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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十二章 大国の思惑

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第十六話 凍てついた魔剣

2016/10/4 誤字修正。

 ハイランドの王城の一角。王族しか入れぬと言うその場所にその魔剣は安置されていた。

 石室の中は魔剣の力により身を切るような寒さで、白いもやが下の方に漂っている。こちらの吐いた息も白い。

 明かりの魔道具が設置してあったので、中の状態はよく見えた。


「こいつが、アイスファルシオンだ」


 石の台座の上に横向きに置かれているが、分厚い氷に覆われており、このままでは触ることも持ち上げることも難しそうだ。


 さて、どうしようか、と俺達が考え始めた時、レーネは背中の剣を無造作に降ろすと、それで思い切り氷を叩き壊した。


「ふんっ! よし、あとは持ち出すだけだ」


 わお。


「豪快ね…剣が壊れたらどうするつもりだったの?」


 ティーナがやや呆れながら問う。


「その時はその時だ。そんな弱い剣なら持って行く必要もあるまい?」


「い、いや、だが、これは王家の所有物なのだろう?」

 

 ルフィーは完全にビビりまくり。


「そうだ。王の許可も得ていない。当然、私らは盗人と言うことになろうな?」


 ニヤッと悪戯っぽい目で笑うレーネ。一度、泥棒さんをやってみたかったんだろうね。


「わ、私はそのようなことは!」


「ルフィー、抗議は後だ。あまり長居していると本当に捕らえられて牢獄行きになりかねない」


 俺が言う。


「くそっ、だから私は! ああもう、じゃあ、さっさとそれを持って行くぞ!」


 そう言ったルフィーだが……この剣、素手で触ると、多分凍るよね。

 レーネも柄に手を伸ばしていない。


「じゃ、まずは布で……お、おおう、凍るなあ…」


 革袋でも試したが、ダメ。


「これ、運べたとして、役に立つのかしら?」


 ティーナが言うが、考えるのは後でも良い。今は一刻も早くコレをアルカディアに持ち帰らないと。街の被害が大きくなってしまう。


「いよいよ、妾の出番、と言うわけじゃな?」


「いや、リーファちゃん、ちょっと待っててくれな」


「んん? 我が名はデスブリンガー、誰と間違えたのじゃ」


「合ってるよ。いちいち魔剣デスブリンガーって長いから呼びにくいだろ? それに、どうも名前がしっくりこないし、リーファで」


 こちらの世界で息吹きを意味する言葉。黒い不吉な刀身だが、根は良い奴かもと、思い始めている俺。


「むむ。ま、それで良いかの。カカ」


「いいのかよ!」

「えー?」


 ルフィーとティーナは微妙に納得がいかなかったようだが、ま、俺のペットみたいなもんだし?


「えい」


「ぎゃっ!」


 くそ、コイツの読心術と、黒い電撃を忘れてた……。私の方がペットでございます。


「ちょっと、二人とも遊ばないで。そんな時間は無いのよ?」


「お、おう、とにかく俺に任せろ」


 まずは薬草を食って体力を回復させ、それから石壁(ストーンウォール)の呪文。


「ぐぐぐ…」


 途中で空気を抜くように石を変形させ、アイスファルシオンを真空状態の石筒で密閉した。


「よし! レーネ、触って良いぞ。ただし、そっと扱ってくれ」


「んん? 冷たくない? 何をした? ユーイチ」


「中の空気を抜いてるんだ。それで温度の伝わりがほぼ絶てる」


 魔法瓶の原理だね。


「ほう」


「さすがね! ユーイチ」


「むむむ。なぜ空気を抜くと温度が…」


 ルフィーが理解できなかった様子だが。


「ええと、分子の振動エネルギーが大きいと熱い…まあいい、後で説明する」


 俺も細かい理論はよく分からん。が、魔法瓶を知っていれば体験的に分かる話だ。


「じゃ、戻りましょう」


「ああ」


「それと、レーネ、長くは保たないと思うから、冷たくなってきたら言ってくれ」


 完全な真空を作ることは不可能だし、アイスファルシオンを内部で固定する必要があるため、針のように伸ばした石の支え棒が何本も張り巡らされているから、そこから温度が伝わってしまう。


「分かった」


「カカ、これは愉快。面白い知恵を使うの、ユーイチ」


 リーファは現代科学の理論も理解できたらしい。


「じゃが、それでは保って一分と言ったところかの」


「む」


「ああ、確かに、冷たくなってきたぞ」


 くそっ、ここまで熱の伝わりが早いのか?


