リサが袋を持って執務室にやってきた。


「それは?」


「フッ、とある商会の裏帳簿を持って来たわ」


「さすがね!」


 シーフの本領発揮かぁ。

 だが、これで色々見つかるはずだ。


「あっ! これ、他の領主からの苦情の手紙じゃない。関税を向こう持ちにするなんて!」


 読んでみると、タールがせこく国王の温情を悪用し、ロフォール子爵領以外でも無税扱いにさせようとしたために、相手の領主が怒って抗議文を書いたり、王宮に報告するぞと脅したり。


「コレかぁ」


 オーバルト宰相が調整しておいてやると言っていたが、なるほど、あちらが推薦した相手だけに穏便に済ませようとしたか。でもなぁ。


「信じられない。こんなことして、ロフォールの評判はガタ落ちじゃない! ああもう、すぐに謝罪と税金分のお金、贈らないと。リックス! ユーイチ! 手分けして書くわよ」


「御意」

「へーい…」


 謝罪の文面の内容を確認し、署名はティーナが全部やる。こう言う代筆は、よくあることで問題無いそうだ。ちぇっ。


「では、兵に早馬で届けさせます」


「お願い」


 リックスが手紙を持って行く。


「じゃ、私らはもういいな?」


「ありがとう、みんな。助かったわ。じゃ、夕食にしましょう」


 一通り報告書を片付け、皆で夕食を取る。エルやトゥーレは領主と一緒と言うことで恐縮していたが、働いた分はしっかり美味しい料理を食べてもらわないとな。


「じゃ、気を付けて」


 ティーナはこの屋敷に泊まるよう勧めたのだが、エルやトゥーレは固辞して村に帰ると言うので兵士の護衛を付けてセルン村まで送らせる。


「ユーイチ、エルに変な事、してないでしょうね?」


「な、何を言い出すんだ、ティーナ、してないよ」


 時々誘惑に駆られるが、後が怖いからな。彼女がお泊まりを遠慮したのは、領主の屋敷に泊まるのは恐れ多いと思っただけで、俺の関係では無いはずだ。俺は怖くないって前にエルも言ってたし。


「ホントかしら?」


「ん、動揺してるところが怪しい」


 と、ミオ。


「うふふ、上級騎士ですものね」


 と、クレア。


 お前らな……わざと言ってるだろ。


「ご安心を、お館様、ユーイチ様は村人には手を出していません」


 ケインが言う。


「そ。今後もしっかり見張るように」


「はっ」


 俺は危険人物かよ。納得行かないなあ。俺の子飼いの部下も欲しくなってきたぞ? 



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 その夜、タールはなかなか屋敷に帰ってこず、ひょっとして俺達に悪事がバレたと知って逃げ出してしまったのではないか、とも思ったのだが、夜中の零時に彼は戻ってきた。