「どれ、やはり妾が手を貸してやらねばなるまい。相手は魔剣、単なる氷では無いぞ?」


「ああ、そうか、魔力があるのか」


「そう言うことじゃ」


 常に氷結の呪文を唱えているのと同じ状況なのだろう。

 しかし、それでは、いったい、どうやってこの剣を使うのやら。

 いや、使えないから、ここに安置されていたのかな。


 ともかく、持てなくても、ここまで強力なら、対ケルベロスには使える気がする。


 同じく魔剣のリーファが、アイスファルシオンの魔力を自分の魔力で押さえ込んでくれ、それで氷結が止まった。

 ただ、拮抗している感じで、時折、俺が炎の呪文で石筒を暖める必要があった。


 凍り付かないうちに、さっさと運んで、城から抜け道に戻った。


「よし、ここまで来れば大丈夫だ」


 元の墓の下から出てきて、レーネが言う。


「何言ってるの、魔剣が紛失していることに気づいたら、捜索が行われるでしょう」


 ティーナが言うが、その通りだな。


「おっと、そうだった。ま、ここはすぐにはバレないぞ。一般兵には教えられない場所だ」


 王族の脱出ルートだけに機密優先か。だが、魔剣の方が大事となれば、どう転ぶか分からない。

 街の門を先に封鎖されるかも。


「急ごう」


「ああ」


 俺達はそそくさとハイランドの王都を後にして、イザベル達が待機している森の洞窟へと向かった。


「尾行は無いみたい」


 ティーナが後ろを確認して言う。


「よし、入るぞ」


 ルフィーが先頭を切って洞窟に入るが、その途端、剣の打ち合いとなった。

 俺は驚きながら明かり(ライト)の呪文を使うが、相手はイザベルとその部下だった。


「おう、なんだ、お前達だったか」


「勘弁してくれ。捜索隊に先回りされたかと思ったぞ、ふう」


 ルフィーが冷や汗を拭って剣を鞘に戻す。


「それで、その石筒が例の魔剣なのか?」


 イザベルがレーネの持つ石筒を見る。


「ああ、魔剣はこの中に入れてきた。そのままでは凍り付いて持てないからな」


「ほう」

 

「それより、急いで。追っ手が掛かるのは確実よ」


 ティーナが言う。


「ううむ、お前らに頼まれたから私はここに来ただけで、面倒事は勘弁してもらいたいぞ?」


 イザベルが渋い顔で抗議するのも当然なのだが。


「そこは心配するな。事情は話してやる。まあ、もはや一蓮托生だがな」


 レーネがいつもの人の悪い笑みを浮かべる。


「やれやれ。では、急いで出発するぞ」


 ワイバーンに乗って、一路、アルカディアの王都を目指す。


 途中。


「ああっ!」


「ど、どうしたのユーイチ」


「くそっ、俺としたことが大事なことを忘れていた……」


「んん? 何か忘れ物か? 戻るのか?」


 イザベルが手綱を引き、ワイバーンの速度を緩め始めたので首を横に振る。


「いや、そのままアルカディアへ向かって下さい。問題はありませんから。レーネ、念願のアイスファルシオンを手に入れたぞって言ってくれ」


「ん? 念願のアイスファルシオンを手に入れたぞ? これでいいのか?」


「ああ。殺してでも奪い取る! これで」


「うん?」

「ええっと、ユーイチ、意味が分からないんだけど…?」


「カカ、この者の故郷のお遊び、おとぎ話みたいなものじゃな。妾なら、そう、関係ないね、じゃ!」


「もう、さっぱり分からないけど、そんな場合じゃ無いでしょ。ドキッとするから、変な事言うの止めてね」


「おう、悪かった」


 確かに、冗談を言ってる場合では無かった。

 一度地上に降りて野営し、再び、アルカディアの王都を目指す。


「見えたッ!」


 ルフィーが叫ぶ。


「む…」


 地上からでは被害がよく分かっていなかったが、空中から眺めると、王都の被害の大きさがよく分かる。

 あちこちが焼け焦げ、煙も上がっていた。


「いた! ケルベロスだ。早くあそこへ!」


 ルフィーがそう言うが、準備も何も無しでいきなり行っても勝てる相手ではない。


「イザベル様、城のバルコニーへ」


 俺が言う。


「分かった」


「おい! 敵はすぐそこだぞ!」


「そう急くな。ユーイチも考え有ってのことだ。アレは私が必ず倒してやる」


 レーネが言う。


「いや、私が!」


「ルフィー、そのまま突っ込んでもダメだ。ゴルデル卿でも勝てない相手だぞ? 君には他にやってもらうことがある。アリシア様と連絡を取り、ケルベロスを指定したポイントに追い込んでもらう。これは君にしか出来ない重要な任務だ」


 俺がそう言って諭す。


「……くっ、分かった。だが、絶対に仕留めるぞ?」


「ああ、もちろんだ」


 バルコニーに降り立つと、すでに地上からは俺達の帰還が見えていたようで、ミネアと数人のアルカディア兵が待っていた。


「ユーイチ! ティーナ! レーネ! みんな無事で良かった。例のモノ、手に入れてきたんやね?」


「ええ、安心して、ちゃんと手に入れてきたわ。それでミネア、ここの被害状況はどうなの?」


 ティーナが王都(マーティネイア)の状況を確認する。


「住民は城に避難してるから、そっちは被害は無いんやけど、守備隊と騎士団に死人が結構出てな。一度、攻撃作戦をやって失敗したんや」


「むぅ、足止めだけで良かったのに……」


 ティーナが顔をしかめるが、まあ、自分たちの街を次々と燃やされていけば、我慢できなくなっても仕方ない。


「火災の方は延焼は防いだけど、それだけや。次から次へ燃やされてしもうて、ホンマ手の打ちようが無い」


「ええ、そっちは空からでも見えたわ。酷い状況ね」


「そうやな」


「猫の実は足りてるか?」


 俺が聞く。ケルベロスがそれを食ってる間は、破壊活動を一時的に停止させる効果があるので、猫の実は有効だ。


「大丈夫や。猫の実集めが上手い冒険者と街の人が総出で集めとるからな。竪琴も試してみたんやけど、そっちは反応はちょこっと有るんやけど、眠ったりせえへんから、効果無しや」


「む、そうか…」


 伝承と一致しない新しいタイプなのか、あるいは、奏者の力量も高レベルが要求されるのか。

 ともかく、猫の実で足止めが出来るなら、それで充分。


「計画は準備できてるわね?」


 ティーナが聞く。


「バッチリや」


「じゃ、すぐにでも始めましょう」


 これより、ケルベロス討伐作戦が実行に移される。

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