「やあ、これはお館様、ユーイチ様、遅くまで政務とは熱心な事ですね。無理せずとも私に全てお任せ頂ければと」


 俺達の顔を見て笑顔を見せるタール。護衛の冒険者を四人引き連れている。

 この執務室には今、俺とティーナ、リックス、ケインだけ。他のみんなはもうベッドだ。やれやれ。


「いいえ、いくつか反省してもらわないと、そのまま任せる事は出来ないわね」


 ティーナが拒否。


「ん? どういうことでしょうか?」


「私はあなたに領民には充分な食料を与えるように言い、不足分は他領から仕入れるよう、申し渡したわね?」


「ああ、はい、浮民の受け入れ分で増えた分も含めて、それについては、人口統計の報告書と、麦の仕入れ記録の報告書をご覧になって下さい」


「もう見たわ。でも、パンを一つに制限し、仕事が良く出来た者だけ二つにするというお触れ、その報告が上がっていないけど?」


「ああ、それでしたか。ええ、人々が互いに競争するように仕向ければ、仕事の能率が上がります。パン一つでもあれば、飢えて死ぬ訳でもありませんし、充分かと」


「ええ? いいえ、それは充分ではないわ。実際、何人か病人が出ているし、そのやり方は撤回してもらいます」


「分かりました。人間ですから、パンを二つ食べていても病気になることは普通にあると思いますが、ええ、お気に召さないと言うことでしたら、改めさせて頂きます」


 他にも、村単位でのノルマの撤廃、学校の教育方針の転換、診療所の予算削減の理由、それらを問い質していくが、タールは素直に非を認めて改善を約束してくれた。

 どうも理念というか、彼の良かれと思ってることがちょっとずつ、ズレてるんだよね。ま、そこは話し合いですりあわせていけば良いんだが。


 問題はここからだ。


「王宮に立ち寄ったとき、他領の貴族からロフォール領に抗議が来ていると聞いたけど?」


 ティーナがリサの持って来た手紙のことは伏せて、そう問うてみる。


「ふむ、ああ、関税の取り扱いについて、取引先の貴族と少し見解の相違がありまして」


 見解の相違ねえ? 物は言い様だなぁ。


「ダメよ。相手は格上の貴族もいるじゃない。国王陛下の仰られた無税とは、ロフォール領内の麦の年貢の事であって、関税は別よ」


 国王がそうはっきり具体的に言ったわけでは無いのだが、接収したばかりの領地に配慮してのことであるし、ディープシュガー侯爵の物言いで、取れそうな税金については翌年からも徴収するというニュアンスに変わったからな。他の領地との取引分については普通に課税されると解釈すべきだろう。

 国王がそれは違うと言えば別だが、タールの上司であるティーナがそう判断した以上、タールが勝手に決めるのは徴税権の侵害に当たる。


「ええ、ええ、そこはまあ、そうかもしれないとは思いましたが、相手方がそれで納得すれば、丸々税金分が浮くわけです」


「ちょっと! そんな騙し討ちみたいなことは許さないわ。私の名誉に関わる事、すぐに全員に対して謝罪の手紙を書きなさい。これは領主としての命令です」


「分かりました。お館様がそのようにお考えでしたら、仕方ありませんね。机をお借りしても?」


「いいわ」


 椅子に座り、謝罪の手紙を書き始めるタール。


「書きながらで良いけど、この件に付いて報告を上げていないのはどう言う理由かしら?」


「申し訳ございません、なにぶん、相手方と交渉中のことでございましたし、ええ、途中経過であっても報告すべきでした。以後、詳細な報告を上げるように改めます」


「そう。それから、あなたの商会とは別の商人にだけ、手数料を設定して取ってるみたいだけど」


 一瞬、タールのペンが止まる。


「…いえ、確かに手数料は取っておりますが、私の商会もそれは納めております。契約書の作成に掛かる料金もございますので、そのくらいはと思ったのですが」


「では、あなたの商会が納めた分の手数料の報告書、出せるのね?」


「もちろん。これを書き終わってからでよろしいでしょうか?」


「ええ。それと、評議会についてだけど、ユーイチは各分野の専門家や識者をメンバーにするように言ったのに、全てあなたの商会の人間が入っているわね?」


「はあ、時間的にめぼしい人材が集められなかったものでして。それに、うちの商会の人間ならスピーディーに事が運べます」


「それなら単に部下のままでいいじゃない。評議会の人間に支払う報酬の予算も設定していたのだし、それは制度の私物化よ」


「んん? 私物化、でございますか? はあ……私としては、代官の権限に基づいていると思っておりますが。私は代官ですし」


 タールにはピンとこなかったようだ。


「あのね、何を勘違いしているか知らないけど、代官という地位は国王陛下が任命なさるモノよ。領地にしても国王陛下から統治を委任されているに過ぎないわ。私達が勝手に私物のように扱ってはダメなのよ」


「ふうむ、なるほど。しかし、中には上納をごまかして私腹を肥やす貴族もいますよね?」


「そうだけど、それは監査で明るみに出れば、領地の没収や斬首でしょう」


「はあ、まあ、明るみに出なければ…い、いえ、承知しました。以後、肝に銘じます」


 今、バレなければいいじゃんね? みたいなニュアンスだったな。ティーナが凄い顔をしたから、慌ててタールも頷いたけど。

 なんと言うか、自分が悪いことをしているという自覚が無さそうだなぁ。ティーナは『探部』の役職を持つ侯爵家の娘、不正が嫌いなんだから、そこは気を付けてもらわんと。

 いや、不正の範囲が今ひとつ、タールには分かってないのかな?

 

 不正とは何か?

 不正の対義語は…公正かな。


 公平に、ルールに基づいて……うーん、そのルール自体を巧みに悪用されると、まずいんだよな。

 こう言うのって、結局、その人物の道徳がしっかりしていないと、どうにもならなくないか?


 頭痛がしてきたので、その辺を考えるのはまた後にしておく。


「お館様、終わりました。これでいかがでしょうか?」


 タールが書き上げた書面をティーナに差し出す。


「ええ、これでいいわ。次から、他の貴族が心証を悪くするようなことはしないように」


「はい、分かりました」


「じゃ、今日は遅いし、もういいわ。明日、提出が抜けている報告書は全部出して。途中経過も全部よ」


「承知しました」


 やれやれ、これでようやく寝られる。

 あくびと背伸びをして俺が執務室から出ようとしたとき、鎧を着たままのギブソンがやってきた。


「何かあったか、ギブソン」


 リックスが問う。


「おう。スレイダーンに向かおうとする怪しげな連中を捕らえたぞ」

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